第一七八回 ②
インジャ雄族を併せて遂に八圏営整い
ハレルヤ大君を討ちて方に南征軍発す
漸くインジャは我に返って、
「何という望外の喜びであることか。私のような薄徳の小人には身に余る光栄。なるほど、ゆえに奇人殿は『勅命を下せ』などとおっしゃったわけですか」
チルゲイはなおも頭を下げたまま、
「ハーンが我々の帰投をお許しくだされば、もはや私ごときに敬意を払う必要はありません。この長い舌は、ハーンのものでございます」
ナユテもまた言うには、
「私自身、再びハーンにお仕えできるのであれば、これ以上の幸せはありません」
するとインジャはあわてて立ち上がって、チルゲイとナユテに歩み寄る。左右の手を二人の肩にそれぞれ置いて言うには、
「顔を上げよ。衛天王はもちろんのこと、西原の好漢たちはみな私が恃みとするかけがえない仲間。本来であれば私などの下風に立つはずもないが、現今の苦境に由るものとしてもとても嬉しく思う。どうして退けることがあろうか。ともに力を併せて、必ずや奸賊を破ろうぞ」
二人は応じて身を起こす。チルゲイが言うには、
「おお、ハーン。それでは……」
力強く頷いて、
「先ほど奇人殿は『諾』と言えと申したな。あまりに驚いたために即答できず、すまなかった。改めて言おう、『諾』と」
「ありがとうございます!! これでウリャンハタは救われます」
早速、黄金の僚友のもとへ早馬が飛んで、新たにウリャンハタ部を加えたことを報せる。
西原へはナユテが戻って、インジャの言葉を伝えた。春の会盟を約し、そのままボギノ・ジョルチへ渡ってナオルに会う。仔細を聞いたナオルもやはり驚いたが、言うには、
「ハーンと衛天王にお慶び申し上げる。留守陣の件も了承した。王大母殿と諮って、ボギノ・ジョルチからも南征に兵馬を送ることとしよう」
ナユテはおおいに喜んで復命に及んだが、くどくどしい話は抜きにする。
酷寒の中、早馬が行き交って、約会の日が定められる。すべての将領が、準備万端整えてその日を待つ。
ひと足先に各部族の軍師参謀がインジャのオルドへ至って、第二次南征の陣容を決する。いかなるものだったかと云えば、すなわち下記のとおり。
出征する八翼のクリエンとその将領
第一クリエン 二万騎
義 君 インジャ
鉄 鞭 チハル・アネク
碧睛竜皇 アリハン・イゲル
獬豸軍師 イェリ・サノウ
百策花 セイネン・アビケル
奇 人 チルゲイ
黄鶴郎 セト・イジュン
天仙母 キノフ
一丈姐 カノン・ジュン
飛生鼠 オガサラ・ジュゾウ
呑天虎 コヤンサン
― ミヤーン
石沐猴 ナハンコルジ
黒曜姫 シャイカ
長旛竿 タンヤン
第二クリエン 三万騎
神箭将 ヒィ・チノ
癲叫子 ドクト
雷霆子 オノチ
長 者 ワドチャ
白夜叉 ミヒチ
神行公 キセイ
小金剛 モゲト
病大牛 ゾンゲル
第三クリエン 二万五千騎
超世傑 ムジカ
打虎娘 タゴサ
碧水将軍 オラル・タイハン
神風将軍 アステルノ
皁矮虎 マクベン
笑小鬼 アルチン
第四クリエン 一万五千騎
紅火将軍 キレカ・オトハン
盤天竜 ハレルヤ・バアトル
赫彗星 カンシジ・ソラ
奔雷矩 オンヌクド
活寸鉄 メサタゲ
第五クリエン 三万騎
衛天王 カントゥカ
聖 医 アサン・セチェン
潤治卿 ジュン・ヒラト
麒麟児 シン・セク
一角虎 スク・ベク
知世郎 タクカ
渾沌郎君 ボッチギン
矮俊猊 タケチャク・ヂェベ
妖豹姫 エミル・ガネイ
牙狼将軍 カムカ・チノ
急火箭 ヨツチ
第六クリエン 一万騎
花貌豹 サチ
神道子 ナユテ
紅大郎 クニメイ・ベク
竜騎士 カトメイ
蒼鷹娘 ササカ
娃白貂 ジュチ・クミフ
笑破鼓 クメン
鉄将軍 ヤムルノイ
白日鹿 ミアルン
第七クリエン 一万騎
獅 子 マルナテク・ギィ
蓋天才 ゴロ・セチェン
黒鉄牛 バラウンジャルガル
迅矢鏃 コルブ
隼将軍 カトラ
鳶将軍 タミチ
双角鼠 ベルグタイ
第八クリエン 一万騎
王大母 ガラコ
靖難将軍 イトゥク
留守陣を衛り、兵站を司る将領
中原留守 二万騎
通天君王 マタージ
霹靂狼 トシ・チノ
雪花姫 カコ・コバル
太 師 エジシ
美髯公 ハツチ
瓊朱雀 アンチャイ
九尾狐 テムルチ
長韁縄 サイドゥ
賢夫人 ウチン
赫大虫 ハリン
豬児吏 トシロル・ベク
嫋娜筆 コテカイ
金写駱 カナッサ
小白圭 シズハン
神餐手 アスクワ
霖霪駿驥 イエテン
慈羝子 コニバン
旱乾蜥蜴 タアバ
西原留守 二万騎
胆斗公 ナオル
百万元帥 トオリル
賢婀嬌 モルテ・ユムカ
鑑子女 テヨナ
黥大夫 カンバル
瑞典官 イェシノル
飛天熊 ノイエン
素蟾魄 ヤザム
東原留守 五千騎
金杭星 ケルン
司命娘子 ショルコウ
神都留守 五千騎
楚腰公 サルチン・ドルチ
鳳毛麟角 ツジャン・セチェン
鉄面牌 ヘカト
銀算盤 チャオ
白面鼠 マルケ
以上、出征する兵は十五万騎、留守を衛る兵は五万騎、九十六人の黄金の僚友がそれぞれ責務を担って四頭豹に挑む。
乱世とはいえ、これほど数多の兵馬が動員されたことはない。まさに未曾有の決戦が始まろうとしていた。




