俺より可愛い奴なんていません。3-17
「それではッ!! お次は、2-B組、加藤 綾さんのご登場ですッ!!」
ミスコンの司会、大貫が高らかに宣言するように、声を上げると、今まで出てきた娘達とは違い、綾は堂々とした様子で笑顔で元気よく、手を振りながら舞台へと出てきた。
その姿は、正しく天真爛漫といった言葉が良く似合った。
綾の登場での歓声は大きく、今まで聞いた歓声の中では佐々木 美穂が、登場した時が1番の歓声だったが、それに負けず劣らずの大きな歓声だった。
「いやぁ〜、加藤さん。素晴らしい歓声ですね!」
綾が大貫の隣まで来ると、大貫はこの盛り上がりに満足しているような様子で感想を漏らし、返事を来れといった様子でマイクを綾の方へと傾けた。
「へへへッ……そうですね。なんかぁ……照れるなぁ……」
綾は調子よくニヤニヤとしながら、片手を頭の後ろに持っていき、摩りながら答えた。
大貫が質問し、綾が答えるといった形で、1本のマイクが2人の間を交互に傾きながら、話は進んでいった。
「登場での、この歓声。ある程度、自信が出てきたのでは?」
「そうですね。実はお仲間からさっき、可愛いって言われたんで……割と自信たっぷりに出てきちゃいましたかね……?」
大貫の質問に、綾は何処か照れくさそうに答えた後、軽く後ろに視線をやった。
すると、舞台裏で控える、橋本 美雪や二宮 紗枝、そして立花 葵の姿が見えた。
綾のニヤニヤとした表情とこっそりと、こちらを見る視線に気づき、美雪と紗枝は綾と同じく、ニヤニヤとしながら葵へと視線を移し、何かを葵へと吹き込むように言っており、葵は「勘弁してくれ」といったような、半分呆れた様子で落胆していた。
綾は、舞台に立つことで再び緊張が戻ってきていたが、そんな楽しそうに舞台裏で過ごす3人を見て、何処か励まされたような、1人じゃないような気がして、とても心強く思えた。
そこからは恒例通り、自己紹介からの大貫からの質問へと進行していった。
◇ ◇ ◇ ◇
「加藤の奴、やたらに生き生きしてるな」
舞台で元気よく振る舞う彼女を、舞台裏から見ていた葵が独り言を呟くように話した。
「綾はいつも元気だけど、今日は特にね〜……。立花君に可愛いとか言われたからじゃない?」
葵の独り言のような呟きに、隣にいた紗枝は反応し、葵の意見に同意した後、思い出したかのように再びニヤニヤと悪戯っぽく笑いながら、葵をからかうように付け足して答えた。
「またそれか…………」
葵はもう、この件に関しては何を言っても無意味だと感じ、諦めた様子で呟き、反論することは無かった。
そんな無気力な葵を見て、紗枝はからかい過ぎたかと思い、「ごめんごめん」といった様子で、ニコニコと笑いながら、軽く謝罪した。
2人がそんな風にして、話していると真面目な表情で美雪が会話を割るようにして葵に話しかけた。
「立花さんは、正直どう思いますか? 私は綾さん、優勝も狙えるんじゃないかって、正直思ってます。まだ衣装を見てないんですけど、もう、今の綾さん可愛過ぎですし……」
美雪は、少し興奮気味に自分の考えを力説した。
美雪にとってそれほど、今の綾は魅力的に映っていた。
しかし、そう映っていたのは、決して美雪だけという訳では無く、一般的に見ても、そう考えている人は少ないと思える程、今の綾は仕上がっていた。
「確かにな、まだローブ脱いでないのにあの歓声だとするといい線行くかもな……」
葵は内心、ヤバいとは感じつつも絶対に優勝するだろうとは、言わなかった。
それは、まだまだこの後に優勝候補が控えているという事もあったが、何よりも自分が1番だという思いが捨てきれていなかったのが大きかった。
葵の言葉を最後に、3人は舞台に視線を向け、見守る様にしながら、集中し舞台を凝視した。
「それではッ! 衣装の方を見せて貰いましょうッ!! スリ〜ッ! トゥ〜ッ!!」
3人が舞台を見つめていると、自己紹介や質問コーナーが終わったのか、大貫の声と共に会場中にコールが巻き起こり、カウントダウンを始めた。
いよいよだと、舞台裏は葵たちを含め、妙な緊張感が高まってきていた。
「ワン〜ッ!! どうぞぉ〜ッ!!!」
大貫の最後のコールと共に、綾は一気にローブを剥いだ。
綾は、オーバーアクションでローブを上に投げ捨てるようにローブを剥ぎ、綾の衣装が露になった。
綾の衣装が露になった瞬間に、会場中は大きな歓声が巻き起こった。
怒号のようなその歓声に、地面が微かに揺れたような、そんな気すらもした。
綾の衣装は、予想だにしない物だった。
それは、今までの出場者とは明らかに違ったもので、今までの出場者が街に出る時に纏う私服のような、オシャレな格好だったとすると、綾のそれは、どちらかというとコスプレだった。
綾の衣装は、チアガールの衣装のソレだった。
綾のスレンダー体を強調するように、無駄な、ゆとりの無いフィットした服に、短過ぎると言われても不思議でない、半袖と短パン。
半袖は肩から10センチ程の袖しか無く、何よりも目を引くのはお腹だった。
へそがギリギリ見えるか見えないかのラインまで下は伸びており、そこまで豊満とは言えない綾だったが、確かに色気があった。
しかし、彼女生まれ持った明るさからか、そこまでイヤらしくなく、むしろより無邪気に見えた。
短パンも太もも半分くらいの長さまでしか伸びて無く、露出している部分の方が圧倒的だった。
上、下共に、黄色いユニフォームで統一され、彼女のイメージカラーそのものだった。
両手にはチアガールには欠かせないボンボンといった小道具まで、用意されていた。
衣装を露にした綾は、恥ずかしさなんてものは無く、堂々とした様子で、「イェーイ」などと口走り、喜びを表現していた。
「いや、アレはありかよ…………」
綾の衣装に、葵は完全に驚き、思わず言葉を漏らした。
確かに、コスプレのような衣装も多く用意されたカタログにはあったが、『ミルジュ』のようなスタイリストのプロ集団が、選ぶとは思えなかった。
スタイリストは何よりもオシャレで、今までの出場者の衣装も街中ではあまり見かけない程の着こなし方をした私服が多かった。
「うわぁ〜……綾さん、ちょっとヤバいですね〜……」
「あ、綾……あんな露出して……」
綾の登場から、美雪と紗枝はそれぞれ違った反応を見せていた。
美雪は、見惚れるようにフワフワと浮いたような口調で呟き、紗枝は自分じゃ到底出来ないような格好をする綾に、何故か自分が恥ずかしくなっていき、顔を赤らめながら呟いた。
会場は明らかに湧いていた。
そして、その湧き具合は佐々木に勝る勢いのものだった。
「いやぁ〜……加藤さん! 素晴らしいですねぇ〜!!」
無邪気に観客に手を振る綾に大貫は、マイクを使い、更に会場を盛り上げるように感想を漏らした。
◇ ◇ ◇ ◇
綾に向けての歓声はその後も、止むことは無く、大いに会場を盛り上げた後、舞台裏へと戻っていった。
「ちょ、ちょっと〜、結ぃ〜?? あんなの聞いてないよぉ〜?」
綾への興奮冷め止まぬ観覧席の中、立花 蘭は隣にいる同僚であり、後輩でもある結を問い詰めるように話しかけた。
「ま、まぁ……今回は冒険っと言う事で……」
明らかに手応えを感じていたのか、結は喜びを隠しきれておらず、若干ニヤケながら答えた。
「結、いつもあんなコスプレみたいな服選ばないよね?
とうゆうか、本領はどっちかというと前半の娘達みたいな、オシャレな私服を好んで選ぶじゃんッ!!」
「確かに、今まではそうでしたけど、今回はせっかくこういう場でもあるんで、色々とやってみたくて……」
「なッ!! 先輩を脅かすなんて生意気だぞぉ〜ッ!! あぁいう事やるなら事前に報告しろ〜ッ!!」
恥ずかしそうに照れながら答える結に、納得がいかないといった様子で蘭は喚き散らした。
綾の服装は、確かに今までの結からは考えらない衣装の選び方だったが、至る所アレンジはされており、やはりただチアガールをやらせるにしても、細かいところまでも気を使っていた。
カタログにあった衣装をそのまま起用するなんて事は、ほとんどのスタイリストはしなかったが、それでも結の手の加え方は他のどのスタイリストよりも凝っていた。
「あの娘は可愛いかもね……」
喚き散らす蘭の隣で、妹である立花 椿が呟いた。
そんな、椿の声を聞き逃さなかった結はすぐ様反応した。
「え? ホントッ!? 椿ちゃん……」
「うッ……え? ま、まぁ、あぁいった感じの可愛さは私には出来ない可愛さだからね……」
食い入るようにして尋ねてきた結に、椿は一瞬押されながらも、素直に答えた。
「そっかぁ〜……良かったぁ〜…………」
結は、椿の言葉を聞いた瞬間に安心するように声を漏らした。
椿はその手のプロでは無かったが、それでも結は自分で言ったように、今回は冒険をした部分が大きかった、そのため、一般人である彼女の言葉も大きく響いた。




