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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
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俺より可愛い奴なんていません。8-19


しずかの言葉を真に受け、あおいは思考が定まらず、グルグルと色々な考えが、頭の中で巡り巡っていた。


驚きと咄嗟の出来事に固まる葵に対して、全てを伝え終えた静は、ドキドキしながらも、冷静に葵の言葉を待つ事が出来た。


数分の間、二人の会話な無く沈黙が流れ、定まらない思考のまま、ようやく葵が口を開いた。


「え……と……、告白って事だよな?」


葵は自分自身、勇気をもってここまでハッキリと伝えた静に対して、失礼にも確認するような態度を取る自分を、言葉を発した後に、情けなくも感じながら、静に尋ねた。


「うん。 そうゆう事になるね」


「そ、そうか……。 そうだよな…………。

えっと……、急だったから、ちょっと頭が……。

悪い変な事聞き返して…………」


取り留めなく答える葵に対して、静は真っ直ぐに、自分の気持ちを伝え、葵に再度確認させた。


葵は完全に困惑していた。


葵自身、こういった状況が別に初めてというわけでもなく、女装の時はひっきりなしに、そして男性の姿であった時も、異性から告白されたりしたことも、無い事は無かった。


当時は女嫌いの部分も酷い所があったためか、告白されたとしても、少しビックリするくらいで、ここまで動揺した事なく、むしろ素っ気なく答えてしまった事もあったりしていた。


今振り返ってみれば当時の行いは、自分でも最低だと思える行いであり、目の前の真剣な静を見て不意に、そんな昔の事を思い出しては、反省し後悔もした。


何故かそれを思い出したからか、葵は冷静さを取り戻し、よく見ればここまで堂々としている静だったが、彼女の体はどこか強張っているようにも見え、気づけば彼女は自分の手を、傍から見てわかるほどに強く握っているのが分かった。


(そりぁ、そうだよな……。 そうなるし、当たり前だよな……)


堂々としている彼女も、必死に気を振り絞り今この場にいる事を、改めて強く葵は認識し、静の気持ちを想えば思う程、自分は冷静に、誠意を持って答えなければならないと、覚悟も決まっていた。


(告白する方がキツイに決まってるよな……。

俺だったら……、いや、俺は多分…………)


葵は静の行動を見て自分も同じ事が出来るか一瞬考えたが、その答えは考えるのも馬鹿馬鹿しく思える程に、すぐに出てきてしまい、情けなく、アホらしく感じながら、その事に付いてすぐに考えるのはやめた。


そして、文句も言わず葵の言葉を静かに待つ彼女に、葵はゆっくりと再び口を開き答えた。


「告白してくれてありがと……。

だけど……、ごめん。

俺にも多分、好きな人がいるんだ…………」


真摯に答える静に影響されてか、葵はすんなりとその言葉を出す事が出来た。


ここに来る前にその気持ちを認め、口にするのは恥ずかしい事だったが、真剣に目の前で勇気を振り絞る彼女に言わない無礼を行う事を、葵はすることが出来なかった。


しかし、静を葵も正面から見つめ、真摯に答える一方で、葵の表情はどこか悲し気で、辛そうに、何故か羨む表情にも、静の目からはそう見えた。


葵の表情は静に違和感を感じさせはしたが、静はもちろんそれどころではなく、葵から視線を切り、自分の感じた違和感など考える余地も無かった。


「そ……、そっか…………。

まぁ、そうだよね……。 長い期間があるもんね……」


葵の言葉を最後まで聞くと、静は俯きながらポロポロと言葉を零し、いままで貼っていた緊張が解けていくように、どんどんと声もか細くなっていき、最後の呟きは、葵には聞こえない程の小さな声で呟いた。


そうして再び二人は沈黙しかけたが、静はそれを許さなかった。


「って言うか、多分って何よ、多分て……」


静は痛々しく思われても、無理に笑みを浮かべ、今この状況で沈黙の空気が流れれば嫌でも、涙が零れると思い、沈黙だけはさせるように、会話を続けた。


「やっぱ駄目だったかぁ~~。

葵も再開して間もないのに、急に言われたらビックリしちゃうよね?

告白早まったかな~~。

まだ、今年の秋ごろに葵達はもう一度こっちに来るのにねぇ~?

次の旅行の時にアピールして、告白すればもっとチャンス有りそうなのに…………」


静は捲し立てるように言葉を出し、葵に背を向け、一方的な会話でも途切れないように、話を続け、葵もそんな静の話を黙って、素直に真剣に聞いていた。


しかし、静の願いも届かず、ついに会話は途切れ、風の音と波の音だけが二人の間に流れ、長い沈黙が流れた。


そして、背を向けたまま話していた静の肩が、微かに震えるように葵からは見え、再び沈黙を破り、話し始めた静の声は震え、泣き出しそうな自分を堪える、切ない声だった。


「――――何年も持ってたんだもん…………。

頭では無理かもしれないと分かっていても……、溢れて……きちゃうよね…………」


葵から背を向ける静の表情を葵は確認することは出来なかったが、静が今、どんな表情をしているかは考えるまでも無くすぐに分かり、先程から真摯に静の言葉を受け止めるばかりで、それが精いっぱいで、なんと答えたらいいのか、葵には中々思いつかなかった。


しかし、葵は何とか定まらない思考のまま、彼女の言葉を返した。


「ごめん思いに答えられなくて……」


「な、なんで葵が謝るのさ……。

結果的に振られはしたけどさ、私は、ここでまた葵に会えてよかったよ?

なんか、気まずくなったら嫌だね?」


葵が言葉を返すと、静の返事は先程の声を程は震えておらず、所々鼻をすすり、目元を拭うような仕草を見せつつ、依然として表情は見えなかったが、最後の一言はどこか明かるげな雰囲気を纏っていた。


葵はそんな静を見て、つくづく彼女の芯の強さを認識させられ、素直に彼女の事を尊敬した。


「気まずくなんて絶対しない。

わがままなのは充分わかってるけど、これからも友達として付き合ってほしい」


「そっか……。

うん、こちらこそお願いね?」


その言葉を最後に再び会話が途切れかけたが、沈黙すれば静はまた自分が色々と考えてしまう時間ができ、気持ちが弱くなると思った為、葵に要件はこれだけだと短く伝え、「最終日もよろしくね」と最後に付け加えると、葵をホテルへ返そうと促した。


静にそれだけを伝えられると、葵は一人きりになりたいと静が考えていると察し、この場を立ち去ろうと、一言別れを告げ、歩み出した。


しかし、数歩歩いたところで葵は歩みを止めた。


(このままで本当にいいのか?)


葵は、ここまで勇気を出して告白してくれた静に対して、自分が一つでも真摯に答えられたのか、疑問にふと思った。


そして、葵はたとえ自己満足だったとしても、これだけは静に伝えなければとその場で思いとどまり、再び静の方へと体を向け、彼女に呼びかけた。


「静!」


葵が名前を呼ぶと、途中から意図的に葵に顔を見えなかった静は、葵の方へと顔を向け、自然と視線が合った。


葵が分かってはいたが、静の目は少し赤く潤んでおり、頬は流れた涙を拭った為か湿っているように見え、涙の流れた跡もほんの少しだけうかがえた。


葵と目が合うと、静は思い出したかのように顔を背け、葵に顔を見られないように手を盾にするように、葵からは手の平しか見えないように、顔を隠した。


「ど、どうしたの? 急に……。

何か言い忘れた??」


静はあくまで明るく取繕う様に葵に問いかけ、不本意だったが彼女の泣き顔を見てしまった事に、罪悪感を感じながら、深呼吸を軽くすると、静に話し始めた。


「これだけは伝えなきゃ、フェアじゃないと思って……。

実はさ、俺がさっき答えた好きな人っていうのはさ……………」


葵はこの時、初めて自分から美雪すきな ひとの名前を口に出した。



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