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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-5

真鍋まなべが去り、真鍋を見送るように後ろ姿を見つめていた美雪みゆきも、その場から去っていくと、ようやく狭いスペースから開放されたあおい亜紀あきが、廊下へと出てきていた。


「もう行ったな……」


葵は、廊下へ出ると大きくため息気味に息を着き、それまで張っていた緊張を緩めた。


「まったく……、何でアタシがこんな目に合わなきゃならないわけ?

アンタと仲を勘違いされる何てホント勘弁だったから、従ってたけど……、もう、最悪…………」


「うるせぇな……。大体、お前が騒ぐからこんな経験しなくてもいい体験したんだろ?

俺だって、俺よりも美しくないお前なんて御免だ……」


「はッ、はぁッ!?」


廊下に出るなり亜紀は、葵に対して愚痴を零し、葵もそれに反論すると、その発言が亜紀の逆鱗に触れ、亜紀は完全にキレていた。


「わ、私だって、私よりもカッコよくもない、こんなへんちくりん御免よッ!!

私に身長勝ってからそう言うこと言ってくれる??」


亜紀は葵の事を指さし、厳しく、声を荒らげながら反論した。


「何だと? デカ女」


「何よ、チビオカマ」


「オカマじゃねぇよッ!!」


葵と亜紀は、お互いを睨みつけながらいがみ合っていた。


葵と亜紀は、本当に男と女を入れ替えたような容姿や体型をしていた。


亜紀は女性らしくも勿論あったが、それでも葵の言う通り、女性の中でもかなり背の高い部類に入り、髪も肩までしか伸びていない髪型だったため、綺麗な美人顔だったが、カッコイイと称される事もしばしばあった。


葵も、普段は紛れもない男性だったが、女装したら言うまでもなくその破壊力は絶大で、女装が抜群に似合ってしまう事もあり、綺麗な顔だが、顔立ちは男らしいとは、言えなかった。


「フンッ……、アンタと話しても時間の無駄だわ。

それじゃ、さッよッうッなッらッ!!」


亜紀は当てつけのように、わざとらしく語尾を強調させ、喧嘩腰のまま別れを告げ、振り返りこの場を離れようとした。


「じゃあな」


葵も嫌味っぽく返事を返し、その場から離れ、本来の仕事に戻ろうとした。


「ねぇッ」


葵が1本目を踏み出した所で、不意に女性に声を掛けられ呼び止められた。


振り返ると、そこには先程別れを告げ、葵とさっさと離れようとした亜紀が葵の方へと向いており、相変わずに不満げな表情を浮かべていた。


葵は、まさか呼び止められると思っていなかったため、少し驚いたが、呼び止めたくせに不満げな表情を浮かべる亜紀に、悪態を着きたくなった。


「何だよ」


葵も不満そうに、要件を尋ねると、亜紀は少し言いずらそうに、言葉を詰まらせ、決心が着いたのか今度は、葵を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと話し始めた。


「気になってんじゃないの? さっきの……」


「は? さっき??」


亜紀はあまり具体的には話さず、葵に察しろと言わんばかりに抽象的に話したが、葵は本当にピンと来ていない様子で、聞き返した。


「だぁかぁらぁッ!

真鍋先生と美雪のさっきの会話ッ!!」


亜紀は、明らかに不機嫌そうにしながら語気を強くし、葵に言い放った。


(呼び止めて置いて、なんでキレられるんだよ……)


葵は何故急にキレられたのかよく分かっていない様子で、口に出したら余計に、口論になる事は分かっていたため、葵もまた内心で、不満を呟いていた。


「あぁ、まぁ……、確かに気になるけど……」


葵は亜紀への不満を必死に抑えながら、ボソボソと煮えきれないような答えをした。


物陰から観察するように見ていたため、勿論興味が無いなんて事は無かったが、亜紀にそれを、他人にそれを追求されるのは、少し嫌な気分だった。


「ふ〜ん……」


葵は、答えずらい事を言ったのに関わらず亜紀は、つまらなそうに声を上げ、そんな亜紀の態度がますます葵のカンに触っていた。


「ちッ……、何だよ。こっちは答えずらいことを答えたのに…………」


葵の不満は遂に限界を越え、心の声に留まらず、少し口元から盛れるように、不満をこぼした。


幸いにも亜紀にはそれが聞こえていなく、突っかかってくるような事は無かったが、次の瞬間、それ以上の衝撃が葵に振りかかった。


「ねぇ……、いい事教えてあげようか??」


亜紀は真面目な表情で葵にそう告げ、葵は思いもよらぬ言葉に、目を点にし驚いた。


犬猿の仲と言っても過言では無いほど、亜紀と葵はソリが合わなかった、そんな亜紀がどういう風の吹き回しか、葵にそんな事を言った。


「いい事……?」


葵は、珍しい状況に恐る恐るといった様子で聞き返した。


「そう。いい事……」


「な、何だよ…………」


「さっきの会話の内容はチョロチョロしか聞こえてこなかったから、よくは分からないけど、美雪の事ならよく分かるよ」


「はぁ……?」


話の内容が上手く見えてこない葵は、意味不明といった様子で声を上げ、亜紀はそんな葵の態度に不満を見せるよりも、真面目な表情のまま話を続けた。


「どうしてあそこまで美雪が真鍋先生に懐いてると思う?」


亜紀の口から発せられた言葉に、葵は一瞬体が固まった。


考えるつもりなんて毛頭無かったが、不意に頭の中に、美雪が真鍋の背を見つめている時の表情が過ぎった。


「男子とあんまり仲良く無い美雪が、珍しいとは思ってたんでしょうけど、ホントにそれだけだと思う?

確かに、真鍋先生は良い人で人懐っこい性格だから、美雪とでも簡単に上手くやっていけるだろうけど。

今は、かなり改善されてきているけど、それでも1年生の頃の美雪はかなりの人見知りだった」


亜紀は、珍しく葵に対して饒舌に話した。


そして、そんな亜紀の言葉は葵にチクチクと刺さっていた。


「アンタには一応借りがあるから、こんな事でしか借りを返せないけど、知っておいた方がいい」


葵は亜紀の『借り』に心当たりが無かったが、亜紀は美雪と共に葵が東堂とうどうに攫われた時から葵に対して、そんな事を感じていた。


葵の起こした一件であり、拉致された際にどんなやり取りがあったか、詳しくは知らなかったが、結果的に美雪は傷一つ付かずに解放され、それには少なからずも葵のお陰だったとも思っていた。


葵は息を飲むようにして、緊張した面持ちで亜紀の言葉を待ち、亜紀はゆっくりと続きを話し始めた。


「数ヶ月前、まだ美雪が1年生の時で真鍋先生もいた頃、美雪に直接聞いた事があるんだ。

今、好きな人はいるのかって……」


亜紀の言葉を聞き終えると葵は固まり、葵の中で一瞬時間が止まったかのように、頭の中が真っ白になった。


全てを聞いた訳ではなかったが、判断するには充分すぎる材料が葵の中にはあり、必然と話の全容が見えてきていた。


「その時に美雪から返ってきた答えが、彼…………、真鍋まなべ さとる

それで、さっきの美雪の反応を見て、私は確信してる。

まだ、美雪は真鍋先生の事…………」


亜紀は全てを伝えたなかったが、ここまで言われればどんなアホでも、言いたいことは分かった。


最後の言葉は亜紀の推測に過ぎなかったが、葵も亜紀の考えは恐らく合っていると考えた。


「伝えたい事はそれだけか……?」


葵は亜紀の言葉は衝撃的だったが、意外にも平静を装え、いつもの冷たい口調で、亜紀にそう返事した。


葵の何ともないような態度に、亜紀は一瞬驚いた表情を浮かべたが、スグにいつもの調子に戻った。


「そう、これだけ……。

ひとまず、アンタが知りたそうにしてた事だから、私が自己満足で伝えただけ。

私はアンタにまだ美雪に近づいて欲しくないとは思ってるから……。

それじゃ……」


亜紀はそう言い放つと今度こそ葵に背を向け、去っていった。


去っていく亜紀を見て葵は、妙な奴だと思いながらも、何かしら借りがあり、それを自分の嫌いな相手であってでも、返そうとする彼女を律儀だとも思った。


「そうか……。アイツ、真鍋先生をね…………」


葵はそう呟いて、何故かそれを考え出すとモヤモヤした気持ちになっていた。


(別に……、俺には関係の無い話……)


葵は、そう強く言い聞かせるように思い込むと、これ以上余計な事を考える事は無く、ようやくその場から動き出し、階段裏に置きっぱなしになっていたゴミ袋を持ち上げ、その場から離れていった。

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