第26話 条件を満たしていたらすかさず声を掛ける腹ペコ青年
「楽しそうに話しよるとこ悪いけど、本題に入ろか」
強引に話の主導権を握るヒノ様の姿がセクリのそれと重なる。
「昨日の夜にセクリナータから話は聞いとるよ。アンタは是が非でも勇者になって魔王を倒したい…………せやろ?」
「はい! 呪いを解くためってのもありますけど、ムカつく魔王を今度こそぶん殴ってやりたいんすよ!」
「あのボケ旦那との話、うちもこっそり聞いとったんやけどなぁ……ふざけた口調でそうは聞こえんかもしれへんけど、アイツの言うてることは何にも間違うてないわ」
ヒノ様は壇上で寝そべっているクレーターパリピじじいに数秒ほど目をやってから、俺に向き直る。
「間違ってないって、どういう意味っすか!?」
「アンタを勇者にせなアカンという必然性がウチには感じられへんっちゅうことや。今の動機を聞いても、呪いを解きたいやとか腹立つから殴りたいやとか……ぜんぶ自分の都合やないの」
「なっ……そ、それは…………!」
完全にヒノ様が優位に立っている。ぐぅの音も出ねえ正論に打ちのめされてしまった。
「そもそも、アンタは『一周目』とやらで、どないして勇者になったんや? まずはソレをうちにしっかりと話してみぃ」
「私も興味あるわ。あんたがどうやって私と知り合ったのか、聞かせてよ」
美人親子に詰め寄られて逃げ場を失う。
あまり一周目のことは振り返りたくないんだが……仕方ねえやな。
「分かりました。お話しします」
深呼吸を数回行った後、俺はなるべく深く細かく記憶を辿りながら口を開いた。
********
『いっててて…………あの女、人様の美顔に思いっきりケリ入れやがって…………』
気が付くと異世界に飛ばされていた【一周目】の俺は、闇雲に歩きまくってこのダガーヒに到着した。
そこでビナさんの食堂に立ち寄り、二周目と違って自身が無一文であることを正直に打ち明けた結果、強烈な門前払いを食らった。
『何でいきなりこんなとこ飛ばされたのかも分からねえし、腹は減ったし、変なオタクどもがウジャウジャしてるし…………もう頭がおかしくなりそうだ!! 誰か助けてくれぇっ!!』
泣けど叫べど道行く人は手を差し伸べてくれない。
無理もない。号泣する不審な青ジャージに声を掛けたり、まして助けてあげようだなんて殊勝な神経の持ち主、メリカ以外に早々いないだろう。
とりあえず腹を満たさんことには何も始まらない。
だがこんな金欠異分子がどこに行ったってビナさんのように手痛い追放を受けるに決まってる。
そこで聡明なヨシハルくんは考えた。
『よし、金持ってそうで、できるだけチョロ…………優しそうな奴を見付けて同情を引き、飯を恵んでもらおう! 俺ってばあったまいい!!』
********
「……ちょっとストップ」
セクリが俺の目の前で両手をブンブンと振り、語りの中断を促す。
「どしたんだよセクリ? こっからがいいところなのに」
セクリは俺の胸ぐらを豪快に掴み上げ、宙ぶらりん状態にする。
「え、何これ……? 愛のないたかいたかい……?」
「あ、あんたまさか、そんな浅はかな理由で一周目の私に声掛けたんじゃないでしょうね…………!?」
「ハッハハーンヌ! なーにをおバカちんなこと言ってるデースかセークリちゅわーん? ミーがそんな極悪非道のカス野郎みたいなこと、するわけないデースよ?」
「そ、そう? ならいいんだけど……ごめん、早とちりしたわ」
「いや今ので納得したんかいなセクリナータ……」
セクリがやや焦った様子で俺を解放する。
両足の着陸を確認した俺は、かすかに聞こえたヒノ様のツッコミをガン無視し、ジャージのエリを整えてから再び回想モードに入る。
********
『とは言ったものの、誰が金待ってて誰が優しそうかなんて一目じゃ分かんねえわ……どうしよう…………?』
早速行き詰まった俺は、とりあえずゴージャスな格好をしていて口角が上がっている人物を手当たり次第に探すことにした。
食堂に来る途中で最も人通りが多かったのは、レッカのステージ付近だ。
オタクが大半だったが、普通の見物客も結構いたはず…………と記憶を便りに、俺は駆け足で特設ステージへと向かった。
何百といる人の群れの中を必死に泳いで、条件に見合った人物を瞳孔ガン開きで探した。
だがまぁ、そんな闇雲な方法で見付かるわけもなく、人酔いした俺は雑踏から一時撤退し、人気のないところまでフラフラと移動した。
『ふいい…………まったく、とんだアルティメットおしくらまんじゅうだぜ…………ん?』
そこで見付けたのが、城から抜け出してダンスを見に来ていたセクリだ。
もっとも、あんときの俺はセクリがレッカの大ファンなんて知らなかったから、遠くからただの暇潰し程度に眺めているだけかと思ったけどな。
純白のドレスに毅然とした立ち振舞い……何より周りの奴らとは一線を画したオーラが漂っていて、アホの俺でも一目で身分の高さが分かった。
更にそいつはレッカの方を見つめながら、なんとも優しく幸せそうな笑みを綺麗な顔に貼りつけていた。
運命を感じた。
まさかここまで俺のリクエストに合致したヤツが現れるたぁ、この瞬間だけは神の存在を信じたね。
俺は呼吸を整え、頭の中でセリフ練習を何度も行ったあと、壁に寄りかかり、赤ハイヒールの爪先でリズムを刻んでいる少女に近付いた。
そして華麗にワンターンをして髪をファサッとしてからウインクをおひとつ。
膝をついて彼女の手を取ると、とびきり甘い声でこう言ってやったのさ。
『なんかお前裕福そうでチョロそうだから俺にメシ奢れや』
********
「やっぱ食い物目的だったんじゃねえかあああああ!!!」
「ピポパポピッッッッ!!!」
セクリが荒々しい口調と共に俺の顔へ豪快な回し蹴りをかましたことで、ハンカチ必須の回想は強制終了した。
17年の人生で初めて顔面を蹴られた。
あ、ビナさんのも入れたら二度目か。
あ、心理カウンセラーさんのも入れたら三度目か。




