第55話 ギャップに萌えたら危険思想を抱く変態ヒロインズ
突然現れた三体の敵。
そのうちの一人、いま目の前で喋っている男のことを、俺はよく知っている。
「久しぶりじゃねえか……フメルタ」
俺が敵意剥き出しにそう言うと、名前を呼ばれた男はこてんと小首を傾げる。
「あっるぇ? オレ、アンタに自己紹介した記憶ないッスけど……何で知ってんスか、こっわ~」
フメルタ=カガエス。魔王の配下の一人。
スラリとした長身と青紫色の短髪、黒いマントが特徴的なイケメン野郎。つまりは色んな意味で俺の敵だ。
飄々としており、その黄色い瞳を細めて常にヘラヘラと楽しそうに笑っている超絶マイペース人間。
とても強そうには見えねえが……当然その実力はかなりのモンで、一周目じゃさんざん世話になった。
「からかってんのか? 俺が時間戻されたってこと、魔王の配下であるお前が知らないはずねえだろ」
「はてさて? そんな話、魔王さんしてたッスかねぇ……いでっ!!」
頭を振り子のように右へ左へと揺らして記憶を辿るフメルタの背中を、後ろにいた小柄な女が豪快に蹴っ飛ばした。
「おォいバカルタァ……テメエそんな大事な話も聞いてなかったってのかァ!? ギヒャッ……どうやらテメエからアタシに殺されてェみてえだなァ!? ギヒャヒャッ!!」
もちろんあの汚い笑い方をしているちっせえ女の情報も、この中にいる誰よりも頭に入っている。
ジギーヴァ=シダー。同じく魔王の配下だ。
腰まで伸びたボサボサの黒髪に切れ長の赤い瞳を大きく見開き、そして牙のように鋭く尖った犬歯を常にこちらに見せながら、ギヒャギヒャと不気味な笑いを放つ。
ビリビリに破れた真っ黒な服とズボンには、よく目を凝らすと所々に赤っぽいシミが。
あのシミは言わずもがな、奴と刃を交えた者たちの返り血の跡。
口が悪く『殺し合い』に快楽を見出だす、血の気の多すぎる危険な女だ。
「テメエがサカギリかァ? 初めて見るツラだが……時間戻されたっつーこたァ、当然アタシとも会ったことあるんだよなァ?」
「まあな。お前にも随分と苦戦させられたからよ。思い出したくもないくらいに」
「ギヒャッ!! そいつは何よりだ!!」
「おにーさん、この人たち……」
「集中しろメリカ。お前らもだ。ちょっとでも気ぃ抜いたら……死ぬぞ」
俺の言葉にセクリやクムン、メノージャらの表情が一斉に強張る。
「なっ……何やのんアンタらは!! もしかして魔物か!? くっ……城の奴らは何をしとんねん!! こないな所まで侵入を許すやなんて……」
「そう彼らを責めないでやってくれないッスか、シルベラ女王さん。俺たちの相手になるヒトなんか、このお城にはいないっスよ、ハッハッハ~」
まさか、城の奴らは全員コイツらにやられたのか……!?
「そんなに怖い顔しないでくださいッスよ勇者さ~ん。命までは奪ってないッスから。獲物を見つけたらすぐに息の根を止めようとするジギーヴァさんを制するの、大変だったんスよ? なんたってオレたち、今日はここに戦いに来たわけじゃないんスから」
「そんなあからさまなウソに引っ掛かると思うか? テメエら三人がわざわざ出向いて来るなんて、バチバチに殺り合う気マンマンじゃねえか。フメルタに、ジギーヴァに…………」
そう言って俺は三体の敵を順番に指差していく……が。
「……………ごめんなさい真ん中の方はどちら様? 新人さん?」
「魔王なんじゃすけど!!!」
俺が困っていると、ようやく最後の一人が喋ってくれた。なんじゃすけど?
「マ……マオ……ウ……?」
「外国の聞いたこともない料理名言われたみたいなリアクションすんなよ!! まーおーう!! 何度も会っとるじゃろ貴様!!」
まおう……まおう……。
「…………あっ、魔王か! 久しぶりじゃーん!! あれ、ちょっと顔小さくなったんじゃな~い!?」
「やっぱ分かるぅ~!? お風呂上がりにスプーンでマッサージしてるんだぁ…………ってやめろというに!! 魔王と勇者の会話に『マッサージ』って単語出てこないだろ普通!!」
相変わらず威厳のカケラもなくて助かるわ。
フメルタやジギーヴァと比べてこのイジりやすさ、さすが我らが魔王ちゃん。
「あ、あれが魔王なの……? ぜんぜんイメージと違うじゃないのよ……」
「侮りは禁物ですよ。おおかたドアホなオヤジを演じてウチらが油断したところを一気にぶっ殺す作戦でしょ。大した役者さんじゃねえですか」
いや、あのオッサンは舞台に上がる前からドアホだよ。役作り必要ないもんアイツ。
「んだァテメエら!? さっきからなにゴチャゴチャ抜かしてンだァ!?」
魔王の存在により幾分か心の余裕を取り戻した俺たちを見て、ジギーヴァが瞳孔をかっ開いて吠えている。
「何であのジギーヴァってやつは魔王の配下なんてやってやがるんですかね……奴さん、どう見ても魔王より強そうなんですけど」
「まあ、ジギーヴァとは初対面のお前が疑問に思うのも当然だわな」
さっきも言ったが、俺はあのジギーヴァの情報なら一通りは頭に入っている。
アイツの秘密も。
魔王がここにいるってことは、すぐに『あのモード』が発動されるだろう。
「よォし決定だァ……テメエら全員、アタシがぶっ殺してやらァ!! 仲良く地獄送りにしてやるんだから感謝しろや!! ギヒャ」
「よさぬかジギーヴァ。先程フメルタも申していた通り、今宵我々は奴等に話をしに来ただけだ」
殺る気満々の自分にストップをかけた魔王を、なんとも恐ろしい目付きで睨み上げるジギーヴァ。
数秒間、張り詰めた空気が場を包み込む。
一触即発……かと思われたが。
彼女は突然お顔を真っ赤に染め、潤んだ瞳で魔王に向き直り、深々と頭を下げた。
「ひゃ…………ごめんなさいっ! はしたないマネをおゆるしくださいませ、まおうさまぁっ……!!」
荒くれ者の暴力女の豹変に、俺以外のパーティー全員がアングリと口を開けた。
ジギーヴァは肩をしゅんと落としてプルプル震えながら、涙声で魔王に謝罪している。
まるで先生に激怒された小学生のようである。
俺もガキの頃にチリチリ頭の担任のこと『スチールウールちゃん』って呼んだら金的に赤チョークぶん投げられたわ。
そのせいでズボンの股間部分に赤い点がくっきり残っちまったからクラスの奴らに『弱点教えてくれてんの?』って一日中イジられまくって帰り道で泣いたっけ。
今となっては笑い話だけども。
「おおおおにーさんおにーさん!! なにあれ!? なにあの生き物かわいすぎるんだけど!? ああああ一刻も早く首輪はめて監禁してぇなぁおい!!」
ちゃんとヒロインっぽいセリフ喋れよ。
「落ち着けってメリカ。アイツはああいう奴なんだよ。普段はイカれまくった乱暴娘だが、魔王にだけはどうも頭が上がらない。もし怒られでもしたら、ああやって塩かけられたナメクジみてえに萎縮しちまうのさ」
「なんてかわいらしいんですのジギーヴァ様……ああああ一刻も早く首輪はめて監禁したいですわぁうふふふ!!」
その危険思想の奴が一つの空間に二人も揃うことあんの?
よくそこまで晴れやかな表情でそんなセリフ言えるよなお前ら。SM嬢の内定決まった就活生かよ。
「んでキミたち結局なにしに来たん? 前フリがなげえんだけど」
「そうじゃな、そろそろ本題に入ろう」
こっちは戦闘に次ぐ戦闘でヘトヘトなんだ。
戦う気がないってんなら、さっさと伝えたいこと喋って帰ってほし
「明日、ワシら魔王軍の全勢力を以てこのシルベラ国に侵攻し、お主の息の根を止めてくれよう……サカギリ ヨシハル」
…………………は?




