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俺より可愛い奴なんていません。4-11

桜木高等の体育館裏。


あおいが、佐々ささき 美穂みほに強引に引っ張られ、連れてこられたのは人気のあまり無い、体育館裏だった。


桜祭おうさいの真っ只中だったが、体育館裏はいつもどおり、人気は無かった。


「な、なんだよッ! こんなとこまで引っ張りやがって!!」


葵は、これから生徒会長と少し話をした後、自分のクラスの出し物での役割を果たしに行かなくてはならず、とても暇ではなかった。


イラつきを含んだ声色で、葵は佐々木に言い放つように声を上げた。


ここまで歩きで来たが、かなりの速いペースで歩いてきたため、佐々木は息が上がっており、少し息を整えるようにして呼吸をした後、葵に再び向き直った。


「優秀賞の景品ッ!!」


息を整えた佐々木だったが、まだ多くの言葉を喋りたくは無いのか、かなり端折り、葵に向かって言い放った。


「はぁ?」


「だから、優秀賞の景品だよ! あの内容変えろッ」


葵は最初、佐々木が何を言ってるのか理解できなかったが、段々と佐々木の言いたい事を理解してきていた。


「景品? あの、北川きたがわ達と一緒に飯食うヤツか?」


「そ、そうだよッ!!」


葵は不思議そうに尋ねると、佐々木は少し恥ずかしそうにしながら、照れ隠しをするように強く答えた。


「あれがどうしたんだよ……」


葵は、色々と朝からあったため正直疲れており、これから面倒な事になりそうだと予感し、ここに来て疲れがどっと現れ、気だるそうに尋ねた。


「どうしたもこうしたもねぇよッ!!

今からあれの内容変えろッ!」


「はぁ? なんで…………」


「いいからッ!!」


佐々木は理由を述べたくないのか、ただ要望だけを葵へと伝えた。


「理由も無く帰られるわけないだろ…………。

ん?……お前、もしかして…………」


駄々をこねているようにしか見えない佐々木を見て、葵は一つ思い当たる事があった。


しかし、それはあまりにも普段の佐々木の振る舞いからだと、結びつかなかった、それでも、一か八か、葵は続けて、佐々木に尋ねるようにして話した。


「北川との食事、行きたいのか……?」


葵が恐る恐る尋ねると、佐々木は分かりやすい反応を見せた。


葵から顔ごと視線を逸らし、斜め下の方を見ていたが、葵から少し佐々木の顔が見えており、佐々木の顔は少し赤くなっているのが分かった。


(おいおい、あの時は用意出来る景品が思いつかなくて即興で、作った景品だったのに……、ここにまさか刺さる奴がいたとは…………)


葵は優秀賞の景品の内容が需要が無いとは思わなかったが、それでも興味の無い人には、まるで魅力ないものだったため、景品としては弱い部類に入ると考えていた。


「わ、悪いかよッ!! ずっと好きだったんだよッ! 北川がッ!!」


「ま……、マジか…………」


佐々木はキレており、顔を上げるなり、葵に言い放ち、普段の遊び慣れている佐々木からそんな乙女チックな言葉が出るとは、葵も想像もつかなかったため、動揺を隠しきれなかった。


「そ、それは、悪かった…………」


葵は、間接的だとはいえ、佐々木の恋路を邪魔した事には変わりなかったため、素直に佐々木に謝罪をした。


北川達は、女子からかなりの人気があるため、こういった事がありうる事は、想像出来ていた。


「謝罪で許されるわけねぇだろ……。いいから、内容変えろ!」


葵の謝罪は受け付けられず、佐々木は内容を変えろと一点張りだった。


「分かった……、なら、今回の優秀賞の中で多分、この件に興味の無いやつがいるはずだから、そいつと変わらせるって事でいいだろ?」


「ダメだ……、そんな事して変な印象持たれても困る……。

アタシ不良だし、脅迫したとかそんな風に思われる…………」


「お、おいおい……、お前、ホントに佐々木かよ……」


葵の代案は、佐々木には受け入れられなかった。


佐々木の今の悩みは、普段の彼女からは想像出来ないほどに、乙女チックで、学校の不良にはまるで見えなかった。


「内容変えるしかねぇんだよ! いいから変えろッ!」


「わぁかったッ! 分かったからッ!

考えるからちょっと落ち着けッ!」


しつこい佐々木に、遂に葵が折れ、今更内容を変えるのもおかしかったため、何とか佐々木の納得する方法を考え始めた。


しかし、疲れているせいか、上手く考えが出なかった。


2人は黙り込み、数分の間、沈黙が流れた。


そして、考えが出たのか、佐々木が口を開き沈黙を破った。


「おい……、なら、

今回の景品の件、5位までにしろよ」


「は……?」


「だからぁ! 今回の順位の5位である私と……、お前も参加ってことッ!!」


佐々木の急な提案に、理解出来ていない様子でマヌケな声を上げる葵に対して、佐々木は少しだけ具体的に、そして、不服そうな表情を浮かべながら、葵への参加も促せた。


「嫌だよ……。なんで、せっかくの休日にお前の頼みで俺まで付き合わなきゃいけねぇんだよ……」


「はぁッ!? お前、アタシに借りがあんだろ? それぐらい譲れよ!!」


「マジか…………。はぁ……、めんどくせぇ…………」


葵は、佐々木の提案を否定したが、ミスコンに出てもらった手前、そして、それ以外にいい案も浮かばなかったため、従う他無かった。


「ため息なんて付いて…………、別にアンタにしたって悪い話じゃないでしょ?」


「は? 何言ってんだ?」


佐々木の発言は、終始自分勝手な言い分に聞こえていたが、佐々木の葵にも利点があるような言い方に、引っかかり、葵はまるで心当たりがなかった。


「別に、とぼけなくても分かるわよ……。好きなんでしょ?」


「は……?」


葵は佐々木の言葉に、頭が真っ白になった。


そんな、葵に容赦なく佐々木は続けて話した。


「今まで、女子に対してむやみやたらと冷たい態度を取っていたアンタが、ここ最近になって急に態度が変わったのは、誰だって分かるよ

少なくとも、私には分かった……」


佐々木の言葉は、葵に次々と突き刺さり、否定したい気持ちはあったが、いつもの調子で言葉は出ず、ただ冷や汗だけが流れていた。


「ほら、図星だ…………」


何も言い返せない葵を見て、佐々木はニヤリと微笑みながら、呟いた。

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