第59話 戦いが目前に迫ったら覚悟を固める勇者パーティー
目覚めは最高だった。
昨日は一日中戦いっぱなしでヘトヘトだったからか、戦争前日とは思えないほどにグッスリ眠ることができた。
アクビをしながら窓を開け、太陽が昇り切る前の薄明るい空を見つめる。
新しい一日が始まろうとしている。
俺たちにとって最も長く、最も過酷になるであろう日。
全てが決まる、大切な日が。
「……………すやすや…………」
「どうして!?」
再びベッドに寝転んでキューティクルな寝息を立て始めた俺に、なんとも鋭いツッコミがぶっ刺さる。
「……あんだよ、起きてたのかメリカ」
「なんで堂々と二度寝スタートしてんのさおにーさん!! 今日は休日じゃないんだよ!? 魔王軍との決戦の日なんだよ!?」
「うーん……むにゃむにゃ…………あと20時間だけぇ…………」
「要求内容がコアラ!! もうっ、早く起きてよバカ怠惰!!」
「いだだだだだだ!! 膀胱に効くツボだけを重点的に刺激してくるのやめろ!!」
メリカに激しく足裏を揉まれ、たまらず体を起こす。
とりあえずコイツはいつも通り元気ハツラツみたいで安心した。そしてどうやら俺は膀胱が悪いらしい。
「はあ、よっこいせっと…………んぁ? 他の奴らは?」
「もうみんな下に行ってるよ! おにーさんが一番遅くまで寝てたんだからね!」
どいつもこいつもやる気満々ってワケか。まったく頼もしいね。
ベッドから降りて重い防具と剣を持ち、寝起きの覚束ない足取りで皆のいる一階へ向かう。
「おはようヨシハル。よく眠れた?」
「聞くまでもねえでしょ。ウチらが二階でバタバタと準備してても、ぜんぜん起きやがらなかったんですから」
「魔王との戦いを控えた勇者とは思えない安眠っぷりでしたわ。まったく……呆れたリーダーさんですこと……ふわぁ…………」
「その様子じゃお前ら全員絶好調みてえだな。安心したわ」
セクリ、クムン、そしてメノージャが、起きてきた俺に対していつも通りの様子を見せる。
昨日はだいぶ無理させちまったから正直言って不安だったが……タフな仲間たちで助かる。
…………と思ったが。
「どしたメノージャ? なんかボーッとしてるけど……もしかして眠れなかったのか?」
「きっ、気のせいですわ!! このわたくしが寝不足だなんてそんな……」
「この子、ヒューサ先生の部屋にある本を勝手に持ち出して、遅くまで読んでたらしいのよ」
「それは秘密にしておいてくださいと言ったではありませんのセクリナータさん!!」
セクリの暴露にオーバーリアクションを見せたメノージャが、観念したように顔を伏せる。
「正直……今までずっと森の中で暮らしてきたわたくしが、いきなりこのような所で寝ろと言われても難しいですわ。なので昨晩は全く寝付けず、仕方なくこの家をフラフラと徘徊している時に、ヒューサさんの部屋で本棚を見付けて……」
メノージャは俯きながら語っていたが、不意に真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠した。
「そこで女性同士がいやらしく絡み合う小説をたくさん見付けて、ついつい読みまくってしまったのですわ!!!」
何やってんのこのドスケベエロス?
ああ、そういやメノージャは一周目でも本……特にレズもののエッチな小説に、そりゃもう尋常じゃないほどの興味を示してたな。
魔王の部屋に着く直前にも『戦いが終わったらすぐにでもわたくしの好きなあの官能小説の新刊を買いに行きますわ!!』とか呑気なこと言ってたっけ。懐かしい。
しかし決戦前夜にエロ本三昧とか正気かコイツ?
おかげでヒューサさんの部屋には女性同士の淫らな恋愛模様を描いたエロ小説がたくさんあるという、知りたくもない豆知識を手に入れてしまった。
「つか何で部屋に入れたんだ? カギとか掛かってなかったのか?」
「ええ、部屋に誰もいませんでしたので……」
どういうことだ?
俺が家を出たあと、ヒューサさんはすぐに寝室に向かわなかったってことか?
「まったく……ワタシのコレクションを勝手に持ち出すなんて、お行儀の悪い子ですね」
噂をすれば、卑猥ブックの持ち主が二階から優雅に降りてきた。
「ヒューサさん……昨日、俺が外に出たあと、何かしてたんすか?」
「ええ、ちょっと……ね」
彼女の視線が一瞬だけクムンの方に移ったような気がした。
「それよりヒューサさん!! あの本の新刊はいつ出ますの!? わたくしもう続きが気になって気になって……!!」
「ほう……あの物語の良さがキミには分かるのですか? うへへ……ようこそハレンチワールドへ」
行きたくねえんだけどそのワールド。住民が着衣してる光景が想像できねえ。
「さてさて、お喋りもこのぐらいにして…………そろそろ出発しますか、ヨシハルくん?」
皆があまりにも普段通りだからまったく実感が沸かねえが……。
これから、壮絶な戦いが始まろうとしているんだ。
魔王はいつ攻めてくるか分からねえし、うかうかしてられねえやな。
防具と剣を装備し、玄関へと一歩一歩、足を進める。
「さてと、聞くまでもねえと思うが……お前ら、覚悟はできてるか?」
「あったりまえだよ! あたしの最強魔法で、魔王もその配下も全員やっつけちゃうんだから!!」
「シルベラ国の王女として……そして勇者パーティーの一員として、無様な姿は見せられないわね。絶対に勝ちましょう」
「まっ、相手が魔王だろうが誰だろうが、なるようになるでしょ。ウチはいつも通り、マイペースにやらせてもらいますよ」
「あの本の新刊を読むまで死ぬわけにはいきません! 立ちはだかる敵は皆、この手でぶっ倒してやりますわ!!」
「ジレゴさん……アナタはワタシが必ず…………」
「オッケー、全員合格だ」
玄関のドアを力いっぱいに押し開ける。
縛りまみれの憎たらしい冒険も、今日で全て終わらせてやる。
首洗って待っとけ、クソジジイ。
「そんじゃ……ちょいと救世主にでもなってきますか」
【最終章に続く】




