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第28話 女の子がナンパされていたら迷わず助ける漢気ヨシチャン


 この地獄みてえな状況で唯一、蜘蛛の糸が垂れ下がっているとしたなら、それは俺以外の全員に記憶がないという神がかった優位性だ。


 バカ正直にありのままを伝える必要はない。


 あの場に俺の一周目について知る者が他にいない以上、いくらでも脚色できるってことだ。


 そう考えると気持ちがフワッと楽になる。


 この圧倒的に有利なシチュエーションを利用しない手はねえ。


 セクリとヒノ様に話せないストーリーを、話せるストーリーに生まれ変わらせる。


 問題は、俺にそれだけのシナリオ構成力とアドリブ能力があるか……だが。


 立ち止まってる暇はない。



「ここが正念場だ……いくぜ!!」



 踵を返してUターン。


 レッドカーペットを一歩、また一歩と踏みしめて玉座の間へ到着。


 生唾をノドの奥に追いやり、勢いよく入室する。


「なんや、小便にしてはえらい遅かったやないの」


「すんません、昨日お水をたくさん飲んだんで……500キロリットルぐらい出ました」


「なんやそのトンデモ尿量…………腎臓のキャパどないなっとんねんアンタ」


 ヒノ様は溜め息混じりに突っ込んでくれた後で、ググイと俺に距離を詰めてくる。


「さて…………もう時間稼ぎは使えへんで? アンタが勇者になった理由、しっかり聞かせてもらおうやないか」


「その前に一つ、謝らなければならないことがあります」


 真っ直ぐな姿勢から放たれた俺の言葉に顔をしかめるヒノ様。


「何やいな、言うてみい」



「実は…………さっきまでの話は全てウソなんです!! すんませんした!!」



「はあ? 何でそんなウソついたんよ?」


「場を和ませるためのヨシハリアンジョークでございまさぁ!! てへへへへっ!!」


「和むどころか殺されかけてたじゃないあんた……」


 頭を全力で下げてからの俺のネタばらしにがっくりと肩を落とすシルベラ親子。


 多少強引だが、チャンスは得られた。


 ありもしないエピソードを、1から作り上げてお話しできるチャンスが。


 ヒノ様、それにセクリちゃんよ。



 俺のアドリブ武勇伝に酔いしれるがいいわ!!



「まあええわ……ほな、改めてホンマの話をしてもらおうやないの」


「いいでしょう……鼻の穴かっぽじってよく聞いてください」


「何でも突っ込んでもらえると思わんときやアンタ」






*******






 俺、サカギリ ヨシハルは、この世界に急に飛ばされてきた。


 そして何をしたらいいのか全く分からないまま、このダガーヒに到着した。


 さすがシルベラ国の首都なだけあって、素晴らしい町だ。


 活気はあるしお店も多い。食い物だってめちゃくちゃ美味しい。


 そして何より国民がいい人だらけだ。


 右も左も分からずに泣き崩れていた俺に歩み寄り、優しく声を掛けてくれた。


 道案内もしてもらったし、中には食料を恵んでくれる人さえいた。


 気が付くと、さっきまで号泣してた俺は別の涙……………嬉し涙を流していたんだ。


 胸を撫で下ろして思った。



 最初に俺を迎えてくれた町がここで良かった、と。





*******






「なんか寒気するほどわざとらしいんだけど……本当にそう思ってんのあんた?」


「もっちろん! ここはサイコーの場所だぜ! 太鼓判をぶっ壊れるまで押し続けてやりたいくらいにな!」


 青ざめた顔で問い質してくるセクリに、百点満点の笑顔で答える。



 もちろん、いい町だなんて毛程も思ってませんよ?



 たりめえだろ。


 どいつもこいつも泣いてる俺に廃棄物を見るような視線向けてくるわ、食い逃げしただけで包丁ブン回して殺そうとしてくるわ……。


 応援してくれるファンへの罵倒を葉巻スパスパしながら垂れ流し続けるアイドルちゃんだっているんだぜ?


 どこがいい人だらけなんだよクソ食らえや。


 だがセクリとヒノ様の好感度を上げるためには、もうベッッッチョベチョに媚びまくるしかねえ。


 二人はこの国の王妃と王女。


 自分達が治める国のことを褒められたら嬉しいに決まってる。


「ま、まあ……それがホンマの感想なんやったら、悪い気はせえへんけど…………」


 よし、難攻不落のヒノ城がミシミシと音を立て始めている。


 ハッタリだろうが何だろうが、こういうのは相手の心をコントロールする権利を握った方が勝者なのさ。


 このまま完全攻略させてもらうぜ!!






*******






 確かにシルベラ国の人々は素晴らしい。


 だが、そこは人口ウン百万を抱える大都市。


 残念ながら、良い人ばかりじゃないんだ。


 十人十色の人々が行き交う中で特に俺の目を引いたのは、緑色のモヒカンヘアーの男性。


 ツギハギだらけのいかつい顔で、何やらニヤニヤと笑っている。


 男の視線の先にいたのは……壁際に追い詰められ、困ったように周りをキョロキョロと見渡すセクリだった。


 一目で分かった。これは……!


『のお嬢ちゃん? 少しぐらいならええやんけ? 自分めちゃくちゃオレのタイプやねん! 一緒に遊ぼうや!』


『い、いやだって言ってるでしょ! しつこいわね……あんたみたいな男が一番キライなのよ!』


『そない冷たくすんなや!! 強気に振る舞っとるけど、足が震えとんのバレバレやぞ? へっへっへ……』


 間違いねえ、ナンパだ!!


 ここまでベタベタな口説きを見るのは初めてで、思わずカメラに収めたくなった。


 だが、そんなことしてる場合じゃねえ。


 セクリの細腕がガッと掴まれる。


『ええから少しくらい付き合え言うとんじゃボケ!! さっきから生意気な態度ばっかり取りくさりよって……ええ加減にせえよ!!』


『い、いや…………助けて…………!』


 涙目のセクリが視界に入ったとき、俺は考えるより先に走り出していた。


 モヒカン男の意識は完全にセクリに向いている。



『どおおおおりゃああああ!!!』



 俺は素早く奴に近付き、渾身の右ストレートを鼻っ柱にぶち込んだ。


『ぐはあああああ!!』


 数メートルぶっ飛んだモヒカン男の腹を踏みつけ、俺は言ってやったのさ。



『女を泣かせる奴たぁ、見下げ果てたクズ野郎だな…………とっとと消え失せろ!!』



『ぴゃ、ぴゃああああああ!! 命だけはお助けええええ!!!』


 男は緑のモヒカンをブルンブルンと弾ませ、尻尾を巻いて逃げていった。



『ぴえええええ!! 怖かったあああ!! セエエエクセクセクセク!! セエエエエエエエエクセクセクセクセク!!』



 緊張が解け、地面に座り込んでセクセク泣きじゃくるセクリの美しい涙を拭ってやる。


『もう大丈夫だ。これからは気を付けろよ…………じゃあな』


『まっ……待って!!』


 颯爽と立ち去ろうとしたが呼び止められる。


 振り返ると、夕陽を差したような紅い顔を俺に向けたセクリが、何やらモジモジとしながら立ち尽くしていた。


『あ、あの……助けてくれたお礼に、ウチでご飯…………ご馳走させてくれないかしら……?』





*******






「…………とまあ、そこからお城に連れてこられた俺は、バッシャル王とヒノ様にその度胸を買われ、晴れて勇者になったというわけでございま」



「「んなワケあるかアホスケがあああああああ!!!」」



「バルルルルルルンヌッッッッッ!!!!」



 親子の息ピッタリな鉄拳制裁が俺の顔面にクリティカルヒット。電動式ニンジンを食べた馬みたいな声が出てしまう。電動式ニンジンとは?


「さんざん時間かけといてそのクオリティかい!! アンタみたいなヘタレがそないなこと出来るわけないやろ!!」


「だぁれが『セエエエエエクセクセクセクセク!!』なんて虫みたいな泣き方するのかしら? 黙って聞いてりゃ随分とコケにしてくれるじゃない……マジで命いらないみたいねあんた」


 作戦失敗。


 二人とも顔を真っ赤にして青筋がギュルンギュルンに立ってる。千年の眠りから目覚めた梅干しみたいになってる。


「三秒以内にここから立ち去らな殺す。立ち去っても殺す」


 わ、わざわざ二文に分けた意味……!!


「ぴゃ、ぴゃああああああ!! 命だけはお助けええええ!!!」


 万事休すだ。


 あまりの恐怖に、偶然にも回想の緑モヒカンと全く同じ命乞いをしてしまった。


 もはや俺にこの状況を打開する選択肢は残されていない。


 そもそもこんな急ごしらえのウソ話、信じるヤツなんざいるわけねえ。


 こうなりゃ一人で魔王を倒しに…………。



「感動したヨー!!」



 階段の上……玉座の方から、シワ枯れた声が聞こえた。



「ナンパ野郎をぶっ飛ばして娘を助けるたぁ…………サイコーにクールじゃネェか、ヨシチャン!!」



 し、信じる人いたーーーーーー。



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