俺より可愛い奴なんていません。5-12
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!!
葵と紗枝は、頼まれた飲み物、計10人分を手に、北川達が待つ部屋へと戻ってきた。
2人ともお盆を使って運んでいたため、両手は塞がっていたが、葵は器用に肘でドアハンドルを下げ、扉に軽く体重をかけるようにして扉を開けた。
葵が少し体制苦しそうに部屋に入ると、中で待っていた美雪がそれに気づき、すぐさま「ごめんなさい」と軽く謝りながら、扉が閉まらないように気を利かせてくれた。
「悪い、ありがとな……」
「いえいえ」
葵が美雪にそう言うと、美雪はニッコリと笑顔を葵に向け、小さく答えた。
そんな2人の些細なやり取りも直ぐに、他の者の声に遮られ、葵はその声に反応し、美雪から視線を逸らした。
「おぉッ! きたきたッ
俺、メロンソーダねッ!!」
部屋の奥に座る河野は、葵と紗枝を急かすように調子よく声を上げた。
そして、そんな河野に続くようにして、佐々木や馬場もハイハイと言った様子で、元気よく手を挙げながら自分の頼んだ飲み物を連呼していた。
葵は面倒くさそうにため息を1つ付きながら、真ん中に据えられた大きなテーブルへとお盆を持っていった。
「悪いな、葵……」
葵がテーブルにお盆を置き、奥の席でワイワイとはしゃぐ彼女や彼等の手が届く範囲に飲み物を置き始めると、北川が申し訳なさそうに苦笑しながら、葵に謝罪をしてきた。
「いや、別にこれぐらいはな……。
俺から申し出たし……」
「そっか……、良かった」
葵は北川にそう答えると、北川は安心したように呟き、葵の手伝いをし始めた。
そんな北川を他所に、北川と親密な関係になる為無理やりこの会に出席した、佐々木が馬場や河野と仲良くカラオケのリモコンを弄っているのを見て、葵は少し不安に思っていた。
(アイツ……、カラオケに来たことで本来の目的忘れてんじゃねぇのか?
まず北川にこんな雑用やらせて、わざと手伝いを申し出て、アピールする所だろ、普通……)
葵は佐々木のこういった所の詰めの甘さに嘆いていると、お手拭きと飲み物を配る北川が不意に声が掛けられた。
「北川はコレで良いのかな?」
聞き覚えのある声に声を掛けられていない葵も、その声に反応し、そちらに視線を向けると、北川に美雪が飲み物を差し出していた。
「あ、うん。ありがと、橋本さん」
2人のそんな笑顔なやり取りに葵は、何故か気を取られ、少しの間そんなやり取りを見つめていた。
北川に無事飲み物を渡すと、美雪は再び佐々木を除いた女子4人グループへと戻っていき、そこでワイワイと楽しげに話していた。
加藤 綾が戻ってきた紗枝に、何やらニヤニヤとした表情を浮かべ、「どう? 興奮しちゃった??」などと相変わらず訳の分からん質問をしているのも目に入ったが、葵は特に気にも止めかった。
4人共楽しそうにしている事を確認すると、葵は視線を戻し雑用に戻った。
「それじゃあ、最初はコレだなッ!」
河野はそう発すると、カラオケのリモコンをタップした。
すると、スグに先程から流れていたCMが急に中断され、曲のイントロが流れ始めた。
河野が入れた曲は、これからカラオケを始めるにしてはかなりナイスなチョイスで、誰もが知ってる盛り上がれる曲を選曲していた。
男性ボーカルによるリズミカルな曲で、自分達の親世代に出た曲ではあったがそれでも、今でも色褪せることなく人気で、カラオケではよく歌われる曲だった。
イントロが流れると皆、カラオケの画面や河野に注目し、これから歌い始める彼に集中し始めていた。
(流石に行き慣れるよな、コイツらは……)
河野は馬場に、お前それ好きだよな〜などと言われていたが、ある意味無難で誰でもノレる良い曲だった。
ただ、歌詞が熱烈なラブソングである事と、河野達が歌うと余計に遊んでるような感じが出て、チャラ男感が余計に増したようにも見えもした。
河野がそのまま、歌い慣れた感じで歌い終わると、周りからは拍手が飛び交い、河野は満更でも無さそうにニヤニヤと笑顔を浮かべみていた。
「どお? 二宮さんッ!
結構うまいでしょッ!? 俺」
周りから拍手をもらえた事で、河野は勢い付き、紗枝に自慢げに感想を求めていた。
「うん、そうだね! ちょっとびっくりしたかも……」
河野の絡み方に葵は内心、「歌は上手かったけど、めんどくせぇな」と思いつつ、紗枝に少し同情するようにしてその光景を見つめていた。
優しい彼女は、そんな河野をうざがる様子無く、河野の話にきちんと受け答えしていた。
河野の歌が終わると、立て続けに曲は流れはじめ、今度は佐々木がマイクを手にし始めた。
「はいはいッ! 今度アタシッ!」
佐々木は元気よく声と手を上げ、立ち上がり曲に合わせて軽くリズムを取り始めた。
佐々木が入れた曲もまたもや誰もが知る有名な曲で、少し前に流行った曲ではあったが今でもカラオケではよく歌われる曲だった。
CMで使われていたこの曲は、超有名な女性ボーカリストか歌っており、いくつものヒット曲を持つ彼女だったが、その中でも特に有名だった。
結婚式ソングとして定番にまでなり、少しわがままな女の子の本当の気持ちを歌った曲だった。
佐々木は見事にその曲を歌い始め、その熟練度から本当にこの曲が好きなのがよく伝わってきた。
(ふ~ん……、取り繕わないで素直のままの方がいいじゃん……。
まぁでも、歌詞がわがままな自分でも許してとか、そんな時の私の取り扱い~とかだから、若干まんま感出てるけど……)
楽しそうに歌う佐々木を尻目に、曲と彼女の傍若無人ぶりがまんまだなと、茫然とそんな事を葵が考えていると、不意に小さく声をかけられた。
「立花さんッ……立花さんッ!」
声を殺し、それでも力強く呼ぶ声は葵の耳に届き、葵はそちらに視線を向けると美雪の姿がそこにあった。
美雪だけでなく、綾、七城や北川までも葵に視線を向けていた。
「な、なんだ……?」
「いやね、丁度こういう曲も流れてる事だし、立花にも問題出そうかなと……」
「はぁ??」
葵が要件を聞くと綾が答え、綾の訳の分からない答えに葵は思わず声を上げ、不思議そうに綾を見つめた。
「最近流行ってるんだよ? 男女で、女の子が男の子に女心クイズって言うの出すの」
綾は当然といった様子で答えたが、葵にはそれがピンと来ず、くだらないという気持ちと面倒臭いという気持ちしか湧かなかった。
「あぁ〜ッ! 今、くだらないって思ったでしょッ!? 今のうちに勉強しておく事が大事なんだからね!!」
葵は思っていただけで顔には出ていないと思っていたが、モロに出ていたようですぐさま内心を見抜かれ、綾に愚痴られた。
「別にいいよ、面倒くさくない女と付き合うから……」
「女の子はみんなわがままで複雑なんですぅ〜!
聖女みたいな女の子なんて居ません〜!!
ねッ? 美雪??」
綾の問いかけに、美雪はうんうんと首を振り、葵にそれをやって欲しいという表情を向けていた。
葵は綾の答え方に「うるさいな」と、怪訝そうな表情を浮かべていたが、綾だけでなく七城も興味があるような表情で葵を見つめており、北川も何故か優しく微笑みながら、葵を助けるような事はせず静観をしていた。
逃げきれないなという事と、余りの綾のしつこさに根負けし、葵はため息を着いた。
「分かった分かった、1、2問ぐらいは付き合ってやるよ……。
ほら、出せ」
「う〜ん、その上から目線が気に食わないけど、まぁいいかッ
じゃあッ! 1問目ね!」
綾はそう言って問題を出し始めた。




