第51話 見た目や言動がキツかったら皆に煙たがられるキザプリンス
「あ、兄貴……!」
ヴァカ…………失礼しました、バカ王子の突然の登場に、セクリちゃんは露骨に顔を歪ませる。
すっげえイヤそう。口の中で苦虫が青汁パーティーしてるみたいね。
「ヌゥゥゥゥゥハッハッハッハ!! 元気にしていたか、ボク様のラブリーリトルシスター、セクリナータよ!! お前の帰りがあまりに遅いので、ママ上とパパ上が心配しておられるぞ!」
「あ、あんた……まさかお母さんに喋ったの!? 私が勝手にお城を抜け出したこと……」
「当然だ! お前は一国を治める王の娘! 軽率な行動は許されないからな! ヌゥゥゥ」
「何してくれてんのよこのバカ兄貴ぃっっ!!」
「首が取れるッッッッッ!!!」
セクリのフルスイングビンタがバカ兄貴の左頬に放たれる。いたそう。
「ほんっと信じらんない……せっかくバレないようにコッソリ抜け出したのに台無しじゃないのよクソキザがあっ!!」
「記憶が飛ぶッッッッッ!!!」
怒りが収まらぬセクリちゃんの右手は、そのまま流れるように実兄の右頬を撃ち抜いて往復ビンタの完成。かわいそうだろ、あともう千周しろ。
「……またやかましいのが来やがりましたね。何なんですかこのバカロン毛は」
クムンがバカ王子に嫌悪感を贅沢に練り込んだ冷製の視線をぶつける。
わかるわかる、こんな自分の服にバラの花をベタベタ貼り付けてるキラキラ長髪の男、そりゃ不審な目で見たくなるよな。
「兄貴って……もしかしてこのバカ成人男性、セクリナータ様のお兄さんなの!?」
「その通りですよメリカちゃん。お久しぶりですね……おバカ」
「ヌヌヌ!? アナタ様はもしや……ボク様に魔法の心得をイチから教えてくださった恩師、ヒューサ=テレット殿であらせられるか!? ご無沙汰ですな!! ヌゥゥゥゥゥゥゥハッハッハ!!」
うるっせえなこいつほんとに。声帯にアナコンダ巻いてやろうか。
ヒューサさん、セクリだけじゃなくバカ王子にも魔法を教えてたのか……。
「んで? バカ王子はこんなところまで何しに……」
「だからヴァカ王子だと言っておるだろうがシイイイイイイイット!!!」
バカ王子は右足を軸にコマのようにクルクルと回りながら大声で突っ込む。
「先程から黙っていれば『バカ兄貴』だの『バカロン毛』だの『バカ成人男性』だのバカバカバカバカ…………ボク様を王族だと知っての狼藉か!?」
「「「「はい」」」」
「知っての狼藉だった!! ならば最早どうしようもないではないかボク様!!」
「酷いですよ皆さん、ワタシの大事な教え子をそんな呼び方するなんて」
「ヒューサ先生の『おバカ』が心に一番ダメージ来たのだが!! すっごくストレートだったんだものぉぉ!!」
コイツあちこち動き回りながらツッコミするからなんかミュージカル観てる気分だな。
「悪い悪い、少しからかいすぎたな。そんで何の用だ、バカ王子?」
「謝罪はしても反省はしないタイプだ!! ぐぬぬ……まぁいい。先程も言ったが、次の魔物退治にはボク様も同行させていただこう」
「な、何であんたが……」
「お前がなかなか帰ってこないのを心配したママ上からの頼みだ。『勝手に城を抜け出したのは後でこっぴどく叱らなアカンけど、セクリナータに万が一のことがあったら大変やから、アンタも助けたってくれへんかバカ?』とな」
母親にまでバカ呼ばわり。
しかしヒノ様もなかなかに甘いお母様だこと。
まあ国王の娘だ。もし傷でも付こうものなら一大事だもんな。
「そこにスライムまみれのハーピーが倒れていることから察するに、後はアルラウネだけだろう? ボク様に任せておくがよい! 誰もが見惚れるような華麗なる活躍をしてやろうぞ!」
「ふざけんなっての。こちとらお前に助けを借りるほど落ちぶれちゃ……」
ちょっと待てよ?
次のアルラウネ戦、コイツを使えば…………ぐひひへへ。
「よし分かった、快く迎え入れよう」
「ちょっとヨシハル!? 本気なの!?」
「ウチはこんなキザッたい奴イヤなんですけど……」
案の定、女の子集団からは猛烈な反対を受ける。
「まあまあ見てろって。きっと役に立ってくれるよこの王子様は」
「なかなか話がわかるではないか、ポサロン=ピサロン! というわけで宜しく頼むぞ! ヌゥゥゥゥゥゥゥハッハッハ!!」
またメチャクチャなパーティーになっちまったもんだ。名前覚えてね。
「ではワタシはもう少しこのネバネバハーピーさんとそれはもうドエロいことをする予定ですので、ここでお別れです」
あんたジレゴさんが帰ってきたときに胸を張れるような姿見せるんじゃなかったのか。
でもこの人のおかげで色々と助かってしまったから何も言えない。
「よっしゃ、そんじゃ行くとするか……最後の『材料』集めに」
******
ここはクムンと出会ったのと同じ森の中。
その時よりも大きく時間が進んでいることもあって、辺りがより一層暗く感じる。
「はあ……はあ……それで? アルラウネの場所は分かってるのおにーさん? もうだいぶ歩いたけど……」
「あたりめえよ。もう少しで着くはずだ」
「ぬおっ!! 足場が悪いなまったく……服が汚れてしまうではないか! なぜボク様がこんな薄汚い道を歩かねばならぬのだ! レッドカーペットを敷け!!」
無茶言うなよ。
バカ王子は何度も転びそうになりながら、常にグチグチグチグチと文句を垂れ流している。自分で一緒に来たいって言っといてこのキモロン毛は……。
「はあ……これだから貴族のお坊ちゃま野郎は嫌なんですよ。男なら多少の服の汚れくらい我慢しやがれって話です」
「やかましい! ボク様は常に美しいものに囲まれて生きていたいのだ!! 貴様のような野蛮な動物と一緒にするな!! というか性別どっちなの貴様?」
「あんだその質問ゴラァ!! テメエこそ女みてえななっがい髪の毛ぶらさげやがって!! ウチの弓で一本残らず削ぎ落としてやろうか!?」
何だかんだ仲良さそうだなあの二人。
「ねえヨシハル」
セクリが俺の服をちょいちょいと引っ張ってくる。
「あん? どしたセクリ? 山道こわいのか?」
「あんた……これから会うアルラウネのこと、知ってるでしょ」
真っ直ぐな目で見つめてくるセクリに、俺は慌てて背を向ける。
「な……何言ってんだ今さら? 俺の冒険は二周目なんだ。一周目で会った魔物の情報が頭に入ってんのは当然だろ?」
「そういう話をしてるんじゃないわよ。あんたの様子を見てたら分かる。私の考えが正しければ、次のアルラウネは……」
ふわり、と甘い匂いが漂う。
気が付くと、俺たちの周りはピンク色の濃い霧のようなもので覆われていた。
「なにこの香り……頭がボーッとする…………いてっ!」
恍惚とした顔で、まるで何かに吸い寄せられるかのようにフラフラと歩き始めるメリカの頭をひっぱたく。
「ななな、何すんのさバカおにーさん!! うら若き乙女のドタマを……むぐぐっ!!」
「お前ら呼吸を止めろ!! 早くっ!!」
メリカの鼻と口を塞ぎながら指示を出す。うら若き乙女はドタマとか言わない。
俺の言葉に従い、全員がジッと呼吸を止めたままで数十秒。
「ぶはあっ!! 死ぬかと思ったよ!」
ようやく霧が薄れてきたところでメリカを解放してやる。
「今のはチャームフレグランス。甘い香りを辺り一面に振り撒くことで対象を魅了状態にして思考回路をストップさせ、自分のところに招き寄せる技だ。あのまま吸い込んでたら養分を吸い付くされてミイラ化されてたぜ。アルラウネ…………いや、メノージャによってな」
「わざとかどうか知らないけど、あんたさっきもアルラウネのことをメノージャって呼んでたわ。魔物のことを名前呼びだなんて…………やっぱり私の予想は間違ってなかったのね」
「ああ……お前にゃ敵わねえな、セクリ」
攻撃を受けた直後にも関わらず、嬉しさで口角が上がる。
「ぬわぁぁぁにを呑気に笑っているのだ貴様は!! そのチャームなんたらかんたらうんたらぬんたらをボク様たちに放ったということは、敵は既にこちらの存在に気付いてるのだろうが!!」
「これが笑わずにいられるかってんだ。憎き魔王を今度こそ料理してやるための『コックさん』が、ようやく全員揃うんだからな」
「おにーさん、それってまさか……!」
「そのまさかだよ。一周目で苦楽を共にした俺の大事な仲間は三人。セクリナータ=シルベラ。クムン=ハレープ。そして……………アルラウネの、メノージャ=ロエリーだ」




