俺より可愛い奴なんていません。10-8
「くっつける……? 俺がか??」
葵は美雪の事となると、敏感に反応するのが亜紀だという事を知っていた為、「流石に鋭いな」と思いつつも、平然とした様子で答えた。
「そうよ……。 アンタ、あの旅行以降なんか変でしょ……。
美雪も最終日を終えてから、元気ないというか……、様子が少し変だし…………。
考え事をしているような…………」
「思い過ごしの、考えすぎだろ?
別に俺が何か行動を起こさなくたって…………」
葵は不意に先程、美雪が自分から、体育祭の実行委員に立候補するつもりだと、聞いていた事を思い出した。
「……なに? それ…………。
美雪が何かしようとしてるの?」
言いかけた葵の言葉に、亜紀は過剰に反応を見せ、驚いた表情を浮かべ、葵に言いかけた言葉の先を追及するよう尋ねた。
「ん? 聞いてなかったのか? 本人から。
体育祭の実行委員をやりたいって言ってたぞ??」
「きッ、聞いてないッ! そんな事ッ!!
――――いつもの美雪だったら、相談してくれるのに…………」
美雪は本来、前に出てみんなを率いるようなリーダーシップのある女性では無く、芯が強く自分の考えをしっかり持つ人間ではあったが、自分から何か役割を引き受けるタイプでは無かった。
必要に応じてその役割を全うするとこはあれど、自分から進み出る事は無く、その意思があったとしても、身近な存在、特に付き合いの長い亜紀には、必ずその旨を相談していた。
亜紀は葵からその事実を知らされ、珍しく酷く動揺した後、葵も聞き取れるかギリギリくらいの小さな声で、不安そうに呟いていた。
「今日思い立ったとかなんだろ??
良い事だろ? 自分から引き受けるんだから」
葵の言葉を聞き、亜紀はキッとした鋭い目つきで葵を睨みつける。
「知ったような事言わないでッ!
いつもの美雪だったら、今日やると決めたとしても、今日の放課後に私や晴海に相談してから、最終決定をするはず……。
今までだってそうだった…………」
「――なんでもいいけどよ……。
橋本に対して、お前は過保護なんじゃないか??
こんなことも一人で決められない程、橋本は弱くない……。
最近は、顕著に堂々としてるように見えてきてるけど、そうじゃないだろ?
東堂に誘拐された時もそうだったけど、元々芯のある奴だ。
それは親友のお前がよく分かってる事だろ」
同様で少し不安定にも見える亜紀だったが、葵はむしろ良い機会だと思い、以前から亜紀に対して思っていた事を素直にぶつけた。
知り合った時からそうだったが、亜紀の行動は、主に美雪が主体となって動いていた。
亜紀は控えめに言っても、桜木高校の中で美人と呼ばれるに値する、整った容姿を持つ生徒の一人だった。
髪は女性にしては短いため、ボーイッシュにも見える彼女の容姿は同性にもモテ、異性からはカッコいい美しさからか、近寄りがたい、ある種高嶺の花のような存在だった。
しかし、そんな彼女は特定の自分を中心としたグループは作らなかった。
彼女に群がる生徒は多くいたが、どこか距離を取った関係性、誇張して言えば、芸能人とそれに群がる一般人のような関係性だった。
そんな、他の高校生とは少し違った雰囲気に大人びた印象を持つ彼女が、友人である美雪や晴海と一緒に居る時だけ、柔らかい印象を出す。
葵はその事がずっと気になり、疑問に思っている事だった。
「――美雪に惚れてる癖に……、生意気言ってんじゃないわよ……」
葵に図星を付かれたのか、亜紀は悔しそうに小声で一言呟くと、その場から立ち去って行った。
結局、亜紀は電話で話していた葵に対して、本当に聞きたかった事を聞けず、その場から離れていき、葵が当初から感じていた、亜紀の強すぎる美雪への執着心があることを確信した。
「はぁ~~……、アイツも面倒な奴だな…………」
今回は上手く追っ払えた葵だったが、北海道行の前にどうしてもやりたいことが葵にはあった為、葵も引くことは出来なかった。
(協力するって約束しちまったしな…………)
葵は亜紀の姿が見えなくなると、自分もまた教室へと戻っていった。




