第54話 薬をあげたら色々と甘くなる小ジワ女王様
「はぁ……はぁ……死ぬかと思いましたわ……」
「すまなかったなメノージャ。お詫びに俺のニッコリ笑顔を見せるから機嫌直してくれ」
「乙女にここまで屈辱的な思いをさせておいてどうしてちょっと口角上げたらチャラになると思えるんですか!! あと話し掛けないでください!!」
どうやらメノージャは形では仲間になったものの、俺に対する好感度は最悪のようだ。
どうしてこんなに嫌われているのだろうか。女心とはむつかしい。
「まあいいですわ。結果的に変態の毒牙にはかからなかったわけですし、それに貴方の仲間にはおいしそ……もとい、可愛らしい女性が多いですから……うふふふふふ!!!」
『うふふ』にエクスクラメーションマークついてるヤツ初めて見た。
「いつもニコニコの元気っ娘もじゅるり!! クールで強気なツンデレ系王女様もじゅるり!! そしてポーカーフェイスの毒舌敬語キャラもじゅるり!! ああもう、皆さんおいしそうですわあああああじゅるじゅるじゅるじゅるり!!」
決壊したダムみてえに唾液分泌されるなコイツ。梅干し見せたら溺死すんじゃねえの?
ついさっきあれほど恐ろしい目に遭ったのにめげないなこの子も。相変わらず変人で安心した。
「それより、先程から気になっていたのですが……貴方は何故わたくしのことを『メノージャ』と呼ぶんですの?」
「んぁ? ああそっか、お前にはまだ説明してなかったな。実は……」
何度目になるか分からない一周目の説明。もはや落語家の十八番の噺みてえに流暢に身振り手振りを交えながら説明できるようになってしまった。
「つまり……魔王様に呪いをかけられて時間を戻される前は、わたくしは貴方とそちらの……セクリナータさんとクムンさんの仲間だったというわけですの? それで名を持たぬわたくしに、貴方たちは『メノージャ=ロエリー』という名前を与えて下さった……と」
「そうだ。そもそもお前は、魔王のベタノロの存在を知っていたのか?」
「いえ、魔王様に時間を戻す能力があるなど聞いたこと……」
もし仮に、魔王がベタノロを使ったのは今回が初めてだったとしたら。
おかしいだろ。
『この呪いが発動されると、世界の全ての時間が大きく巻き戻される。分かりやすく言うと、呪いの発動者と呪いを受けた者以外の全員の記憶がまるまる消去された状態で、冒険が初めからやり直しになります』
『ワシだってまた長いこと貴様のこと待ち続けなきゃいけないの辛いわ!! 魔力回復するまですっごい時間かかるし!』
どうして魔王は『ベタノロを発動させると使用者と使用対象以外の時間が大幅に巻き戻る』とか『魔力の回復に膨大な時間を要する』とか、ベタノロを使用したら何が起こるかについて、完璧に理解していたんだ?
使ったことのない魔法なら、そういう副作用は使ったあとに初めて分かるもんだろ。
俺の考えが正しけりゃ、もしかしてアイツは……。
「ねえねえおにーさん、どうしたのボーッとしちゃって? 宇宙人から『鈍器で撲殺するぞ』ってテレパシー来たの?」
「攻撃手段フィジカルなのかよアイツら。宇宙人ならもっとロマンのある殺し方して欲しいわ。まあいいや、とりあえず暗くなってきたし撤収するかね。パパっと薬作ってヒノ様のところ帰るぞ~い!」
こうしてやっとの思いで材料を集め終わった俺たちは、溜まりに溜まった疲労の中でゆっくりとお城に向かった。
*****
そしてすっかり夜になり、クタクタの状態で城に辿り着いたヨシハルパーティーは、ヒノ様に例の品を手渡した。
「スライムの体液、ハーピーの羽根、そしてアルラウネの花びら……確かにこれは紛れもなくウチが頼んだシワ消し…………んんっ、美金薬や」
小さなビンの中をたっぷりと満たしている、緑と紫が混じった気持ちの悪い液体を、ヒノ様はご機嫌そうな顔で見つめている。
今さらだけど花びらはまだしも体液とか羽根とか口に入れても大丈夫なの?
「やけどな、一つ言いたいことがある……」
とここで、ヒノ様が俺たち全員を見渡して怪訝そうなお顔をする。またシワ増えますよ。
「なんっっっで城にアルラウネ連れてきとんねん!? うちは花びらだけでええ言うたやろ!!」
まあ、そりゃ突っ込むよねぇ。
「落ち着いてくださいヒノ様。コイツは一周目で俺の仲間だったんすよ。セクリとクムン、そしてこのメノージャと一緒に、俺は魔王城まで乗り込んだんだぜ、すげえだろ?」
「何で急にタメ口やねん、ったく……そのメノージャとやらに害はないんやろうな?」
「サカギリ ヨシハルはわたくしの天敵ですし、面倒なのでわたくしの偉大な力をタダでは貸したくありませんわ。まったく、こんなクズごときがこれほどまでに可愛らしい女性たちに囲まれているなんて許せませんわ……こんな可愛らしい…………うふふふふじゅるり」
「七つの大罪フルコンプしとるやんけ。ホンマに味方としてカウントしてええんかソイツ?」
とはいってもヒノ様は小ジワ消しのお薬を手に入れて寛容になっている。どうやらこれ以上メノージャの件には言及してくれないようだ。
「まあ色々と言いたいことはあるけどやなぁ……約束は約束や。セクリナータと一緒に魔王討伐に行くことを認めたる。それでええんやろ、セクリナータ?」
「う……うん! ありがとうお母さん!」
アウトドア派のセクリたんは外出のお許しをいただけてニッコリ。ヒノ様のこの様子だと美金薬さえ渡してりゃレッカの躍りも堂々と見に行けたと思うんだけどな。
「言うまでもあらへんけど、セクリナータはウチらの大事な娘や。しっかり守ったってくれよ、ヨシハルくん」
やれやれ、ようやくスタート地点って所かね。
「ふいい…………今日はドッと疲れた。スライムにハーピー、アルラウネ……それにクムンやヒューサさんとも戦ったわけだからな。とりあえず今日は家に帰って寝」
「あー、ちいっと待つッスよぉ」
突如、背後から聞こえた間延びした男の声に、俺たち全員が一斉に振り返った。
「て、てめえらは……!!」
そこに立っていたのは三人。
この体力を消耗しきった状態で対峙するにはあまりにも絶望的な。
三体の明確な…………『敵』だった。
「ふぁぁぁ……お疲れのところ恐縮ッスけど、だぁいじなお話があるッス。ちょびっとだけお時間いいッスか、サカギリ ヨシハルさん?」




