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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-1

桜祭さくらさいは、つつがなく終わりを迎え、2日目も終盤へと差し掛かっていた。


例年よりも、今年の桜祭は盛り上がりを見せ、初日の来場者数も多かったが、2日目は初日の出来が、クチコミとして広まった事もあり、更なる来場者数を記録した。


立花たちばな あおいが企画し、生徒会が運営したミスコンもかなりの盛り上がりを見せ、こちらも初日の結果が良かったこともあり、2日目に開催されたイベント、『ミルジュ』のプロのスタイリスト達による、メイク教室は大盛況だった。


メイク教室とは言っても、芸能人などのコーディネートや、モデルやアイドルといった方達の、メイクなどを手がけるスタイリスト達に、ミスコンで行われたように、来場者や桜木さくらぎ高校の女子生徒達にもコーディネートを施すというイベントだった。


メイクやファッションの話や、これまでコーディネートのした事のあるモデルや芸能人などの話で『ミルジュ』のスタッフ達と会話に花を咲かせながら、綺麗になれるという部分が大きく評価された。


葵のクラスの出し物も、それなりに盛り上がりを見せ、お化け屋敷という人気の出し物だった事もあり、行列を作っていた。


お化け屋敷としては大成功を収めたが、初日はお見合い式のお化け屋敷の方が思うように浸透せず、もはや普通のお化け屋敷と化していたが、試行錯誤もあり、2日目には何とかお見合いお化け屋敷も形になり、並ぶ人も出来ていた。


様々な出来事が起こりながらも、一生懸命に駆け抜けた桜祭は、どの生徒達にとっても輝かしい一時として記憶され、名残惜しくも、閉会式が行われようとしていた。


開会式などと同じく、体育館へと全校生徒が集められ、綺麗に整列をしていた。


閉会式は、全校生徒が集まるのを確認すると、始められすぐに、有り難すぎて眠くなるほどの、校長の話が長々と話された。


「な、なぁなぁ葵ッ! これからクラスメイトで桜祭の打ち上げやるみたいだけど、お前来るのか?」


葵は、ぼぉっとしながら校長の話を聞いていると、不意に近く並んでいた大和やまとに声を掛けられた。


「ん〜……、行かない……」


葵は少し考え込んだ後、行くメリットも見つからず、興味無さそうに大和に返事を返した。


大和に返事を返した葵は、不意に横に目を向けた。


横へ視線を向けると、横一列に並んでいる自分のクラスメイト達の顔が見え始め、何も考えずにただ呆然のゆっくりと視線を流していると、ある人物が視界に入った。


葵は、その自然と流していた視線を止めた人物を見ると、その人物は楽しそうに笑みを浮かべながら、隣に並んでいる女子生徒と話していた。


「あいつは行くんだろうか…………」


葵は、不意に思った事が口をついて出てしまい、小さく呟くようにして独り言を言った。


「はぁ……、何言ってんだ俺は…………」


色々あったことで疲れているのか、葵は独り言が多くなっており、何も考えていなかったとはいえ、妙な事を口走った自分に嫌気を感じながら、ため息を付きながら、その人物から視線を外し、壇上に立つ校長へと視線を戻した。


◇ ◇ ◇ ◇


校長の長い話が続く中、楽しげにコソコソと話す美雪みゆきの姿があった。


美雪は、紗枝さえあやといった友達と、校長の話を聴きながらしながら、桜祭の事でお互いに盛り上がっていた。


「いやぁ〜……、ほんとに楽しかったなぁ〜、桜祭……。

珍しい物も沢山見れたし……」


「ねぇ〜……。ちょっと2日じゃ足りないよね……」


「足りないね〜……、後2日は欲しいね……」


綾や紗枝は、校長の話の最中だったが、お構い無しに話を続け、綾や紗枝、美雪達だけではなく、周りもかなりの生徒達が話しており、終始、体育館はザワザワと生徒達の話し声でザワついていた。


普通であれば、教員が声を上げ、注意をしたりとして、校長の有難い話を聞かせる所であったが、桜祭が終わったばかりで、まだ熱も冷めていない生徒達に言って聞かせるのは、かなり難しい事だった。


幸いにも、校長もそこまで気にしないタイプの人だったため、教員たちと率先して注意したり、校長の話の最中のこの私語は、暗黙の了解となっているところもあった。


それでも限度はあり、あまりにうるさいと教員からしょっぴかれる生徒達も居ないわけではなかった。


「なんだかんだで、ミスコンは楽しかったですし……。

2日目には、綾さんや紗枝さんとも色んな所と回れて、良い思い出ばかりです」


「そだね〜、お互いの意外な事も知れたしねぇ〜……。ねぇ〜? 紗枝??」


「あッ、綾ッ!!」


美雪が思い出にふけるように話していると、綾はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、意地悪っぽく紗枝に問いかけた。


綾に問いかけられた紗枝は急に焦りだし、顔が赤くなっており、2人の会話の内容がよく分からない美雪は、不思議そうに紗枝を見つめながら、赤くなった顔を見て可愛いななどと、呑気な事を考えていた。


「意外な事……?」


「なッ、なんでもないから美雪ッ……」


疑問に思った美雪が声をあげると、紗枝は咄嗟に何も無かったかのように振る舞い、この話を無理やり終わらせようとした。


「そうだねぇ〜……、なんでもないねぇ〜……」


「ちょっと、綾。 いい加減しないと怒るよ」


「えへへへッ、ごめんごめん。」


思わせぶりに、紗枝をからかうようにして話す綾に、紗枝はとうとう本気で怒るように注意すると、綾は悪びれるように、ニヤニヤとしながら答えた。


そんな2人を見て、美雪は少し羨ましく思った。


「そうだッ! 美雪って好きな人とかいるの?」


「ちょ、ちょっとッ! 綾ッ!?

この流れで聞くのッ!?」


話題に上手く入れない美雪に気づいたのか、綾は今度は美雪の話題へと移し、紗枝は話の流れから、この話題には触れて欲しくなく、慌てて綾を問い詰めていた。


「好きな人ですか〜……、う〜ん……」


「なになにッ!? いるのッ!?」


難しい表情を浮かべ、考え込むように唸る美雪に対して、興味津々の綾は、ワクワクした表情を浮かべていた。


「う〜ん……、内緒……ですよ……?」


美雪は少し恥ずかしそうに、2人を見ながら答え、綾はテンションが上がり、首を大きく素早く縦に振り、約束を誓い、紗枝もまた、美雪の想い人が気になる様子で目を輝かせ、話に興味津々だった。


「好きな人ってわけじゃないんですけど……、気になる人と言いますか…………」


美雪が恥ずかしそうにゆっくりと話し始めると、美雪の声を遮るようにして、会場がざわめき始めた。


美雪は途中て話を止めてしまい、綾や紗枝も周りの異変に気づくと、生徒達がこぞって視線を集める方、壇上へと視線を向けた。


美雪達が壇上を見つめると、そこには先程まで居たはずの校長の姿は無く、桜木さくらぎ高校生徒会長である、並木なみき 麗華れいかの姿があった。


並木の容姿は、確かに目を引くほどの美貌であり、登場と同時にザワつくのも分からないでも無かったが、このザワつきは美雪達には妙に感じた。


「えっと……? どうしたのかな?」


「分かんない。ちょっと恋バナに夢中で話聞いてなかったし……」


状況が読み込めない紗枝は、辺りをキョロキョロと見渡しながら尋ね、綾も不思議そうにしながら答えた。


麗華は、今ちょうど壇上に上がったという訳ではなく、美雪達が気づくよりも前に上がっていた様子で、その間もちろん麗華は、生徒達に向かって喋り続けていた。


綾もそうだが、美雪や紗枝も話に夢中で、麗華の話を聞き漏らしており、誰も状況は飲み込めなかった。


そんな中、麗華はゆっくりと話始めた。


「今回のイベントの最後の重大発表を行います。

皆さんは覚えていらっしゃますでしょうか? それでは、登場頂きましょうッ!

サプライズゲストです!!」


麗華はその学年1の美人だと言われる程の、美しい顔をニッコリと微笑ませ、桜祭おうさいの最後を盛り上げるように、発言した。


麗華の発表が終わると同時に、体育館袖からスラッとした風貌で背の高い男性が現れた。


その男性が現れて、体育館の生徒達は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、壇上に上がったのが誰か分かると、歓声が一気巻き起こった。


生徒達の大きな歓声を浴びて、少し照れくさそうに笑いながら現れた男性は、壇上の真ん中へと向かって歩いていった。


そして、壇上の真ん中まで来ると、麗華の隣に立ち、全校生徒達の方へと体を向けた。


「サプライズゲストは、なんとッ!

1年前この学校に数ヶ月の間、教育実習として来られた真鍋まなべ さとる先生ですッ!!」


麗華の紹介で、体育館はより一層盛り上がり、紗枝や綾も例外では無かった。


「え? え? まなべっち戻ってきたのッ!?」


「真鍋先生だぁ〜……。1年くらい前だけど、懐かしい〜〜」


綾は、驚きながら声を上げ、紗枝は懐かしむようにして声を上げた。


真鍋は、紗枝達が1年生の頃に教育実習として、この桜木高校に訪れた教員で、その時はまだきちんとした教員では無かったが、それでも真鍋のその持ち前の明るさから、沢山の生徒達から好かれ、大人気の先生だった。


綾や人懐っこい生徒は、真鍋を「まなべっち」などといった愛称で呼んだりもしていた。


真鍋を知る2年生、3年生は盛り上がっていたが、真鍋を知らない1年生は、喜ぶ先輩達を不思議そうに見ていた。


「確か、美雪のクラスの数学を教えてたりしてたよね?」


綾は、そう言って美雪の方へと視線を向けた。


興奮した様子で尋ねた綾だったが、美雪の表情を見るなり、段々と熱が冷めていくような感覚を感じていった。


綾の声は、美雪には届いておらず、綾の質問の答えは帰っては来なかった。


その代わりに、美雪は驚いた表情から、頬を少し赤く染め、優しく微笑むようにして真鍋を一心に見つめ、ポツリと小さく呟いた。


「帰ってきたんですね……」


美雪の声はとても優しげで、たった一言だったが、その声色から美雪が真鍋の帰りを祝福している事は一目瞭然だった。


美雪のその一言だったが、綾はスグにある事に気づき、先程の会話が頭に過ぎった。


確信は無く、本人に直接聞いた訳では無かったが、綾は思わずには居られなかった。


(美雪の好きな人って……まなべっち…………?)

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