第39話 戦いたくなったら城を抜け出すおてんばお嬢様 ☆
「はあ…………」
私……セクリナータ=シルベラは、自室にある鏡で自分の顔を見つめながら、深く溜め息をついた。
さっきから立ったり座ったり歩き回ったりを繰り返して時間を浪費している。
どうしても心が落ち着かない。
理由は分かりきっている。
「ううっ…………私も魔物退治、行きたかったぁ…………!」
悔しさと寂しさで涙が滲んでくる。
ヨシハルはお母さんのシワ消しのため、メリカちゃんと一緒に三体の魔物を狩りにいった。
勇者としての力量を認めてもらうため。
そして……私を仲間にするために。
羨ましくて仕方がない。
小さな頃から伝記や英雄譚を読むのが大好きで、数えきれないほど多くの物語に目を通してきた。
そのせいか人一倍、冒険とかそういった類いのものに興味があった。
確かに一周目で私を仲間にした理由には幻滅したけど、でもあのクズ……もとい、ヨシハル……もとい、クズと一緒にいると、とても面白い経験ができそうなのは間違いない。
冒険好きとしては最も憧れる魔王討伐ファンタジー。
剣や魔法を駆使して、数々の強敵をバッタバッタと薙ぎ倒す…………考えるだけで武者震いがする。
あの二人がシワ消し薬を持ってきたら私は仲間にしてもらえる。
でも、それまで待てない。
今すぐにお城を抜け出して、私もスライムやハーピー、アルラウネ退治に参加したい。
「決めた……私も行く!!」
勢いよく立ち上がると、椅子が派手な音を立てて後ろに倒れた。
そうと決まればさっそく準備しなきゃ。
覚悟を決めた私は、意気揚々と髪の毛を整え始める。
町で人気の踊り子、レッカちゃんの最高のダンスを見るために、私はこれまで何度も城を抜け出してきた。
ていうか何度も抜け出せる時点で大問題よね。廃墟みたいなガバガバセキュリティだもの。
お父さんは論外として、お母さんとバカ兄貴さえ突破できれば私の勝ち。
うかうかしてたらヨシハルたちが魔物をぜんぶ倒しちゃうから、早めに行かないとね。
「……………よし」
準備は万端。
部屋をそっと出て、抜き足差し足で廊下を進む。
誰にも見付からなきゃいいけ
「おやおやおやおや? 世にも美しい忍者がいると思えば…………ボク様のラブリーリトルシスター、セクリナータではないか!!」
うわあ。
さっそく見付かっちゃったじゃない。
シルベラ国の王子であり私の兄貴であるヴァカ=シルベラが、後ろから声を掛けてくる。
「どうしたのだボク様のラブリーリトルシスター、セクリナータ!? そんなにコソコソして…………かくれんぼでもしてるのか、ボク様のラブリーリトルシスター、セクリナータ!?」
う、ウザい……。
一回でも胸焼けするフレーズなのに連射しないでよバカシスコン。
「それでラブリナータは……」
誰がラブリナータよ。言うのめんどくさくなって短縮してきたじゃない。
顔はいいけど色々と残念なのよねコイツ。
「あのさ……私ちょっと急いでるから、話なら後にしてくれる? あっ、そういえばお母さんが呼んでたわよ?『アイツ生理的に受け付けへんから説教したるわ』って」
「肉親からのメッセージとは思えない!! し、しかしママ上のお呼び出しとあらば、直ちに出向く他あるまい! 礼を言うぞセクリナータ! ヌゥゥハッハッハッハッハ!!」
バカ兄貴はグリュングリュンと高速回転しながら去っていった。
余計な時間を使っちゃったけど、アイツがお母さんを足止めしてくれるなら助かるわ。
こうして私は秘密の裏口を使い、コッソリと城を脱出した。
帰ったら絶対お母さんに怒られると思うけど、まあ慣れっこだからいいか。
賑やかな城下町をひたすらに駆け抜ける。
道行く人はこちらに頭を下げてきたり挨拶をしてきたり、様々なアクションをとってくる。
でも、悪いけど構っている暇はない。
早く行かないと!
「ぬおおお皆の衆! あそこで可憐なる全力疾走を繰り広げているのは、我等がセクリたんではござらぬか!?」
「なななな、なんですと!? ふおおおおお!! マジなり!! よもや我輩たちが見紛うハズもあるまい!! あちらにおわすのは間違いなくセクリたんである!!」
げっ、また面倒な奴等に見付かった……!!
なんでレッカちゃんが活動してないのにいっつも同じところに集まってるのよこのオタクーズは!? 集団キモキモ地縛霊なの!?
こいつらにはイヤな思い出しかないわ……逃げましょう。
「ちょっと待ってよセクリたあああん!!」
「ひっ…………ひいい…………!!」
オタクーズが闘牛のように鼻息を荒くして私を追いかけてくる。
こわいこわいこわい!! 捕まったらどうなるか分からないわよあんなの!!
「どうして逃げるんだセクリた…………ふおおおおおおおお!! 拙者はとんでもないことに気付いてしまったぞ皆の衆!!
「い、いかがなされたリーダー!?」
「なんとなんと…………拙者たちがこうしてセクリたんの後ろを走っている限り、セクリたんの残り香を永遠に堪能できるのだ!!」
「ぬぶふぉおおおおおおおんぬ!! マジなり!! ならばいざ、くんかくんかフィーバータイム突入!! 滾れ、ボクの嗅覚!!」
「我輩の鼻腔に幸あれ!!」
いやああああキモいキモいキモいキモい!!!
表現の一つ一つが犯罪のスメルを帯びてるのよコイツら!!
逃げても逃げなくてもキモいとか詰みじゃない!! 吐き気チェックメイトよこんなの!!
「だ、誰か助け…………あうっ!!」
ハイヒールが脱げ、盛大にこけてしまう。
ていうか何で私はこれから戦いに行くっていうのにいつもの赤ハイヒールを履いてきたんだろう。
そして何故オタクーズはハイヒールを履いた女にすぐに追い付けないんだろう。
とにもかくにも絶体絶命よ……このまま捕縛された私はあのケダモノたちにあんなことやこんなことを…………!!
ああ……勝手にお城を抜け出したからバチが当たったのね。大人しくお留守番しとけば良かった。
その時。
ふいに何者かに手首を掴まれ、路地裏まで連れていかれる。
「くんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか芳香なりくんかくんかくんかくんかくんかくんか」
オタクーズは私のすぐ横をそのまま走り去っていった。なんで私のニオイ辿ってるのに見失うの?
あとなんか私の目の前通ったときだけセリフが違ったんだけど。ドップラー効果?
…………あれ? なんかこれ、どっかで聞いたことある流れ……。
「やれやれ、まさかワタシがメリカちゃんと全く同じパターンで人助けをするなんて…………血は争えませんね」
しっとりとした女性の声。聞き覚えがある。
「血は争えないということは、そのうちメリカちゃんもワタシと同じサイズのパイオツになるのでしょうか…………うへへへへ、楽しみですね…………ジュルリ…………」
いくら人気のない路地裏とはいえ、外でこんなことを恥じらいもなく言える人なんて、一人しか思い当たらない。
私に魔法を教えてくれた恩師である、赤髪の超絶変態美女。
「ヒュ…………ヒューサ先生!!」
今日、まともな人に会ってないわ。
イラスト 寝る子様




