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俺より可愛い奴なんていません。4-10

「いやぁ〜、みんなお疲れ〜ッ!

葵は残念だったね〜〜」


らんはニコニコとしながら、話しながら美雪みゆき達の方へと歩いてきた。


蘭の言葉に、あおいは、先程のあやの言葉以上にイラッとしたが、声には出さなかった。


「あ、立花君のお姉さん……、こんにちは」


フレンドリーに話しかける蘭に、挨拶をまだしていなかったと気づいた紗枝さえは、蘭に挨拶をすると、綾も美雪も続いてそれぞれ挨拶をしていた。


「おぉ〜ッ……、どもどもッ、葵のお姉さんです」


「何しに来たんだよ……」


ニコニコと楽しそうに話す蘭に対して、葵は明らかに不満そうな表情を浮かべながら呟いた。


「そりゃあ、お祝いだよ! みんな凄い可愛かったよぉぉ〜ッ!

お姉さん来て正解だったッ!!」


蘭は、未だにミスコンの盛り上がりによる興奮が冷めていない様子で、3人に向かって話しかけていた。


そんな蘭の言葉に、美雪達はそれぞれお礼の言葉を返して答えていた。


「えぇ〜と、綾ちゃん……?は、今回最高に衣装がハマってたねぇ〜ッ……。

綾ちゃんの良いところを余すこと無く伝えれてる発表だったんじゃないかな? ああいう元気いっぱいで可愛い子に応援されたら、男なんてイチコロだよぉ〜……」


「え、えへへ……。ありがとうございますッ……」


「美雪ちゃんは、言わずもがなだね! 最初、舞台に上がってきた時はちょっと緊張してる様子だったからヒヤヒヤしたよぉ〜……。

でも、途中から凄い堂々として、ホント、プロのモデルさんかと思っちゃったくらいだよッ!!」


「い、いえいえ……、そんな事は…………」


蘭は綾の方へと視線を向けると、ミスコンで感じた自分の感想をしっかりと伝え、褒めに褒めていたため、綾は恥ずかしそうにしながら顔を少し俯むかせながら答えていた。


綾への感想を伝えると、今度は美雪の方へと視線を向け、綾と同じように感想を伝えていた。


そして、蘭は紗枝の方へと視線を向けた。


紗枝のコーディネートをしたのは葵であり、紗英もそうだが、葵も何を言われるのか気になり、少し緊張していた。


「紗枝ちゃんは流石だねッ!! ミスコン始まる前に構内をウロウロとしてたんだけど、紗枝ちゃんってこの学校のアイドルなんでしょ?

完璧にどれも着こなしてたし、どれも可愛いくて凄い良かったよッ!」


「が、学校のアイドルなんて……、そんな事ないですよ」


蘭は、他の2人と同様に紗枝を褒めちぎり、紗枝も美雪と同じように少し謙遜した様子で答えていた。


その中で、蘭が紗枝に放った感想で葵は少し引っかかる事があった。


(勘違いか? 衣装に触れてねぇな……)


しかし、美雪や綾、当人である紗枝の姿がある前で聞くことでは無かったため、聞き返したい思いをグッと堪え、その光景をただ見つめていた。


「ん? 何、何? 葵ちゃんも何か褒めて欲しいのかな??」


蘭に対して、グッと堪えていた葵だったが、表情に出ていたのか、強ばった葵の表情を見て、蘭はニヤニヤとニヤついた笑みを浮かべながら、葵にちょっかいを出すようにして、話しかけた。


「別に……。俺は、優秀賞入ってねぇし……」


葵は、蘭の悪意のこもったニヤついた笑顔を見て、不機嫌に視線を背けながら、愚痴を吐くようにして答えた。


「立花さんが、拗ねた…………」


葵の愚痴が拗ねているように聞こえたのか、美雪は珍しいものでも見たような表情で呟いた後、その行動を見て笑っていた。


「立花でも、お姉さんの前ではタジタジなんだね〜」


「そうなんだよ、あんなクールな感じで意外と思春期の男の子なんだよぉ〜……。

結構可愛いところあるでしょ?」


綾がからかうように呟くと、蘭はそれに乗るようにして、楽しそうに答えていた。


「はぁ……、俺、生徒会長と話あるからもう行くぞ?」


葵は自分が、ミスコンで優秀賞に選ばれていないこの状況で、これ以上、姉の蘭に絡まれたら面倒だと思い、生徒会を言い訳にこの場から離れようとした。


「えぇ〜〜……、もう行っちゃうの??

せっかく、お姉ちゃんが慰めに来たあげたのにぃ〜……。

あッ……、葵の感想まだ言ってなかったねッ? 聞いてく??」


明らかに不機嫌そうな葵を見て、蘭はますます意地悪したくなり、可愛い弟をいじめる様にして、ニヤニヤと笑みを浮かべながらわざとらしく伝えた。


美雪や紗枝、綾も、いつもふてぶてしい葵が、いいように言いくるめられているのを見て、微笑んでいた。


「はいはい、後でな……」


そんな蘭に、葵は心底面倒そうな表情を浮かべながら、適当に流しながら、その場を離れようとした。


そして、葵がゆっくりとその場から離れようとしたその時、大きな女性の声が、葵達に降り掛かった。


「立花ッ!」


その大きな声は、葵を止めるには十分な声で、近くにいた美雪達もその声に反応し、声の方へと視線を移した。


そこには、何やら紙を持ちながらこちらへと向かってくる佐々ささき 美穂みほの姿があった。


美雪達は当然、あまり接点の無く、おそらく葵を嫌っているであろう佐々木が何故、葵に向かってきているのか分からず、当事者である葵もまた、分からなかった。


トラブルの匂いしかしない状況で、遂に佐々木は葵の前までやってきた。


「ねぇこれッ!! 見てッ!!!」


佐々木は、葵の前まで来るといきなり、手に持っていた紙を葵に見せつけた。


いきなり来て、更に命令形で強く言われた事に、葵は少しイラッときていたが、自分を嫌っている佐々木がわざわざ、自分の所に訪れた理由の方が気になり、紙へと目を落とした。


「……ッ! お前、これ、どこで…………?」


葵は紙を見るなり、驚いた表情になり、佐々木に問いかけた。


それもそのはず、その紙は生徒会などのミスコンの関係者しか持ちえない物で、紙にはミスコンの投票の結果が細かく記載されている物だった。


「そんな事どうでもいいだろぉッ! それより内容ッ!!

有り得ないっしょッ!? こんな結果!」


佐々木はミスコンの結果に納得がいっていない口調で話し、葵は佐々木に指示されるまま、ミスコンの結果が書かれている紙へと視線を向けた。


ミスコンの結果は驚く程に、票が入っており、美雪と紗枝が80票と一つ頭が抜けていたが、そこから下の4人はそれほど対して大きな差は無かった。


一応、結果で言えば、2位に選ばれた綾が69票であり、3位が65票で七城ななしろ 葉月はづきとなっていた。


そして、その下に64票と佐々木 美穂の名前と、同じく64票を獲得している立花 葵の名前があった。


(俺は5位だったのか……、もっと低いかとすら思ってた…………。

姉貴の奴もなんか微妙な反応だし……)


会場は大盛り上がりで、自分がコーディネートした紗枝も自分自身も、歓声をたくさん貰えてはいたが、たくさんのプロを相手にして、色んなコーディネートを見る中で、葵は少し、自分のセンスに不安を感じてもいた。


しかし、いくら結果を見てもおかしな点は、葵には見つけられなかった。


唯一、葵にとっておかしな点と言えば、葵の票数の割合が男子よりも圧倒的に女子の方が多かった事だった。


男子を誘惑するような演出や、少しの間だが、票を集める時、男子に色目を使ったりだとかは、したはずだったが、それでも、3割以上で女子の票の方が多かった。


「で? これの何がおかしいんだ?」


葵は自分の票の箇所に疑問を感じつつも、今はそれを放って置き、佐々木におかしな点を尋ねた。


「はぁ!? おかしいに決まってるでしょ!?

なんで、アタシが5位なのよッ!? 男子からの票だって二宮並に貰えてるしッ!

第一、なんでアタシが加藤や橋本なんかより下なのよッ!! 有り得ないでしょッ!?」


佐々木は、興奮した様子で、力強くこのミスコンの結果を否定した。


確かに、桜木高校に通う生徒であれば、この結果は少し意外だったかもしれなかった。


綾も美雪もかなり可愛い方の部類ではあったが、普段の生活ではやはり、学校の高嶺の花とも呼ばれる佐々木の方が、人気があり、美人だという声は多いはずだった。


しかし、それは普段の生活での話であり、この場に置いては、結果に出ているように、綾と美雪の方が魅力的に映っていた。


「いつも地味な橋本や、ぺちゃパイの加藤なんかに私が負けなきゃいけないわけッ!? こんなの認めないッ!!」


佐々木は相当納得いっていない様子で、激しく言い放った。


佐々木の言葉が刺さったのか、綾は自分の胸に手を置き、佐々木を鬼の形相で見つめ、一方で美雪はそこまで気にしていないのか、そんな綾を宥めるようにしていた。


「さ、佐々木さん……、いくらなんでもそれはッ……」


佐々木のトゲのある言葉に、親友を悪く言われた事が気に入らなかったのか、紗枝が珍しく、少し怒りを含んだ様子で声を上げた。


しかし、紗枝の言葉は続かなかった。


「佐々木……。加藤のペチャパイは知らねぇけど……、お前も気づいてるんじゃないか?」


紗枝が声を上げた所で、それを遮るようにして、今度は葵が佐々木に言い放った。


「な、何をよッ…………」


佐々木は、少し動揺した様子で、葵に向かって聞き返し、葵はそんな佐々木に淡々と話し始めた。


「俺もここまでして、アイツらに負けたんだ……。

お前だってそうだろ? 普段のお前よりも数段仕上がってる状態で舞台に上がったんだ……、ミスコンが始まった当初の時は、自分の今の出来に不満なんて無くて、勝利しか確信してなかったはずだ……。

だけど、負けた…………。もう、これ以上言わなくても分かるだろ?」


葵は、まるで諭すような口調で、佐々木に語りかけ、葵の話し方に佐々木は段々と苛立って来ているのが、誰から見ても感じ取れていた。


「ふッ……、ふっざけんなッ!! 認めるかッ!!」


「うるせぇッ! 認めろッ!

今のアイツらは誰よりも輝いてるッ! お前や俺なんかが選ばれるわけねぇだろッ!!」


聞き分けの悪い佐々木に、遂に葵は大声を上げた。


普段大声なんかを出さない葵が、大声を上げた事で、紗枝と綾は驚いた表情でその光景を見つめていた。


美雪は幸いにも、東堂とうどうとの一件で、そんな葵の姿を見ていたため、そこまで驚かなかった。


「へぇ〜……、あの露骨に自分が美しいと言い張る葵が、素直に負けを認めるなんてねぇ〜……」


葵と佐々木が言い争う中で、1人その状況を冷静に見つめていた蘭は、面白そうに呟いた。


蘭の呟きに、紗枝と綾は気付かなかったが、美雪は蘭の呟きを聞き逃さなかった。


そして、蘭の呟きを聞いた上で、再び葵の方へと視線を戻した。


「ふざけんな……、諦められるか…………。

北川きたがわとの…………」


佐々木はそう一言呟いた後、顔を上げ、葵の事を睨むようにして見つめた。


佐々木の目は少し赤くなっており、佐々木を正面から見つめていた葵は、佐々木の目が少し潤んでいるのが見えた。


葵は、そんな佐々木に驚き、少し呆気に取られていると、佐々木に素早く自分の腕を掴まれた。


「はッ!?」


「ちょっと、こっち来いッ!!」


葵は、突然の現象に思わず声を上げたが、そんな葵を無視して、佐々木はそう言い放つと、葵の腕をぐんぐんと引っ張っていき、歩き出した。


「は? ふざけんな! 俺はこれから仕事があんだよ!」


「黙って言うこと聞け! ミスコン出てやっただろッ!?」


「なッ! お前、ずるいぞッ!!」


葵は抵抗しながら、そう叫んだが、佐々木に葵の言い訳の出来ない事を言い返され、そのまま佐々木に腕を掴まれたまま、為す術もなく、何処かへと連れ去られて言った。


そんな、あっという間の出来事に、その場にいた美雪達はしばらく呆然とし、沈黙が流れていた。


「連れてかれてしまいましたね……」


「葵も意外と大変ねぇ〜……」


数分の間の沈黙を破るようにして、美雪が力無く呟くと、蘭は葵の不幸を見て、楽しそうに笑いながら呟き、答えた。


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