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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
九章 コスプレ編
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俺より可愛い奴なんていません。9-2


「さっきの話、具体的にどう意味だったんだ?」


あおいらんの話を黙って、終始興味深そうに聞いていた白井しらいは、葵の目を盗み、蘭に尋ねた。


蘭も白井から話を振られ、葵が今は少し離れた位置で、椿つばきと話しているのに気づくと、白井の質問に答え始めた。


「白井~~、アンタは何年『ミルジュ』で働いてんのよ~~。

事務だからって、スタイリストの仕事を少しでも理解しない姿勢はどうかと思うよ~~?」


白井は『ミルジュ』のスタイリストでは無く、スタイリストの管理、仕事の契約などの、どちらかと言えば蘭のような、スタイリストのサポートをする仕事を主にこなしていた。


そのため、スタイリストの仕事については、あまり理解が行き届いていない事も、事実としてあった。


「理解できてなくて悪かったな!

それで? 葵君のやり方の何が悪いんだ?」


白井は仕事に熱心であり、この仕事に対して未だに尽きぬ興味もあったため、素直に謝罪し、それよりも自分の聞きたいことの答えを蘭に尋ねた。


「まぁ、葵の引き込み方は悪くないんじゃない?

誘い方としては、上々だし、間違っても無いと思う。

とゆうか、そこに関しては専門外だから、正直よくわかんない」


「はぁ~~?」


蘭のあやふやな答えに、白井は思わず不満げな、ため息交じりな声を漏らし、蘭は気にせず答え続けた。


「ただ、葵のコスプレについてはきちんと評価できる。

まず、葵の選んだキャラクター。

チョイスが悪いわけじゃないんだけど、コスプレの楽しみを履き違えてる」


「え?」


白井は葵のコスプレには一切の不平不満は無く、むしろ、最初に蘭が専門外だからよくわからないと告げた、アピールの仕方に少し間違いがあるのかと思っていた為、驚き思わず声も漏らした。


「白井はあのキャラクターについてどれくらい知ってる?」


「え? あ、え~~と、すまん、俺もあんまり詳しくない……」


「はぁ~~。

あのピンクのキャラクターは、性格こそ主人公に対して塩対応ではあるけど、ジャンルで言えばロリっぽいキャラになる。

男性にしては、背の低い葵にはルックス的に合っているのかもしれないけれど、葵は可愛い系の顔つきじゃないからね……。

どちらかと言えば、大人びた、クールなイメージのキャラが合わせやすい……」


真面目に受け答えする蘭に、白井は気づかされた様にハッとした表情へと変わった。


「――それじゃあ、葵君の選択したキャラが合ってないって事か……?」


白井の閃いたと言わんばかりの表情と、物言いに蘭は冷たい視線で白井を見つめた後、再び深いため息を付いた。


「白井は単純だねぇ~~」


落胆と呆れの混じった反応に、白井はムッとなったが、それでも蘭の言わんとしている事が分からず、黙り込み、彼女のより具体的な解説を待った。


そして、蘭は白井から葵へと視線を戻し、再び話し始めた。


「コスプレは元来、2.5次元と愛称されるくらい、2次元のキャラクターをどう3次元に落とし込むかが重要視されてくる。

原作に忠実に衣装を作ったり、髪型も忠実に、そしてキャラクターの身体プロフィールに沿う様に、自分のルックスに近いキャラを選ぶ……。

そうして突き詰めるのがコスプレ……」


白井は蘭の話を聞きながら、その場から見える会場に向かうコスプレイヤーたちに視線を飛ばした。


白井の目に飛び込む景色の中で、同じキャラだと思われる人であっても、少し雰囲気が違ったような人もおり、それが目に入り、蘭の言葉に違和感のようなものを感じた。


しかし、蘭の言葉に水を差すことなく、疑問を飲み込み、話を聞き入った。


「実際、SNSとかでのコスプレを見れも、本当に現実にそのキャラがいるように思える程、完璧なコスプレイヤーもいる。

だけど人間が作り、その自身の体におとすんだもん。 どうしたって個性は現れる。

同じ作品を見ていても、少しだけ人によって感じ方が少しずれたり、自分が好きなキャラを忠実に再現したいと思う中で、自分なりのキャラクターの解釈も入ってくる。

それが個性になる。

同じキャラでも、メイクや髪型を真似、衣装を作っても、体系が同じでもやっぱりそれぞれ魅力が少し異なる」


「なるほどな……。

コスプレにその個性は邪魔なのか??」


「う~~ん。そこが難しいのよね……。

目指す所にもよるし、むしろ私は個性が出た方が面白いし、魅力的に見えると思ってる。

有名な写真集を出してるコスプレイヤーは、もちろんいろんなキャラをコスプレするわけだけど、それでもやっぱりそのコスプレイヤーしか出せない魅力が見える。

今回、葵は事前に準備したモデルと衣装でコスプレをするわけじゃ無い。

人も、その人にあうキャラも即席でコーディネートしなければならない。

当然、目指すべきところは2次元のキャラを忠実にではなく、ある程度遊び心もあり個性があればモデルは映える。

それが絶対というわけではないけど、いろいろな可能性はこちらの方がある」


蘭お話を聞く中で感じた違和感に、白井は納得がいき、腑に落ちた様子で頷き、そして、あることにも気が付いた。


「なるほどなぁ~~。

でも、それだったら葵君は大丈夫なんじゃないか?

自分に見合ったキャラで、さっき立花が言ったように、キャラの雰囲気とは少し離れてるんだろ?

それは、あのメイドキャラクターでも本来の自分の魅力を出すコスプレが出来てるって事じゃないか??」


白井はまったく心配していないようにそう告げたが、蘭は白井とは違った印象を葵に持っていた。


少し長めな沈黙を経て、蘭はゆっくりと答え始めた。


「――――う~~ん、まぁ、白井の言う通りそうならいいんだけどね……」


「んん??」


煮え切らない返事に白井は、思わず聞き返した。


「葵は自分に合う身長のキャラを選んで、コスプレしたって出かけるときに聞いたら言ってた。

そして、多分、コスプレをするにあたってそのキャラを調べ、再現するような形でコスプレをした。

だけど葵は長年、自分の女装をしてきた為か、自分の一番綺麗に見せる魅せ方を熟知してるし、自然とその意識が利いたはず……。

それに気付いているか、いないかで葵が他の女性をコーディネートした時に意識が変わる。

忠実に再現している様で、あくまで個。」


「大丈夫だろ? あそこまで上手い女装、コスプレが出来るんだし……。

それに初めての事じゃないんだろ? コスプレも」


「自分を仕上げるのと、他人を仕上げるのとじゃわけが違うわよ!

方向性を見失ったら、一気に破綻する」


蘭の一連の話を聞き、白井は改めて葵のコスプレ姿を注視した。


葵は、人気アニメに登場するピンク色の髪をしたメイドをコスプレしており、白井は原作の元になったキャラを知らなかった為、葵がどこまでの再現をされているのか分からなかった。


しかし、スタイリストでは無いとはいえ、今日のように現場に出る事は多かった為、仕上がりの善し悪しぐらいは分かり、白井の目にはやはり葵は良い意味で纏まっているような気がした。


葵の女装は女装をする際、露出を嫌い、その点コスプレはどうしても露出が多くなるが、メイドというキャラを選びなるべく露出を避けている。


肩と少し首元を露出させ、胸は男だか作っているのか、少し膨らみを感じさせていた。


髪はピンクで、ボブヘアーっぽい事もあり、子供っぽさを感じさせる印象があるが、葵の顔が綺麗顔な為、そこまでの子供っぽくは見えなかった。


簡単に表現するなら、知性的、そんな印象を感じた。


白井はそんな葵のコスプレを見て、原作のキャラが気になり、携帯を取り出し調べ始めた。


「えぇッ!? 凄い、再現力あるじゃないかッ!?」


白井は蘭の話を聞いていた為、もっと子供っぽい印象なのかと思ったが、葵の表現は、かなり原作に正しいように思えた。


ただ、何度も葵とそのキャラクターを見ると、どうしても葵の方が少し凛々しくも思えなくもなかった。


17歳という設定もあったが、葵のそれはもう3つほど年齢が高いように思えた。


(17歳って事は、現実的に考えたら高校生?

あんまり現実的に考えたらダメなのは何となく分かるけど、未成年には見えない…………よな……?)


白井は考えていく内に、何が正解なのか段々分からなくなってきていた。


「まぁ、こんな感じに見失ってくるわけよ。

原作には離れるけど、こっちの方が自分に合う。 でも、原作から離せばなんのキャラか分からないんじゃ…………ってね!」


唸るように考え始めた白井を笑うように、蘭はそう呟いた。


蘭の馬鹿にしたような微笑みは、イラッと感じたが、白井はその難しさの一端を垣間見たような気がしていた。

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