第十九話 VS魔法騎士(後編)
祝·ブックマーク数700突破ぁ♪
ありがとうございます!ありがとうございます!
課題が山程出たので、更新頻度が不安定になりますが、気長に待ってくださると嬉しいです。
タァンッ
タァンッ
タァンッ
タァンッ
タァンッ
タァンッ
次々と足場を蹴り、氷槍の雨を避け続ける。ボクを置き去りにして髪飾りに逃げたとはいえ、さすが精霊。どうやったのかは知らないが、ユリアがボクに送った回避ルートは正確でただの一つも当たることなく氷槍が降り注ぐ危険地帯を抜ける。
「嘘でしょう!?」
脳の処理限界を迎えたようで、アルフレッドさんは目を見開き、固まっている。
ラッキー♪そのつもりはなかったけど、大きな隙ができた〜。この隙を逃すつもりはないし、一発でかいのをぶち込んじゃおう。
ここの建物の天井は高い、今天井の近くにいるから〈流彗〉かな?いや、あれは点の攻撃だから避けられやすい。おじさんとの腕試しの時に当てることができたのは、不意打ちだったことと、おじさんにあまり避ける気が無かったからだと思う。それなら〈隕星〉かな?あれは大上段から蹴り下ろすアーツ。〈流彗〉とは違って軌道にはある程度の自由があるから、斜め上方から繰り出せば回避は難しいはず。じゃあ、天井と壁を蹴って加速して、『魔砲』で更に加速すればかなりの威力が出せると思う。
タァンッ タァンッ と天井と壁を蹴り、風属性の『魔砲』を放ち、あっという間にアルフレッドさんへと迫る。
やっと再起動したようだけど、もうボクはアルフレッドさんのすぐ近くまで来ており、アーツの発動準備をしている。
「しまっ、〈フォート「遅いよ、〈隕星〉!」
追加で『魔纏』を発動させ、威力を増した渾身の蹴りを思いっきりアルフレッドさんの盾にぶちかます。
ドッゴオオオオオオン!
アルフレッドさんがすごい速度で壁に突っ込み、凄まじい轟音が鳴り響く。
······追撃、した方がいいのかな?というか、吹っ飛びすぎじゃない?
『そりゃあ、私が追加で『風爆』を発動したからね』
何余計なことしてるのこの精霊。まあ、このくらいなら、Bランクのアルフレッドさんは大丈夫だよね。ウン、キットダイジョウブ。······無事だよね?
そんなボクの不安を打ち消すように、ガラガラという瓦礫をどける音と共に、少し汚れたアルフレッドさんが出てくる。
「いやあ、危ない危ない。大怪我するかと思いましたよ」
案外平気そう。なんだ、心配する必要なかったじゃん。
「それで、試験の結果はどうですか?」
「え、試験の結果?そんなの合格に決まってるじゃないですか、一応Bランク冒険者の俺を倒したんですから!」
よかったぁ······!これから王都の学校に通うために、学費免除は取っておきたかったんだよねぇ。でも、まだ喜んではいられない。どれだけ学費が免除されるかは、冒険者ランクにかかっているのだから。確かDランクでニ割、Cランクで四割、Bランクで六割、だったはず。
というか、場外で決着だったのねこの試験。
「ランクはどうなりそうですか?」
「ランクですか···。ギルドマスター、どうなりそうですか!」
アルフレッドさんがそう言うと、さっきリュミナの部屋まで案内してくれた初老の男性が出てきた。え、この人ギルドマスターだったの?
······おじさんやエメロア、アルマさんって、ギルドマスターがあそこまで緊張するくらいの人物なのかぁ······。ボク、とんでもない人達と知り合ってたんだね。
「お嬢様のランクとしては···場外決着とはいえアルフレッドさんを打倒した時点で最低Dランク、そして模擬戦の内容を鑑みるとCに届くかもしれませんが······」
「いやいや、全然大丈夫ですよ」
本来ならFランクからの所をDランクにはなるみたいだし、ボクはそれで十分だよ。まあ、あと八割をどうするかが問題だけどね。
「すいません、少し職員達と話し合ってきます。他の支部にも連絡をとって、どうにかCランクにできないか交渉してみます」
「別にそこまでしなくても「それでは、しばらくお待ちください」
ギルドマスターはボクの話を聞かずに行っちゃった。どうせ学校に通うんだから、当分冒険者ランクは意味を成さないんだけどねぇ。
「お疲れ様じゃ」
「よう、お疲れさん」
「スノウちゃん、お疲れ様〜」
「疲れたよ〜。あんまりこういう戦いはしたくないなぁ。ボクには向いてないよ」
「「「Bランクを倒しといてよく言う(わい)(ぜ)(わね〜)」」」
「いや、まさかBランクを倒すとは思わなかったのじゃ」
······今、何て言った?
「確かにな。Cランクまでなら倒せるとは思ったが、まさかBランクすら倒すとは思わなかったな」
「かなりの逸材よね〜」
ボクをBランクにけしかけておいて、「勝つとは思わなかった」!?······まあいっか。勝てたし。
「とりあえず、これで学費二割免除だけど、残り八割どうしようか?」
「うむ、学院の入学試験でも成績優秀者には学費免除があるから、そっちでも上位を取ればよかろう」
「あ、そっちでも免除あるの?」
「順位が良ければ免除の対象になるのう。三位で二割、二位で四割、一位で六割じゃ」
ふむふむ、ならボクは一位を目指して頑張ろうかな。さすがに厳しそうだけど。
「もしCランクになれたとしても全額免除を取るには一位かぁ······できるかな?」
「別に免除貰えなくても、俺らが払うぞ?リュミナからの詫びの品をまだ渡せてねぇから学費をそれに当てるのも有りだしな」
「それは申し訳ないから」
「魔法騎士を倒すより、入学試験で上位を取る方が簡単じゃないかしら〜?」
「······確かにの」
「生徒がほとんど貴族なだけあって、Dランクくらいの腕前の奴ならいるが、Bランク程の奴はいねぇな。高くてCだな」
そんなハードル低いの?それならいけそう。
「スノ···貴女は、王都の学院に通うつもりなんですか?」
ボク達の話を聞いていたアルフレッドさんが問いかけてくる。何か気になる所あった?
「スノウでいいですし、敬語はやめてください。むずがゆいです。あと、学院の夏季短期講習に行くつもりです」
「じゃあ、俺にも敬語は必要ないし、アルフと呼んでくれ。それで、スノウ程の実力者がなぜ学院に?あそこで何を学ぶんだ?」
「んー···薬学とか、鍛冶とか、付与術とか、かな?」
「え?武術や魔法じゃなくて?」
「ボクは生産職志望なんでね」
「······冗談だろう?」
「それが冗談ではないのじゃ」
「困ったことにな」
「本当にね〜」
「えっと···貴方達は?」
あれ、エメロア達はギルドマスターにも敬語を使われるくらいのお偉いさんなのに、アルフは知らないのかな?
「ワシらはスノウの推薦人なのじゃが······うむん?そうじゃ、幻惑魔法を解くのを忘れておったわい」
そう言ってエメロアは幻惑魔法を解いた···のかな?ボクにはわからないんだよねぇ。全く変わってないように見える。
「え···嘘だろ?」「なんであの人達がここに···」「あの女の子何者だ?」「どっかの王女様か?」「確かにめっちゃ綺麗だもんなぁ」
周りの人達が騒がしい。やっぱり三人共有名人なんだね。ボクも何か言われてるっぽいけど放置で。
「ま、まさか······貴方達がいらっしゃるとは」
アルフも緊張しているのか声や体が震えている。よほど十二英傑の名前は有名なのかな。
「うむ。ワシらがここに来てはいかんか?」
「い、いえ」
エメロアは普通に喋っているんだからアルフレッドさんも普通に喋ればいいのに。
「質問なのですが、よろしいでしょうか?」
「構わん」
「貴方達がお連れになった、スノウ様はどういう方なのですか?」
なんでボクに話題が移ってるの?しかも、なぜか様付けで呼ばれてるんですが。
「どういう、とはなんじゃ?」
「ど、どれほど高貴な方なのかと思いまして。竜人でありながら放出系魔法を使い、全属性の適性を持ち、さらには精霊を使役している。私はそんな人物には会ったことがありませんし、噂を聞いたことすらございません」
「スノウに関しては、ワシらでも知らぬことが多いのじゃ。ワシの眼でも全てを視ることができぬ恩寵や、見聞きしたことのない技能を持っておるしの」
「貴方達でもですか!?」
「このことは他言無用じゃ。ここには防音結界を張ったから他の者には聞こえておらぬ。もし聞かれたら上手く誤魔化しておけ」
「は、はい!承知しました!」
「まあ、ボクはボクだし、あまりかしこまられても困るかな。普通に接してくれればいいよ」
ボクは貴族とかじゃないし。偉い人の血筋は継いでないし。
「そう言われましても······」
「じゃあ命令。敬語は禁止、普通に接して」
「なっ」
「それとも···ボクが苦手?距離を置きたいの?なら、無理にとは言わないけど」
「い、いえ!そんなことは全くございません!」
なぜか顔を赤くして必死に否定するアルフ。模擬戦の前にも顔を赤くしてたけど、どうしたんだろうね?
「(スノウは天然の男殺しかの?騎士の奴、おそらく惚れておるぞ)」
「(まあ···無自覚だろうな。多分嬢ちゃんは、自分の体の変化に慣れてねぇ。男の時と同じ仕草のはずだ)」
「(その理屈だと〜、スノウちゃんは異界でも男殺しってことかしら〜?)」
「「(それだ)」」
「(身長の低さもあるのじゃろうが、あそこまで自然に人を見上げて、目を潤ませる仕草が堂に入った奴をワシは知らぬ)」
「(異界でも、男から告白されたことありそうだな)」
「(でも、スノウちゃんは魔法騎士の好意に気付いてないみたいよ〜。鈍いわね〜)」
三人がボクの方を見て話してる。最後の方は聞き取れなかったけど、所々聞こえた。「男殺し」なんて不名誉な言葉は聞き流そう。
······それにしても、現実で男に告白された経験があること、なんでバレたんだろう。でも、回数が知られてないだけマシなのかも。小学生の頃から今まで、男に告白されたのが三十回以上、ストーキングされたのが十回以上、他にも鼻息の荒いおっさんに言い寄られたりとか、街を歩いている時にナンパされたりとかしたなぁ······。そんなことが数えきれない程あったから、一人で学校や本屋さん以外には出かけなくなったんだよね。このことがバレたらエメロアには散々からかわれるだろうから、内緒にしとこう。
「ならば···これでよろし、よいだろうか?」
「うん、おっけー」
まだ少し堅いけど、まあ許容範囲内。
「それで、一ついいだろうか。大事な話がある」
「大事な話?」
「エメロア様、勝手なお願いなのですが、防音結界をそのままにしていただけないでしょうか?」
「構わんが···何をするのじゃ?」
「やましいことはございません。ただ、他の者に聞かれると恥ずかしいことではあります」
他の者に聞かれると恥ずかしい?なんだろ。しかもボクに。
ボクは首を傾げているが、エメロア達は何か察した様子。
「ほほう···止めはせぬが、スノウの意思を尊重するのじゃぞ?」
「存じております」
ねえ······誰か、今から何の話をされるのか教えて?
なぜかエメロア達三人は少し離れ、防音結界の中にはボクとアルフだけになり、模擬戦の時には闘技場にいた観客もいないので、今は闘技場に二人きりである。
「それでアルフ。大事な話って何?」
「いきなりで驚くとは思うのだが······まあ···」
「もったいぶらずに、速く言ったら?」
「······ええい、男は度胸!」
いきなりアルフがそう叫びながら頬を両手でパチィンと叩く。
「急にどしたの!?」
「スノウ、いや、お嬢様。私を貴女の臣下にして貰えないでしょうか?」
············今この人なんて言った?シンカ?ナニソレオイシイノ?
「·········え?」
「聞き取れませんでしたか?もう一度言うのは恥ずかしいのですが······私を臣下にしてくれませんか?」
聞き間違えじゃなかったぁぁぁぁぁぁ!?
「えっと、なんで?」
「シュヴァルツ家の家訓に『己より強き者に仕えよ。』というものがあります」
「······ボクなんかでいいの?」
「ええ、もちろん。むしろ貴方がいいのです。(······一目ぼれというのは、本当にあるんですね)」
「ん?途中から聞こえなかったんだけど」
「い、いえ!独り言なのでお気になさらず」
「そう?気持ちは嬉しいんだけどねぇ···」
「······何か不都合がございましたでしょうか?こんなことを急に申し出たのは私なので断っていただいても構いません」
「んーとねぇ······ボクは異界人なんだよ」
「っ!···そうだったんですか」
「そうなんだよ。ボクはずっとこの世界にいるわけじゃないし、アルフの主人には相応しくないかもしれない。それでもいいの?」
「それでもいいです。貴女が異界にいる間は、私が貴女を守りましょう」
「なら、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
「で、なんで敬語になってるの?」
「今は主従関係にありますから」
「じゃあ、主人命令。敬語禁止」
「わかりました···いいえ、わかった」
「よろしい」
今日の成果その壱。無事冒険者登録ができた。今日の成果その弍。臣下が一人できた。
······二つ目、なんでこうなった?




