第27話 娘が力加減を間違えていたら優しく手解きするサディスティック拷問官
「あ、あ、あんたねええええ…………!!」
セクリは怒りで顔を真っ赤っかにして俺の首を絞めてくる。死ぬね。
「お、おちちゅけセクリちゃん…………くびはヤヴァいってええええ…………!!」
「うっさい! 食欲を満たしたいがためだけに私に近寄るなんて……見損なったわよ!! ていうかあんた、一周目にもあのターンとかウインクとかやってたの!? どういう勝算があってそこまで多用するのよ!?」
「ほ、ほげええええええ…………このままじゃヨシハルくん逝去しちゃうのおおおおお……………!!」
「ちょいとやめときセクリナータ! 力を込めすぎや!」
まさかの人物が止めに入ってくれた。
ヒノ様がセクリの右手を掴んだことで少しだけ俺の首を絞め上げる力が弱まり、旅立ちかけた意識が戻っていく。
「こないなゲスをすぐに地獄送りにしたらアカン! ギリギリ死なへん強さで長く苦しめたらんと!」
おいごらああああああっ!!
人の尊い頸動脈を使って拷問チュートリアル開講してんじゃねえぞ!!
ヒノ様とセクリのダブルハンドが絶妙な力加減で俺を苦しめてくる。
中途半端に肺に空気が入れられているため気を失うこともできず、地獄のような時間が流れ続ける。
「解放して欲しいんやったら、今からうちが出す問題に回答しぃ……出題は今から三時間後や」
「ルールブックが無慈悲!! 解放する気ねえだろあんた!! くそっ…………どっせえええええええい!!!」
最後の力を振り絞って後方に小ジャンプし、ドS親子の拘束から逃れる。
まともに回想もさせてもらえねえ。
ちょっとでも彼女たちの怒りを買う話をしたらすぐさま回し蹴りと首絞めが発動される超ハードモードだ。
こうなったら……。
「あの、ちょっとトイレに行ってもいいですか?」
「はあ? なんやの急に……逃げようったってそうはいかへんよ!」
「違います違います! ちゃんと帰ってきますから! それとも……この玉座を膀胱の涙でいっぱいにしてもいいんですか?」
「膀胱の涙て何やねん!! 普通に小便って言えや腹立つな!! ああもうわかったわ……早よ帰ってきいよ!」
なんとか玉座からの脱出に成功し、一人で長い廊下を歩く。
ピンチだ。このままじゃ勇者になれないかもしれん。
あの人たちに話していい内容なのか、話せる内容なのか、話すべき内容なのか……しっかりチェックしねえと。
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『なんかお前裕福そうでチョロそうだから俺にメシ奢れや』
俺のその言葉を聞いたセクリから笑顔という笑顔が一瞬にして消え失せたのを今でも覚えている。
猜疑心と嫌悪感をまぜまぜしたような絶対零度の視線もセットで、俺の頭に焼き付いている。
『だ、誰よあんた……いきなり何を言い出すの……?』
さすがに直球すぎた己の物言いを後悔した俺は、慌てて軌道修正を図る。
『い、いやあ……ゴメンゴメン! 今のは冗談だ! お兄さん実はキミのパパのお友達なんだよ! パパに会わせてくれないかい?』
『友達? にしてはずいぶんと年が離れているような……』
『は、ははははは!! 分かってないねマドモアゼル! 友達になるのに年の差なんて関係ないのだよ!! いいから急いでパパの所に連れていってくれよ! なはははは……!!』
ジト目で俺を見つめてくるセクリに、空笑いを量産しながら詰め寄る。
完全に幼女を誘拐するときの手口だが、空腹状態から脱出するためには手段は選んでられない。
『わ、分かったわよ……じゃあ、早くお城に行きましょ』
『ぽよ? お城?』
『え? あんたお父さんの友達なのに知らないの? 私の家…………アレよ』
町の中央にある巨大なお城が指差されたとき、膀胱が号泣しそうになった。
そりゃ確かに高貴そうな人物をターゲットにしたさ。
でも高貴が過ぎるんだわ。
声掛けた相手がたまたま国の頂点ファミリーの一人だったなんて予想できまいて。
『あ、あの……お兄さんちょっと頭痛がヘッドエイクだから帰りたいんだけど……』
まっっったく話を聞いてもらえぬまま玉座に到着。
バッシャル王とヒノ様に強制謁見させられたってわけだ。
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「ふいいい…………と、とりあえずここまではセーフだな……」
ある程度まで回想を終えて一休み。
現状では怒られるような内容じゃない。ただ城に連れてこられただけだから。
問題はこの次のチャプターだ。
セクリ一家のキャラの濃さに驚いたくだりは省略するとして、肝心の俺が勇者になったパートを振り返ってみよう。
ここさえビシッと決まってればイケるんだ…………頼むっ!!
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『ユー、勇者になってみる気はないカイ?』
『えっ、なんかカッコいいかも…………やります』
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浅っっっっっっっっさ!!!
そうだった。勇者に任命する側もされる側も、完全にその場のノリで喋って決まったんだった。
昔から異世界系のマンガとかアニメとかゲームとかにたっくさん触れてきたから、勇者とか冒険とかに並々ならぬ憧れがあったんだ。
空腹で正常な判断ができなくなっていたのもあって、勢い任せに立候補しちまったんだなこれが。
にしても、まさかこんなにも薄っぺらい動機だったとは。
豆なしコーヒーのような深みもへったくれもない内容に言葉を失う。
だいたいバッシャル王もバッシャル王で酷いだろ!
事情も聞かずに『セクリナータが連れてきた男なら間違いネェ』とか言ってたけど!
素性を一切明かしてない腹ペコジャージモヤシを勇者に勧誘すんなよ!! ノリだけで生きすぎだろバカチェケラ!!
いや、結局は俺がそれに乗っかっちまったせいなんだけども。
セクリもヒノ様も当然ながら猛反対してたけど、俺が駄々をこねて力業で勇者になったんだっけ。
世界の平和とか、どうでも良かったんだ。
ただ、カッコいいからだったんだ。
あとみんなにチヤホヤされたかったんだ。
や、やべえええええええええ。
こげなエピソードをあの二人に話した日にゃあ、間違いなく三途の川の向こう岸まで巴投げされちまう。
だが俺は魔王をぶっ倒すためにも絶対に勇者にならなきゃいけない。
かくなる上は………。
オリジナルストーリーを作って誤魔化すしかねえ!!




