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第48話 着火を頼まれたら奥義を放つ清純女


『さぁてと……オレが何者か気になっているのは充分に分かる。だが、こっちも同じようにお前さんに聞きたいことが山程あるんだ。ここはお互い、腹を割って話をしようや』


『あら、ワタシとしたことが無駄な時間を大量に消費してしまいました。それでは帰りますさようならお元気でバイバイまたね』


『待て待て待て待て!! (きびす)返すの速すぎて地面からケムリ出てんじゃねえか!!』


 音速で帰宅しようとするワタシを大きな手のひらが引き留める。


『何ですかナンパですか? ワタシが優秀な美少女だからって愛を伝えようとしてるんですか? 絡んでこないでくださいよ変態』


『むしろ絡まれてるところを救ってやった立場だろうがオレは!! あーあ、こんな自意識過剰のバカ女、助けなきゃよかったぜ!!』


 男はわざとらしく大声でそう言いながらワタシから離れ、ポケットから焦げ茶色の葉巻を取り出した。


 おやおや、聞き間違いでしょうか。



 今この男、よりにもよってこのワタシのことをバカと言いました?



『あ、やべえ火が…………おいお前さん、ちょいとさっきの魔法を使って着火しちゃくれねえかい? 一番弱ぇので構わねえからよ』


『任せてください』


 素直に了承したワタシは大きく大きく深呼吸をした後で意識を集中させ、数十秒に渡ってジックリと魔力を高める。


 嫌な気配を感じたらしいその男は、冷や汗を垂らしてワタシに近付く。


『お、おい……弱い魔法でいいんだぞ? お前さん何をしようとして』



『くらええええええっ!!!【魔晃(まこう)炎熱(えんねつ)岌丸(ぎゅうがん)滅華(めっか)】!!』



『ギャギャギャアアアアアアアアアアア!!!』



 これが、今のワタシが持つ最大火力です……!


 男に超巨大サイズの火の玉をぶん投げ、全魔力を使い果たしたワタシはフラリと壁にもたれ掛かる。


 避けられるはずがない……これにはさすがのあの男も手の打ちようがないだろう。



『ワタシの…………ワタシの勝ちです!』



『頭おかしいのかテメエはあああああっっ!!!』



 あれれれれ、生きてる。


『何で絶対に勝たなければならない敵との戦いで己の全てを懸けた技を放つ主人公みてえになってんだよ!?「ワタシの…………ワタシの勝ちです!」じゃねえだろ!!』


『ご、ごめんなさい……男の人の葉巻に火を点けるなんて初めてで……緊張してつい最大火力が…………ポッ』


『すっごいピュアな顔面で大ウソついてる!! 最終奥義みてえな技名叫んでた奴が急にシャイ化すんなやドボケアマ!!』


 ドボケな女でドボケアマ。女性に対する最高レベルの悪口である。


 それにしてもこの男、ワタシの全力の奇襲攻撃を受けて火傷ひとつ負っていない。


『ぶはあ………まあやり方はどうあれ…………火、あんがとよ』


 そのくせ葉巻にはしっかりと火が点いており、男は気分良さげに大量の煙を吐き出した。



『何者なんですか、アナタ』



『だからオレはずっとその話をしたくてだな…………まあいいや。ついて来な』


 男はワタシを廃墟の奥へと案内する。


 壁や天井の隙間から射し込む夕陽が眩しい。


『そこ、段差あるから気ぃ付けろよ』


 前を歩く男は、古びた建物を慣れた足取りで進んでいく。


『アナタは、ここに住んでいるのですか?』


『……ん、まあ基本的な活動拠点ではあるな。家にいんのが息苦しくてよ。ほれ、座りな』


 男はどこからか持ってきたボロボロの椅子を、ワタシの目の前にドンと置いた。


『……汚いから嫌です』


『かぁ~! お嬢様はワガママで困っちまうなホントによぉ! ったく……ちょっと待ってろ』


 男は身に付けていた大きな上着を脱ぎ、椅子に覆い被せた。


 薄い黒色の下着一枚になったことで、男のガッシリとした体格がより強調される。


 よく見ると体の所々に傷がある。動物の引っ掻き傷のようなものが。


『これで満足かい……ってどした、そんなに見つめて? まさかオレの(たくま)しい肉体に惚れちまったのか? 触ってみてもいいんだぞ~?』


『……汚いから嫌です』


『やかましいとっとと座れ!!』


 男に怒鳴られ渋々と着席。 触れと言ったり座れと言ったり。


 椅子に敷かれた茶色くコワゴワとした上着から、酒と葉巻の強烈な香りが漂ってくる。


『さてと……まずは自己紹介だな。オレの名前は』


『ヒューサ=ルミーユです。よろしくです』


『お、おう……出鼻くじかれたぜ。じゃあ今度こそ……オレの名前は』


『アナタの言った通り、この近くの魔法学校に通っています。成績は常にトップです。優秀です。よろしくです』


『……そ、そうなのか、そりゃすげえ! そんじゃ次はオレの番だな! オレの名前は』



『性的興奮を覚える部位は胸部です。よろしくで』



『がああああああああああ!!!』



 ワタシからの度重なる妨害を受け、男は発狂した。


『オレにもちょっとは喋らせろや!! 人が喋ろうとしてんのを巧みにブロックしてきやがって! 三つ目に関しては果てしなくどうでもいいし! 完全にオレの邪魔するためだけに引っ張り出してきたゴミプロフィールじゃねえか!!』


 そろそろ帰って勉強しないといけないから手短に紹介したのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。


『分かりましたよ……ワタシもアナタのことは少々気になりますから』


『やっと素直になってくれたか! いいか、適当に聞き流しやがったら許さねえからな?』


 満を持して発言権を与えられ、男は嬉しそうにワタシに向き直った。



『オレの名前はジレゴ=テレット。しがない傭兵だ』



『…………何か、散々もったい振った割りには普通ですね。全く名乗らないからもっと面白い展開があるのかと思ってたのに』


『おめえのせいで名乗れなかったんだろうが!! なんだよ面白い展開って!!』


 喪失感で肩を落としたワタシに、その男……ジレゴは太い溜め息を溢す。


『ったく、お前さんと話してると調子狂うぜ……そんでヒューサだっけ? お前さんはどうしてあんな所でリンチされてたんだ?』


『噛み砕いて言うと、ワタシが才色兼備だからです』


『すまねえ、砕けすぎてて解読不能だ。分かりやすく説明してくれ』


『人が自分よりも優秀な人物に出くわした際に芽生える感情は二つ……尊敬からくる好意か、嫉妬からくる嫌悪です。そしてワタシの人間性を考慮しても、後者の感情を抱く者が圧倒的多数派になるのは当然でしょう?』


 男は何とか理解しようと前のめりになってワタシの話を聴いている。


『あぁっと……難しくてよく分からんが…………嫌われてる自覚があるなら、どうして変わろうとしないんだ?』


『変わる? どういう意味ですジレゴ?』


『お前さんが優秀なら、その態度次第で周りの奴等もお前さんに尊敬の念とやらを持ってくれるってことだろ? 例えば……そうだな、高嶺の花らしくもっと謙虚に、おしとやかに振る舞ってみるとかさ』


 ジレゴの発言により、眉間がひとりでにピクリと動いた。


『冗談じゃありませんよ。どうしてワタシが歩み寄らなければならないのですか? そんなことをしなくても、最強の魔導師にさえなれれば、全ての人々がワタシに尊敬の眼差しを向けるようになります。ワタシに嫌悪感を抱いている人達も含めて、全員がね』


 どうにもこの男とは考えが合わない。


 自分よりレベルの低い者と馴れ合うなんて時間の無駄。


 ワタシは一人で高みを目指す。


 その過程でいくら敵意をぶつけられようとも関係ない。


 吐き気のするような仲良しごっこを強制されるよりずっとマシだ。


『でもよ……娘がそんなボロボロになって帰ってきたら、親御さんとか心配するんじゃね?』


 その言葉を聞いて二人の人間の顔が頭に浮かんだが、ワタシが首を横に振るとすぐに掻き消えてしまった。


『いいえ、あの人達がワタシに求めていたのは結果を出すことのみ。一人前の魔導師になって初めて、ワタシはあの人達に「娘」と認識されるのです。今のワタシが殴られようが蹴られようが刺されようが、両親は顔色一つ動かさないでしょうね』



『ふざけんな』



 嘲笑混じりに話すワタシの向かい側で、ジレゴの声色があからさまに変わる。


『傷だらけになってもお構いなし? 結果を出すことで初めて娘扱い? そんな奴等を…………親なんて呼ぶんじゃねえ!!』


 屈強な男性から放たれた野太い声に体が縮こまる。


『なっ……アナタが何故そこまで声を荒げる必要があるのです? これはワタシの家庭の話であって、アナタには関係がないでしょう?』


『そんな胸糞悪ぃ話を聞かされて黙ってられるかってんだ!! 家まで案内しろ! オレがそのクズ野郎どものことぶん殴って……』



『やめてくださいっ!!』



 先程までの飄々とした様子はどこへやら、顔を真っ赤にしながら乱暴に立ち上がるジレゴに、ワタシは叫んでいた。


『殴るなんて……不可能に決まってるじゃないですか……!』


 そこで我に返ったが、もう遅い。


『どういうことだよ、それ』


 やれやれ、柄にもなく感情的になって、余計なことを言ってしまいました。


 気になっちゃいますよね。「殴るのが不可能」だなんて摩訶不思議な言葉が聞こえたのですから。


 さっき出会ったばかりの性悪女のためにそこまで熱くなられたら、そりゃペースも乱されちゃいますって。


『…………参りましたね。こんなことまで話す予定ではなかったのに』


 ワタシと話していると調子が狂うと、先程アナタは言ってましたっけ。


 その言葉、百倍にしてお返ししますよ。呆れるほどのお人好しさん。


 野性的で大雑把な性格に似合わない、吸い込まれるような優しい瞳を見ていると、つい心を許してしまう。


 そして、吐き出してしまう。


 絶対に誰にも話さないよう、心の奥底に閉じ込めていたワタシの過去を。



『殺されたんですよ。桃色の髪をした、とあるマッドサイエンティストにね』



 ワタシの人生を大きく狂わせた、あの女のことを。


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[一言] おぉっと、覚えのある奴が...
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