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俺より可愛い奴なんていません。3-10

桜祭おうさいは、例年以上に賑わっていた。


校門をくぐった瞬間から、桜木高校はまるでそこだけ別世界のように賑やかで華やかなイベントが目白押しだった。


校門から校舎まで続く通りには、沢山の出店が並び、その1つ1つを桜木高校の生徒であろう学生がニコニコと笑いながらおこなっていた。


沢山の来場者が押し寄せ、楽しそうな声でそこは賑わっていた。


「はぁ〜……、人多い…………」


楽しそうな人混みの中、1人のその女性は不満げにため息をつきながら愚痴をこぼした。


ため息をこぼした女性は、明らかに不機嫌そうな様子で、とぼとぼとその人混みの中を歩いていた。


ある人に用事と一緒に、「今年の桜祭は面白いから帰ってきたら来ないか?」と誘われ、桜祭へと足を踏み入れていた。


「なんで…………、はぁ〜……」


女性はなんでの後に「私が」と言いかけて、言うのをやめ再びため息を付いた。


手には紙袋を持ち、用事で持ってきて欲しいと言われた物が中に入っていた。


(何が楽しくてこんな人混みに……、しかも学祭って…………ホントくだらない)


女性は学祭如きで、賑わう周りの人々の気持ちが理解出来ず、内心で彼らをバカにしながら、歩きながら横目で彼らの様子を見ていた。


「早く用事終わらせて帰ろ……」


ここにいる、騒いでいる彼らと同じだとは死んでも思われたくないと感じながら、彼女はそう呟きながら、用を済ましてとっとと帰ることを決意した。


「ねぇねぇ、お姉さん!! 可愛いね? ウチ、たこ焼きやってるんだけど、どう??」


早く帰ろうと決意した女性は、歩いていると不意に視界の横から飛び出てきた青年に呼び止められた。


彼は何やら派手なTシャツを来ており、そのTシャツには名前のような物がズラリと書かれていた。


呼び止められた彼に目をやった後、彼女は視線を彼が来た方向へとずらした。


そこには、たこ焼き店らしき物があり、横目でそれをよく観察した。


来場者が多く通る方面へと面するようにして置かれた屋台は、来場者に見えるように、来場者側にプラスチックパックに入ったたこ焼きがテーブルの上に置かれていた。


たこ焼き屋なのに、鉄板は無いのかとそれを探すと、屋台の後ろの方、目立たないようにして、たこ焼き店の出し物を一緒にやっている生徒らしき人たちがたこ焼きプレートを使い、必死にたこ焼きを作っていた。


たこ焼き店の中にいた、生徒達も声をかけてきた青年と同じ柄の派手な、沢山の名前がアルファベットで書かれたTシャツを来ていた。


女性はそれを短い間で確認すると、再び青年へと視線を戻した。


「あぁ、ホント……いいです。お気遣いなく」


青年の呼びかけに断るようにして、女性は片手を自分の前に軽く出し、相手に手のひらを向けて拒否をするようなジェスチャーをしながら、淡々とした様子で答えた。


女性はもう彼と話す事は何も無いと思い、再び歩き始めた。


「え? えッ? ちょ、ちょっと待ってよ!!」


彼の横をすり抜けるようにして再び歩き始めた彼女の前に、回り込むようして再び体を彼女前に持っていき、焦った様子で呼び止められた。


彼は断られる事など微塵も感じていなかったのか、かなり焦っていた。


「なんですか……?」


女性は不機嫌そうに目を細め、怪訝そうにジト目で彼を見てそう答えた。


「い、いやぁ〜、ホント、ウチのたこ焼き美味しいし、食べて欲しいかなって……特に君みたいな可愛い子にはさ?」


女性に嫌そうに見つめられ、彼は最初の内は動揺していたが、後半の方には調子を取り戻したのか、初めて声をかけてきた時と同じ感じで言ってきた。


青年はよく見れば、まぁまぁそれなりのイケメンで、クラスに入ればそれなりにモテるであろう容姿をしていた。


彼の容姿を見て、女性は「なるほどな」と全てに納得がいった。


彼は、今までこんな風に話をかけて客引きをしていた。


しかし、ここまでぞんざいに扱われた事はなかったので、焦っていたのだった。


その話しかけられた女性も彼に劣らないどころか、彼が霞む程の美貌の持ち主で、街へ繰り出せば、まぁ間違いなく声をかけられるであろう容姿をしていた。


全て納得がいった彼女は、彼に見えないように一瞬ニヤリと微笑んだ。


そして、今まで通り、淡々とした様子で話し始めた。


「私、可愛く無いですし、たこ焼き嫌いなんですよね。それじゃ」


彼女はわざと冷たい態度でスグに会話を切り上げさせ、簡単に別れを告げ、再び歩み出した。


「ま、待ってッ!!」


彼女が歩み始めると、青年は再び、今度は強く呼び掛け、制止させるように声を上げた。


(あぁ〜、これは落ちたな……)


彼女は、必死に呼びかける彼の声だけで彼が好意を持っていると分かり、内心で自分に気がある彼を馬鹿にしながら、心地よい優越感を感じていた。


「あ、あの……せめて、お名前だけでも……」


青年は恥ずかしそうに、少し照れた様子で彼女にそう告げた。


呼び止められた彼女は、(なによその呼び止め方……昭和?)と内心呟きながらも、機嫌が良くなった彼女はクルリと彼の方へと振り返った。


椿つばき……、立花たちばな 椿つばきです…………」


振り返った彼女は優しく微笑みながら彼に答えるようにして答えた。


◇ ◇ ◇ ◇


ミスコン準備室のとある一室。


ミスコンの出場者が準備する部屋として、三部屋目に用意されたその部屋で立花たちばな あおいは頭を悩ませていた。


時間はとうに10時を回っていた。


整理され、スッキリとしていたその部屋には、いくつかの衣装を運び込まれ、最初に来た時よりも、部屋が少し窮屈になっていた。


(ヤバい……1時間使って、結局何も決まってない…………)


葵は完全に焦っていた。


(まだぼんやりとしたイメージで衣装決めをしたのが間違いか?

それとも、衣装云々の前にメイクから仕上げてやった方がよかったのか?

どうする……とりあえずメイクだけはするか……? いや、ジャンルも決まってないのにやれるのか?)


葵は次々に不安材料が浮かび上がり、完全に参っていた。


傍から見たら今まで何をしていたのかと問われてもおかしくない光景だったが、別に葵は遊んでいたわけではなく、二宮にのみや 紗枝さえが、指示通りに動いてくれなかったというわけでもなかった。


1時間近くフルで使っての結果だった。


(何着せても似合うっていうのは、逆に難し過ぎるだろ……失敗はないのかもしれないし、きっと来場者にも賞賛されるだろう……。

だけど、それは俺の実力じゃない、完全に二宮の容姿に頼ったものだ……。それじゃ、俺が任された意味が…………)


葵はグルグルと思考を回し、色んな事を考えていくとどんどん、ネガティブな方へと思考が回ってしまい、遂には考えたくもなかった事まで頭の中に過ぎり始めた。


(何やっても成功だから、素人がやっても結果的に賞賛されるから、誰でもいいから任されたのか……?

スタイリストの準備は、かなりスケジュールがキツキツだった……。

1人分でも浮けば、それはかなりの余裕が出てくる。

『ミルジュ』の人らも、そういや反対してなかったな……。分かってたのか……?)


葵は何かに気付かされたように、それまで考えもしなかったような事を考え始めた。


そんな事を考えていると、微かに隣で何かに呼びかける声が聞こえてきた。


「………ぃ……く………、ぁお………君ッ、あおい君ッ!!」


女性のその呼びかけに、ハッとした様子で葵は思考の海から現実に引き戻されたように、我に返った。


「大丈夫? 凄い顔で思い詰めてたけど……」


葵が視線を隣に移すと、そこには心配そうな表情をした紗枝の姿があった。


そこで、葵はようやく、紗枝をずっと無視して、1人で抱え込んで思考しきっていた事に気がついた。


「あ、あぁ、いや、ごめん…………ちょっと、考え事してて……」


葵は変な事が最後に深んだ事で、少し気落ちしてしまい、暗い様子で返事を返した。


「本当に、大丈夫? 具合とか悪くない??」


紗枝は本当に心優しく、葵を気遣うように優しい声色で葵に訪ねた。


執拗に心配される葵は、そんなに具合悪そうな顔をしていたのかと気付かされ、同時に紗枝がモテる理由も何となく分かった。


「大丈夫、ホント……。とりあえずだけど、最後に頼んだ衣装を試着だけしてみよう……。

それで、もう決めるから」


葵は、紗枝に再度大丈夫である事を伝え、最後の試着と決めて頼んだ数点の衣装を紗枝に着てもらい、判断を決める事を伝えた。


衣装はそれからスグに届いた。


頼んだ衣装は3点だった。


紗枝は衣装が届くと、葵の指示に従い、順番に1つずつ試着をしていった。


簡単だったが、着替えるところはパーテーションで区切ってあり、同じ教室内だったが、その中であれば外から見える事はまず無かった。


紗枝も最初は、いくら外から見えないとはいえ、部屋は区切られておらず、声を出せば外にいる葵と会話出来るような状況だったため、恥ずかしそうにしていたが、もう何度目か分からない程の試着を終えた今は、慣れてしまい、全く抵抗が無くなっていた。


「ど、どう……かな…………?」


紗枝は最後の服を試着し、恥ずかしそうにしながら葵にその姿を披露した。


この瞬間だけは慣れないのか、未だに顔を赤く染め、恥ずかしそうに紗枝は言葉を漏らすように尋ねていた。


「ん……ヤバイな。かなり可愛い…………」


葵は自身の顎を擦りながら、眉ひとつ動かさず、恥ずかしそうにする紗枝とは対照的に真顔で、真剣な表情のまま素直な感想を述べた。


「まッ……また、そんな事いうぅ〜…………」


葵の言葉に、紗枝は益々顔を赤く染め、本当に恥ずかしそうにそう呟いた。


「悪いな、慣れろ。可愛いものとか綺麗なものは素直に口に出しちゃう質なんだ……。

それより、ヤバイな……結局何着せるのが正解なんだぁあ?」


恥ずかしがる紗枝に葵は、特に感情の起伏も無く真顔のまま答え、結局決めれずにいる事に、頭を再び悩ませていた。


「は、恥ずかしいんだよッ!? ここの部屋に来てから私、恥ずかしめばかり受けてるよッ!?」


紗枝は必死に、自分の状況を理解してもらうように声を上げた。


葵の感想に喜びはあったが、ここまで可愛いだの、キレイだのと褒めまくると恥ずかしさの方が勝っていた。


しかし、そんな必死な紗枝の訴えも虚しく、今の葵に届くことは無かった。


(もう、これ以上衣装を合わせている余裕はない。

とりあえず、今まで気になってこっちに持ってきて貰った衣装は、この部屋に置きっぱなしでいて貰ってるが、もうこの中から決めないと……)


葵がそんな事を考えていると、葵はまた難しい表情をしていたのか、紗枝が気を利かせるようにして意見を出てきた。


「この衣装で出場するのはどうかな?

今まで着てきた中でも私的にも結構お気に入りだし……それに、立花君も……その…………似合ってるって言ってくれたし…………」


紗枝は最後の方は、先程絶賛されていた事を思い出したのか恥ずかしくなって、小声になっていたが、しっかりと彼女意見は葵の耳へと届いた。


紗枝の意見に葵は反応するように、顔を上げ、紗枝の事を凝視し始めた。


紗枝は「ウゥッ……」と、恥ずかしさを堪えているのか、小さく唸り声を上げていたが、葵はお構い無しに真剣な表情で観察した。


紗枝の言ったことは確かにその通りだった。


正直、今来ている紗枝のストリートファッション風なコーディネートは今までで1番似合っているような気がしていた。


紗枝は、その性格と彼女の纏う雰囲気も相まってか、ズボンよりも圧倒的に多いにスカートの方が似合っていた。


紗枝の今来ているものもスカートだった。


「確かに、似合ってる…………」


「じゃ、じゃあッ……………」


葵は、紗枝の意見を肯定するようにして答え、その意見を聞いた紗枝は声色を一気に明るくさせ、期待に満ちたような目で葵を見つめてきた。


「だがなぁ……、絶対にもっと何かあるとそう思うんだけどな…………」


葵は優柔不断にも見えたが、それは本意だった。


ここまで考えさせられる程、紗枝は可能性で溢れていた。


「えぇ、でも、これ以上は……立花君だって自分の時間を取らなきゃッ……」


「俺はいいんだ。もうどうするかは決めてる……時間もそんな掛ける必要もない」


紗枝は葵を気遣うようにして声を上げたが、それを遮るようにして葵は答えた。


正直、今の葵は自分の化粧や衣装よりも、紗枝の出来栄えの方が重要になっていた。


「そんな…………」


紗枝は、葵の女装が見たかったのか、残念そうに声漏らした。


(でも、ここでこの衣装を選ばなかったとしても、また無駄に決まらず時間を使うだけだ。

どうする……どうしたら…………)


葵は再びそんな事を考え、衣装の資料が沢山載っているカタログへと視線を落とすとある物が目に入った。


「ん……?」


葵はその衣装に目を止め、不思議そうに声を漏らした。


そして、次の瞬間、葵のイメージの中で今までにない程、ピンと来るものがあった。


「これかもしれない……いや、邪道だとは思うし、こんなのアリか分かんない。

でも、これしか思い浮かばない……」


葵はポツポツと独り言を唱えながら、カタログを凝視していた。


そんな葵の様子に紗枝は、ただただ呆然と不思議そうに見つめることしか出来なかった。


しばらく、葵の様子を観察するように、見ているとカバっと顔をあげ、カタログから紗枝に視線を逸らし、紗枝の事を正面から見つめた。


その時の葵の顔は、迷いが晴れ、決意に満ちたような表情だった。

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