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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
二章 桜祭 ミスコン企画
21/204

俺より可愛い奴なんていません。2-4

松木駅から徒歩15分。


松木住宅街と呼ばれるそこは、その名の通り多くの家が立ち並んでいた。


午後6時を回り、空がだんだんと赤く色づくその時間に、立花たちばな あおいの姿がそこにあった。


葵は、ミスコン出場を決定し、因縁の相手である美雪の出場を強要し、成功した後、何事もなく1日を終え、修学旅行実行委員の集まりも無かったため、学校が終わり次第帰宅し、その最中だった。


そのまま、数分歩くとスグに立花と表札がついた、立派な二階建ての家の前までついた。


葵はいつも通り、ポストの中身を確認し、中に何も入っていない事を確認すると、そのまま、玄関の方へと向かっていった。


立花家にはいくつかルールがあり、そのルールの1つとして帰宅した際は、家のポストを必ず覗くというもので、幼い頃からやっている葵は、もう癖になっており、特に何か考えなくとも体が勝手に動くほどには、体にその習慣が染み付いていた。


「ただいま」


玄関を開けると葵は、玄関まで続く廊下に響く程度に声をあげ、荷物を一旦廊下に置き、靴を脱いだ。


靴を脱ぎ、廊下に上がり、荷物を取り歩いていくと、まず目の前に上に上がる階段が視界に入った。


二階に上がれば、スグに自分の部屋へと行くことが出来るが、染み付いた癖がそれを許さなかった。


これは、立花家のルールの1つでもあり、帰宅した際はスグに自分の部屋に行くのではなく、1度リビングに顔を出す事になっていた。


葵は、階段を無視し、廊下を進んでいき、1階リビングへと顔を出した。


リビングに置いてある、家族全員で見るために置かれた大型のテレビがついており、大型テレビをくつろいで見るために置かれた大型のソファに大の字でふんぞり返って座る女性の姿があった。


葵はその後ろ姿を見て、スグにそれが誰なのか分かった。


今、現在この立花家で住む人間は、家の大きさからは考えられなかったが葵を含め、3人しかいなかった。


本来ならば、もう2人この家に住む者がいるのだが、その2人はある目的のため、海外へと向かい、今は、海外の方で暮らしていた。


「姉貴、今日休みだったのか?」


「んん〜? 葵か、おかえり〜。 そだよ〜」


葵はそう尋ねると、姉 立花 らんはこちらに振り返ること無く、声だけで誰が話しかけてきているのか察し、軽く手をあげブラブラと振りながら葵に答えた。


葵の予想通り、リビングでくつろいでいたのは姉である蘭だった。


もう1人、今のこの家には女性がいるが、その女性、母である立花 栞はきっちりした、仕草も可愛らしい、女性らしい女性だったため、今のだらける蘭がそれだとは考えつかなかった。


蘭は仕事として、スタイリストをやっており、芸能人なんかの衣装を用意をしたり、メイクなんかもやっていた。


普段、仕事の際はビシビシと働き、まさに頼りになる女の大人というような感じだったが、休みに入り、スイッチを切った彼女はまさにだらけたナマケモノだった。


「姉貴……、流石にオヤジ臭いぞ」


「えぇ〜、良いじゃん家なんだからさぁ〜」


「ったく…………」


葵は蘭に言い聞かせるのを諦め、家族が食事をする時に使う木製の椅子とテーブルの所まで向かい、普段自分が使っている椅子に荷物を置いた。


蘭の今の姿を見たら、男ならば間違いなく幻滅するであろう失態だったが、葵は見慣れているのもあったが、蘭に幻滅したりする事は無かった。


それは、今はこんな有様だったが、葵にとってメイクや綺麗になるノウハウを教えてくれたのは彼女であり、姉である事と共に師匠のような、そんな尊敬する存在だったからだった。


葵は荷物を置くとキッチンへと向かい、蛇口を捻り自分の手を洗い始めた。


「平日でせっかく休みなのにだらけてていいのか? 彼氏とかいないの?」


「お? なんだ〜?? 弟のくせにお姉ちゃんに喧嘩売ってるのか〜??」


葵はだらしのない蘭を挑発するようにしてそう言ったが、蘭はそこまで本気で捉えている様子ではなく、依然としてこちらに視線をくれることなく、今度は何かを持った左手をあげ、ブラブラと揺らし答えた。


葵は欄のその手に持った何かが気になり、凝視するとそれがなんかのかスグに理解した。


「飲んでたのかよ……」


「そだよ〜、今気づくなんてまだまだね。 げッ、こいつきら〜い、チャンネル変えてしまえッ」


葵のボソリと呟いた小声も蘭の耳には届いていたらしく、答えが素直にかえってきた。


蘭の手にあったそれは、缶ビールであり、蘭の口調と対応からして、酔っ払っている事は明確だった。


「あぁ、そうだ姉貴。 1つお願いがあるんだけどいい?」


「んん?? 葵からお願い?」


葵が蘭に尋ねると、今までこちらを見る気もしなかった蘭はくるりとこちらに翻り、ようやく葵と顔が合った。


「なぁにぃ〜? おねぇちゃんの貸しは高く付くからね〜?」


蘭はニヤニヤの笑いながら、少し嬉しそうに葵を挑発しながらそう答えた。


蘭の顔は少しお酒で赤く染まり、普段から綺麗顔で大人っぽい顔立ちをしている蘭がそうなるとより一層色っぽく見え、プロポーションも良い蘭が少しダボダボの使い古された部屋着を着ていたため、それも相まって更に色っぽく映っていた。


間違いなく、大和やまと晴太せいたが羨むような、そんな状況だった。


葵は、ニヤつく蘭に頼み込むのは少し気が引けたが、自分の目的には姉の存在は確実に必要だったため、頼むしかなかった。


「今度、ウチの学校でミスコンやる事になったんだけどさ……姉貴に何人か女子をやって貰いたいんだ」


葵は具体的には伝えなかったが、蘭にとってはそれで十分で、葵に何を求められているかスグに理解した。


「うん。いいよ〜、やる」


蘭は迷った様子は無く、答えるのにそこまで間を置かず答えた。


葵の思った通り、蘭は引き受けてはくれたが、何故か少し違和感を感じていた。


「姉貴ならそう答えてくれると思った。JK好きそうだし……それじゃ、悪いけど、頼む」


葵は思い通り答えてくれた蘭に違和感を感じつつも、特に気にせず、そう答え、自分の部屋に戻ろうと椅子に置いた自分のカバンを持とうと歩み寄った。


「そうだね〜、お姉ちゃんは可愛い子が好きだからねぇ〜……でも、それ以上に今回はやる目的が出来たかな〜」


葵はカバンの所まで来たところで蘭の言葉を聞き、立ち止まった。


そして、蘭へと再び視線を移すと蘭は口に手を当て、葵を馬鹿にする様にして、ニヤニヤと笑っていた。

そんな蘭の姿を見て、葵の先程から感じていた違和感が更に大きくなった。


「やる目的?? JKをメイク出来るからじゃないのか?」


葵は驚いた表情で蘭を見つめたまま、尋ねた。


「んん〜? まぁ、それもあるよね〜……でも今回は違うかな〜」


「今回は何だったんだ?」


はぐらかし、勿体ぶるように話す蘭に、答えを催促するように、葵は続けざまに尋ねた。


「弟の大きな成長を見れるからね。 いや〜、ついに葵ちゃんも青春を経験しますか〜。うんうん、いいねッ」


蘭は楽しそうに話したが、葵には蘭の言っている意味が分からず、理解できないといったような様子で蘭を見つめていた。


そんな、葵に気づいた蘭は、今度は馬鹿にするような感じではなく、両目でしっかりと葵を捉え、優しく微笑みながら、諭すように話し始めた。


「今は、分からなくてもいいよ。でも、1つだけ教えておくね? 今までの葵からじゃ、今のお願いは絶対に有り得なかったんだよ?」


「は……? いったいどういうッ……」


「はいッ! ヒントはここまでです!」


蘭の言った言葉の意味が分からず、葵はスグに聞き直したが蘭の言葉に遮られ、話しは唐突に切り上げられてしまった。


「さてさて、テレビみよ〜」


蘭はそう言って再びテレビの方へと振り返ってしまい、会話は完全に中断された。


「わけが分からん……」


葵は蘭の言葉がまったく理解出来ず、酔っ払いの戯言だと自分の中で結論を出し、カバンを手に持ち、リビングから出ていった。


「あッ、そういえば、葵。 来月末には、椿つばきちゃんこっちに帰ってくるみたいだよ〜?」


葵がリビングから出ていき数分経った後、蘭は思い出したかのように振り返りながら、話した。


「あれ? もう上がっちゃったか……まぁ、いいや」


振り返り、葵がいない事を確認すると蘭は、再びテレビの視聴に戻った。


蘭は、ずっとテレビを見ていたが、葵と話して以降、全然テレビの内容が入って来なかった。


「葵が、自分から誰か自分以外の子をやってくれなんてね……。さて、葵にそう思わした子はいったい誰なのかね〜……」


蘭は楽しげにそう呟くと同時にある事にも気がついた。


(だけどそうなると、問題は椿ちゃんになってくるのかしら……。1番多感な時期に、あんな関係になっちゃってたしね〜)


「はぁ……、こうなったらお姉ちゃんが人肌脱ぎますかねッ!! お姉ちゃんだしね!」


蘭は大きく手を広げ、伸びをする様にして、自分に気合を入れるように声を出した。


そして、おもむろにテーブルの上に置いてあった自分のケータイを手に取り、すぐ様、電話を掛けた。


電話をかけ、呼び出しのコールが2、3回鳴ると、スグに電話は繋がり、目当ての相手が電話に出てくれた。


「あ、もっし〜?? お姉ちゃんだよ〜 久しぶり〜!」


蘭は電話がかかると、長年聞けていなかった、親愛なる者の声を聞き、自然と声色も明るくなり、楽しそうに電話をし始めた。


蘭の声色とは、反対に電話の相手は冷たく、少しダルそうな声で蘭の電話に答えた。


「アハハ〜! ごめんね、そっちの時間だと眠いよね……。それでね!ちょっとお願いがあるんだ〜」


いつも同じような対応をされているのか、冷たくされたからといって蘭のテンションが下がるなんて事はなく、依然として変わらぬ明るい声で、電話の相手に相談を持ちかけた。


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