第45話 女の子がオトリになったら荷物を持ってあげるイケメン勇者
さっきモロに電撃を食らっちまったせいで、体が上手いこと動いてくれねえ。
それは恐らくクムンも同じだ。
だとするとこの『作戦』を行う上で重要になってくる人物は……。
「おいメリカ」
「ふぇ? どしたのおにーさん?」
「頼みがある」
「おやっ? えへへ……おにーさんもようやくあたしの強さを認めてくれたんだね! あいにく今日はメリカちゃんとっても気分がいいから、なんでもおねがい叶えてあ~げ」
「オトリになれ」
メリカが石化した。
「さっきのサンダーを運良く食らわなかったのはお前だけだ。俺もクムンもしばらくまともに動けそうにねえ。だから頼む」
「いやいやいやいやちょっと待ってくださいよぉ!! そんなんムリですってヨシハルさん! 弾丸の次はオトリやなんて冗談キツいっすわぁ!」
若手芸人みたいな喋り方になったメリカだが、情けを掛けている暇なんてない。
「その顔……ワタシを倒すための名案でも浮かんだのですか、ヨシハルくん?」
「あんたの『娘』が久々に母親の温もりに触れてみたいんだとさ。だから心ゆくまで炎魔法を浴びせてやってくれ」
「待って待って言ってない!! 炎はもう温もりのレベル越えちゃってるし、そもそも母親じゃないもんアレ!!」
「そうですか、それが可愛い娘の頼みなら喜んで聞いてあげましょうね」
「ビャオゥゥゥゥゥゥあんなこと言ってる!! 助けておにーさんこわいよこわいよ!!」
メリカがピイピイと泣き喚きながら俺に救いを求めてくる。
うひゃーさすがにかわいそうになってきたなーたすけてあげなきゃー。
俺は天使のように笑い掛けると、メリカが持っていた巾着袋を預かり、魔物ババアの方角へその背中をトンと押してやった。
「ほら、これで身軽になっただろ」
「そんな袋なんか何の重荷にも感じてなかったよ!! こんなことで気遣いできるイイ男みたいな顔しないでよムカつくな!!」
「さあ、俺たちのことは気にせずに存分にスキンシップしてくれ」
「スキンが焼け爛れるわ!! もうっ……これで死んだら絶対に化けて出てやる! そんでおにーさんの部屋にある全ての家具にパセリ振りかけてやるんだから!!」
やめろよ料理と勘違いして食べちゃうだろ。
「やれやれ……オトリに敵の娘をチョイスしてくるなんて、キミは本当に面白い子ですね、ヨシハルくん」
魔物ババアはそう言いながらも、手の上に炎を作り出す。
「クムンやセクリを危険に晒すわけにはいかねえだろうが」
「あたしは晒しても良いのだろうか」
「まあ、誰が来ようと容赦する気はありませんが…………ねっ!!」
そして目を大きく見開くと、自分と同じ髪色をした少女に容赦なくそれを投げつけた。
「うひゃあああああいっ!!」
メリカは大きく飛び上がって直撃を回避する。
意外と運動神経いいじゃんアイツ。火事場の馬鹿力というやつかね。
今のはジャンプしなくても当たってなかったけど。
「ほらほら、早く作戦とやらを実行しないと命中しちゃいますよ?」
ドォンドォンと爆発音が繰り返される。
「ふ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!゛!゛!゛こ゛ろ゛さ゛れ゛り゛ゅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!゛!゛!゛」
メリカは顔中を汗や涙や鼻水やらでビショビショにしながら走り回っている。きちゃない。
「何を……何を狙ってやがるんですか、ヨシハル? メリカの体力的にもそろそろ限界が……」
「ああ、分かってるよ」
魔物ババアの炎攻撃により、またしても辺りを煙が包み込んでいく。
メリカがあちこちに逃げ回ったことで、その範囲は先程よりもずっと広い。
「これが狙いだ」
近くにいる仲間たちの姿もだんだんと見えなくなっていく。
さて、今のうちにクムンに指示を出しておかねえとな。
やがて、俺の視界は煙一色になった。
「はっ、何をするかと思えば…………姿を眩ませてワタシに隙ができたところを討つ作戦ですか。期待外れです」
濃い煙の中、魔物ババアが余裕に満ちた声色で喋り始める。
「確かにワタシは今なにも見えていませんが、同じようにそちらからもワタシの姿は見えていない。慎重に行動しないと……」
ビュッと空を切る音がした。
「こうなりますよ、ヨシハルくん?」
クムンが弓矢を放ったらしいが、どうやら避けられてしまったようだ。
「残念でしたね。キミの狙いなどお見通しです。ワタシの声を頼りに位置を特定し、クムンさんにトドメを刺させるという算段だったのでしょう?」
勝利を確信した魔物ババアの足音が高らかに鳴り響く。
「だからこそ、ワタシはわざとたくさん喋っていたのですよ。そしてわざと弓矢を放たせたのです。飛んできた位置からクムンさんの居場所を特定するためにね」
そうだ、あのレベルの相手ならそんな目論みは容易に見破ってくるはず。
「そんな所にうずくまっていてもムダですよ。ほら、捕まえ……………」
残念、俺の方が一枚上手だ。
「───っ!? なんですかこれは!!」
魔物ババアの驚いた声が聞こえると、ゆっくり煙が消えていく。
そこには、地面に転がっているとある物体を鷲掴みにしたまま微動だにしない魔物ババアの姿が。
「くっ…………どうなってるんです…………手が離れない………!!」
「お前が俺たちの作戦を看破することなんて想定済みだ。それを逆に利用して俺たちを見付け出そうとしてくるところもな」
「ヨ、ヨシハルくん……まさかキミは…………!!」
「だから俺はトラップを仕掛けた。お前が煙の中で一人で長々と喋っている間に、さっきメリカから取り上げた巾着袋に入っていたスライムの体液で、ソイツの…………ハーピーの全身をコーティングしたんだよ」
そう、いまアイツが掴んでいるのは、先程の戦いによって気絶しているハーピーだ。
その体は黄緑色のヌメヌメで覆われており、一度触れてしまえばトリモチのように吸い付いて離れない。
「クムンにはハーピーの近くで矢を放ち、すぐにそこから離れるよう事前に指示を出しておいた。以上が俺の作戦ってわけ」
「くっ…………こんなもの!!」
魔物ババアは必死にスライムを引き剥がそうとする。
「お前はなかなかに手強いからなぁ……これが俺たちに残された最後のチャンスだろうよ」
しかし、動けば動くほど全身にベタベタが広がっていく。
「ああ、あともう一つ伝えておこうか。お前に炎を出させるだけなら、もっと手っ取り早い方法はいくらでもあった。何故こんなに回りくどい作戦にしたと思う?」
魔物ババアか全てに気付いたように肩をピクッと跳ねさせる。
「まさか、あの時メリカちゃんをオトリにして逃げ回らせたのは……広範囲に煙を発生させるためだけじゃなく、時間を稼いで麻痺から回復するために……!?」
「ピンポンピンポーン。まっ、今さら気付いても遅いけどな。お前の敗けだよ……雑魚おばさん」
麻痺が解けたクムンは、目にも止まらぬ速度で魔物ババアの所まで走ってくる。
そして体をクルリと翻すと、身動きが取れずにもがいている魔物ババアの後頭部に、力強い回し蹴りをお見舞いした。
「ぐっ……………ぁ…………」
魔物ババアは短い断末魔を出すと、ドサリと地面に倒れた。
「こちとら一周目でバカみたいな数の強敵と戦ってきたんだ。何手先、何十手先を考えて作戦練ってる俺様に勝つことなんざ不可能に決まってんだろ。お前の敗因はただ一つ。ヨシハル様を甘く見たこ」
「ヒューサ先生っっ!!」
「ぐえらむっ!!!」
決め台詞を言っている最中である俺を豪快に突き飛ばしたセクリが、魔物ババアの元へ駆け寄る。
「ったく、おめえもホントに話を聞かねえ王女様だな。だからそいつは偽物だって何回も言って……」
「いたたた……参りました。さすがですねヨシハルくん」
意識を取り戻した魔物ババアが俺に優しく微笑む。
初めてヒューサさんに出会ったときのことを思い出す。
あの時も彼女は、窓際で優雅に腰掛けてこんな顔をしていたっけ。
「な、なんだよ……笑顔だけはやたらとリアルじゃねえかよオバサン。いいから早く正体を現しやがれ!」
「あのさヨシハル。そのことなんだけど……」
セクリが口をキュッと結んで視線をあちらこちらにやっている。
そしてヒューサ先生を手の平で指し、申し訳なさそうに俺に告げる。
「この人、ホンモノ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………へ?」
「それにしてもこのハーピーさん、幼げな見た目によらず良いパイオツを持っていますね。確かにおっとりキャラは巨乳が多いですからね。クムンちゃんのサイズも好みですが、やはり大きいのも魅力的です。ローション的なものも付いていて尚更エッチな…………うへへへへ…………」
あれ? ちゃんと変態だ。
え?
え?
『ぐひゃひゃひゃ!! 何が『覚悟しなさい』だ! よく見りゃテメエ、ちょっとお肌がガサガサしてんじゃねえか! 化けるならちゃんと化けろやオバハン!!』
『よく聞けよクソババア。俺ぁ今までだって何回も何十回も、何百回も死にかけてきたが、今でもこうして地に足つけて泥臭く生き延びてる』
『ピンポンピンポーン。まっ、今さら気付いても遅いけどな。お前の敗けだよ……雑魚おばさん』
俺これ終わっ…………




