第四 一回 ①
獅子ムジカを訪ねて三傑盟を結び
神行ヒィを索めて神箭邦へ還る
さて、錚々たる顔ぶれの六人の好漢、すなわち神箭将ヒィ・チノ、獅子ギィ、ゴロ・セチェン、奇人チルゲイ、神道子ナユテ、そしてミヤーンは、涼風吹きはじめた草原を一路ジョナン氏のアイル指して駆けていった。
道中は格別のこともなくお決まりの行程を辿って、漸く目指すアイルが見えてきた。チルゲイはさっと飛び出してみなを制すると、
「ひと足先に行って客人を迎える準備をさせてくる」
とて颯爽と先行する。
チルゲイがいきなり飛び込んできたのを見て、ムジカはおおいに驚愕した。しばらく開いた口が塞がらない有様。チルゲイは委細かまわずつかつかと歩み寄ると、
「どうした、兄弟の顔を忘れたか」
「……いや、てっきり北へ去ったものかと。いったい、どうしてここに?」
やっとのことで言えば、聞いているのかいないのか、
「まだまだ驚いてはいかん。まもなくもっと驚くべき客が来るぞ。さあさあ、迎える用意をしておけ!」
そう言い残して慌ただしく去ろうとする。あわてて引き止めて、
「さっぱりわけが判らん。どういうことなんだ?」
チルゲイは大笑いしながら、
「いいから、いいから。客人を待たせてあるんだ。さあ、宴だ、宴!」
結局ムジカは呆然としてこれを去るに任せた。奥から騒ぎを聞きつけたタゴサが顔を出して、
「騒々しいね。今のは奇人殿ではなかった?」
それを目を円くしたまま顧みて、
「ああ、どうやらそのようだ。新しい客を連れてきたそうだが……」
「それじゃあ、みなを呼んで、もてなさなきゃいけないね。ほら、ぼやぼやしてないで!」
急かされて漸く腰を上げると、側使いにあれこれと指図してチルゲイの帰りを待った。
一方、チルゲイはギィのもとへ戻ると、六人うち揃ってアイルに入った。噂を聞きつけたマクベンが真っ先にこれを迎える。とはいえ、彼もまだ困惑した様子。
「やあ、皁矮虎、帰ってきたよ」
快活に呼びかければ、
「まさかまことに奇人殿だとは。何かあったのか?」
チルゲイは笑って答えず、馬を預けてムジカのゲルへ向かう。ほかの五人もこれに倣う。くどくどしい話は抜きにして一同席に着いてみれば、ムジカをはじめ諸将は跳び上がらんばかりに驚いた。
「マ、マルナテク・ギィ!!」
ギィは笑顔で挨拶に立った。
「お初にお目にかかります、と言ってよいかどうか。マシゲル部のマルナテク・ギィです。ムジカ殿の英名を慕い、このチルゲイたちの厚意に甘えて参上した次第。旧怨は忘れて、どうか誼を結んでいただきたい」
ヒィやチルゲイらはにやにやと笑って様子を見ている。ギィが言葉を継いで、
「ここにあるは我が兄弟で、カムトタオのゴロ・セチェンと申します。併せてよろしくお願い申し上げる」
ゴロは黙って揖拝する。ムジカらはいちいち頷くばかりで返答もできない。
「おい、君は言葉をどこかへ忘れてきたのか!」
チルゲイが笑いながら言えば、あわてて拱手の礼を返すと、
「いや、失礼しました。私はヤクマン部ジョナン氏族長ムジカと申します。遠いところをよくぞいらっしゃいました。獅子殿の勇名は遠くは音に聞こえ、近くは草原にて拝見し、一同賛嘆の念を禁じえなかったところ、思わずお会いすることができてこれに勝る喜びはありません」
チルゲイらは、ムジカが「思わず」と言ったことに大笑い。余の諸将、すなわち打虎娘タゴサ、奔雷矩オンヌクド、皁矮虎マクベン、笑小鬼アルチンがそれぞれ挨拶する間も、ずっと笑い転げていた。
ひととおり挨拶がすむころには酒食の用意も整い、一同は乾杯して相喜んだ。そこでチルゲイが大声で言うには、
「こら、気が利かぬな。なぜ早くアンチャイ殿を呼ばない!」
あわててタゴサが立ち上がる。その間にチルゲイが今に至る経緯を語れば、ムジカらはまたまた言葉を失う。やっと言うには、
「ここに至ったからにはアンチャイ殿をお返しするのを断る道理はない。自ら来られた獅子殿の勇気には感服しました。安心して連れて帰られるがよい」
ギィは再び立ち上がって厚く礼を述べた。みなでこれを座らせたところに、ちょうどタゴサが戻ってきた。もちろんアンチャイと赫大虫ハリンを伴っている。




