俺より可愛い奴なんていません。5-3
桜祭の閉会式も終わり、サプライズゲストと評され登場した真鍋や、閉会式後にある桜祭の片付け等で、教室に戻ってきた葵達だったが、まだまだ騒がしかった。
桜祭が終わったからと言ってすぐに下校とはならず、明日も一応片付けとして、学校側からも時間を貰えているが、その時間だけではとてもじゃないが、全ての装飾やセットなど片ずける事が出来ず、暗黙の了解で、2日後も片付けが行われていた。
といっても学生であるため、そこまで遅くまで残らせるという事も無かった。
「はぁ〜……。これですぐ帰れたらいいのにな〜……」
お化け屋敷の装飾を片付けながら、大和は愚痴を零した。
葵と大和は、お化け屋敷の解体の役割を振り当てられており、その仕事を全うするため教室にいた。
「まぁ、しょうがないだろ。
学校としても、あんまり授業する時間を削りたく無いってのがあるんだろうし……。
とゆうか、山田と中島は?」
葵もぶつくさと私語をしながら、仕事をこなしていたが、先程から中島と山田の姿が見えないのが気になっており、大和に尋ねた。
「あぁ、アイツらは外〜……」
大和は、腑抜けた声で答え、簡略した答えだったが、葵にはそれだけで充分に伝わっていた。
外というのは、その言葉の通り外にいるという事で、サボっているという事でもなかった。
校舎や、その校庭なども多くの箇所を桜祭では装飾しており、それは生徒会の管理で行われたものだったが、生徒会だけでは人が足りず、各クラスの生徒達からも数人、手を貸す事になっていた。
「外か、それはそれで面倒だろうな……」
「えぇ〜、いいじゃんよ〜、外〜。
人いっぱい集まるし、中でちまちま片付けるより楽しいぞぉ〜? きっと……」
外にある装飾は、大きな物だったりするものが多く、力仕事がメインになっていたりもした。
そのため、大和が言ったように多くの人手を必要とし、みんなでワイワイガヤガヤと、話しながら仕事を進めたり出来るため、中よりも外の片付けをやりたいという生徒も少なくは無かった。
「中の方が楽だろ。 黙々とやってれば終わるし……
外は歩き回るし、重いもの持たされるから疲れるだろ……」
葵は、頑なに外の片付けよりも中の方が楽だと主張したが、大和にはそれが良いとは思えておらず、「えぇ〜」と不満そうな声を上げていた。
「まぁ……いっか、中でもこうやって葵と話せるし……。
そういやッ、さっきまなべっち居たな? 廊下でちらっと見かけたぜ?」
「ふ〜ん」
意気揚々と話す大和に対して、葵は興味のなさそうな様子で返事をした。
生返事で答えた葵だったが、別に興味が無いわけでは無なく、ただ大和や他の生徒たちのように、騒ぐほどの事では無かった。
「なんだぁ〜? 興味無さそうだな〜」
「別に……。
で? 見かけたなら大和も、久しぶりに話してみたりしたのか?」
「いやぁ〜、それがさ、もう2年と3年の女子が群がっちゃって、話しかけようにもかけられなかったんだよなぁ〜。
俺、まなべっちの事好きだったし、久しぶりに話したかったんだけどなぁ〜」
大和は少し寂しそうに、悔しそうにしながら、真鍋と話せなかったことを残念がっていた。
「まぁ、俺らの前のクラスは授業見てもらったりしてたしな……。
割と接点あるよな」
「そだよな〜……、授業対して貰ってなかった3年とかは、退いて欲しかったな〜。
う〜ん…………」
大和は、愚痴をこぼすように言ったあと、何かを考え込むようにして、唸り始めた。
急に難しそうな表情を浮かべ、悩み始めた大和に、葵は不思議そうに視線を送っていると、大和はスグに何かを閃いたように、曇った表情をパァっと明るくし、意気揚々と葵の方へ視線を戻した。
「なぁッ、後でさぁ、中島と山田も誘って放課後会いに行こーぜッ!!
放課後だったら、流石に会って話せるでしょ!?」
「えぇ〜〜……。
俺もう片付け終わったら帰るよ……」
楽しそうに話す大和に、葵は心底嫌そうな表情を浮かべ、大和の意見を拒絶したが、大和は簡単には引き下がらなかった。
「そんな事言うなよぉ〜。
お前も割と仲良かったじゃん? まなべっちとさぁ〜……。
1年生の時にあった校外学習の時とか、一緒に写真撮ったり、思い出結構あるじゃん!
まなべっち、喜ぶぞ〜〜? 特に、基本冷たい葵が自ら会いに来たりなんかしたら……」
大和は葵が行きたくなるように、一生懸命説得した。
いつもであれば、大和のそういった説得などは葵に成功した試しがあまり無かったが、今回は葵の心に意外と刺さり、思い出なども色々語られ、葵も色々と当時の楽しかった思い出が蘇った。
何よりも、会いに行ったら真鍋に喜ばれるという言葉が葵には、引っかかり、真鍋に会いに行った時にするであろう、彼の笑顔が容易に想像出来、葵は断りずらくなっていた。
「はぁ〜……、真鍋先生純粋だからな。
会いに行かなかったりして、避けられてるとか勘違いして勝手に落ち込まれても困るし…………」
最初は、この学校にまた通い始めるのだから、自らわざわざ出向かなくても会えるだろうと考えていた葵だったが、もう気持ちは会いに行く方に傾いていた。
「相変わらず素直じゃないな〜……。
よしッ! そうしたら、山田と中島に連絡だなッ!!」
大和は、葵の言い訳じみた答えに苦笑いを浮かべた後、楽しみで気持ちが高揚してる様子で、早速、ケータイを取り出し、友人に連絡を入れ始めた。
「気が早いな……」
「早い方が良いだろ? とゆうか、お前ももう行く気満々の癖に〜」
「うっせッ……。
片付け、早く終わらせるぞ」
葵は冷たく答えたが、大和はそれを照れ隠しだと確信し、ニヤニヤとニヤけた表情を浮かべながら、短く「おぅ」と答え、作業を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇
真鍋の帰還により、一時的に桜木高校は、いつも以上に賑わっていた。
廊下でも、現在の1年生以外のほとんどの生徒が、真鍋の話題で持ち切りだった。
それだけでも、真鍋がどれだけ生徒たちから慕われているのかがよく分かった。
葵は、そんな廊下を両手にパンパンに膨らんだゴミ袋を持ちながら歩いていた。
大和と片付けを早く終わらせるため、気合いを入れ直した後、作業を黙々とこなしていると、不意に女子からゴミ捨てを頼まれ、大和とジャンケンをした結果、葵が負け、ゴミを捨てる事になっていた。
(たく……、なんでアイツはあんなジャンケン強いんだよ。
勝ったことねぇぞ? バカはジャンケン強いのか……?)
葵は心の中で、不満を零しながら、それでも素直にゴミ捨てをする為、ゴミ捨て場へと向かっていた。
「ねぇねぇ、あそこでゴミ袋持ってる人ってさぁ…………」
葵が心の中で不満をこぼし、次第にその不満も表情に出ており、怖い顔で歩いていると、不意にヒソヒソ話が葵の耳に入った。
(またか…………)
葵の耳に届いたヒソヒソ話は、ヒソヒソ話にしては少し大きく、葵も耳は悪くは無かったため、それがよく聞こえ、まだ1部しか聞き取れていなかったが、葵は話の内容が何となく分かっていた。
桜祭が終わってから、正確には、ミスコンを終えてからこういった事象が、葵の周りではよく起こっていた。
話題の内容などは、別に葵に取っても悪い事でも無かったが、それでもヒソヒソと話されるのはあまり好みじゃなかった。
「あの人がミスコンの時、凄い綺麗だった人?」
「そうそうッ、私達の一個先輩」
葵を見て話している生徒は女子生徒で、葵が歩いてる廊下は1年生のクラスの教室が多く並ぶ階だったため、余計ヒソヒソ話が多かった。
葵はそのヒソヒソ話を聞き入るなんて事はせず、立ち止まることなくそのままその場を去っていった。
あの後、あの話が悪口になったのかどうなったのかは、葵には分からなかったが、そんな事葵に取ってはどうでも良かった。
葵が歩いていくと、突き当たりの曲がり角が見えてきていた。
見えた突き当たりの角を曲がれば、そこから中庭まで出る事が出来、中庭を突っ切るルートが1番の近道だった。
そして、突き当たりまで差し掛かると、再び、今度は曲がり角の先から話し声が聞こえてきた。
最初は小さな声だったため、気づかなかったが、近づくに連れ、葵の中でその声の持ち主に心当たりを持ち始め、曲がる寸前の所で、葵は立ち止まった。
傍から見れば、不審な行為だったが今の葵には、そっちの方がどうでもよかった。
先程自分の事で、ヒソヒソと話されていた事にはまるで気を示さなかった葵だったが、聞き耳を立て、ゆっくりと曲がり角から顔を出し、声の主を確認した。
曲がり角の先には、葵の思った通りの人物と、もう1人、思いがけない人物がそこに居た。
「1年しか経ってないですけど、相変わらずですね、真鍋先生。
さっきの閉会式のサプライズも、真鍋先生がどうせ提案したんじゃないんですか?」
「げッ……。やっぱりバレバレだった?」
「バレバレですッ」
照れくさそうに頭をかきながら話す真鍋に、笑顔で微笑みかけ話す橋本 美雪の姿がそこにあった。
葵は、美雪の姿を見て、最初に思ったことは意外の一言だった。
本来、美雪は男子や男性とあまり話すことは無く、元々クラスでも友達が少なく、暗いイメージが彼女にはあり、紗枝や綾といった友人が出来たのも数ヶ月前の事だった。
美雪と接するに連れ、美雪からそんなイメージは消え去った葵だったが、それでも、男性と喋る美雪は珍しかった。
(まぁ、一応……、先生だからな……。
仲良かったのか……?)
葵はやけに、2人が気になり始めていた。
(サボれるし、丁度いいか……)
適当な理由を心の中で呟きながら、葵はそこに留まる事を決めた。




