俺より可愛い奴なんていません。4.5-2
「はぁ〜……、なんで俺がまたお化け役なのかね〜……。
1日2回もお化け役をやらされるのって、結構酷じゃね? 客引きとか店番とかよりも体力使うし、疲れんだよな〜……」
大和は、着替え部屋として2-Bが借りている空き教室に入るなり、またもや自分がお化け役の仕事を担当する事になった事に、愚痴を零していた。
「まぁ、お前が店番だと客減るしな〜」
「そうそう。2-Bの品格が落ちる……」
愚痴を零しながらも素直に、お化け役の衣装に着替える大和に、中島と山田は、先程の大和の惚気話を聞かされた腹いせに、冷たく辛辣な言葉を返した。
「なッ! なんでだッ!?
お前たちだって、そんなにイケメンじゃねぇだろッ!! フツメンだろッ!!
とゆうか、彼女居ないんだから、どちらかと言うとブサメンだろッ!!」
「クッ……! コイツ、山田……。
今ここでこいつを殺ってしまうか……?」
「あぁ、どうやら自分が上手く行ってるからって勘違いしてるみたいだしな……」
中島と山田の言葉に大和が反論すると、彼らにとってかなり痛いところをつかれたのか、ぐうの音も出ずに、遂には実力行使に出ようと画策していた。
「ハイハイ。
お前等、早く着替え済まして交代しに行かないと、女子に愚痴られるぞ?
俺は、チクられて怒られるのは嫌だからな〜……」
争う大和達を尻目に、葵はくだらないと言わんばかりに言い捨て、既に着替えを終わらせ、教室から出ていこうとしていた。
「お、おいッ、葵ッ! ずるいぞ、抜け駆け……。
交代のギリギリまで、あわよくば呼び出しがかかるまで、ここで時間潰そうって約束しただろ?」
「そうだぞ? まだ後、交代まで2分あるんだぞ?」
「いや、お前ら……。
早めに行っといた方がいいだろ? 引き継ぎとかあんだから、とゆうか、もう2分しか無いんだぞ?
5分前ぐらいには、出とくべきだろ? 充分遅刻だぞ……」
ギリギリまで、仕事に出ようとしないずるい大和と山田に、葵はそう言い捨て、教室の扉に手をかけるとガラガラと音を立て、扉を開けて教室から出て行った。
葵が出て行った後も、大和と山田は、着替えの速度をあげる事無く、時にはケータイを弄りながら、葵の愚痴を言いながら、チンたらと着替えをしていた。
「な、なんて奴だ……。
自分だけは、ちょっとだけ早めに出て、いい子ちゃんアピールをしに行きやがった……。
いくら、女にモテたいからってそんな媚びるマネ…………」
「ホントだぞ……、なぁ、中島??」
先程まで険悪な雰囲気を出していた2人だったが、すぐに共通の敵を見つけるなり結託し、仲良く話していた。
そして、もう1人の同胞に大和が声を掛けながら、先程まで同胞が居たはずの方向へと視線を向けた。
「え……? あれ? 中島は??」
大和が視線を向けると、そこには同じ志を持っていたはずの同胞、中島の姿は無かった。
大和が腑抜けた様子で、山田に問いかけると山田も知らない様子で、首を横へ振った。
「あ、あいつ…………、裏切りやがった…………」
大和達と同じで、チンたらと着替えていたはずの中島は、葵が先んじて教室から出るのを知ると、あっさりと大和達を裏切り、そそくさと葵の後を追うようにして、教室から出ていっていた。
「なんて奴だ……アイツら……。
…………って、ヤバいぞッ? 神崎。 もう、時間過ぎてるッ!」
「マジかッ!? 俺、全然着替えてないんだどッ!」
◇ ◇ ◇ ◇
葵は着替えのために、借りている空き教室から2-Bの教室へと戻ってきていた。
店番のため本来であれば、着替えは必要無い葵だったが、ミスコンに出ており、ミスコンが終わってから今まで、『ミルジュ』が貸し出ししていた衣装を身にまとっていたため、着替えが必要だった。
2-Bの教室は未だに盛り上がっており、行列も先程見た時と変わらず、それどころか、少し行列が伸びている気すらしていた。
(なんで、もう桜祭も終わりに近づいてるのにこの盛況なのかね……)
ミスコンで疲労している葵は、行列を見て当番に入る前から、若干余計に疲れを感じていた。
そんな行列を見て、少し足取りが重くなっていた葵の耳に、不意に並んでいる桜木高校の生徒達の声が聞こえてきた。
「いやぁ〜……、ミスコンほんと見てよかったねぇ〜。
その代わり、お化け屋敷に行くのにちょっと出遅れちゃったけど……」
「ねぇ〜! みんな凄い可愛かったし、私も出れば良かったとか思っちゃった……。
明日は、『ミルジュ』だっけ? あそこのプロのスタイリストさん達がメイクとかやってくれるみたいだから、今日中にある程度、行きたい所潰さないとねッ!!」
行列に並ぶ女子生徒の声を聞き葵は、これから降り掛かる苦行は全て、自分の行いから来るものだったのかと再認識し、大きくため息を付いた。
そんな、暗く、疲れた雰囲気のまま歩いていると、葵は後ろから軽く、2度肩を叩かれた感覚を感じた。
雰囲気をそのままに、後ろへ振り返るとそこには、少し息を切らせた中島の姿があった。
「立花、歩くのはえぇよ……」
中島は、葵を追うのに少し走ったのか、愚痴を零しながら、息を整えた。
「来たのか……。てっきり、大和達とサボるかと…………」
「まぁ、サボりたいのはあるけど、お前が出るんじゃ、女子からの評価が下がるだろ??」
「はぁ〜……、そんな理由か……。
真面目にやる気は無いんだな…………」
中島はまるで、当然だろと言わんばかりに、堂々とキッパリと答え、葵はそんな理由を聞いて、損したと言わんばかりにため息を付いた。
「そういや、もう慣れたんだな?」
「へ? 何が??」
「いや……、この格好……」
葵は、両手を少し広げ、自分の今の姿を再確認させるようにして、中島に問いかけた。
葵の今の姿は女性そのもので、ミスコンからメイクとウィッグも取っていないため、ただ2-BのクラスTシャツを着た、桜木高校の女子生徒のようにしか見えなかった。
美しさは、先程評価された見た目そのままだったため、葵の女装に戸惑い、距離を置いていた中島が普段通りに接してきた事で、それが疑問だった。
「ま、まぁ……、まだちょっとアレだけどな?
普通に、話すくらいは出来るぞ?」
「まだちょっとアレって……なんだよ。
襲われたりしたらシャレにならないぞ?」
「そ、そうだよな……。ど、努力するよ…………」
葵の問いかけに中島は、心細い声で答え、その答え方から葵は不安でしょうがなかった。
「あぁ〜ッ! やっと来たぁ! 男子ッ!!」
中島と葵が会話をしながら教室へと近づくと、女性の大きな声が聞こえてきた。
その声は少し苛立ちを含んでおり、葵達に敵意のようなものが向いているのが、声からして分かった。
「あッ、ごめんごめん。
ちょっと、着替えに時間かかっちゃって……、予定だともう来て、交代してる算段だったんだけどね〜……」
女性の声に、中島はすぐさま弁明するように答えたが、中島の答えは胡散臭くてしょうがなかった。
「嘘ばっかり……。
どうせ、サボろうとしてたんでしょ??」
女性生徒は、スグに中島達の魂胆を見破り、呆れたように声を上げた。
女子生徒の言い方からして、葵もそのサボりの仲間であろう言い方をしており、葵は思わず声を上げた。
「あ、あぁ〜……悪い……。
ミスコンとかの後片付けがあって少し遅れた。スグ交代するから……」
葵は、ミスコンの仕事やら、佐々木の思わぬ頼みやらで、時間を取られ、ここに来るまで遅れてしまった理由があった。
「えッ……? あ、あぁ〜、そう……。
別にそれならいいけど……」
素直に謝罪し、率先して自分から当番の交代の話を切り出した事で、女子生徒は、意外そうな口調で、珍しいものを見るように葵にそう答え、隣にいた中島も、意外そうな目で葵を見ていた。
「え、えっとぉ〜。 ちょっと聞づらいんだけど、もしかして、それで店番する感じ?」
女性は続けざまに、葵を指さしながら、聞きづらそうに葵に尋ねた。
「え? そうだけど……。
別に問題も無いだろ? 寧ろ美人が店番って時点で、プラスだろ?」
「フフフッ……、自分で美人とか言っちゃうんだ。
まぁ、確かに美人なんだけど……。とゆうか、私よりもちょっと可愛くて腹立つ……」
葵は当然だろと言わんばかりに、女子生徒に答え、女子生徒はコロコロと表情を変えながらも、結果的には葵の女装での店番に反対はしなかった。
「なんか、立花って最近変わったよね……。
昔に比べて、ちょっと取っ付き安くなったというかさぁ〜……」
「別に普通だろ……。なぁ? 中島」
女子生徒は、笑顔を浮かべながら、葵にそう問いかけると、葵は特に意識していなかったため、不思議そうに、そんな事無いだろうと中島に同意を求めた。
しかし、葵の考えとは裏腹に中島も葵とは違った考えを持っていた。
「いや、俺もさっき思った……。
お前が素直に謝るのってあんまり無いし……」
「いやいや、俺ってどんだけ嫌な奴なんだよ……」
葵は、冗談だろと言わんばかりに軽く笑い飛ばすようにして、答えたが、中島とその女子生徒は葵のその言葉に即答で反応した。
「嫌な奴でしょ?」
「嫌な奴だったよ、特に女子に対して……」
「即答かよ……」
女子生徒と中島は息のあった様子で、素早く葵の言葉を否定し、葵はそんな2人の答えに、少し傷付いていたりもした。
「だってねぇ? 私、今初めて立花と笑いあって話したし……。
最近じゃない? えっとぉ〜……、橋本さん?とか、紗枝とかと仲良くしだした辺りから……」
女子生徒の答えは、葵にとって意外で、初めて笑いあってこの女子生徒と話をしたのかと驚いていた。
葵はそのまま、この女子生徒と過去に関わった事が無いかと、記憶を辿り始め、考え込むようにして難しい表情を浮かべた。
そんな葵に、女子生徒はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、話しかけた。
「どうしたの〜、立花〜。可愛い可愛い紗枝ちゃんにでも、仲良くしなさいとでも言われたの〜??」
「そうゆうのいいから、早く引き継ぎしろよ」
女子特有のこういった煽りが、姉の蘭から常に受け続けてきた葵にとって、苦手であり、ムッとした表情を浮かべ答えた。
「怒った?」
「怒ってるね」
不貞腐れた様子で、2-B教室へと入っていく葵を見つめ、女子生徒は葵と仲の良い中島に親しげに尋ねると、中島もまたそれに答えた。




