俺より可愛い奴なんていません。3-15
参加者番号2番として、舞台に降り立った佐々木 美穂のお陰で、ミスコンは盛り上がっていた。
佐々木に施されたメイクからして、観客は沸き立ち、早く全容が見たいといった様子だった。
「さ、佐々木、ヤバくないか……」
「あ、あぁ……流石パリピの女王…………とてもじゃないけど美しすぎて近くにいたとしても、近づけない……」
1階で立ち見をする男子生徒達は次々とざわざわとザワつくように、佐々木の姿を絶賛していた。
その中、同じく1階で舞台を立ち見していた立花 蘭が隣にいる人達に話しかけるように声を上げた。
「はぁ〜……あの子は美希が1番初めに担当してた娘だね。流石に自信ありげに選んだだけあるわ、凄い出来……」
「あの子が永井先輩の担当した娘ですか……確かに、あの化粧は永井先輩が得意そうな形ですね。」
蘭は感心するような声を上げると、隣で一緒に見ていた結も納得するような声を上げた。
「ねッ! やっぱり美希って、あぁいうギャル系の娘仕上げるの上手いよねッ!?
ギャル系のメイクって派手に見せなきゃいけないから、限度を間違えると逆に化粧の主張が激しくなっちゃたりして見るに堪えなかったり、それを恐れて薄くしちゃうとギャルには見えないのよね〜……」
「確かに、難しいですあぁいったメイクは……仲間内で楽しむ分には派手に盛って魅せるのはいいですけど、こういった場合とか、何かの発表会なんかで魅せるときには、私は避けますね……」
蘭にも、佐々木を仕上げた美希のようには、出来ないのか素直に手放しで褒め、結は冷静に分析するようにして、佐々木を観察するように凝視し、淡々と答えた。
結との意見交換に満足したのか、1度結との話を切り上げ、蘭は次に自分の隣にいる、結では無いもう1人の人物にも意見を尋ねた。
「ねぇ、椿ちゃんはどう思う?? まだ質問コーナーで、衣装までは披露されて無いけどさ、化粧を見た感じ」
蘭は楽しそうに、隣立ち一緒にミスコンを立ち見観覧している立花 椿に話しかけた。
椿は、もともと桜祭なんかに来る予定は無く、興味も全く無かったが、親に連れられ久しぶりの家に着くなり、蘭に頼み事をされ、仕方なくミスコンに来ていた。
蘭は椿のミスコンを見つめる横顔を見ていたが、それは全く楽しそうでは無く、鉄仮面のように無表情で、ただ呆然と見つめていた。
その無表情のまま、椿は蘭の質問に答え始めた。
「え? どう思うって何も……。別に可愛くも無ければ綺麗でも無い。ブスの部類……」
椿は特にオブラートに包むわけでも無く、冷たい声と表情で答えた。
椿の答えに、蘭は「アハハハ……」と声を漏らし、苦笑いを浮かべ、椿の意見を片耳で聞いていた結は、それまで一生懸命ミスコンを凝視していたが、意見を聞いた途端にギョッとした表情で椿に視線を一気に移していた。
佐々木の出来栄えは言うまでもなく素晴らしく、それを見て、普通はそんな大口を普通は叩けないし、それを言ったとしてもそれは虚勢や嫉妬のように、捉えられるようなものだった。
しかし、椿がそれを言うと蘭も結も反論出来なかった。
それほどまでに、椿は美人だった。
「桜木高校って女の子のレベル高いんでしょ? これは笑っちゃうね……」
椿は更に不敵な笑みを浮かべ、追撃するように毒を吐いた。
「いやいや、椿ちゃん。あの娘はかなりレベル高いと思うよ? 化粧も似合ってるし、そりゃあ、あっちでモデルやってた椿ちゃんには敵わないのかもしれないけど…………」
椿の毒舌に蘭はやっと反論出来、諭すように椿にそう告げた。
「あ、あぁ、確か、立花先輩の妹さんって海外でモデルなさってたんでしたっけ……」
「あ、うん。ちっちゃな雑誌だけどね?」
蘭の「あっち」という言葉で、結は椿が海外でモデルをやっていた事を思い出し、椿の大口にやっと納得がいったという様子で呟き、結の言葉に反応するようにして、蘭は結の言葉に補足を加え、肯定した。
「もう、お姉ちゃん!! そういうちっちゃなとか余計な事言わなくていいから!」
椿はちっちゃな雑誌と言われた事が勘に触ったのか、今まで無表情だったがムッとした様子で蘭に反論した。
モデルという業界に片足を突っ込み、大人の世界を知る彼女だったが、まだまだこういった所は、年相応で可愛らしいものだった。
椿は、蘭の言った通り海外でモデルをしていた。
最初は父親の海外赴任に、もともと海外の留学に興味があった椿がついて行ったというだけだったが、あちらで3年の間暮らしている内に、スカウトにあったらしく、雑誌のモデルなんかをする事になっていた。
そして、今日、桜祭が行われるこの日に丁度、父親とこちらに帰ってきたという所だった。
「はぁ〜……大体さぁ、お姉ちゃんはなんなの? 3年ぶりに会うっていうのに空港に出迎えにも来ないし、かと思ったら急に服持ってきてって電話でこき使うし…………」
椿は思い出したかのように、空港に迎えに来なかった姉に対して不満を漏らし始め、完全に不貞腐れていて、機嫌が悪かった。
とゆうより、ここに来て会ってからというもの椿は終始機嫌が悪かった、それも全部出迎えに来てくれなかった事への不満から来るものだった。
「アハハハ……ごめんごめん。ちょっと、どうしても外せない用事だったんだよ〜。いや、お姉ちゃんも行きたかったよ? とゆうか気持ち的には、空港にいたよ?」
蘭は必死に弁明し、途中訳のわからない事も口走っていたが、全然その謝罪は椿の心には響いていない様子だった。
「いや、訳わかんないよ。てゆうか、兄さんは?? 兄さんも迎え来てないよね??
こういった学祭興味無よね? どうせどっかで暇つぶししてるんでしょ?
なんで出迎え来てないわけ??」
椿は次々に不満を蘭へと当てつけのようにぶつけた。
「え? いや、まぁ、葵はちょっと野暮用って言ってたかな〜?」
蘭は誤魔化すようにして、なるべく椿から視線を逸らし、明後日の方向を向きながら答えた。
蘭のその怪しすぎる、明らかに何かを隠しているような態度に、椿は眉をひそめ、怪訝そうな表情を浮かべ、蘭を見つめた。
必死に葵が今、何をしているのか隠そうとする蘭に、結は不思議でしょうがなかった。
そして、遂に結は口を挟んでしまった。
「野暮用?? 弟さんはミスコンに出るんですよね??」
結は素で不思議そうにしながら、蘭が知っていて隠していた事実を口に出した。
「えッ!? あッ! 結ッ!!」
蘭が止めに入ろうと声を上げたが、既にもう遅く、結の発した声は全て椿の耳に入っていた。
結の言葉を聞き、椿はますます機嫌が悪くなり、蘭が恐る恐るに椿の表情を見ると、明らかに怒りを浮かべた表情をしていた。
「あ、あぁ〜、いやッ! ちが、違うんだよ? 椿??」
もう遅いと思いながらも蘭は必死に弁明しようと椿に呼びかけた。
「何? 何が違うの?? 兄さん出てんだよね? お姉ちゃんさぁ、私が海外に行く時、約束したよねぇ??
兄さんを更生されるって……もう女装はしないようにさせるって言ったよねぇ??」
椿の声は冷たく響くような声で、蘭を追い込み、問い詰めるような言い方で、蘭に次々と質問した。
葵の女装は、3年前、椿が海外に行く少し前から始まり、椿はそれをずっと否定し続けていた。
何度も辞めるように発言し、辞めてもらう為に彼の女装を罵倒したりもした。
たが、葵は女装をやめる事は無かった。
むしろ、反対する勢力が減り、水を得た魚のように今まで以上に女装をし始め、蘭は葵に化粧を教えた張本人だったため当然だったが、立花家の母親も基本、放任主義だったため葵の女装を反対する事は無かった。
「ま、まぁ……お、お姉ちゃんも、何度も止めようと……やめさせようとしたんだよ??
だけどさ、ほら、葵もお年頃だから、何か言われると反発したくなっちゃう反抗の時期なんだよ……」
蘭は葵の女装が止められなかった事が椿にバレると、止められなかった弁明では無く、あくまで自分を守るような、言い訳じみた弁明をし始めた。
「いや、どこの世界に反抗期で女装に走る男子高校生がいるの?? 完全に趣味爆発してるよね??」
蘭のふざけた弁明に椿は、ますます苛立ち捲し立てるように蘭に言い寄った。
「ねぇ、もしかして、お姉ちゃんがこのイベントを提案した訳じゃないよね??」
「ま、まさかぁ〜……!! お姉ちゃんも暇じゃないんだよ?? これでも社会人だからさ!」
蘭は椿の質問に、虚めたい気持ちがあり、ハッキリと自分が提案した訳では無いとは断言出来なかった。
確かに、当初は葵が蘭に持ちかけた話だったが、蘭も途中から楽しくなっていき、かなり助言のような形でイベントに口を出していた。
蘭の答え方に椿は何か感じたのか、疑うような様子でジロジロと蘭の顔色を伺った。
椿の無言な追求に、蘭は内心「勘弁して〜」と叫んでいた。
しかし、そこに大きな歓声が上がった。
周りの「おぉ〜ッ!!」という歓声に、蘭と椿は反応し、観客がこぞって見つめる方向へと、視線を移した。
椿と蘭がそこへ目をやると、ミスコンの舞台の上で黒いローブを剥いで、下の衣装を顕にさせた佐々木の姿があった。
佐々木のファッションは、そのメイクにあった感じで、言わゆる都内で○○系ファッションと呼ばれるような派手なものだった。
そのファッションは、都内のある地域でしか流行ってないもので、ファッションの奇抜さから、その場所以外で着れば間違いなく浮くようなファッションだった。
時代の流行を先取りしたようなそんな服は、下手をすれば有り得ないほどダサく見えたり、流行になっていない時点で一般人にはまるで理解できないようなものだった。
言ってみればパリで行われるパリコレのような、いわゆるモードと呼ばれるイベントで着られるような服と同じだった。
いつか流行るファッションなのかもしれないが、やはり1番最初にやるとなると、いつだってどの分野であろうと、周りからは拒絶反応を見せられてしまう。
だから、そういったファッションは本当に扱いが難しいが、美希の選んだそのファッションは、普通にオシャレだと感じさせるようなものだった。
確かに奇抜な服で、色も何色も使われ目がチカチカしてしまう程の服だったが、ギャルにしては整えられたメイクで、何故かその俗っぽい服も気品があるように見えた。
「これは、凄い…………」
蘭は思わず声を漏らした。
蘭にはとてもじゃないが、思いつかないし、思いついたとしてもやろうとしないし成功する自信がまるでなかった。
「美希先輩、本気過ぎですね……」
結も佐々木を食い入るように見つめ、圧巻とも言えるその出来栄えにただ呆然としていた。
恐らく、テレビなんかで紹介されている○○系ファッションというのは、奇抜過ぎてまるで理解できないようなものが多く、否定される事や馬鹿にされる事が多かった。
それでも、そのファッションをする者は好きでやっているため、自分がそれで満たされれば、それだけで充分だった。
こういった形で現地の者と他所の者で軋轢のようなものが出来ていて、なかなか馴染めないようなものでもあり、今この場にいる者達の殆どは、どちらかと言えばその他所の存在だった。
しかし、今この瞬間だけは、ミスコンの舞台に堂々と立つ彼女をほとんどの人間が認めていた。
「いや、何あの赤と白の縦シマしかないパンツ…………寝巻きじゃないの?」
「でも、可愛くない?? あの上のカラフルな洋服もいいじゃんッ!!」
蘭達が舞台を見上げていると、蘭達の近くにいた同じく観覧しているであろう者たちの声が聞こえてきた。
否定的意見はやはりあった、しかし、賛同する人の声の方が大きかった。
「やっぱり、難しい題材ですよね。あの系統のファッションは…………」
「そうだね。このファッションもあの子だから恐らく似合ったみたいな所もあるだろうしね」
結が難しい表情で呟くと、蘭もそれに答えるようにして言葉を発した。
しばらく大きなザワつきが会場中で巻き上がったが、その中でも佐々木は怖気付くような事はなく、常に毅然とした態度で、堂々と振舞っていた。
その姿はまるで、「自信があります!」と堂々と言っているようにも見えた。
「あのふてぶてしい態度だけは一流だね」
「おぉッ? あのツンデレ椿ちゃんがやっと褒めたね??」
佐々木の態度に椿も思うところがあったのか、ここまで毒しか吐かなかった彼女が初めて、佐々木に賛辞のようなものを口にした。
真顔で呟く椿のそんな反応に、蘭はここぞとばかりに、からかうようにして椿を茶化した。




