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俺より可愛い奴なんていません。3-3

立花たちばな あおいは、未だかつて無いほどの修羅場に立たされていた。


中島なかじま山田やまだは今にも神崎かんざき 大和やまとに襲いかかりそうな程の敵意を向けており、幸せで浮かれている大和はそんな状況にまるで気づいていなかった。


「ど、どうゆう事かな? 神崎君……」


山田は明らかに口調が怒っている様子で、大和に尋ねた。


「い、いやさ……こないだ練習試合で他校に行ったんだけど、そこで知り合った女子生徒が居てさ……、なんか成り行きで連絡先交したんだ。

それで何回か連絡を取ってたんだけどさ、昨日、不意に告白されてさ……」


今にも叫び出しそうな山田に気づかない大和は、わざとかと思える程に惚気話をし始めた。


口を開けば開くほど死地に向かっていく大和に葵は気が気でなかった。


「へ、へぇ〜……可愛いのか……?」


中島も笑顔を浮かべてはいたが、明らかに不機嫌に大和に尋ねた。


中島が尋ねると大和は、少し俯いき、恥ずかしそうに頬を赤らめゆっくり答えた。


「か、可愛い…………」


大和が呟くと2人は一気大和の方へと動いた。


「ま、待て待て! お前ら!! 落ち着け!」


やばいと思った葵は2人も大和の間に割って入り、正気ではない山田と中島を止めた。


完全に惚気けていた大和は庇ってくれた葵の後ろでキョトンとし、不思議そうな表情を浮かべていた。


「立花……、今すぐこいつは殺さないと……」


「そうだな。俺たちの鉄の誓いを破った罪は重い」


必死に静止する葵に中島と山田は冷たい声で答えた。


「お、お前ら、誰が1番早く彼女が出来るかとかいって競走してたじゃねぇか!」


葵はそう言うと、2人は図星を付かれたように顔を顰めた。


2人の反応を見た葵は取り敢えず、2人を止められたと安心したが、それは束の間の平穏だった。


「そういや、そうだったな!

なんか、いざ勝ってみると嬉しいという気持ちは出ないもんだな、それ以上に感謝だな!

お前達と励ましあっていたからここまで来れたような気がするよ……。

ハハハッ……俺なんかに出来たぐらいだ、お前達にだってすぐ出来ると思うぜ! 応援してる!!」


「ば、バカッ!

お前、今はそんな事言う場面じゃねぇッ!!」


大和の謎の励ましに、いったん収まった敵意が再発し、それに気付いた葵はスグに大和を指摘した。


「葵、そこをどけ!! そいつを消すッ!!」


「そうだな、そうすれば勝負もノーカンになるしね……」


山田と中島はそれぞれ違った温度差で怒りを顕に、大和に襲いかかろうとした。


葵は迫る2人を手で押さえつけ、大和に近づかないようその場に留めようとした。


大和は呑気にそんな3人を首を傾げに不思議そう見つめていた。


「大和!! お前、今日はもう喋んな!!」


「な、なんだよそれ〜……」


葵は叫ぶようにして大和に伝えると大和はまだまだこの話をし足りない様子で不満そうにそう零した。


「わかったよ……なんか今日お前等おかしいしな……」


(おかしいのはおめぇだよッ!!)


葵は未だに呑気にそんなことをほざく大和に内心でツッコミを入れつつ、大和が話すことを辞めた事に少し安心し、目の前で怒り狂っている2人に意識を集中させた。


「じゃあ、最後にこれだけ言わせてよ……」


「な、なんだよ」


葵は内心これ以上なにも言って欲しくなかったが、せっかく初めて彼女が出来、それを話したくてしょうがなかったであろう大和の気持ちを察し、少し大和が可哀想に思え、最後のわがままだけは聞いてやる事にした。


「明日さ、実は来るんだよ……その娘…………」


大和は小声で告白すると、葵は驚き、驚きのあまり中島と山田を抑える手の力を緩めてしまった。


「しまった」とスグに葵は思ったが、今まで恐ろしい力で突破しようとしていた2人の動きも止まっており、葵と同じで中島も山田も動きを止めていた。


「お前らは友達だしな! 機会があれば合わせてやるよ! それじゃ、また後でな!!」


大和はそれだけ伝えられた事に満足したのか、笑顔でその場から離れていった。


葵は突然の展開に少し驚き、固まっていたが、スグに我を取り戻し、大和が離れていった事で時間を確認すると、もうじき朝の会が始まるぐらいの時間になっていた。


そのまま、2人にその事を伝えるため2人に視線を向けると葵は2人の表情を見てゾッとした。


「なぁ、明日来るって言ったよな? 中島……」


「言ってたな…………」


2人は不敵な笑みを浮かべながらそう呟いた。


葵はその表情と交わした言葉で嫌な予感がビンビンと感じた。


「破綻させるか…………」


「そうだな、アイツに薔薇色の人生は似合わん……」


(ま、マジかコイツら…………)


物騒な会話を繰り広げる2人に葵は、その執念に恐怖すら感じていた。


「もちろん葵も協力するよなぁ?? 麗華様の1件もあるしなぁ??」


「当たり前だろ、山田ぁ〜。立花は友情に熱い男なんだからさぁ」


完全に正気でない彼らに葵はその場は二つ返事で従うしかなかった。


しかし、内心ではせっかく出来た大和の彼女と大和の関係をこの嫉妬で怪物と化した2人に壊されるのは、いくら大和でも可哀想だと思い2人から守ろうと決意した。


「アイツ、クラスの出し物決める時は変な事告白してたよな?

俺も彼女とお化け屋敷回ってみたいとか言って……どうゆう風の吹き回しだ?」


「わからん、取り敢えず殺そう……」


葵が決意を決めた後ろで中島と山田は未だに物騒な会話を繰り広げていた。


◇ ◇ ◇ ◇


桜祭の開始は、正式には9時からの開催だった。


生徒たちは1時間前の8時ぐらいには登校をし、15分ぐらいから各クラスで朝の会を実施する。


その後、15分程の最終確認の時間、準備時間や自由時間として設けられる。


最終確認の時間が過ぎると、1学年から3学年まで体育館へと集められ、開催式が始まった。


前日に前夜祭として細々とした説明や話はしたため、簡単に校長先生が話をした後、生徒会長の麗華による一言で、桜祭は開催を表明した。


8時50分には、それぞれの生徒達は自分達のクラスへと戻り、9時になると全校放送で、校門が開かれた事がアナウンスされ、1日目の桜祭が本格的に始まった。


クラスの出し物は様々で、食べ物系やレストラン形式の出し物を行っているクラスは持ち場時間がそれぞれ決まっており、それ以外は自由に行動でき、桜祭を回ることが出来た。


葵達のクラスも食べ物系の出し物ではなかったが、一人一人に持ち場時間を設ける方式で行っていたため、クラスの半数は常に自由時間として桜祭を回ることが出来るようになっていた。


逆に、体育館など広いところを使って行う出し物、例えば、劇などの出し物はクラス全員で同じで発表するものだったため、個々の持ち場時間などは無く、全員がほぼ同じシュケジュールで自由時間とイベントを行う時間が決まっていた。


葵の1日目の持ち場時間はミスコンというイベントを考慮され、イベントが終わり1時間が経った後の15時からとなっていた。


15時にもなれば、ある程度来場者もぼちぼちの人数に落ち着いた時間になると葵は考えていた。


ミスコンの開催は、11時からの開催となっていた。


『ミルジュ』の白井しらいの2日目に行う出し物の提案がなければ、参加者が膨大になり、ミスコンだけで4時間、5時間と中庭で行う事になる所だった。


白井の提案により、多くなり始めていた参加者はピタリと人数を止め、少し現象し、最終的には18人の参加者になった。


18人であれば、11時から開催し、14時には結果発表を含み、全てを終えれるとそう葵と生徒会は考えた。


細かいシュケジュールは、11時~13時までの間で参加者の説明を終え、13時から集計を始め、14時には発表というものだった。


順位は来場された方、あるいは桜木高校の生徒達が決め、桜祭のパンフレットの中に含まれたミスコン用の投票券に自分の良かったと思う3名の名前を書いて提出するというものだった。


回収は生徒会が各方面を周り、ミスコンを見てくださった方のところに直々に回収するというものだった。


その場で参加者には投票券に記入してもらうため、パンフレットと一緒にボールペンも配っていた。


生徒会や『ミルジュ』の方々と話し合いながら決めた1日目のスケジュールだったが、正直どう転ぶかは誰も分からなかった。


18人の紹介が意外とスムーズに進み、予定よりも早く終わる可能性もあり、逆に18人の紹介は予定通りに進んだとしても、集計におそらくかなり時間がかかるため、時間を押してしまう可能性もあった。


そして、まだ始まったばかりの桜祭の中、葵は中庭に設置された大きな舞台の裏にいた。


◇ ◇ ◇ ◇


この中庭の舞台は様々なイベントで用い、ミスコンもその1つだった。

最初は、桜祭を華々しく開催したというイメージを参加者に持ってもらうため、演奏のイベントが舞台の上で行われていた。


軽音やバンドといったフランクなものではなく、桜木高校の部活の一つである吹奏楽部による、れっきとしたクラシック的な演奏だった。


6月だというのに雨が降っておらず、快晴だったため吹奏楽部の演奏は気持ちのいいぐらい、すんなりと入ってきた。


「じゃあ、これでお願いします」


吹奏楽部の演奏が鳴り響く中、葵は白井とイベントの最終確認を終え、ミスコンの段取りを頼んだ。


白井は「分かりました」と一言答えると、舞台裏から離れていった。


葵は、桜祭が始まるや否や校門へと向かい、4台のミニバンで桜木高校へときた『ミルジュ』を出迎え、学校への関係者として来場する手続きを終わらせ、校門へとミニバンを誘導し、停車して貰った。


そのまま、白井を呼び出し、舞台へと来てもらい現場を見てもらって、細々した確認を終わらせた。


女性をめかしこむという事で、『ミルジュ』のスタッフはほぼ全員女性で来てもらっていた。


そして、数人だが来てもらった男子スタッフには主に力仕事をやってもらい、着替えとして使っていい教室へと道具を次々に運び込んで貰っていた。


生徒会メンバーもその手伝いとして、駆り出されていた。


ミスコン会場には、葵と麗華、それと波多野が残っていた。


麗華と波多野は、会場の曲の設定や証明の確認、司会を務める生徒との細かい確認を終え、白井との確認を終えた葵と一緒にひとまず一息ついていた。


「取り敢えず、これで確認項目は終わりね」


麗華はフゥっと息をつきながら、呟くようにして言葉を発した。


「はい。後は、あっちの準備ですね。前日にある程度使いやすいように準備はしていたので、道具を運び込んで貰えれば……」


「参加者にはもう集まって貰ってるんで、準備が出来次第どんどんメイクに入れると思います」


麗華の呟きに答えるようにして、波多野と葵と麗華に報告するようにして、答えた。


「フフフッ……我ながら結構カツカツよね」


麗華はそう呟き、その呟きを最後に3人は疲れを癒すように黙って吹奏楽部の演奏を聞いていた。


数分の間、3人は黙って吹奏楽部の演奏を聞いていると、麗華は突然声を上げ、何かを思い出したように話し始めた。


「あッ、そういえばさ、ずっと疑問に思ってたんだけどさぁ、忙しくて結局聞きそびれたんだけど、立花君はなんでミスコンに出るの??

パンフレットにもきっちりと名前載っちゃってるし……」


麗華の問に葵は今更かと思ったが、素直に答え始めた。


「まぁ、1度話したと思いますけど、それはクラスで啖呵切った事があって、俺が出るならと恥を掻かせるために何人かの女子生徒が立候補したんです。それでですかね……」


葵は本心的にはそれだけではなかったが、今話したことも理由の1部だったため、嘘をついてはいなかった。


「うん。それは聞いたけどさ、もうここまで参加人数が増えれば別に出る必要も無くない?

多分、立花君が辞退したとしても参加者人数は減らないよ??」


「私もそれは思ってました。嫌だったら別に出なくてもいいと思います。

それに、女装なら2日目に女装コンテストとしてイベントを控えてますし……そちらに参加した方がいいかと」


麗華の意見に波多野も大いに賛同なのか、麗華と同じように訪ねてきた。


確かに、麗華と波多野の言っていることは正しかった。


啖呵切ってしまった以上出るしか無いというのは、以前に2人に話した事があったが、やっぱりそれだけじゃ納得いかないようだった。


「まぁ、お二人の言ってることはよく分かります。

でも、ホントに参加人数が誰もいなかった最初の女子に頼む時に、余興になったとしても自分も出るから、恥をかかせるような結果にはしないからって約束しちゃったんですよね」


葵は、初めてミスコンのチラシを見て、昼休みに橋本はしもと 美雪みゆきに出るとこを進められた時の事を、思い出しながら話した。


「な、なるほどね。そんな約束してしまったのね。

立花君って凄く律儀だよね……」


葵の答えに麗華は何も反論が出来ず、葵を気の毒に感じた。


波多野はまだ納得がいっていないといった様子だったが、葵がそれでいいと答えるのであればといった様子で、それ以上なにかを口挟むことは無かった。


「それに、お二人は悲惨な結果になると思ってるかもしれないですけど、正直言って腰抜かすと思いますよ?」


葵は2人に同情のようなものを感じたが、それを跳ね除けるように自信満々に答えた。


「えぇ〜? 立花君の女装でしょ??

う〜ん……想像できないし…………う〜ん……」


麗華は葵の言ったことが信じられないといった様子で、唸りながら葵の顔をジロジロと見つめた。


しかし、何度見つめても葵がいい方向に大変身する想像がつかず、言葉には出さなかったが、微妙といった表情を浮かべていた。

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