俺より可愛い奴なんていません。8-22
「えっとぉ、その、前野は本気で告白するつもりか??」
葵は、告白を宣言した前野に少し慌てた様子で尋ねた。
「あぁッ! 立花も協力してくれよ!」
前野はすっかり覚悟を決めた様子でやる気になっており、葵にも協力を求めた。
「やめた方が良いんじゃないか?
今じゃねぇだろ?? 会って数日しか経ってねぇし。
それに、沖縄じゃ遠距離じゃないか?」
葵は昨日の自分が降った手前、連日に違う人から告られ、まだ、静の中で昨日の事について、立ち直れてなかった場合、何か負担になるようなそんな気がしていた。
これは完全に葵のエゴであり、一度振ってしまった葵が考えるような事でも、気にするような事でもなかったが、気遣うがあまりそんな考えは過らなかった。
「まぁ、確かに数日しか経ってないし、遠距離になるかもしれないけど、好きであれば問題ないだろッ!?」
「いやまて、冷静になれッ
そんな簡単な話じゃねぇだろ?
第一、この旅行中もそうだが、お前は女性の目移りが多い。
日によって違う子を可愛いとか、好きとか言ってるだろ?
仮に付き合えたとしても、毎日会えないストレスから他の女になんてことも考えられるだろ?
そしたら、小竹さんが一番可哀想だろ??」
葵は何とかそれらしい理由を並べ、何とか前野の告白を断念させようと計った。
しかし、葵の思い通りにはいかなかった。
「俺、立花の言う通り、確かに可愛い女の子を好きになったりするけど、小竹さんと付き合えるのであれば、そんな事はなくなるぞ??
絶対、一筋になる」
葵の質問に、前野は葵の顔をしっかりと見つめ、さも当然と言わんばかりに断言した。
葵は前野のその言葉に我に返ったように気づかされた。
(そうか……、そうだよな。
前野の今の言葉は本当の事だろうし、仮に前野と静の二人になにがあろうと、俺には関係の無い事で。
ましてや、静の事を振った俺がこんなことを言うのはおかしいし、告白を止めるのもおかしい……)
葵はそのことに気付いた瞬間に、一気に体の力が抜けた様に感じ、前野の告白を止める事を諦めた。
振ってしまった静の気持ちを考えての行動だったが、その行動自体がおこがましく、葵は自分の先程の行動を気持ち悪くすら感じた。
(惚れられてる女をキープしてるみてぇ……。
異性を嫌って、こういうことに長らく目を背けてた結果なのかもな)
幼馴染の静が、比較的ちゃらんぽらんな前野に告白される事を素直に応援することは出来なかったが、葵は彼の自由に、そしてこのことに協力するのも、妨害することもせず、不干渉でいる事を決めた。
「ま、まぁ、前野がその気なら告白すれば、いいんじゃないか?」
「おしッ! やってみるわッ!!
協力もしてくれよなッ!!」
「それは無理」
前野と葵、長谷川はそんなことを話しつつ、前野の声のデカさもあり、一通りの会話は、同じくBloomに向かう女子グループの耳にも入った。
「前野君、告白するってッ!!」
一番に反応したのは、こう言った恋バナに目がない晴海だった。
亜紀も美雪ももちろん、葵達の話は聞こえていたが、亜紀は興味を示さず、美雪も気になってはいるが、他にも思うところがあった。
そして話を振ったのにも反応が薄い二人に、続けて晴海は話した。
「あっちゃんもみゆっちも聞いてたでしょ!?
前野君が小竹さんに告白するって。
小竹さん受けるかな~? どうかな~~?? どう思う?」
「知らないよ~。興味無いし…………」
「あっちゃんは相変わらずだねぇ~!
こんなに楽しい話題ないのにぃ~~。
みゆっちはどう思う??」
反応の薄い亜紀に、晴美はブーブーと文句を言いながらも、友達として付き合ってきた中で、彼女にこれ以上言及しても、納得のいく答えが返ってこないのは分かり切っていた。
晴海は亜紀を諦め、今度は美雪へと話を振った。
「え? あ、あぁ~……、どうだろ…………。
難しいんじゃないかなぁ~~?」
美雪は葵達のやり取りの中で気になる事があったが、晴海に話題を振られたことで我に返り、静が葵の事を好きだという事を思い出し、自分の考えを口にした。
「えぇッ!? なんで!?
前野君と小竹さん、割と楽し気な雰囲気あったけどなぁ~~?」
「ま、まぁ……、雰囲気とかはね……??
でも、知り合ってからの期間とかさぁ~~、遠距離だし…………」
「えぇ~~? 好きだったらそんなの関係無くない??」
美雪は口が裂けても静の好きな人の事は言えず、何となく誤魔化す様に晴海に答えたが、晴美はその理由では上手く納得しなかった。
晴海の再度の質問に、美雪は遂に答える選択肢がなくなり、必死に唸りながら考え込んでいると、今度は横から興味の無さそうだった亜紀が答えた。
「晴海~~。
あんた、恋バナ好きな癖に鈍いというか、感が悪いわよねぇ~~。
理由なんて分かり切ってるでしょ……」
「え!? なになにッ!?」
興味津々な晴海に亜紀は、淡々とした様子でそれを言い放った。
「他に好きな人がいるって事よ……」
「ちょッと、亜紀ッ!?」
美雪は今まで、誤魔化し続けてきたことだが、亜紀はハッキリとその核心を付いた。
美雪は慌てる素振りで亜紀を制したが、亜紀の言葉を聞いてしまった以上、晴海の興味と感心は増し、更に追求し始めた。
「え? え?? どうゆう事??
小竹さん好きな人いるの? とゆうか、あっちゃん知ってるの!?」
「本人から直接聞いたわけじゃ無いから分からないけど、見てれば何となくわかるでしょ??」
「え? 誰々ッ!?」
亜紀は淡々と今まで答え、静の予想だが、好きな人も答えようかと思ったが、隣にいる美雪の目が「言っては駄目だ」訴えかけているように見え、それ以上を口にするのをやめる決意をした。
「まぁ、予想だし……。 それに予想だとしても本人の許可なく、いないこの場所で言うのはちょっと変でしょ?」
「えぇ~~ッ!? 予想だったらいいじゃん~~。
なんかみゆっちも気づいてるっぽいし、ずるいよぉ~~」
「駄目なもんは駄目……」
またも不満を漏らす晴海に、亜紀は断固として伝えない事を宣言し、そしてもう一つ、亜紀も気になっていた事に付いて、話題を変える意味で話し始めた。
「そういえば、立花も前野の事を止めてたけど、何か知ってるのかね……?
まぁ、自分の幼馴染に迷惑が掛からないようにしただけなのかもしれないけど……、」
何気なくそう呟いた亜紀だったが、隣にいる美雪がその話をしたと時に少し表情が引き締まるような、神妙な表情を浮かべたのを亜紀は見逃さなかった。
「美雪? 美雪もなんか知ってるの??」
亜紀は気遣って聞かないようにするか迷ったが、聞かずにはいられなかった。
「え? あ、あぁ……、特には知らないかな……?」
美雪は昨日夜、葵と静が会っていた事を思い出し、それが何か関係しているかもしれないと、様々な考えが廻ったが、亜紀に昨日の夜の事は告げず、苦笑いを浮かべながら答えた。
美雪は、上手く笑顔を作ったつもりだが、思考も上手く定まらない中、上手く笑顔は作れず、余計に亜紀の不安を買った。
美唯の雰囲気に亜紀は再度質問を投げかけようとするが、その時だった。
「あぁッ!? 分かったッ!!
小竹さんと立花君って、付き合ってるんじゃない!?」
「はぁ!?」
質問を投げかけようとする亜紀を遮って、少し声を大きくし、興奮した様子で晴海は声を上げ、今まで鈍感だった晴海が答えた話は、いきなり飛躍したように亜紀は感じた。
幸いにも少し大きく声を上げた晴海の声は、男子には聞こえておらず、亜紀は聞き返す様に声を発した。
「だってさぁ、前野君の告白を立花君が止めるのっておかしくない??
幼馴染で、一番小竹さんともいい雰囲気だったし……。
それが一番考えられるでしょッ!?」
「はぁ……、アンタね…………」
晴海はこれだと言わんばかりに、美雪と亜紀に自分の考えを伝え、葵の好きな人を知る亜紀は、呆れかえったように呟いた。
そして、晴海の飛んでも理論に呆れながら、亜紀は美雪へと視線を向けた。
亜紀は自分と同じように、呆れかえっていると美雪を思っていたがそうでは無かった。
美雪の表情は凍り付くように固まっており、心ここに在らずといった様子だった。
「美雪?」
「え? あ、あぁ、ごめん、ちょっと聞いてなかったや…………」
亜紀の言葉に再度、美雪は我に返ったように反応し、すぐに取り繕う様に、会話に戻り始めた。
事情を知る亜紀は、美雪も晴海の意見に関心を示さないと、そう決めつけていたが、逆に昨日の様の事を知る美雪は、晴海の言ったことがピタリとはまったように感じ、晴海の話した話が答えにすら感じていた。
晴海はその後も絶対そうだと意見を曲げず、亜紀はそれを淡々と否定していたが、美雪の様子が気になり、美雪はそんな二人の会話に笑顔で加わりながら、昨日の葵の言葉を気にし始めていた。
――――俺が協力してやる――――
葵の発した言葉の真意は見えぬまま、美雪達はBloomへとむかって行った。




