俺より可愛い奴なんていません。3-2
朝の生徒会との時間を終え、時間は少し進み、続々と生徒が登校する時間へとなっていた。
立花 葵は、並木 麗華達と最後ミスコンの確認をした後、別れ、ある空き教室へと来ていた。
一応、朝はクラスで朝の会を開くため、生徒は1度いつも通り自分のクラスに来ることになっていた。
しかし、葵のクラスはお化け屋敷に改造されていため、集まることが物理的に不可能だったため、使われていない教室を借り、そこで朝の会をする事になっていた。
葵のクラスの生徒もぼちぼち集まっており、葵が教室に来る時には何人か生徒が登校していた。
葵は教室に入ると、普段自分が使っている机が置いてある自分の席と同じ場所に位置している席へと座った。
カバンを置くと、葵は教室を見渡した。
教室を見渡すとよく話す友人の中島と山田の姿が見えた。
葵は暇つぶしに丁度いいと思い、彼らの方へと向かって歩いていった。
中島達に声がかけるのに自然な位置まで移動すると葵は中島達に声をかけた。
「おはよ、中島、山田」
「ん? おぉ〜、立花。おはよ」
「おはよう、立花」
葵が声をかけると2人は葵の存在に気が付き、それぞれ挨拶を返してくれた。
「朝から2人で何の話してたんだ?」
葵が質問すると2人は顔を見合わせ、頷き合った後、再び葵に向き直り、答え始めた。
「今回の桜祭で俺たちは勝負に出るんだ」
「あぁ、もう寂しい休日は送らないぞ」
葵は2人の答えを聞き、2人が今まで何を話していたのか大体理解出来た。
「あぁ、なるほど、またくだらないその手の話か……」
葵は少しガッカリとした様子で呆れるようにそう言い放った。
「なッ! くだらなくなんかない!!」
「そ、そうだぞ! 彼女が出来るかもしれないチャンスなんだ……」
葵の冷たい反応に2人は一生懸命に反論し、話続けた。
「大体、この準備期間で一体いくつものカップリングが成功した?? 俺が知る限り6組だぞッ!? 6組!! 多すぎだろッ!!」
「へぇ〜、6組も……それはなんというか凄いな……」
中島は勢いよくそう言い放ち、中島の話を単なる話題として興味深いと感じた葵は、関心の声をもらした。
「俺たちだってこの波に乗らなければ駄目なんだ……大体準備だけで6組って……今日と明日だけで、何組増えるんだよッ!!
とゆうか、俺たちが知り得ているだけで6組って……まだいるはずだし…………」
「そ、そうだな……確かに」
深刻な問題のように何処か悔しげに語る山田に葵は、完全に彼らの気合いに押されたような様子で、彼らの必死さに若干引きつつ答えた。
「まぁ待て待て山田、そう熱くなるなって。増えてるって事はいい事だろ? 俺たちにもチャンスは沢山あるってことだ。頑張ろうぜ!」
「そ、そうだな……ちょ、ちょっとあまりの恨めしさ、いやいや、羨ましさに頭に血が上ったようだ。悪い悪い……」
ヒートアップしだした山田をクールダウンさせるように、なだめて言い聞かせ、山田も落ち着きを取り戻したのか、冷静に答えた。
「ま、まぁ俺も応援してるよ」
葵は、今日のコイツらはどこか危機を感じるものがあり、逆鱗に触れないよう当たり障りのないような返答をした。
葵がそういうと、何故だか2人は真顔のまま葵の顔を見て、固まった。
そんな2人の姿が不気味で恐ろしく、葵はなんで自分が今妙な注目を浴びているのか分からなかった。
「な、なんだ? なんか顔に付いてるのか?」
葵は若干嫌な予感を感じつつ、定番のような返しを恐る恐る2人に返した。
「なぁ、立花……少し噂で聞いたんだけどさ…………」
葵が尋ねると山田は低い声で冷たい感じを漂わせた声で、囁くように話し始めた。
「な、なんだよ……」
「立花って最近、生徒会の麗華様と仲良いんだってな…………」
たどたどしく尋ねると、山田は明らかに葵に敵意を示し追求するように答えた。
葵は山田のその言葉に聞き、ビリッと体に電撃が走ったように緊張感を感じ始めていた。
先程、目を血走らしながらカップルについて、熱く論じていた山田と今はその会話をあまりしたくなかった。
葵は何を答えても自分にとっていい方向に進むことが無いことを薄々感じながら、答え始めた。
「ま、まぁ、ミスコンの件で生徒会と一緒に何かをする事が多かったからな……必然的にも親しくなるもんだろ」
「俺たちも立花を助けてたよな? なんで俺たちには紹介してくれないんだ……?
百歩譲って紹介しなかったのは良しとしても、合わせてくれるくらいの褒美はくれても良かったんじゃないか?」
誤魔化すように答える葵に、山田は詰め寄るようにして質問攻めをした。
正直、手伝って貰ったことは確かに感謝はしていたが、手伝いである彼らを生徒会長に合わせる理由が葵にはまるでなかった。
生徒会と組み始め、各クラスが自分たちの出し物を取り掛かり初めてからは、クラスの男子たちには手伝いを求めてはいなかった。
「なッ、流石に合わせる理由がないだろ? なぁ??」
葵は助けを求めるように、山田よりは割と冷静な中島へと助けを求めるように話しかけた。
すると、中島は葵の助けを求める様子に感ずいたのか、ニコッと葵に微笑んだ後、話し始めた。
「そうだな。確かに、立花が俺たちと生徒会長を合わせる義理は無いよな。
それに、山田。俺たち三流、いや三流にすらなれない地味な男子生徒が会長の前にいったところで何が出来る?
下手したら何も出来なかったことで変なトラウマになるかもだぞ??」
中島の助け舟に葵はホッと息をつき、安心し、中島の言葉に思う節があったのか、山田は葵に向けていた敵意を少しずつ薄らげていった。
しかし、中島の話は終わらず、まだ何か言いたいことがあるのか話続けた。
「だけどな、立花。朝たまたま見かけたんだが、麗華様がお前に対してタメ口を使って親しそうにしていたのは、どう説明してくれるんだ??」
葵は次に発せられた中島の言葉にドキッと心臓を跳ねらせ、グッと中島の方へと視線を向けた。
そこには、ニコニコと笑った中島の姿があった。
最初はからかうようにして、イタズラでわざと中島はそれを暴露したのかと葵は思ったが、それは違うとスグにわかった。
微かだったが、中島から先程、山田からビンビンに感じていたものを感じた。
それは、明確な敵意だった。
(こ、コイツもかよッ…………)
葵は心の中で味方だった者が、最初から味方なんかじゃ無かったことにガッカリしながら呟いた。
山田の方に視線を移すと、そこには再び葵に敵意を見せる山田の姿があった。
(や、ヤバイ……こじらせた思春期高校生男子はここまでいくのか……友達だぞ? 俺は……。
仮に彼女が出来たと言ったとしてもコイツらは素直に祝福しないんだろうな。)
葵は山田と中島の嫉妬心がここまで根深いものなのかと知ると同時に、こじらせた2人を恐ろしく感じた。
おそらく、彼らの近しい友人が彼女が出来たなどと報告すれば、彼らは全力で邪魔してくるだろうと葵は思った。
葵が遂に味方が誰もいなく、打つ手が無くなり、これから中島等に追求の嵐を受けると焦っているところに、ある生徒が登校するのが視界に入った。
(なッ、あれは!!)
葵はその存在に気付くと、スグに声をかけた。
「お、お〜い!大和ッ。おはよ!!」
葵は自分の危機からか珍しく教室で大声を出し、友人である神崎 大和の名前を呼んだ。
「ん、あ、あぁ……おはよ…………」
葵の問いかけに気付いたのか大和は、葵の声とは対照的に小さく挨拶を返した。
葵の声に反応した中島と山田は葵の方を向き、いきなり、しかも葵が大声を出したことでクラスの数人は葵に視線を向けていた。
大和の反応に葵は何かおかしいと感じたが、素直にこちらに一直線で大和が向かってきてくれたため、こちらに着いてから聞こうと決めた。
「ど、どうしたんだ? 大和……。今日はやけに元気無いな」
葵は大和がこちら着くや否や、中島達に先程の話をされないようすかさず大和に尋ねた。
葵に上手く逃げられたと感じた2人はムッとした表情で葵を見つめていたが、葵はそれらに気づかない振りをし、無視をした。
「あ、あぁ、ちょっと昨日から色々考えててさ…………」
大和はそう言って、本当に元気が無さそうにボソボソと答えた。
「え? 何があった??」
中島と山田は早く先程の話題を大和にも振り、自分たちの仲間を増やそうと考えていたが、いつも元気な大和の珍しい弱々しい態度に本気で心配になり、大和を気遣うように尋ねた。
葵はそんな肝心な時には優しい2人に感心しながら、そんな友達を誇った。
中島が尋ねると大和は大きく息を吐いた後、ゆっくりと話始めた。
「あのさ、真剣に聞いてくれよ?」
「あぁ、もちろん」
「話してみろ」
大和は無表情で葵達にそう尋ねると、中島と葵はキッパリと答え、山田も首を縦に振り、2人の意見に賛同していた。
「昨日さ……他校の女子にさ……告白された…………」
大和がポッと顔を赤らめながらそう呟くと、4人の時間は止まったように静かなり、沈黙の時間が流れた。
そして、そんな時間か数秒経った後、葵の隣に立っていた中島と山田の方から、本日3度目になる今までで1番大きな敵意を発していた。
葵はその瞬間、先程のこの2人を誇れる友人だと、思った自分がいかに愚かだった事を自覚した。




