第40話 優位に立ったら土下座を命じる女独裁者
「どぉぉぉぉぉすんだよおいおいおいおい!? 頼みの綱だと思ってたクムンがぜんっぜん使えねえじゃんか!!」
クムンを心強い味方につけるための俺の一連の行動が、皮肉なことにクムンを役立たずちゃんにドレスアップしてしまった。
これじゃあ弓矢ブッ刺さり損じゃん!!
『致命傷じゃねえから大丈夫だろ』とか強がってたけどホントは今すぐにでも泣き出したいほど痛ぇんだぞ!!
俺の剣は今の状態じゃあ近接系の敵にしか攻撃できないし、クムンも魔法なんて使えやしない。
となると……。
「…………ん~? なにあたしのことジロジロ見てるのかなぁ…………おにーさん?」
ハーピーを倒せるポテンシャルを最も秘めているのは、この苛立ち製造業者ってことになる。
メリカに視線を移すと、なんとも憎らしい顔でニヤニヤ笑いながら俺の方を見つめ返してきた。
コイツも分かってるんだろう。
自分が三人の中で、一番の戦力になるということが。
……とてつもなく消去法だけど。
「メ、メリカ……お前に頼みがあるんだが…………」
「あれれれれ? 『メリカ』ってなぁに? 『お前』ってだぁれ? 相手が空中にいるっていうのにバカ面ぶら下げて剣をブンブン振り回すことしか出来ないザコハルが、あたしにそんな生意気なクチきいてもいいのかなぁ?」
こっ、殺してえ…………!!
「人が下手に出てりゃあ図に乗ってんじゃねえぞてめえ!! だいたい魔法が使えるったって、どうせまたタバコに着火もできねえような、ミジンコみてえな火力しか……」
その時、メリカの手のひらに巨大な火の玉が出現した。
一瞬だけヒューサさんの姿が重なり、腰を抜かしてしまう。
「ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
尻餅をついて驚愕する俺を存分に観察した後で、メリカが汚い高笑いをあげる。ほんとに性別メスなのか?
「甘いね!! 少し寝たら、魔力なんかあっという間に元に戻るんだよ!! おのれら二人が目クソ鼻クソの背比べみたいなヘドロ仕合を繰り広げてる間に、あたしは母さんにも負けないような最強の魔法使いとしての力を取り戻したんだ!!」
完全に調子乗ってやがる。
二人称が『おのれら』のヤツはもう相手をナメくさってるもん。
メリカは緩やかな動きで俺の目の前まで来ると、短い髪をフワリとかきあげて俺に勝者の黒い微笑みをぶつけてきた。
「て、てめえ…………!!」
「ほぉら……無様に尻尾振って、あたしにお願いしてみなよ。『非力でかよわい僕たちを助けてください、最強美少女魔導士メリカ様』ってさ。ねぇ……かわいいかわいいザ・コ・ハ・ル・く・ん?」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
「あなたたちってホントに仲間なの……?」
屈辱と怒りと無力感が心を埋め尽くし、俺は地面に這いつくばって発狂する。
それを見たドン引き気味のハーピーの言葉が、上空から静かに落ちてくる。
「癪な話ですが……ここは誠心誠意、お願いするしかないですね。頑張ってくださいザコハル」
「はあ? なに寝ぼけたこと言ってんの? クムンもザコハルと一緒に下座るに決まってるじゃ~ん!」
独裁者メリカの魔の手はクムンにも容赦なく伸びる。
ザコハルを普通に使いこなすのやめてね。
「なっ……メリカてめえ、よりにもよって友達にアタマ下げさせるつもりですか!? ウチらの友情ってのは、そんなものだったんですか!!」
「キヒャヒャッ!! 『友情』かぁ……あたしはとっても嬉しいよ! クムンもようやく言えるようになったんだねぇ……………吐き気のするような『綺麗事』が!!」
もうラスボスでいいだろコイツ。
あの気の強さが自慢のクムンまで、絶望に打ちひしがれたような表情のまま立ち尽くしてしまっている。
物言わぬ人形のように、真っ白な顔で。
「あなたたち一回、今後の付き合い方についてよく話し合った方がいいと思うなの……」
このザマだよ。敵に本気で心配されちまってるじゃん。
「まあいいや……今のあたしは気分がいいから、特別に土下座はナシにしといてあげるよ! 灰になりたくなければ、あたしの三歩後ろで震えてな!!」
誰なの?
もうメリカちゃんの原型がないんだけど。心なしか顔も劇画タッチに見えてきたぞ?
真っ赤な炎は未だに小さな掌上でゴウゴウと燃え盛っている。
こんなのを食らったら、さすがのハーピーもひとたまりもないだろう。
メリカが二十メートルほど上空にいる敵を睨み付けると、辺りに凄まじい強風が吹き荒れる。
「くっ、メリカにあんな力があったなんて知らなかったです……………うわっ!!」
吹き飛ばされそうになったクムンをなんとか受け止めて抱きかかえるが、俺も立っているのがやっとだ。
「なんなの……その強大なオーラは!! いったいあなたは何者なの!?」
「あたし? あたしはメリカ=テレット。名前を覚える必要はないよ。偉大すぎてあなたの矮小な脳ミソが容量オーバーで破裂しちゃうから」
どっちが敵だかわかんなくなってきた。
「安心しなよ、その綺麗な羽根だけは残してあげるからさ…………くらえええええ!!【魔晃炎熱岌丸滅華】!!」
最終奥義みたいな技名でた!!
放たれた巨大な球体の炎が真っ直ぐに向かっていく。まるで空気すら焼き払わんとする勢いだ。
ていうか何でヒューサさんの技は『フレイム』とかだったのにコイツのはこんなにイカついの?
と、とにかくこれで二勝目はもらったぜ!!
あんなに大きな炎、さすがのハーピーにもどうしようもないだろ!!
あんなに大きな…………。
大きな…………。
「…………あれ?」
なんか炎がみるみるうちに小さくなっていくような?
あ、そっか! 遠近法か!!
なはは、そりゃ距離が開いていってるんだから小さくなるのも当たり前じゃん! ヨシハルくんったらおバカさ
ポン。
と、小さな破裂音。
見ると、メリカの炎はハーピーの遥か手前で跡形もなく消滅していた。
俺のせいでもないのに、やたらと気まずい沈黙に耐えきれなくなる。
メリカのいる方角に首を動かすと、サウナの中で黒歴史を思い出したヤツみたいな記録的発汗量を叩き出していた。
「あ、あの…………おにーしゃん…………」
「あれだけ勿体ぶっといてこれかよ。マジでダッサいわぁ。スライムの時と違って仕留められてねえし。なんなのお前? 何が魔晃炎熱岌丸滅華だよ。炎熱に謝れ」
「はうあっ!! ク、クムンはあたしの気持ち、分かってくれるよね…………? あたしたち、友達だもんね…………!?」
「『友情とは吐き気がするほどの綺麗事である』……とある最強美少女魔導士様の素晴らしい御言葉です」
「うっ…………ぐすっ…………ひっく…………ふええ…………」
泣き。ストレートな泣き。
「びええええ…………ちがうもん……! ひきょりが……たりなかっただけだもん…………ぐすん…………!」
「んなもん誰が見たって分かるわ。なんの言いわけにもなってねえんだよ。ほれ、名誉挽回したけりゃとっとと立って二発目を出してくれ。今度は途中で消えないように、より力を込めてな」
「えぐっ…………いまのでまりょく……つかいきっちゃった…………ぶえええ…………」
気が狂ってんのか?
魔力の温存は大事だってスライム戦で学習したばかりだろうが。
ノリと勢いで生きる子はこれだから困る。
戦いは全く動いてねえ。ただ不発弾が不発しただけだ。
「おにいいいいいさああああん!! ひどいこといってごめんねええええ!! あやまるからなんとかしてよおおお!! あたしまだしにたくないよおおおお!!!」
「やかましいっ!! なんとか出来るならお前が偉そうにしゃしゃり出てくる前にしてるわ!!」
先程までの劇画メリカはどこへやら。
死への恐怖に怯え、号泣状態で俺に抱きついて懺悔し、救いを求めている。
くそっ……このままじゃ全滅だ!
弓矢さえあれば…………!!
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「助けていただいてありがとうございます、ヒューサ先生」
「陵辱プレイを回避した気分はいかがですか、セクリナータ様? まぁあのまま捕まっていても、とっても気持ちのよい思いができたんでしょうけどね。想像するだけで興奮します」
変態から私を助けてくれたのもまた別の変態。頭がおかしくなりそう。
「あ、あの……私、行かなければならない場所があるので、これで……」
「濁したってお見通しですよ。ヨシハルくんの所でしょう?」
図星をつかれてピタリと足が止まる。
「ヨシハルくんからだいたいの話は聞いてます。キミの性格なら、お城を抜け出して彼の後を追うことも予想してました。だからワタシはここでキミを待っていたんです。渡したいものがありましてね」
「渡したいもの?」
ヒューサ先生は近くの壁に立て掛けてあったとある物体を、ゆっくりと手に取った。
「ええ。本音を言えば、ずっと傍に置いておきたかったのですが…………きっとキミの……いえ、キミたちの役に立ってくれることでしょう」
手渡されたのは…………大きな弓矢だった。
「どうして魔導士のヒューサ先生がこれを?」
先生は弓もお使いになれるのかしら。そんな姿、見たことないけど……。
「ワタシのものじゃありません。いいですか、それは…………」
ヒューサ先生は珍しく発言を迷っている様子だった。
だが、しばらくして私の顔を見るなり儚げにフッと笑うと、意を決したように口を開いた。
「それは、ワタシの旦那でありメリカちゃんの父親…………ジレゴ=テレットの遺品です」




