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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
九章 コスプレ編
188/204

俺より可愛い奴なんていません。9-14

◇ ◇ ◇ ◇


「え、えっとぉ~~。

小百合さゆりどうする??」


「う、う~~ん、ま、まぁ話は分かったけど、いきなりだしな~~」


葵の声を掛けた二人は、葵の話を一通り聞くと少し困った表情を浮かべ、二人で相談するように葵の前で話し始めた。


今日何度も声を掛け、何度も見たその二人の表情を見て、葵は少し緊張していた。


それは異性に声を掛けている事から来る不安では無く、また断られてしまうのではないかという不安から来るものだった。


最初こそ、見知らぬ初対面の女性に声を掛ける事を葵は緊張している節もあったが、途中からは慣れ始め、逆に断られるごとに、不安からまた雰囲気の違った緊張をすることが多くなっていた。


葵が今回声を掛けた二人の女性は、田中たなか 小百合さゆりという名前の女性と、横山よこやま 千春ちはるという名前の女性だった。


小百合も千春も当然、突然声を掛けて来たと思ったら、コスプレの勧誘を葵から受け、様々な事情を聞いたが、すぐにそれを了承できるようなものでは無かった。


「う~~ん、面白そうではあるけど私達、コスプレとかあんまりやった事も無いし~~。

それにあの子みたいには慣れないよ……」


小百合に相談を持ち掛けられた千春は、近くで撮影会を行う紗枝さえの方に視線を向けながら、そう答えた。


葵は確かに千春のいう事も重々理解しており、何よりその言葉は、今日の勧誘で何度も聞いた受け答えの一つだった。


素人のコスプレイヤーが多く参加しているイベントとは言え、皆、それぞれかなりのハイレベルであり、そのレベルに達するためには、イベントが始まる数日、数か月間準備してきたからこそであり、今日誘われその場でパパッとおこなったようなコスプレでは、周りから見劣りしてしまうのではないのかと、二人は不安に感じていた。


「その点は大丈夫です!

あそこで撮影している彼女も、今日急遽コスプレしていただく事になって、

本人も不安げに感じてましたけど、ご覧の通りです……。

プロと比べれば、俺のコーディネートなんてまだまだではありますが、絶対にお二人の満足いくようなコスプレをさせて貰います!

不安だとは思いますが、お願いしますッ!!」


葵は自分自身も驚いたが、既になりふり構っている状態では無く、この二人を逃せばもうチャンスは来ないかもしれないと、そんな予感すら感じていた為、どうしても二人を逃がすわけにはいかず、気づいたときには頭を深々と下げ、お願いをしていた。


「あ、ちょ、ちょっと! あ、頭は上げて!!」


「そうそう、ちょっと不安に感じてるだけだから……」


葵の熱意が少しでも二人に伝わったのか、最初は葵の事を新手のナンパかと疑い、警戒心を強めていた二人も、葵に頭を上げさせるよう、気遣った言葉を投げかけた。


葵は二人をこれ以上困らせるわけにもいかなかった為、すぐに顔は上げたが、二人から視線はそらさず、引くつもりは無かった。


そしてそんな葵の少し強引だが、熱意に根負けし、二人顔を見合わせた後ため息交じりに、葵の誘いを受け入れ始めた。


「はぁ~~、年下の子にこんなに熱心に誘われちゃ~ねぇ~~?」


「まぁ、ウチらこの後も予定は無かったし、少しだけなら付き合ってもいいか?

その代わり、葵君? ここいら一帯じゃ負けないくらい、一番の出来にしてね!?」


渋々と言った雰囲気もあったが、葵は二人の優しさからコスプレを受けてもらえる事を承諾してもらい、冗談半分ではあったが、ニヤニヤと笑みを浮かべながら話す小百合にプレッシャーを少々掛けられた。


少しその言葉にドキッとさせられる葵だったが、葵は二人の容姿には自信あり、彼女の要望には応えられる気がしていた。


「小百合さんも千春さんもお綺麗なんで問題ないですよッ!

別に、周りを悪く言うつもりはないですけど、正直敵じゃないです」


葵は小百合と千春をコスプレできる事が決まり、テンションが上がっていき、若干興奮してきていたが、その高ぶる気持ちをグッと堪えながら、少しだけ漏れた熱意から不敵な笑みを浮かべ、二人の目を見て真っ直ぐと答えた。


「ヒュ~~ッ! 言うね~、葵~~」


「あ、葵君? 流石に大人のお姉さんもそこまできっぱりと言われちゃうと、ちょっと恥ずかしいよ……」


「葵は意外と天然タラシかもね? そんじゃそこらのナンパ小僧よりも全然靡いちゃいそう」


葵は前回の沖縄旅行の事もあってか、異性、特に少し都市の離れた大人の女性にも慣れており、小百合と千春のそんな会話で慌てることなく、その後もスムーズに会話を勧め、早速流れを説明し始めた。


一通り、二人に説明を葵は終えると、そんな二人を確保できた一番の要因である紗枝に視線を送った。


すると、紗枝も撮影の中、葵の一部始終を見ていたのか、目が合い、葵は嬉しさのあまりキャラに似合わず紗枝に親指を立て、Goodの合図を送った。


自然と表情は笑顔になり、葵のその合図から勧誘が成功したことを紗枝が察すると、紗枝もまた自分の事のように喜び、葵と同じように親指を立て、合図を返し、今度は片手でOKサインを出し、口元をかすかに動かした。


葵はその紗枝の行動を見逃さず、紗枝が微かに動かした口元からは「行っていいよ」という、紗枝が伝えたい事を読み取った。


葵は軽く片手を縦に紗枝に向け、詫びる様にジェスチャーをした後、小百合と千春に向き直った。


「すみません、それじゃ、少し歩きますけど行きましょう」


葵はそう告げると小百合と千春を案内する様、歩き始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


葵が2人の女性を連れ、数十分が経過した。


葵が紗枝の撮影している会場から姿を消し、紗枝は最初は1人きりになった事で不安を感じる事もあった。


(やっぱ、立花たちばな君が近くに居ないと少し不安だよなぁ〜……)


紗枝は一向に自分の周りから減らない観覧者の為、軽い要望に答え、ポージングを取りつつ葵の帰りを待っていた。


撮影自体は凄く刺激的であり、紗枝自身も未体験の事だった為、何もかもが新鮮であり、楽しい時間を過ごしていたが、それでも葵がこの場を離れてから、最初より気持ちは乗らなくなってきてもいた。


(沢山の人に見られて、可愛いとか綺麗とか言われるのは確かに嬉しいけど…………)


紗枝はそんな些細な考え事を悩みながら、少し周りを見やった。


葵のコーディネートや立て看板の宣伝行為もあり、紗枝の撮影しているこの会場で、紗枝は1番の集客になっていた。


自分でも慣れないことを必死でやってきていた為、あまり周りを気にしたことは無く、今気付き、改めて葵のコーディネートの凄さを実感した。


(す、凄い人…………。

やっぱり、立花君のコーディネートは凄いなぁ〜〜。

こんな初めての素人の私でも、こんなに人が集まるなんて……)


そして、紗枝は撮影していきながら、周りの観覧の人達の声が耳に入っていった。


「いや〜、この子初参加でこんなに人を集めるなんて、ホント凄いよなぁ〜……」


「ホント、プロ顔負けというか、何処の事務所に所属してるモデルだとしても不思議じゃないもんな」


紗枝は特に注意して聞いていた訳ではなかったが、近くの人達の会話が気になった。


「この子、今の内に目を付けといた方がいいでしょ!?」


「それなッ! スカウトされてデビューした時、自慢になるぜ!!」


男性2人組の会話を聞き、紗枝は思わず苦笑いを浮かべ、「ないない」と心の中で呟いた。


そして、その男性の会話から注意を逸らした時だった、紗枝に向かって新たな要望を伝えるように、別の男性の声が上がった。


「あ、あの! す、すみません!

少し、足を開いて胸を寄せるようなポージングって出来たりしますかッ!?」


「えッ……? えッ!?」


紗枝は少し集中力をかいていた部分もあり、突然な申し出に動揺したように上手く返事が返せなかった。


勿論、葵から事前に言われたように、少しでも性的に見えるようなポージングはNGにすべきであり、少しでもそういったポージングを1度でも取れば、どんどんとそういった要求が来ると注意されていた。


「あ、あ、それは…………」


紗枝が少し困ったように声を上げると、そんな紗枝の声を遮るように別の方向から男性の声が上がった。


「だ、ダメですぞッ!?

この子は今日初めてなんですぞッ!? 撮影にも慣れてない様子であります!!」


「で、ですなですなッ!!

新人で右も左も分からない彼女にそういった要望をして、このイベントで嫌な思いをさせてしまうのは、私共も不本意でござるッ!!

そ、それに、彼女は我々のような者達も大変お世話になった事のある、Aoさんのご友人……、不定際があっては…………」


紗枝が拒否するよりも前に、近くの葵の女装も撮った事のあると思わしき2人の男性が、紗枝を守るようにそう言葉を発した。


紗枝を庇った2人は、少し嫌な役回りを身を呈して引き受け、紗枝に少し性的なポージングを提案した撮影は、明らかに嫌な表情を浮かべていたが、2人が庇ってくれた事により紗枝はそういったポージングをする事がなく済んだ。


「す、すいません、ありがとうございます」


「い、あ、いえいえッ! わ、我々は……なぁ?」


「で、ですなッですなッ!

当然な事をしたまでですッ!!」


紗枝に直接お礼を言われた事で紗枝を庇った2人は、少し動揺したように慌てて答え、視線は中々合わなく挙動不審に見えなくもなかったが、紗枝は庇ってくれた事もあり悪い人には見えなかった。


(立花君の知り合いかな? 助けて貰っちゃった……。

いなくても結局守ってくれるな…………)


紗枝は庇ってくれた2人に感謝を告げた後、不意に葵の事を再び思い浮かべた。


(早く帰ってこないかな…………)

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