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俺より可愛い奴なんていません。4.5-5

立花たちばな家。


あおいのミスコンでの発表を葵以外の家族であの後、存分に見られ、葵はその場から逃げたものの、夕食時に家族で揃うと、嫌でもその話題は上がった。


葵は勘弁してくれと思いながらも、らんを中心に会話は弾み、嫌という程賛否両論を浴び、ただ夕食を取るだけの事で、葵はほとほと疲れ果てていた。


部屋へと戻り、文化祭でも疲れを感じていた葵はリラックスするように、背もたれ付きの椅子へと座り、体重を椅子へ預けていた。


(なんかやっと一息付けた気がするな…………)


葵は大きくため息を付きながら天を仰ぎ、呆然としていた。


頭だけは微かに働かせ、昼間の事を少し振り返り始めた。


(ホント、色んな事が一気に起きた感じだったな。

ミスコンもあんなに受けるとは思っても無かったし……、てゆうか、そもそもなんで俺、こんな頑張ってんだ?? 柄にも無い……)


葵はそんな事を考え始めると、その思考にハマっていった。


(疲れるし、別に学校での成績に関係するわけでも、自分のためにもなるわけでも無し……。

女装をして注目を浴びるのは、いつも通り快感ではあったけど、そんなのここまでの労力を割かなくても、ふらっと街に出るだけで済むはず……。

何より、他の出場者もいるのに…………)


そんな、やらない理由ばかり頭の中で浮かんでくる中で、不意に頭の中である光景が過ぎった。


(あ……、あぁ、あれは確かに、ミスコンじゃなきゃ見れなかったのかもしれないな…………)


嫌な事や考えれば考える程、面倒だった事しか思い出せなかった葵だったが、一瞬頭の中で過ぎったその光景だけは、一見の価値があったと、これだけの労力を注いでも良かったのかもと思えるものだった。


(アイツ、いつもあの感じで笑えばいいのに……。

とゆうか、あんなに着こなせるならもっと普段から気を回せよな、オシャレによ……)


葵が思い出した光景は、舞台上でミスコンの発表をする際に、不意に舞台裏にいる葵に向かって見せた、満面の橋本はしもと 美雪みゆきの笑顔だった。


どの女子生徒もいい顔で舞台に上がっており、舞台に上がっている時は誰よりも輝いていたが、葵は普段じゃあまり見れない美雪のあそこまでの清々しい、笑顔が印象によく残っていた。


そんな事を考えていると、葵の部屋の扉が軽い音を立て、2度ノックされた。


葵はその優しいノックの仕方から、少し懐かしい気分になり、扉の方へと視線を向け、声をかけた。


「入ってきていいぞ〜」


葵がよう呼びかけると、ゆっくりと扉が開けられ、そこには笑みを浮かべた妹、椿つばきの姿があった。


葵は、3年ぶりに聞いた懐かしい彼女のノックの仕方から、姿を表さずとも誰が訪問しに来たか分かっていたが、椿の姿を見て、改めてそれを確認した。


「どうした?」


普段の学校での彼からは考えられない程の優しい態度で、椿に尋ねると、椿はゆっくりと部屋に入り、葵の部屋の扉を閉めた。


そして、改めて葵を一点に見つめ、話し始めた。


「せっかく私帰ってきたのに、お兄ちゃんとあんまり話せてない気がしてさ……。

どう? 久しぶりに会った妹の感想は??」


椿は照れくさそうに話していき、最後は無理やり照れ隠しするように挑発するような態度で葵にそう告げた。


「うん、大きくなったな……。

俺の身長もそんなに大きくないから、少しヒヤヒヤだ」


たわいない話だが、わざわざ会話をしに来てくれた椿に、葵は嬉しさを感じながら、ニコリと笑みを受け答えた。


「えへへへ……。あっちでモデル何かもやらして貰ってた事もあって、身長伸びるように、毎日牛乳飲んでたからね!

お陰様で、女子の中では結構高い方になったよ!」


椿は自慢げに葵にそう告げた。


褒めろと言わんばかりな椿の態度に、葵は軽く微笑み返し、2人の間に沈黙が流れた。


久しぶりに会う事もあり、昔よりも上手く距離が掴めず、お互いに上手く話題が出なかった。


そんな中椿が体を捩らせ、モジモジとし始めた。


葵の目から見ても、椿は何かを言いたげにしているのは分かった。


「どうかしたか?」


葵は優しく椿に尋ねると、椿は「ヒャイッ」と変な声を上げ、体をピクりと跳ねらせ、視線を右往左往させながら、ボソボソと呟き始めた。


「え〜と、え〜と……、まぁ、大した事じゃ無いんだけど…………。

ちょっとお願いというかね……、お兄ちゃんにして欲しいことがあるというか…………」


歯切り悪く椿は、モジモジとしながら話し、椿以外の女性であれば間違いなく、葵はイラっと感じたであろう、今の椿の行動にも特に何も感じず、じっと椿を見つめ、焦らせたりすることも無く、次の言葉を待った。


「あのね……、明日、久しぶりに私と1日付き合って?

買い物とか……、食事とか……さ…………」


椿は恐る恐るといった様子で、上目遣いで兄に強請るようにして、そう呟いた。


葵は次の日も、学校の文化祭だと言うことは重々承知の事だったが、それでも、兄が自分の為に、願いを叶えてくれるだろうとそう八割程考えていた。


もちろん、なんの根拠も無いという訳では無く、その時は文化祭では無かったが、昔椿が今と同じようなわがままを葵に伝えた時、叶えてくれた事があった。


3年ぶりということも相まって、椿は恥ずかしさもあって恐る恐る尋ねていたが、きっとわがままを聞いてくれるだろうと、確信に近いものを感じていた。


椿が葵の返事を待っていると、その返事はすぐにかえってきた。


「え〜と……、明日? 明日はちょっと難しいかも……」


「え…………?」


葵は難しい表情を浮かべながら、椿の提案を拒否し、拒否された事に椿は驚き、思わず声を漏らし、一瞬固まった。


「え? え? なんで?? お兄ちゃん、いつも文化祭とかサボってるって言ってたじゃん。

友達、えっと……、神崎かんざきさんとかと……」


椿は一瞬固まったが、すぐに我に返ると今度は、立て続けに疑問をぶつけた。


「え……、あ、まぁ……、確かに去年も、中学の時もまともに文化祭なんて参加してなかったけど、今年はちょっと仕事任されちゃってね。

学校抜けてサボるのはちょっと難しいかな……、ごめんな?」


「3年ぶりなのに…………」


「ごめん。今週末は空けておくから……、な?」


葵は優しく言い聞かせるように微笑みながら答えていたが、椿は完全に拗ねてしまっていた。


困った様子で機嫌を取るその様子は、あの葵が完全に尻に敷かれているようだった。


「じゃあ、土曜日空けておいてね」


椿は自分よりも文化祭を優先された事に、未だに不服そうだったが、それでも葵をこれ以上困らせるのも本意ではなかったので、聞き分けよく、土曜日に約束を取り付けた。


「分かった、土曜だな? 空けておく。

――――あ……、ちょっと待て、土曜か??」


1度断ったことに引け目もあった葵は、二つ返事で最初は受け答えたが、すぐに何かを思い出したように、慌て始めた。


「ご、ごめん……。土曜も用事が…………」


「えぇ〜〜ッ!? 土曜もッ!?

何? 友達とかと遊び??」


葵は罰が悪そうにそう応えると、椿の不満はある一定値を越え大声で、不満そうな声を上げた後、再び質問攻めをし始めた。


「ん? あ……、あぁ〜……まぁ、そんなところ……」


葵は土曜の予定を思い出し、少し歯切れの悪そうに答えた。


土曜は佐々ささき 美穂みほに言われ、葵もミスコンでの景品であった、北川きたがわ等との食事会に出席する事になっていた。


(まぁ……、嘘はついて無いしな……。

そんなに親しくも無いけど……)


妹に少し罪悪感を感じつつも、葵は自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。


「えぇ〜〜、土曜もダメなのかぁ〜〜……。

日曜は私もちょっと予定があるしなぁ〜〜、う〜ん……」


椿は明らかに残念そうに声を上げ、それでも葵と久しぶりに出かける事を諦めず、難しそうな表情を浮かべながら、少し俯きながら唸っていた。


椿はそのまま、しばらくそうしていると、途中から唸るのをやめ、「んん?」と短く疑問形で声を上げ、ゆっくりと顔をあげ、再び葵と目が合った。


葵と目が合うと椿は、ニッコリと満面の笑みを浮かべ、意気揚々に思いついた事を話し始めた。


「文化祭ちょうどいいタイミングだったかもねッ!!

明日、お兄ちゃんは文化祭で暇な時間、フリータイム??みたいなのもあるんでしょ??

その時でいいからさ、私に付き合ってよ!」


椿は、ナイスアイデアと言わんばかりの様子で、ニコニコと微笑みながら葵にそう提案した。


「えぇ!? いやまぁ、回れる時間もあるけど…………」


「お兄ちゃんの事でしょ? 回る相手も神崎かんざきさんとか、男のお友達なんだからいいじゃん!

どうせ、彼女とかもいないでしょ??」


「いないな、まず、俺より可愛い奴がいないな」


椿は少し兄をおちょくるように答えたが、普通の兄であれば何らかの反応を見せるであろう答えにも、葵は特に取り乱すことなく真顔で至極当然と言った様子で、めちゃくちゃな事を言っていた。


「あ、相変わらずだね……、お兄ちゃん…………」


椿は海外にいる間にも、兄に彼女でも出来ていたらと、想像した事も何度かあったが、相変わらずの反応に、複雑そうな表情を浮かべ答えた。


兄に彼女が出来るのは、椿にとってもっとも嫌な事だったが、それと同時に兄に、女装をやめて欲しいのと、妙な思想を捨てて欲しい気持ちがあった。


「とりあえずッ! お兄ちゃんの予定も空いてそうだし、決定ねッ?

えへへへ……、可愛い子と回れて嬉しいでしょ?」


椿は少し強引に約束を取り付け、後半、自分から恥ずかしい言葉を言った癖に、少し照れていた。


「自分で言うのか? そうゆう事。

まぁ、間違っちゃいないけど……」


葵も微笑むようにして、椿の言葉に突っ込みを入れながら答えた。


そんなやり取りは、すごく久しぶりで懐かしい気持ちになったが、そんなたわいの無いやり取りから、心底、お互いに帰ってきたんだなと実感出来ていた。



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