第33話 木を蹴ったら落ちてくる無気力アーチャー
スライムがいなくなったことで、体が自由を取り戻す。
「ひ、酷い目にあった…………いや、なんかこう……ツッコミ所が盛りだくさんな一戦だったけど、助かったからいいや」
白星のもぎ取り方はどうあれ、今回ばかりはメリカに助けられた。
素直に礼を言っておかないと。
「サンキューな、メリカ。いい戦いっぷりだった」
「えへへ……おにーさんに褒められちゃったぁ! でもね? あたしの本来の魔法は、あんなにショボくないんだよ?」
「どういうことだい?」
俺の優しい問い掛けに、メリカは恥ずかしそうに両手の人差し指をクリクリと擦り合わせている。恥ずかしい時にそれやるやつホントにいるんだ。
「そ、それが……母さんのおかげで魔法を習得できたのが嬉しすぎて…………おにーさんがお城から帰ってくる前にずっと炎魔法を乱発して遊んでたの……それで…………」
「魔力をカラッカラまで使い果たしちまって、あんなマッチ売りの少女みてぇな儚げな火力しか出せなかったってか……」
コイツらしい、知性を欠片ほども感じられない見切り発車だこと。
自分でも予想外のチョロチョロファイアが出て内心すっげえ焦ったが、スライムくんが全力で煽ってくるもんだから苛立ちが勝っちまって、ヤケクソで根性焼き攻撃に移行したんだね。
色んな意味で危なっかしい性格しとる。
「言っとくが、さっきのが通じるのはスライムぐれぇだ。こっから先のモンスターはそう簡単にはいかねえよ。お前の魔力が回復するまで休んでいくか?」
「ううん、大丈夫! 次はおにーさんが倒してくれるから! なんたって、あたしに初勝利を飾られて、内心めっちゃ悔しがってるだろうからね! えへへっ!」
心臓からグサッと図星の音がする。
「こ、こんにゃろお……はいはい、分かりました分かりました。魔力枯渇したお嬢様を精一杯お守りしてみせますよぉっと」
勇者になった以上、これ以上の醜態は許されねえ。
早いこと見せ場を作らねえと。
とは、言ったものの。
次のハーピーはなかなかの強者だ。
戦闘力的には大したことがないのだが、厄介なのは空中飛行。
天使のように美しく白い羽根で縦横無尽に飛び回りながら、風魔法を自在に操って敵を切り裂いたり吹き飛ばしたり……というのがヤツの得意とする戦法。
近接攻撃しか出来ねえ俺の剣じゃ不利極まりねえ。
「ちょっとさ……俺は最後のアルラウネ戦でカッコよく決めるから、次のハーピー戦では『助っ人』使っちゃっていい?」
「助っ人? そんな人がいるの?」
「見付かるかどうかは分からねえが、ソイツがいるのといないのとでは戦局が大きく変わってくるんだ」
昔から、宙を舞う敵の最大の弱点ってのは決まってる。
弓だ。
ドラゴンやペガサス、そしてハーピー。
翼を持つソイツらにとって弓使い……アーチャーの存在は脅威であり、奴らを倒すにはそれを利用しない手はねえ。
ヒノ様から『ハーピー』という単語を聞いたとき、俺の頭に真っ先に思い浮かんだのは『アイツ』の顔だった。
その見た目と性格からは想像できない、百発百中の凄腕アーチャーであるアイツなら。
セクリと同じ、かつての俺の大事な仲間だったアイツなら、最強のカードになってくれるはずだ。
「メリカ、森に行くぞ」
「ふぇ? どうして? ハーピーって草原に出るんじゃ……」
「いいからいいから。頼もしい助っ人、お前も欲しいだろ? 俺みたいなヘナチョコ雑魚くんだけじゃ不安だろ?」
「おにーさん勇者なんだよね? まあいいや……えっと、森はあっちだね」
広大な草原の中を二人でひたすらに進む。
「ていうかおにーさん、顔ボッコボコだけど大丈夫? 母さんに持たされたキズグスリあるけど使う?」
「心配いらねえよ。元とあんまり変わんねえだろ…………って誰がオフィシャルでグチャグチャ顔だチビごらあっ!!」
「わあああ出たよおにーさんの不可思議な沸点!! 善意で言ったのに何でこんなに傷付いてるのあたし!!」
そんな他愛もないやり取りをしているうちに、森へ到着。
真っ昼間だってのにやけに暗い。
頭上では俺らの何倍もある巨大な木々の葉が複雑に絡み合い、日の光を完全に遮断している。
「足元、気ぃ付けろよ」
「う、うん…………」
道らしい道が出来てはいるが、ロクに整備もされておらず、太い木の枝や岩が散乱している。
メリカがお化け屋敷の彼女みたいに俺の裾を掴みながら、必死についてくる。
その顔には少なからず怯えの色が。
「メリカちゃんも普通の女の子っぽいリアクションできるんだね(爆笑)」
「ううう、うるさいなぁバカ!! それで!? バカは何でこんな所に連れてきたの、バカ!?」
「バカバカ言わないでくれ涙が出来上がっちまうから。な、なんつーか……アイツはこういう、暗くて静かな場所を好むんだよ。そろそろ聞こえてくるかな……」
「聞こえてくるって、何が……………ん?」
メリカが眉を寄せて耳を澄ませる。
「…………ォォォォォ………………ォォォ……………」
遠くから僅かに聞こえた唸り声らしき音に、メリカの背筋がピーンと張る。
「おおお、おにーさん!! なんか変な声がする!!」
メリカが涙を滲ませて俺にしがみついてくる。
スライムに根性焼きしてたのと同じ生物かこれ?
「グオオオオオオオオオ…………グオオオオオオオオ…………」
「よし、この木の上か…………」
声のする真下へ。
葉っぱのせいでよく見えないが、アイツはこの上にいるに違いない。
「よしメリカ、思いっきり蹴ってみろ」
「うえええ!? そ、そんな酷いことできないよ! 植物にだって命があるんだよ!?」
「まあまあ、この木を俺だと思」
「でえええええええりゃあああああああ!!!!」
俺にだって命あるんだが?
メリカ氏による高速回転からの強烈なキックで大木にヒビが入る。今日は徹夜で泣こうと思います。
ガサガサと大きな音がしたかと思えば、上から人型の物体が落ちてくる。
「ぐえええええっ!!」
メリカの蹴りにより落下してきた一人の小柄な少女は、カエルが潰れたかのような声を出して背中から不時着した。
死んでないよね?
そこら辺にある木の枝を使ってツンツンしてみせると、華奢な体がピクリと震えた。
「な、何しやがんですかテメエら…………人のハッピーおひるねタイムを…………」
よかった、生きてた。
銀色のベリーショートヘアーは一本一本が別々の方向に伸びた、統率もへったくれもない酷い癖毛で、ロクに手入れがされていないのが一目で分かる。
だらしなく半分だけ開かれた赤眼はこれでもかと濁っており、持ち主のやる気の無さがありありと伝わってくる。
深緑色と焦げ茶色というジミ~な配色の薄めの上着は糸が解れまくっている上にダランとはだけている。
そのせいで中に着ているタンクトップ状の真っ黒な袖無し下着が思い切り見えてしまっており、触ればポキリと折れてしまいそうな細く凹凸のないボディラインがくっきり強調される。
相変わらずファッションやら美容やらに呆れるほど無頓着な女だこと。
ロクに飯も食わねえで寝てばっかりだから、背もメリカより小さいし、体もぜんぜん育たんのよ。
茶色いズボンの腰部分には矢のストックが何本か収納されている。
そのうちの一本を引き抜き、背中に担いでいた銀色の弓にセットすると、ソイツは素早く体を起こして数歩後退し、俺の額に矢の先端を向けた。
流れるような一連の動きに思わず目を奪われ、反応が遅れる。
「まいったな……わざわざこんな人気のない森まで来たってこたぁ、ほぼ確実にウチに会いに来やがったお客様っつーことじゃないですか。はあ、めんどくせえ…………」
片目を閉じ、しっかりと俺に狙いを定めてくる銀髪少女。
殺気は全くと言っていいほど感じられない。
しかし、コイツの実力を知っているだけに、凄まじい焦りと恐怖が全身を駆け巡る。
「手荒なマネはしたくないんで、お名前とここに来た理由、とっとと言ってもらえます? 返答によっちゃあ、アンタがたの体が穴だらけになるかもしれませんが」
俺はメリカの脇腹をツンとつついたあとで静かに両手を挙げた。
俺の意図に気付いたメリカも、続けて無抵抗の意思を示す。
俺たちの様子を見て、少女が怪訝そうな顔で弓矢を少しだけ下ろす。
「よく聞いてくれ。俺たちはあんたに仲間になってもらいに来たんだ。俺たちと一緒に来てくれねぇか…………クムン=ハレープ」




