第25話 気になったら後先考えず検証する変人マザー
「ヒ、ヒノタリア…………ユー、何故こんな朝早くから起きて…………」
予想外のヒノ様の出現に先程までのハイテンションがすっかり消え失せてしまった、ボッコボコ顔面のバッシャル王。
「へぼんっ!!」
憤怒状態のヒノ様にグシャリと頭を踏み潰され、王は頓狂な声を出して気絶した。
いや音がヤバいって。完全に道に落ちてる柿踏んだときの効果音で寒気するんだけど。
「何故もクソもあるかいな。娘が男連れてくる言うてんねや……グースカ寝てられんやろ」
そして、ピクピクと痙攣しているバッシャル王に目もくれず、階段を一段一段降りてくるヒノ様。
セクリよりも更に大人びており、おしとやかさと荒々しさが共存した不思議な顔立ちを持つ絶世の美女。
彼女の体が近付くにつれて、色んな意味の緊張が押し寄せてくる。
ヒノ様は俺たちの前まで到着すると、床に倒れたバカ王子の頭をむんずと掴み上げた。
「いつまで伸びとんねんこのアホスケ!!」
「いだだだだだだ!! ボク様のビューティフルチャーミングヘアーが!! 痛いよママ様!!」
蘇生したバカ王子のビューティフォーチャーミングヘアーを鷲掴みにしながら、ヒノ様は次のターゲットを門番たちに定めた。
「アンタらには門番やっとけ言うたハズやけど……何でこんなトコまで来とん?」
「い、いや、門番は弟たちに任せましたニャン…………!!」
「あたちたちはこの男の見張りをしてましたピョン…………!!」
すげえ、あまりの怖さに二人ともまともに喋っちゃってる。
この状態をまともと言っていいのか分からんけども。
ヒノ様は屈強な門番ブラザーズの貧弱な萌えボイスを聞き、それぞれに五往復ずつ、目にも止まらぬビンタを食らわせた。
「見張りや言うてアンタら、さっきからムダに濃いキャラぶら下げて突っ立っとるだけやないか…………目障りや、去ね!!!」
「す、すんませんしたっ!!」
「す、すんませんしたっ!!」
門番ブラザーズは語尾を付けるのも忘れ、腰を抜かしながらお互いに寄り添うようにして逃げていった。
さすがネコとウサギ……人並み以上の野生のカンと生存本能は持ち合わせているらしい。
最後だけすっげえ野太い声だった。
今までの幼女音声がキャラだったのか、それとも命の危機に瀕したときだけ声がオッサンになるのか……彼らがいなくなった以上、それはもう永久の謎になってしまった。
やっぱすげえやヒノ様……胸焼けするほど濃い集団を瞬く間にまとめ上げちまった。
なんて感心したのも束の間、今度は俺がロックオンされる。
つり気味の青い瞳が心の奥の奥まで見つめてくるような気がして、恐怖に満たされた俺は機械的に膝を折って地に伏していた。
「くっ、靴舐めでも何でもするんで命だけは助けてくだせえ……」
恒例行事の土下座。
なんかヨシハルくん、出会った人ほぼ全員にこんなことやってるような気がする。命乞いが名刺みたいになってる。
なんとも情けない有り様だが、これでいい。
どんなに地べたを這いつくばって泥水を啜ろうと、結果的に生きてたヤツが勝ちよ。
「アンタがヨシハルくんか? またえらいヒヨっちいのが来よったなあ……」
ヒノ様は俺の肩を優しく叩く。
「添削できへんくらいキレイな土下座しよんねアンタ……ほら、そんなトコに頭ぁ付けとらんで、早よ立ちぃ」
予想の1000万倍くらい優しい声に愕然とする。
どうやら俺の股を裂いたり頭を捻り潰したりする意思はないようだ。
「は、はい! 優しいお言葉ありがとうございますヒノ様!!」
「ヒノ様? ははあ……それがアンタの『一周目』とやらのうちの呼び名かえ? セクリナータから聞いてた通り、ほんまに記憶持っとるんやね」
「は、はい! さすがヒノ様、話がお早くて助かります!!」
「様付けに加えてその腰のひっくいひっくい態度…………前のうちがアンタにどんな酷いことしたんやろか……」
この人には逆らっちゃいけない。
おバカなヨシハルくんでもそれは学習済みだ。
「一応、自己紹介しとくな? うちがセクリナータの母親のヒノタリア=シルベラ。そない縮こまらんと、好きに呼んだってよ」
「はい、ヒノ様!!」
「あの厚顔無恥なあんたがそこまで低姿勢になるなんて、一周目でお母さんに何されたのよ……?」
セクリのヒソヒソ質問に対し、俺は歯をガチガチさせながら答える。
「あの人の姿を見た瞬間から、俺の頭にこびりついて離れねえのよ…………修行の記憶がな」
「修行の記憶……?」
セクリが興味深そうに復唱してくる。
「な、なんかよく分からないけど……あんたヒューサ先生といい、お母さん系の人物に弱くない? 母親になんかトラウマでもあんの?」
「いや、別にそういうわけじゃねえよ? この町に怖い女性が多いだけで……」
「あんたのお母さんがどんな人だったのか気になるわ。まぁ、あんたの親なんだから、どうせまともな人じゃないんでしょうけど」
「なっ、なにおう!? 憶測で人の母親ディスってんじゃねぇぞ失敬な!! 俺のオフクロはなぁ!!」
俺のオフクロは…………
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『おいオフクロ! 俺のマンガを重石にしてカップラーメン作るのやめろよ!! てか同じやつ何十個作ってんだよ!? それに、全部違うマンガの第一巻を使いやがって……どういうつもりだ!!』
『いや、同じラーメンでも重石にするマンガの作風とか主人公の性格が違うと、麺や味も変わるのかなって思ってね? 武骨な格闘マンガならバリカタの濃い目で、主人公が弱気な草食系男子のマンガならフニャフニャ……とかになったら面白くない?』
『汚泥みたいな対照実験してる!! あんたが望むような結果には天地ひっくり返ってもならねえよ! だいたい、こんだけいっぺんに作ったら全部伸びちまってどれも草食系ラーメンになるだろうが!!』
『なるほどにゃあ……さすがヨシくん、頭いいわね! というわけで今日の夜ご飯はこれよ! 全て食べ終わるまで家には帰れないと思いなさい!』
『ここが既に家なのだが!! なにこの母!!』
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「…………悪い、まともな人じゃなかったわ」
「えっ…………あ、そう………」




