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草原演義  作者: 秋田大介
巻三
161/785

第四 一回 ①

獅子ムジカを訪ねて三傑盟を結び

神行ヒィを(もと)めて神箭邦へ還る

 さて、錚々(そうそう)たる顔ぶれの六人の好漢(エレ)、すなわち神箭将(メルゲン)ヒィ・チノ、獅子(アルスラン)ギィ、ゴロ・セチェン、奇人チルゲイ、神道子ナユテ、そしてミヤーンは、涼風吹きはじめた草原(ケエル)を一路ジョナン氏のアイル指して駆けていった。


 道中は格別のこともなくお決まりの行程を辿って、(ようや)く目指すアイルが見えてきた。チルゲイはさっと飛び出してみなを制すると、


「ひと足先に行って客人(ヂョチ)を迎える準備をさせてくる」


 とて颯爽(オキタラ)と先行する。


 チルゲイがいきなり飛び込んできたのを見て、ムジカはおおいに驚愕した。しばらく開いた(アマン)(ふさ)がらない有様。チルゲイは委細かまわずつかつかと歩み寄ると、


「どうした、兄弟の(ヌル)忘れた(ウマルタヂュ)か」


「……いや(ブルウ)、てっきり(ホイン)へ去ったものかと。いったい、どうしてここに?」


 やっとのことで言えば、聞いているのかいないのか、


「まだまだ驚いてはいかん。まもなくもっと驚くべき客が来るぞ。さあさあ、迎える用意をしておけ!」


 そう言い残して慌ただしく去ろうとする。あわてて引き止めて、


「さっぱりわけが判らん。どういうことなんだ?」


 チルゲイは大笑いしながら、


「いいから、いいから。客人を待たせてあるんだ。さあ、宴だ、宴!」


 結局ムジカは呆然としてこれを去るに任せた。(コイマル)から騒ぎを聞きつけたタゴサが顔を出して、


「騒々しいね。今のは奇人殿ではなかった?」


 それを(ニドゥ)を円くしたまま顧みて、


「ああ、どうやらそのようだ。新しい客を連れてきたそうだが……」


「それじゃあ、みなを呼んで、もてなさなきゃいけないね。ほら、ぼやぼやしてないで!」


 ()かされて(ようや)く腰を上げると、側使い(エムチュ)にあれこれと指図してチルゲイの帰りを待った。


 一方、チルゲイはギィのもとへ戻ると、六人うち揃ってアイルに入った。噂を聞きつけたマクベンが真っ先にこれを迎える。とはいえ、彼もまだ困惑した様子。


「やあ、皁矮虎(そうわいこ)、帰ってきたよ」


 快活に呼びかければ、


「まさかまことに奇人殿だとは。何かあったのか?」


 チルゲイは笑って答えず、(アクタ)を預けてムジカのゲルへ向かう。ほかの五人もこれに(なら)う。くどくどしい話は抜きにして一同席に着いてみれば、ムジカをはじめ諸将は跳び上がらんばかりに驚いた。


「マ、マルナテク・ギィ!!」


 ギィは笑顔で挨拶に立った。


「お初にお目にかかります、と言ってよいかどうか。マシゲル部のマルナテク・ギィです。ムジカ殿の英名を慕い、このチルゲイたちの厚意(エルゲン・セトゲル)に甘えて参上した次第。旧怨は忘れて、どうか(よしみ)を結んでいただきたい」


 ヒィやチルゲイらはにやにやと笑って様子を見ている。ギィが言葉(ウゲ)を継いで、


「ここにあるは我が兄弟で、カムトタオのゴロ・セチェンと申します。併せてよろしくお願い申し上げる」


 ゴロは黙って揖拝(ゆうはい)する。ムジカらはいちいち頷くばかりで返答もできない。


「おい、君は言葉をどこかへ忘れてきたのか!」


 チルゲイが笑いながら言えば、あわてて拱手の礼を返すと、


いや(ブルウ)、失礼しました。私はヤクマン部ジョナン氏族長(ノヤン)ムジカと申します。遠いところをよくぞいらっしゃいました。獅子殿の勇名は遠くは音に聞こえ、近くは草原にて拝見し、一同賛嘆の念を禁じえなかったところ、()()()お会いすることができてこれに勝る喜び(ヂルガラン)はありません」


 チルゲイらは、ムジカが「思わず」と言ったことに大笑い。余の諸将、すなわち打虎娘タゴサ、奔雷矩(ほんらいく)オンヌクド、皁矮虎マクベン、笑小鬼アルチンがそれぞれ挨拶する間も、ずっと笑い転げていた。


 ひととおり挨拶がすむころには酒食の用意も整い、一同は乾杯して相喜んだ。そこでチルゲイが大声で言うには、


「こら、気が()かぬな。なぜ早くアンチャイ殿を呼ばない!」


 あわててタゴサが立ち上がる。その間にチルゲイが今に至る経緯(ヨス)を語れば、ムジカらはまたまた言葉を失う。やっと言うには、


「ここに至ったからにはアンチャイ殿をお返しするのを断る道理(ヨス)はない。自ら来られた獅子殿の勇気(ヂルケ)には感服しました。安心して連れて帰られるがよい」


 ギィは再び立ち上がって厚く(カリラ)を述べた。みなでこれを座らせたところに、ちょうどタゴサが戻ってきた。もちろんアンチャイと赫大虫(かくだいちゅう)ハリンを伴っている。

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