俺より可愛い奴なんていません。4-12
佐々木 美穂に葵が強引に連れ去られた後、美雪や綾、紗枝達は、会場裏にしばらく居た。
4人で楽しく、色々な話題を談笑し合い、時間が経つと、美雪は友人である晴海や亜紀の元へと行く予定があると、その場を離れ、蘭もまた、椿や結と合流するため、その場を離れていた。
舞台裏には、未だミスコンを終え、話し込んでいる生徒達が居り、美雪や綾もその中の1人だった。
それほどまでに、ミスコンの出来が良く、参加していた女性達の興奮も簡単には、冷めなかった。
記念撮影と称して、写真を取り合ったり、参加はしていない自分の仲間を集め、改めて話し合ったりと、ミスコンの終わった状況でも、未だに活気づいていた。
「美雪も、立花のお姉さんも行っちゃったね〜……。
これから、どうする? 紗枝」
美雪と蘭を見送り、その場に2人きりになった綾は、紗枝に今後の予定を尋ねた。
「う〜ん……、クラスの方の仕事も、今日はもう無いし、2人でまわっちゃおっか?」
「だねッ!」
紗枝の提案に、綾もこの後、スケジュールが空いていたのか、元気よく、清々しく賛成した。
ミスコンに参加する生徒は、初日のクラスでの出し物の仕事を免除されていた、葵だけは運悪く、初日にもクラスの出し物を手伝わなければならなかったが、葵以外は基本免除になっていた。
「立花、1年の時とかは、こういった行事でもやる気なさそうに、サボってばっかりいるイメージだったけどさ、今年は忙しそうだよね。
バチが当たったのかね」
綾は、暇になって回れる自分たちと、ミスコンが終わっても忙しそうにしていた葵を比較し、皮肉っぽく笑うようにして話した。
「そんなこと言っちゃ、立花君可哀想だよ。
別に、去年の頃もそこまでサボってはいなかったよ?」
「えぇ〜〜……、嘘だぁ〜…………。
私、めちゃくちゃ仕事押し付けられた嫌な記憶があるんだけど…………」
紗枝は真顔で、まるで真実を話すかのように葵をフォローしたが、綾は実際、去年に葵に仕事を押し付けられた経験があり、紗枝の言葉を信じはしなかった。
「去年のクラスでやった、屋台二店のたこ焼き屋は最悪だったよぉ……
、店番は、立花と同じグループになっちゃうし…………。
食料をスグに私に買いに行かせるし……、ごみ捨てとかも私に行かせるし……。
鉄板を私にも寄越せよぉッ! 思い出しただけでむしゃくしゃする……」
「それは綾が、真面目な出し物なのに、たこ焼きロシアンルーレットとかいって、中身にカラシを入れたのを、お客さんに出したりするからでしょぉ?
知り合いに出したつもりが、全く知らない人にそれを提供してるし……。」
綾は、去年の出来事を思い出しながら、葵に対してイラつきを見せていたが、それはお門違いな苛立ちであり、紗枝は当時の綾の悪ふざけを指摘した。
紗枝や綾、葵は去年同じクラスであり、当然文化祭も同じ出し物を協力してやっていた。
初めは、たこ焼き屋一店の予定だったが、余裕が出来たことにより、お好み焼きの屋台も出していた。
去年のクラスは、積極的な生徒も多く、優秀な紗枝がクラスを率いていた事もあり、どちらの屋台も大盛況だった。
そんな中、綾はもっと盛り上げようと、知り合いに出す限定で、たこ焼きロシアンルーレットなるものを提案し、綾に乗っかるように悪ふざけをする生徒も数人、協力しだした。
それはそれで盛り上がっていたのだが、謝ってまるで関係の無い、ただ桜祭を楽しみに来ていた来場者にまで、綾はそれを出してしまい、それを食べたおじさんに、綾や悪ふざけをした生徒達は、ど説教を食らっていた。
「ウッ……! だ、だとしてもだよ?? あまりにも立花は、人使い荒かったよぉ〜……」
綾は、容赦なく紗枝に嫌な思い出を思い出させられ、嫌そうな表情を浮かべた後、紗枝に縋るように、葵の暴君ぶりを訴えた。
しかし、今の綾にはまるで説得力が無く、紗枝はそれを信じなかった。
「立花君が居たからこそ、たこ焼き屋は何とか成功したんだよ。
綾達に任せられないからって、その日はずっとたこ焼き焼いてたし……」
「ムムッ……。
で、でも、あの時の立花って凄い似合ってなかったよねッ!
普段、絶対あんな感じのエプロンしないしさぁ、クラスで決めた服装だからって白いハチマキもしてたしさッ!」
紗枝にトドメの一撃と言わんばかり、葵の当時の頑張りを言われ、遂に綾はぐうの音も出なくなった。
この話題では分が悪い綾は、明らかに話題を変えるようにして、話し始めた。
「う〜ん、そうかなぁ?
凄く似合ってたけど…………カッコよかったよ……」
綾の強引な話題の切り変えでも、紗枝は特に指摘する事無く、真面目に答えた。
しかし、紗枝のその答えは、綾にとってあまりにも意外な答えだった。
「へ…………?」
「え…………?」
綾は驚いた表情を浮かべながら紗枝見つめ、思わず声を漏らし、紗枝も綾の反応が気になり、綾の顔を見つめ返し、少しの間、何も言わずにお互いの顔を見合わせていた。
すると、紗枝は自分が思わず口走った言葉をだんだんと思い出し、それに比例するように、どんどんと顔が赤く染まっていった。
「い、いやッ! べ、別に変な意味じゃないよッ!?」
紗枝は、必死に何かを否定するように綾に答えたが、明らかに動揺が見て取れた。
綾は、社交的でありながらも、男子に対してあまり好意など無く、ましてや、紗枝の口から身近のクラスメイトをカッコイイなどと言った事が無かったため、その紗枝のそんな態度を初めて見ていた。
「だ、だよね〜ッ……!! さ、流石にねぇ〜ッ……!」
長い付き合いの紗枝の初めて見る表情と態度に、綾までも動揺し、何かある事は誰の目から見ても明らかだったが、全ての疑問を無視するように、ただただ紗枝の言葉を肯定した。
そして、綾は自分から振った話題ではあったが、この状況が耐えられず、再び話題を変えて話し始めた。
「あ、そ、そういえばッ!
さっきしつこくナンパされたんでしょ〜?
も〜……、いつも言ってるじゃんッ! 紗枝は意外と押しに弱いんだから、長々となる前にキッパリと断らないとッ!!」
「あ、そうだった。気をつけるよ…………」
綾の話題の展開で、紗枝は少し落ち着きを取り戻し、素直に心配してくれている綾に謝罪をした。
「ホント、気をつけてよ〜……。
今回ばっかりは運が良かっただけかも知れないし……」
「うん。立花君が助けてくれたから……ね…………」
話題を逸らした綾だったが、再び紗枝の口から葵の名前が飛び出すと、内心で「しまった」と思いながら、紗枝の様子を伺うように視線を向けた。
すると、紗枝は先程の動揺っぷりが嘘のように落ち着いており、しかし、何かを考え込むように真剣な表情をしていた。
顔は真剣な表情を浮かべているのに、何故か顔は少し赤く染まっており、そんな紗枝の表情を見ていた、綾は心の底から嫌な予感がし始めていた。
それは、紗枝をよく知る綾だからこそ、感じられたもので、昔から紗枝は真剣な表情を浮かべ、静かに考え込むと、自分の中でしっかりとした、ハッキリとした答えが見つかるまで、考え込む癖があった。
綾は、紗枝にその答えが見つかる事を恐れていた。
そんな綾の心情をお構い無しに、紗枝は考え込み、そして、考えがまとまったのか、ゆっくりと顔を上げ、両目でしっかりと綾を捉えていた。
「綾……、私もしかしたら好きなのかも…………。
どうしよう……。」
紗枝は、真剣な表情でそれでいて、何処か不安そうに綾に告白した。
「…………マジ……?」
綾は、何となく分かってはいたが、心のどこかで思い違いだと考えていた。
しかし、紗枝にハッキリと口にされた事でそれを確信し、心の底から思った事を口にする事しか出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
人気の無い体育館裏へと連れてこられていた葵は、佐々木と対峙していた。
佐々木に思いもよらぬ一言を言われ、葵は少しの間、頭が真っ白になったが、いつもの調子を取り戻していた。
「はぁ……? なんで俺が女に興味持たなきゃいかないんだ?
俺の方が美しいのに…………」
葵は少し意地になりながらも、淡々と佐々木に文句を伝えた。
「認めない気かよ……。好意が無けりゃお前なんかが、女子の態度変えるわけ無いだろ」
「別に好意があるわけじゃない、一概に女といっても面倒臭い奴ばっかりじゃないんだなって、見方を変えただけだ…………」
佐々木は認めない葵に対してムキになり始め、葵も意地でも認めなかった。
「ふ〜ん……。じゃあ、今回の優秀賞の権利で、北川達と遊んで、お前の想い人が、取られてもいいんだ…………」
「は…………? 別に、俺には関係の無い事だ……」
「北川はそんなんじゃなくても、里中とか馬場とかは、相手の女の子がそういうつもりじゃ無かったんだとしても、手を出しちゃうかもね〜? あいつら結構遊んでるし…………」
佐々木は、しつこく葵を挑発するように、話し続けた。
全く動じないように務めていた葵だったが、佐々木の頑張りもあってか、初めて嫌そうな表情を浮かべ、舌打ちをした。
葵の頭の中では、里中や馬場などに絡まれている美雪の姿がチラついていた。
「分かったよ……。協力するから、もう余計な事を言うな」
葵は、これ以上は面倒だと思い、ダルそうにしながら認めるように呟いた。
あくまでも、佐々木が絡んでくるのが面倒だから、真実では無いが諦めて、認めたといった言わんばかりの態度を取る葵は、意地でも心の中では認めないといった様子だった。
佐々木にもそれは、感じ取れたが、これ以上葵に何かを言うことは無かった。
そもそも、優秀賞を5位までの参加で認めてもらっているおり、葵にここまで絡んだのは、当日の北川達との食事会で、自分の良いように、葵に協力してもらう魂胆があったからだった。
協力するとの言質が取れた時点で、佐々木は葵に絡む必要は無くなっていた。
「言ったな? 当日、私に協力してもらうからな?」
「分かってる。 もう行くぞ?」
佐々木は念を押すように葵に言うと、葵は嫌々ながら、佐々木の恋路に協力する事を約束した。
「たく……、なんで、色恋如きでそこまで出来るかね……」
葵は面倒そうに一言呟き、その場を後にしようとすると、そんな葵の背中に佐々木の大きな声が掛けられた。
「それだけ真剣なんだよッ!!」
佐々木の声に、葵は答えることなくその場を後にしたが、葵には佐々木の言葉が心に刺さっていた。
男遊びが派手であるという噂があり、そして、その噂通り、彼氏を取っかえ引っ変えでモテる佐々木が、何故そこまで真剣に打ち込むものかが、葵には理解する事が出来なかった。
しかし、自分の気持ちを嘘偽り無く、堂々と宣言できる佐々木を羨ましくも感じていた。




