俺より可愛い奴なんていません。9-13
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紗枝のコスプレ披露から数分。
紗枝の要領の良さから、初めてまだ数分しか経っていなかったが、段々とコツを掴んでいき、際どいポージング以外のポージングも次々にこなし、撮影者の要望に次々と答えていっていた。
元々彼女の持つ柔らかな雰囲気影響し、撮影者ともどんどんコミュニケーションを取っていき、葵が最初方に数度助っ人に入ることもあったが、今は傍から見ていても危なげなく、本人も楽しむようにしてイベントに参加できていた。
(二宮本人が、そこまで興味のあるような事じゃなかったから、
本当に頼んでも良かったか心残りがあったけど、これなら大丈夫そうだな)
葵は自分の置かれている状況が芳しくなく、イベントの終了時間もどんどんと近づいていく中で、焦っている状態とはいえ、紗枝に少し強引に、お願いを聞いてもらった事に、申し訳なく感じていた。
しかし、時間が経つにつれ、紗枝も自然な笑顔を見せる様になっていき、葵は少し安心していた。
(二宮の方は特に問題無さそうだな、少し危ないような体制を取らされそうになっても上手くかわしていたし……。
警戒だけは解かないように、俺もやるべきことをするか)
葵はこの世界に紗枝を引き込んだ手前、彼女に絶対に嫌な思いだけはさせないよう、視界の隅でも必ず紗枝を視界に入れつつ、紗枝に興味を持っていそうな異性を探し始めた。
紗枝のコスプレは出来栄え、そして彼女の持つ素質も相まってかなりの人を集めた。
露出の少ないキャラクターを選んだ事もあり、紗枝の事を観覧する男女にもそこまで大きく偏らず、男性ばかりが取り囲んでいない為、このイベントを楽しんでいる女性も紗枝の事を観覧しやすい雰囲気でもあった。
そんな紗枝を見る女性を中心に葵は意識を向けた。
段々と紗枝の周りに人だかりはでき始め、撮影者や観覧者の声が葵の耳に届く。
「いや~~、こんな逸材がこんなとこでコスプレをしてようとは……」
「ですなッ! 今日一番の収穫でござるッ!!
あの立て看板見ましたかッ!? なんと、あの有名コスプレイヤーAoさんのご知り合いで、コスプレはAoさんのお墨付きらしいですぞッ!!」
「そうなんですかッ!?
どうりでレベルがダンチなわけですねぇ~~。
ここいら一帯じゃ、一番じゃないですか!?」
「ですなッ、ですなッ!!
中央のプロコスプレイヤーが集まる場所でも、見劣りしないですよッ!?」
葵は観覧の話声を盗み聞きしながら、紗枝がコスプレを披露し始める前に、用意した立て看板が、少しでも有効的に使えている事を改めて実感した。
葵が用意した立て看板には、紗枝が初心者であり、今回が初めてのコスプレ披露であること、そして紗枝自身も今は現役の高校生である為、ネットに上がった際の身内バレを防ぐ為、偽名を記載した。
その他には、過激な要望、セクハラ等のNG等の基本的な事に加え、今回初お披露目でほぼ無名に近い紗枝を観覧する人を増やす為、それなりに知名度のある自分の名前を記載した。
そこに自分の名前を書く事で、ズルではないが紗枝に少しばかり注目度を上げさせ、元々何度もこの大会に訪れ、Aoの事を知っている観覧者に興味を持たせていた。
「どうやら、近くで友達がコスプレをしているのを、Aoさんが見守っているらしいですぞッ!?」
「そうですな、立て看板にもAo巡回中とありますし、変な事はできませんなッ!?
ま、まぁ、し、しませんけどなッ!?」
葵は近くで話す観覧者を見て、心の中で小さく「嘘つけよ」と、呆れ気味に悪態を付いた。
葵自体は男であるため、こういった撮影の際、きわどい要望がきた時でも、氷のように冷たく、きっぱりと毅然とした態度で断ることが出来るが、紗枝は女性であり、今回が初めてという事もあって、強く断れない事は必然的だった。
そのため葵は、Aoが友達のコスプレを見守っているぞと一言付け加えた事により、それがいかがわしい事をさせようとしている男達に対して、牽制になっていた。
葵はこの界隈自体が嫌いでは無かった、元々見られることが好きな葵に対して、ここは自分になっており、そんな世界で紗枝に嫌な思いをしてほしくは無かった。
そのため、葵は保険に保険を重ね、そういう出来事があったとしても回数的には少なさせ、事があれば、真っ先に自分が入る事を心に決めていた。
「よしッ! 決めましたぞ!!
我々二人はそういった不埒な不届き者が出てきようものなら、そいつを退治すると!!
Aoさんには毎年お世話になっていますからなッ!?」
「ですなですなッ!! なにせ我々は有名になる前、なんなら初披露の時からの古参!!
我々がAoさんのご友人を守らねば……。
それに近くを巡回中となれば、我々がご友人を救ったところも見てくれるはずッ!!
そうなれば……」
「天才現るッ!! 確かに、そこで我々の株を上げれれば…………」
葵はしばらく自分の事も撮影に来てくれているであろう、二人組の男性の話を聞いており、途中、思わず感心するような言葉を話していたが、最後の方には下世話な、下心が見え始め、邪な考えがあるとはいえ、紗枝を守ろうとしてくれる二人を嬉しく思いながらも、軽く苦笑いを浮かべつつ、それ以上二人の会話を聞くことはなかった。
そして、葵は他の観覧者に注意を移し始めた。
何人か目ぼしい異性を警戒したが、何度かこのイベントに訪れる事のある常連であり、見ることは好きだが自身がすることには関心の無い様子で、葵が目的とする異性が現れる事が無かった。
長く一人でパートナーを探し、それでも見つからなかった事もあり、再び諦めかけて来たところで、葵の耳にある観覧の話声が聞こえてきた。
「あッ! あれって、魔法少女ま〇か☆マ〇カのほ〇らじゃないッ!?」
「うわ! ホントだ~~、懐かし~~。
私達学生の頃やってたよねッ!?」
「やってたやってた!
似てるし、可愛いね~~!?
使い古されてる言い方だけど、ほんとアニメの中から出て来たみたい!!」
他の観覧とは少し毛色の違う女性二組の言葉が、葵の耳に不意り、葵はその二人に関心を寄せた。
「なんか、やっぱコスプレっていいねッ!?
うちらも学生の頃、ちょっとやったよね?」
「あぁ~~、やったやった!
メイドだけどね~~」
他の人から見れば何の変哲もない、ただコスプレイヤーを見て楽しむ女性二人組だったが、葵はその二人が気になっていた。
そして、葵は時間が無い事もあり、気づいたときにはその女性二人組に声を掛けていた。




