俺より可愛い奴なんていません。2-19
並木 麗華率いる生徒会と組んでからミスコンは恐ろしい程スムーズに進んでいった。
それはおそらく生徒会に所属する面々が一人一人優秀であった事と、何よりも麗華の指示の的確さが大きく影響していた。
葵は、まず姉を介し企業に連絡を入れ、2日開催の桜祭に2日とも来てくれないかと交渉し、何とか来て貰える了承を得た。
そこからは、姉である蘭を介して連絡するのも面倒で、連携を取るにも少し遅れが出てしまう事にもなるため、今回ミスコンをバックアップすると企画をうってくれた蘭の企業の者と連絡先を交換し、直接やり取りをする事になった。
その者は、『ミルジュ(姉の務める会社の名前)』の白井 隆信という、真面目で優しい人だった。
ミスコンの問題は次々と解決していったが、ある大きな問題だけがどうにも解決しなかった。
それは桜祭の2日目の件だった。
やはり何度考えても同じ内容を2日続けてやるのは味気なく、企業を混じえた大きなイベントだからといっても、生徒会メンバーを含め葵も、素直に納得は出来なかった。
それに付随して、参加人数の上限も決めていなかったため、人数も増えていく一方だった。
どうにもならなくなった葵は、何とか打開案が無いかといろいろ考え、白井にも相談をする事にした。
すると、簡単にも答えは返ってきた。
葵は白井が提案した案など思い付きもしなかったため、素直に流石はプロだ、とこういうイベントを色々と取り持ってきた者である白井を尊敬した。
正直、白井の意見を聞いた葵は、1日目に行うミスコンよりも2日目にやろうと提案されたイベントの方が楽しそうに思える程で、2日目の方が盛り上がるのでは無いかとすら感じた。
葵はスグにその案を麗華に話すと、もちろん麗華も絶賛し、それを採用した。
そこからの進行は更に速かった。
2日目に行うイベントでは、どちらかと言うと参加人数をあまり気にする事は無いイベントで、打開案として今まで上がっていた参加人数に上限を設けるという事もしなくて良くなった。
そのため、参加人数に関してはあまり気にするものでは無くなっていき、開催するにあたっての障害になるという事にもならなくなった。
ミスコンの企画が大きく進展していき、5月の半ばになると、各クラスもどんどんと桜祭に向けてイベントを準備していっていた。
学校全体が桜祭に向かっている事もあり、生徒達が忙しくなっていっている事が考慮され、それまで何度か放課後に集まっていた修学旅行の実行委員の集まりも一旦無くなり、葵もその恩恵を受けていた。
二宮 紗枝が予想した通り、生徒会が出し物としてミスコンを提示した事により、クラスの出し物として、メイド喫茶やコスプレ喫茶なんかといった、衣装にものを言わせるような出し物をするクラスはあまり出なかった。
ジャンルが違うと言えば違うのだが、それでも着飾るという点でどうしてもミスコンと比較される恐れが大きくあったためだった。
それに、ミスコンの方はプロの手によるもの、学生風情がかなうものでは無い。
紗枝のクラスも例外ではなく、教室で何をやりたいか生徒達に尋ねた時にも、そのような案を出すような生徒はいなかった。
紗枝のクラスは桜祭の出し物として、お見合い式お化け屋敷という名前だけではよく分からないものになった。
最初は教室を改造し、お化け屋敷を作ろうという話だったのだが、毎度お馴染みのトラブルを運ぶ、男子バレー部の面々のおかげで話が逸れ始め、最後には神崎 大和の「彼氏、彼女のいない人達でもカップルのように、お化け屋敷を回れるような、そんな疑似体験物にしようッ!」とういう発言により、この様な結果になった。
正直、葵にとってはミスコンの方で手一杯でクラスの方をあまり手伝えないと思っていたため、何になろうとどうでもいいなと思っていた。
お見合い式お化け屋敷とは、並ぶ人達を強制的に男1人、女1人のカップリングをし、お化け屋敷を回ってもらうという物だった。
当然、並んでいる際に、男子であっても女子であっても、数えられ、あの人とカップリングするんだと予測されるのを防ぐため、いろいろと工夫するという話になっていた。
他人事のように聞いていた葵にとっては、いろいろと面白い意見(ほとんど男子による意見だが)が出て、聞いている分には面白そうな出し物が出来るのでは無いのかと期待していた。
だが、やはりあまり女子の受けは良くなく、否定的な意見もかなり上がり、議論は盛り上がった。
そして、大和が最後に「俺だって彼女とお化け屋敷回ってみたいんだよッ!!」という謎の暴露をした事によって、大和の必死の勢いに負けた形であったが、お見合い式お化け屋敷をやるという事に決まった。
お化け屋敷をやる事は決まったが、大和はクラス中に聞こえるように暴露した事によって、女子からはドン引きされていた。
しかし、自分のクラスでの立場を危うくしてまで、お見合い式お化け屋敷をやるという結果にしてくれた事で、クラスの男子は名誉の死を遂げた(社会的)彼を影で英雄扱いしていた。
やる出し物も決まり、桜祭が6月に開催という事もあり、お見合い式お化け屋敷開催に向け、どんどんと準備が進んだ。
最初ばブーブーと文句を垂れていた女子たちも意外とやってみると楽しくなってきたのか、和気あいあいと色んな案を出しながら、完成へと意識を向けていっていた。
葵もできる限りでクラスの一員として、協力した。
そして、月日は流れ、6月某日。
桜祭もいよいよ前日となり、この日は普段の授業は行われず、クラス中が学校の飾り付けを行っていた。
桜祭に向けての飾り付けは三日に及び行われ、この日は最後という事もあり、仕上げの作業に入っている者が多かった。
葵のクラスも無事にお化け屋敷を完成させ、隣のクラスが当日教室を使わないという事もあり、廊下を介して教室と教室を繋ぐように道を上手く作り、お化け屋敷を拡大する事ができた。
ミスコンの授業も滞りなく進み、前日に『ミルジュ』の会社員数人を引き連れた白井が来日し、麗華達生徒会と葵を含め打ち合わせをし、最終確認を行っていた。
葵は、前日の三日間の準備の中で、1番驚いた事は、ミスコンの会場の飾り付けだった。
開催のために企業と生徒会を取りまとめるのが、主な葵の仕事だったため、そういった現地の仕事をまるで知らず、完成形を見せられた時は驚いていた。
会場は割りと広い校舎の中庭に設営され、中庭は校舎に囲まれているため、様々な教室からもミスコンを見ることが出来、とても目立つイベントになっていた。
着替えなどで必要となる箇所も、何ヶ所も確保でき、そこにも抜かりはなかった。
午後、普段の時間なら最後の授業を受けているような時間に、前夜祭と称され、全生徒体育館へと招集がかけられた。
そこでは、校長先生の有難い長々とした話や、生徒会からの桜祭での注意事項の説明などが行われた。
そして、最後に生徒会長である並木 麗華から全生徒に向け、今年の桜祭のコンセプトが発表された。
それは、『夢』。
正直、学祭程度に大それたコンセプトだとは思ったが、ミスコンに関わった葵はピッタリだと思った。
そんな、前夜祭を経て、様々な生徒達の努力の結晶となり、桜祭は開催された。




