第53話 魅了魔法を食らったら覚醒する変態プリンス
「ア……アア……アアアアァァァァ…………」
自分の一番の弱点である『男』にベットリと触れてしまったレズアルラウネのメノージャちゃん。
蕁麻疹まみれの顔を真っ青にして白目を剥き、口から絶え間なく泡を生み出すその姿からは、先程までの余裕や優雅さなど一切感じられず。
「アアアア…………ァァァァ…………」
「おい見ろよメリカ。さっきまであんなに高飛車だったお嬢様が、親友の万引き現場を目撃したターザンみたいな声で悶え苦しんでるぞ。無様だな」
「まさかこれから世界を救おうとしてる人からその二字熟語が聞けるとは思わなかったよ。おにーさんってこういうときホントに素晴らしい顔で笑うよね」
「俺にとっての一番の栄養素は炭水化物でもビタミンでもなく他人の苦痛だからな」
「おにーさんはそろそろ勇者からカスにクラスチェンジしてもいい時期だと思うんだけど」
とにかくこれでクエストクリアだ。さっさと花びらもらってお薬を作らねば。
と、その時。
「…………せんわ…………」
メノージャがポツリと一言。しばらく様子を見ていると……。
「絶対に許しませんわあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
やはり怒りが大爆発。
青白かったお顔が一瞬だけ元の緑色に戻ったかと思えば、今度はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
この短時間でめっちゃ色変わるやん。ルービックキューブの上でテンパるカメレオンかよ。
「よりにもよってこのわたくしに男を接触させるなんて!! 貴方は……貴方だけはタダではおきません!!」
彼女の周囲にあるツタがウネウネと蠢き俺に向けられる。まるでメデューサの髪の毛のようで、恐怖から思わず後ずさってしまう。
どうやらターゲットはヨシハルくんみたいだ。何故だろうね。
「おいおい、俺だって男なんだぞ? 触っても平気なのか?」
「構うものですか!! 貴方だけははわたくしの手で必ずぶっ殺して差し上げますわ!!」
「そうかい。だが……悪いけどそれは叶いそうにねえな」
血走った目で俺を睨んでくる殺気ビンビンのメノージャに迫る、一つの人影。
「ぐふふふふ……メノージャさまぁぁぁ」
それは、トロ~ンとだらしのなさすぎる顔をぶらさげたシルベラ国の王子…………バカである。
「なっ……どういうことですのこれは!?」
「忘れたのか? お前はさっきそいつに浴びせかけただろ……『対象を魅了状態にする』チャームフレグランスを、たっぷりとな」
「ぐふふふふ……さあさあメノージャさまぁ、ボク様を今すぐ吸い尽くしてくださいよほほぉん……あなたにミイラにされるなら本望ですからぁぁ……ぐふふふ……」
きっしょい。全部きっしょいけど特に『くださいよほほぉん』の部分きっしょい。
「ひっ……来ないで……こっちに来ないでください!!」
「やれやれ、あんだけ至近距離で吸い込んじまったら、こりゃしばらく魅了の効果は切れそうにないわなぁ、メノージャちゃん?」
「くっ……貴方という人はどこまで卑劣な……!!」
「ぐふふふふ…………いざ!!」
しまりのない口元からヨダレをダラダラと垂らしたバカ王子が、薄汚い笑みを浮かべつつ容赦なくメノージャに飛びかかる。『いざ!!』じゃねえよ。
「うぎゃああああああ!!! 取って取って!! 早く取って!!」
そんな肩にゴキブリ止まった女子高生みたいな反応を……。
バカ王子とゴキブリを一緒にするなよ。ゴキブリさんが悲しんじゃうだろ。
「助けてやってもいいが、一つ条件がある。さっきも言ったけど、俺の仲間になってほしいんだわ」
「だっ……誰が貴方みたいな下衆の仲間になど……!!」
「そうか分かった。おいバカ王子…………髪を舐れ」
「最低の命令!! くっ……わたくしはそんなことで屈したりはしませんわ!!」
「ぐひひひひ…………ペロペロ感謝祭いいいいい!!」
涙目で唇をキュッと噛み締めるメノージャの艶やかな髪の毛に、理性を失い性欲の獣へと成り果てたバカ王子の舌が接近する。ねえよそんな祭り。
「うっ……ううう……ケダモノぉ…………!!」
「大丈夫だってメノージャ。髪は女の命って言うだろ?」
「だからこんなに嫌がってるんでしょ!! 女の命がハレンチエキスでコーティングされそうなんですから!!」
コイツも何だかんだでツッコミできるよな。
「ねえヨシハル。あの子は一周目であんたの仲間だったのよね? 何でここまでの恥辱を味わわせるの?」
「ホントですよ。ウチらにはあんなに友好的だったのに、奴さんにだけえらくアタリが強くねぇですか?」
見るに見かねたセクリとクムンが腑に落ちない様子で俺に尋ねる。セクリは兄貴の醜態にもっと動揺するべきだと思う。
「なんかさ……百合の女の子が男を嫌がってる姿って単純にエロくね?」
「ごめんなさいちょっとそのアバンギャルドな性癖には賛同できないわ」
「え、ウチはなんとなく分かりますよ?」
「あたしも!」
「ボク様もぉぉ!!」
「終わってるじゃないこのパーティー。あんたたち性癖の繋がった兄弟なの?」
そうこうしているうちにバカ王子の舌がメノージャちゃんのすぐ間近へ。
緑色の皮膚に荒い吐息がかかり、彼女の体からゾモモモモモと鳥肌が一斉起立する。
「うひゃああっ…………わ、わかりました!! 仲間にでも何でもなります!! お願いですからこの圧倒的犯罪者を何とかしてええええ!!」
「あっ、あとさメノージャ……花びらも少しばかり分けちゃくれねえか? ちょっと事情があって実は俺たちシルベラ女王様からのお願いでスライムとハーピーとアルラウネからとれる材料で薬を調合しなくちゃならんのだがまぁこれが結構骨の折れる作業で俺たちはこれまでも壮絶な戦いを繰り広」
「いいですいいです説明とかいらないですから!! 花びらくらい好きなだけ差し上げますから!! まずは一刻も早くわたくしを助けてください!!」
「えっとな……右腕に二つ、首の後ろに一つ…………あと脇腹にも少々」
「何でこの状況で貴方のホクロがどこにあるか教えられなきゃいけないんですか!! わざとやってるでしょこの鬼畜男!!」
こうして変態王子のペロペロ感謝祭から間一髪で救われたメノージャは無事に俺たちの仲間となり、その証として自分の花びらをプレゼントしてくれたのでした。
セクリやクムンを仲間にする時もっとシリアスだったのに何これ。




