第38話 男扱いされたら激しく揉める仲の良い仲良し
「くかぁ……くかぁ……………」
「おいおい、つまんねえ冗談だと思ってたらマジで寝てんぞコイツ」
「幸せそうな寝顔しやがって……この森にも普通に魔物は出るってのに、よく無事でいられましたね」
爆睡状態のメリカを見て、俺とクムンはガクンと肩を落とす。
「ていうかヨシハルも大丈夫なんですか? ウチが言うのも何ですけど、結構ド派手に弓矢ブッ刺さってましたよね?」
「正直言って死ぬほど痛ぇけど……致命傷じゃなさそうだし大丈夫だろ。さっきお前から傷薬ももらったし。いやはや、急所をぜんぶ避けるだなんて、俺の体捌きもまだまだ捨てたもんじゃねえな」
「ウチがわざと外してあげたんですよ……そうじゃなきゃヨシハルみたいなおバカさんにウチが負けたりしません」
「んぁ? 何だお前、負け惜しみかい? 言っとくが、今さらどう言いわけしようとも勝敗は覆らないのだ!! ヨシハルちゃまの勝ちぃぃぃぃ!! いよおおおおおおポンポンポンポン!!」
「んだとゴラァ!? テメエちょっと人が下手に出てりゃ調子こきやがって!! そっちがその気なら、今すぐに再戦してやってもいいんですよ!?」
俺の全力の煽りを受けて、音速で胸ぐらを掴み上げてくるクムン。
普段は冷静なのに、ちょっとでも腹立つことがあると一気にキレる。分かりやすい性格だ。
「やぁぁぁれるもんならやってみろや!! 弓矢のねえアーチャーなんてなあ、弓矢のねえアーチャーに等しいんだよ!!」
「ホントに等しいやつ言っただけ!! て、テメエほんと……新しい矢が揃ったら全部ケツに撃ち込んで穴だらけにして『蜂ノ巣 臀部』に改名させてやりますからね」
「うっわすげえイヤだその名前!! 病院の待合室とかで『蜂ノ巣さま、蜂ノ巣 臀部さま、診察室へお入りください』ってアナウンスされるんだろ!? 地獄じゃん!! 恥ずかしくて一生カゼ引けねえよ!」
「なに言ってんのかわかんねえし、もっと心配するポイントたくさんあると思うんですが……まあいいです。とりあえずこの子……メリカさんでしたっけ? 彼女を起こしましょう」
クムンが木にもたれかかって寝息を立てているメリカの肩を揺さぶる。
「お嬢さーん、起きてくださいなー?」
「むにゃむにゃ…………どこさわってんのさぁ…………おにーさんのケダモノォ…………くかぁ…………」
「俺じゃねえんだけど。なあクムン、心臓一個くらい潰してもコイツ死なねぇかな?」
「いや内容量が一個なので普通に天に召されます。気持ちは分かりますが落ち着いてください。しかしこれだけ揺さぶっても起きないとは……おーい、お嬢さーん?」
クムンが今度はメリカの腰をコチョコチョとくすぐってみせる。
「んっ…………んんっ…………ふゎぁっ…………」
「ほーう、なかなかいい声で鳴きやがるじゃないですか」
サドの目だ。ぜってえ楽しんでるコイツ。
んでメリカもメリカでここまでされてんだから早く起きろや。
「や…………やめてよぉ…………おにーさんの色情魔ぁ…………」
寝言で咄嗟に出てくるワードじゃねえだろ。
何でどうしても加害者を俺にしたいんだろう。
「むにゃむにゃ…………おにーさんの性欲値はアンカウンタブル……………はうあっ!!」
「お前だいぶ前から起きてただろ?」
「あ、バレた? えへへ……」
「語彙が寝てるヤツのそれじゃなかったからな」
目をカッと見開いて目覚めたメリカが、頭をポリポリ掻きながら舌をペロリと出してみせる。酸素アレルギーになればいいのに。
「おはよ、おにーさん! と…………クムンさん!? もしかして仲間に……!!」
「おうよ、頼もしい味方ができたぜ。これでハーピー狩りも楽勝ってもんだ」
「ホントに!? やったぁ!! じゃあ仲間になったことだし、仲の良い仲良しになろっか!!」
ヒューサさんはコイツに魔法よりも先に国語を教えてやってくれ。
「あたしのことはメリカって呼んで! あたしはクムンちゃんって呼ぶから!」
メリカは嬉しそうにタップダンスをしながらクムンに近寄る。そんなん出来るの?
しかし、今回ばかりはコイツのコミュニケーション能力の高さに助けられる。
クムンは極度の人見知りで人間不信だ。
メリカみてえに優しくてグイグイ来てくれる奴の方が打ち解けられるだろう。
「メ、メリカ…………ですか。ウチのことも……クムンでいいです、よ…………?」
「ほんと!? 確かに年も近そうだしね! よろしくね、クムン!」
ほれ、もう仲の良い仲良しになれちゃった。
あのクムンにこんなにも早く友だちが出来るたぁね。
一周目ではセクリやメノージャに懐くまで、あんなに時間が掛かったってのに。
「さて、そんじゃ友好も深められたところで、ハーピーの羽根を取りに行くかね」
「あっ、そうだった! それが目的だったね! ていうかおにーさん大丈夫なの? 全身が傷だらけですごく無様ッッ!!……………かわいそうだよ!」
「追突事故起こした後でブレーキ踏んでも遅ぇよハゲポテト」
「なにおう!! ハゲはまだしもポテトってどういうことさ!?」
「え、下の句で怒るの……?」
「おーいお二人さん、漫才するのはいいですが、日が暮れても知りませんよー」
クムンに促され、俺たちは再び草原へと戻った。
*******
「さてさて、ハーピーちゃんはどこかねぇ?」
久々に暖かい太陽の光をモロに受け、頭がぼーっとする。
ジメジメの森を抜け出し、草原の真ん中をひたすらに歩く。
「しかし、女王さんのシワ消しのために魔物退治だなんて、なんとも力の抜ける話ですね」
「しゃあないだろ? じゃなきゃセクリが仲間になんねえんだから。お前もメリカ以外に友だち増やしたいっしょ? ずっと独りだったんだし」
「大きなお世話です。ウチは別に、友だちなんてできても嬉しくなんか…………嬉しくなんか…………」
「あはは、クムン照れてる! かわいー!」
「ああもう!! テメエらいい加減にしねえと全身を────なっ!?」
クムンの言葉を遮るように、あたりに突風が吹き荒れる。全身をどうするつもりだったんだろう。
やっと来やがったか…………!!
「あっははぁ……男が二人と女が一人……どれもイキが良さそうで楽しみなの~!」
現れたのは、ふわふわとした水色の髪と白く美しい羽根が特徴の、人形のように可愛らしい少女。
クリクリッとした青色の瞳で遥か上空から俺たちを見下ろしている。
「おにーさん、まさかアレが……」
「そうだ、アイツが俺たちの次の獲物、ハーピーだ」
風魔法を自在に操る強敵。
できれば万全の状態で戦いたかったが仕方ない。
さっそく剣を引き抜くが、これだけの動きでも全身が痛む。
まともに戦えるだろうか……。
「…………ちょっと待ってください。いまアイツ『男が二人と女が一人』って言いませんでした?」
クムンが眉間をピクピクと動かしながら俺に確認を取る。
「酷いですよ、いくらメリカが幼児体型だからって性別を間違えるなんて……許せません」
「はあああ!? ゾンビドリアンに『クサいぞお前』って言われるぐらい屈辱的だわその言葉!! どう考えてもクムンの方が無凹凸じゃん!!」
「確かにウチは体つきは貧相ですが、その分しっかりとした色気がありますから。メリカみたいにロリロリしくないんですよ」
「ぎゃひひひひひへへへへ!! 色気ですって!! クムンだったら雌ネジの方がまだ色っぽいわ!!」
なにこの原始人も冷笑するような低レベルな争い。
さっきまであんなにいいムードだったのに亀裂できるの早くないですか?
ハーピーさん完全に置いてけぼりじゃねえか可哀想に。
「…………わたしはそっちの銀髪の子が男だと思ってたなの~」
「ッシャオラアアアアアア!!!」
「クソボケエエエエエエエ!!!」
ハーピーの一言で正反対のリアクションを取るメリカとクムン。ホントに何してるのこの貧乳達?
「お前らケンカすんな!! 相手は一人でこっちは三人だ! 協力して倒すぞ! 安心しろ、クムンの弓攻撃さえありゃこんな戦い、赤子の手をひねるようなもんだ!」
「あの……ずっと言いたかったことがあるんですが、いいです?」
クムンが俺の顔をチラ見しながらゆっくりと挙手をした。
「んぁ、なんだクムン? まさか俺に負けて自信がなくなったのか? だーいじょうぶだって、お前の弓捌きは本物だ! 他でもないこのヨシハルちゃんが保証す」
「いや自信もなにも、さっき木から落ちたときに矢がぜんぶ折れちまったんで、ウチは戦えないんですが」
きゃはっ、辞世の句詠んじゃお♪




