第13話 居場所を説明されたら容易に対策される高性能魔物
俺たちの町に魔王がやってきた。
俺たちの町に魔王がやってきた?
俺たちの町に魔王がやってきた!?
「このクソジジイがあああああああ!!!」
「痛っっっっっっ!!!」
何度も繰り返してようやく状況を理解した俺は、人通りの少ない山道に突如現れて大声でツッコミを放ったオッサンの顔面を、ありったけの力を込めてぶん殴った。
「うえええええええ!? ちょ、ちょっとおにーさん!! いきなり何やってんの!? 誰なのそのおじさん!?」
「ん、ああコイツ? 魔王だけど」
「いやそんな『いま付き合ってる彼女だけど』みたいな感じで紹介されても…………って魔王!? え、どういうこと!? えぇっ!?」
メリカが目をぐるぐる巻きにして混乱している。
俺も反射的に殴っちまったが、すげえ驚いてるし動揺してる。
まさかコイツが自分から俺のところに現れるなんて……!
「いたたたた………何をするんだ貴様!!」
「何をするんだじゃねえだろバカオヤジがよおおおおっ!!!」
「魔王っっっっっっ!!!」
今度は思いっきり助走をつけ、魔王の腹に飛び蹴りを食らわせる。
「ちょっ……おにーさん落ち着いて! 解説が欲しい!!」
メリカが闘牛のように暴走し続ける俺を、羽交い締めにして必死に制する。
「魔王って……じゃあこの人がおにーさんに呪いをかけて、スタート地点まで時間を戻した張本人!?」
「そういうことだ……コイツのせいで俺はこんなに面倒くせえことしてるってのに、よくのこのことツラ出せたもんだなぁ魔王さんよぉ!? 遺言があるなら聞いてやるぞ!?」
「うぐぐ…………出会って早々に鼻っ柱に重いストレートとドロップキックを食らわせてくるとは…………相変わらず常識を知らん男だな貴様は!! ていうか、いま怒ってるのワシの方なんだけど!!」
「ほーう? 遺言があるなら聞いてやろうじゃねえか」
「遺言ばっかり聞こうとしてくる!! ま、まったく……困ったヤツだ……」
魔王はマントについた砂ぼこりを払いながらゆっくりと立ち上がった。
城で会ったときと全く同じような、赤い目と鋭い牙が特徴の白髪のオッサンは、俺にズンズンと近寄ると、思い切り胸ぐらを掴み上げた。
「うぐっ…………」
「おっ、おにーさん!!」
高身長の魔王に持ち上げられて宙ぶらりんになり、呼吸が苦しくなる。
メリカがぴょんぴょん跳び跳ねて助けようとするが、高さが全然足りてない。
「ワシは超小型監視用魔物を通して、この世界に飛ばされてからの貴様の行動を全て見ておったのだよ」
「ち…………超小型監視用魔物だと…………監視カメラってことか!? んなもんどこに……」
「気付くはずもあるまい。アタラポルトが科学の粋を集めて完成させた自慢の一体だ。透明化という便利な機能つきでな」
アタラポルト……コイツの手下の、あの陰湿研究者か。そんなモンまで作ってやがったのかよアイツ……!
俺はハエを追い払うような動きで、闇雲に両手を振り回してみる。
その様子をしばらく見ていた魔王が、わざとらしく笑ってみせる。
「フハハハ、無駄なことを…………羽虫よりも小さく、しかも透明な物体の居場所が、貴様のような小僧に突き止められるものか」
「そ、そういうテメエには見えてんのかよ…………!?」
「当然だ。ワシを誰だと思っておる? 今も貴様の体のすぐ近くを浮遊しておるぞ」
「わあ~、ほんとにっ!? ねえねえ、どこらへん飛んでるのか教えてっ!」
「うん、いいよっ! えっとね…………お主の右腕らへんにいるけど、少しずつ上昇しているよ! そのまま右肩、右耳…………あっ、いまツムジのちょっと上に」
「オッケー理解した、ありがとう」
パキッ。
「超小型監視用魔物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
頭上に両手を移動させ、血管が浮き出るほどに強く握りしめると、ガラスが割れるような音が儚く鳴り響いた。
それを聞いた魔王が膝をついて落ち込んでいる。
改めて、ラスボスらしさの欠片もないなこのオッチャンは。一日警察ならぬ一日魔王なんじゃないのか?
「おのれ…………貴様はこの期に及んでまだワシを愚弄し続けるのか…………!!」
「んでお前、こんな遠くまで何しに来たん? 魔王城が寒かったからコッチに移動してきたのか?」
「発情期のツバメかワシは!! 貴様と会うのをずっと待っていたのだが、貴様に対して言いたいことが山ほどできてしまったから、ガマンできずに来てしまったのだ!!」
遠距離恋愛中の彼女かよウゼエな。
発情期じゃなくても移動するだろツバメ。
「二周目の貴様は少しはまともな行動を起こしてくれるかと思ったが、やれ開始早々に食い逃げするわ、やれ気持ち悪いオタク共を使ってかつての仲間を言葉攻めするわ…………何やってんのお主!?」
確かに何やってんだろうな俺。
改めて言われると、生き返ってから冒険に全く関係ないような無意味なことしかしてない。
食い逃げなんかせず、そのまま一周目と同じくセクリに出会っていれば、俺は今ごろ勇者として歩き出せていただろう。
「ベタの呪いというのは冒険の始まり……つまり貴様が勇者になってからじゃないと発動せぬのだ! だから貴様が勇者にならん限りは、どんなにベタなことをしても何も起こらん!!」
初耳なんだが。
そういうのもちゃんと事前に説明しとけよな……勝手に高笑いして消滅しやがって。
なんだ、じゃあわざわざベタな展開避けて食い逃げする必要なかったじゃん。殺されかけて損した。
「まったく、せっかくワシが魔力ゼロの中でお主のグダグダプレイに渇を入れに来てやったというのに……殴ったり蹴ったり大事な超小型監視用魔物を殺したり! 普通の人間と変わらんのだから心も体も普通に痛むわバカ者が……!」
ドッジボール中に女子の顔面にボールをぶつけた時のような気まずい空気が流れる。
ふと、今の発言に強い引っ掛かりを覚える。
「…………お前いまなんつった?」
やがて早口でそう問い掛けた俺に、魔王は呆気に取られたような顔を見せる。
「へ? えっと……『お主のグダグダプレイに渇を』」
「そのまえ」
「『まったく、せっかく』?」
「そのあと。つーかそこなワケねえだろ」
「いや、だから…………お主にベタの呪いを掛けたから、ワシは今、全魔力を失っている状態なのだ! 城で話しただろ!?」
そうだ、巻き戻しにばっかり注意が向いてて忘れてた。
ベタノロの副作用は二つ。
巻き戻しと、発動者……つまり魔王の魔力をゼロにすること。
つまりですよ?
「んにぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺は魔王にズトッスと目潰しを喰らわせ、拘束から逃れる。いたそう。
今の話の中で、ヨシハルくんは一つの仮説に行き着きました。
つまり、コイツの魔力がスッカラカンな今のうちにブッ殺しちまえば、物語終わるんじゃね?




