俺より可愛い奴なんていません。9-11
「二宮がこういった物に、興味があったなんて、
何か意外だな」
葵は少し興奮した様子の紗枝に、連れられるようにして、小道具が用意されている『ミルシュ』のバンへと訪れていた。
「意外かなぁ~? こういうの見るとテンション上がらない??」
紗枝の声色は普段よりも明るく、葵にとってはそこまで興味深い場所では無かったが、紗枝は大変満足している様子で目を輝かせながら、小道具を手にとっては眺めていた。
「まぁ、凄いとは思うけど二宮みたいにそこまでの情熱は……、
――って、おい、そんなに舐め回す様に見るか? 普通……」
「だ、だって、ほんとにすごくて!」
「小道具職人かよ……」
自分と紗枝のあまりの熱の違いに、葵は少し引きながらも、小道具と言うよりは熱中して見ている紗枝の方が気になった。
「なんか、こういった装飾品? まぁ、ここにあるのは全部コスプレ用だけど、
特別な思い入れとかあるのか??」
「う~~ん、実は私、演劇とか舞台とかが好きでさ。
高校生であんまりそういうの興味持ってみたり、あるいは上演しているのを見に行ったりする子はいないから、不思議がられるんだけどね……」
「意外だな……」
「やっぱり立花君もそう思うかぁ~~……」
葵は素直に感想をボソッと呟くように答え、そんなすんなりと口を付いて出た葵の本音が、紗枝は少し気に入らなかったのか、少し悲しそうな雰囲気を漂わせ、苦笑いを浮かべながら答えた。
そして、そんな紗枝の表情と雰囲気を葵は見逃さなかった。
「別に二宮のその趣味を、変だとかは思ってないぞ?」
「え…………?」
葵は紗枝の表情から、何となく昔の自分を思い出し、紗枝が皆までは言わなかったが、急に悲し気な笑みを零した理由について、何となく察しが付いていた。
葵のそんな返答に、紗枝はただ驚くばかりで声を漏らしたまま、目を点にさせ葵を見つめた。
「いや、俺の思い過ごしなら別にそれでいいんだけどな。
そんなに好きな趣味の割に、自信なさそうに話すから……。
俺の趣味も別に人に自慢できたり、熱く語れるようなものでもないし……、
何となく似たようなものかと……」
葵は自分の女装の趣味と同じように考えるのは良くないかと思いながらも、一度話し始めた言葉は途切れることは無かった。
女装の趣味が周りから理解されない事が当然であり、葵はその事に関して割り切ってはいたが、それでも自分が熱意を注ぐものが理解されなかったり、同じ共通の趣味を持つ者と出会えず、熱く語れないもどかしさは良く理解できた。
「そっか……、立花君も…………。
――――ありがと」
葵は余計なお節介かと途中で気がつき、話しながら紗枝から視線を逸らし、小道具へと視線を向けていたが、声色が再び少し明るくなった紗枝の声を聞き、自分の取った行動に対してホッとした。
そして、葵も他人から理解されることを諦め、時にはその趣味が否定されることもあった為、趣味は違えど、似た悩みを持った者が他にもいる事に、奇妙にも嬉しく感じた。
「演劇とかも、テレビとかからか?」
「テレビで見る事もあるけど、きっかけはお母さんかな?
昔からお母さんが好きで、連れて行ってもらったり、家でDVD見たりした事がきっかけで好きになった感じ」
「悪い、俺は見た事ないんだけど、面白いのか??」
「うんッ! 面白いよッ!!」
葵は流れで会話をしていた事もあり、ナンセンスな質問を口に出してしまったとすぐに気が付き、紗枝に視線を戻したが、紗枝は満面の笑みを浮かべ、自信溢れる表情できっぱりとそう答えた。
そんな紗枝の清々しい程の笑顔を見て、葵も釣られるように自然と笑みが零れた。
「それじゃあ、今度どこか見に行こう」
「え?」
葵は自然にその言葉が口から零れ、素直に楽しそうに話す紗枝に感化されるようにして、演劇に興味が湧いてきていた。
そんなあまりに自然に出た葵の言葉に、紗枝は先程とは少しニュアンスの違った驚きから、再び声が零れ、一瞬の出来事に、すぐに葵の言葉を認識できなかったが、時間が経つにつれ、その意味を理解し始め、それと同時にどんどんと自分の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じた。
「二宮がそこまでハマってるのも気になるしな?
演劇とか舞台のあの独特なメイクにも興味あるし。
二宮が嫌でなければだけど……」
「え、あ、うん。
い、嫌じゃないよッ! 全然ッ!!」
紗枝は思考がまだ上手く定まっていないのか、心臓の高鳴りのせいか、すぐに上手く返事を返せなかったが、しどろもどろになりながらも、自分の思いを伝えれていた。
「俺でも上手く理解できるか分からないけどな……」
「だ、大丈夫ッ! 全然!
簡単だし、すぐに面白さは伝わるよ!!」
「そっか……。 ありがとなッ
楽しみにしとくよ!」
紗枝は初めて自分の趣味を今日共有出来る同年代に出会えた喜びと、葵と二人っきりでどこかに行く約束をした喜びから、余計にひどく乱れた答え方になっていたが、きちんと葵に気持ちは伝え、葵も歓迎するように答えてくれた紗枝を嬉しく感じていた。




