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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
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俺より可愛い奴なんていません。8-8


◇ ◇ ◇ ◇


Bloomブルーム


真鍋まなべ美雪みゆきまゆずみの頼みで、買い物に行き、それを追う様にして、あおい亜紀あきが商店街に向かった後、残された晴海はるみ長谷川はせがわ達は、変わらず浜でビーチバレーを楽しんでいた。


ビーチバレーをする中で、しずかは亜紀と共に別行動を取った、葵の事ばかりを考え上の空のまま、晴海達と欠員の穴を埋めていた。


「静っちッ!!」


元気のいい掛け声と共に、長谷川達のチームから飛んできたサーブを見事に受け取りながら、晴美は相方の静へとトスの要求する声を上げた。


しかし丁度、数分前の葵と亜紀の事がちらつき、静の行動を遅らせた。


「あッ……、ごめん…………」


バレーをしていく中で、何度か見せた静の失敗だった。


チームメイトの晴海はともかく、対戦相手である長谷川達にも、静が集中しきれていない事は明確であった。


しかし、そんな静に厳しい声を掛ける者は一人としておらず、晴美は心配そうに気遣う様にしながら、静に声を掛けた。


「どうしたの? 具合悪い??」


「え……、あ、いや、大丈夫ッ、大丈夫」


優しく気遣う晴海に、静はすぐに自分が周りに、心配をかけている事を察し、取り繕う様に笑顔を見せながら、晴海の問いかけに答えた。


静の見せる笑顔に、晴海は少し違和感を感じつつも、静の答えを素直に聞き入れ、彼女の事を依然と気に掛けながらも、これ以上静にしつこく尋ねる事は無かった。


晴海は、色々な事を頭の中で考えながらも、次に似たような事が静に起こった際には、ビーチバレーを一旦中断させ、休憩を取ることを決めた。


「無理はしないでね?」


晴海は最後にその言葉を静に投げかけ、その問いかけに静が首を縦に振り、答えるのを確認すると、少し静から離れ、自軍のコートを守る形で、再び位置についた。


静と晴海の一連の流れを見ていた、対面コートにいる長谷川達は、晴海達が守る体制を再び確認すると、自分たちもポジションの位置に戻り、ビーチバレーの続きを行おうと構えた。


その時だった、不意にビーチバレーを行う彼等、彼女等に声が掛かった。


長谷川達に掛かった声は、「ねぇ」と一言で短かったが、長谷川達の耳に確実に届き、その声は女性の声だった。


名称の無い呼びかけに、長谷川達は声の方へと視線を向けた。


すると、そこには海風で軽く靡く髪を抑えた、立花たちばな 椿つばきの姿がそこにあった。


「え…………」


椿の姿を確認すると、昨日イベントのステージにも、上がっていた事から、長谷川や前野まえの、晴海も椿の事を認識し、彼女が誰なのか、すぐに分かった。


もちろん、昨日の大会の優勝者がまさか、声を掛けてくるとは、長谷川達も思っておらず驚いていたが、その中でも、椿の事をよく知る静は一層に驚き、思わず声も漏れていた。


「え、えぇ~……っと、立花……、葵に用かな?」


思わぬ来訪に、長谷川達は一瞬沈黙したまま、お互いの顔を見合わせた後、恐る恐る前野が口を開いた。


慣れない名前に言い換えながら、前野はそう尋ねると、椿はバレーをしている長谷川達一同を、見渡した後、再び前野に視線を戻し答えた。


「いや、今日は兄さんには用ないです」


椿はにこやかに微笑みながら、声を返してくれた前野にそう答え、静の方へと視線を送った。


椿の笑顔を直撃した前野と、割と近くで見ていた長谷川は、目と心を椿に奪われる中、視線を送られた静は椿と目が合った。


椿と目が合う瞬間、静は椿がこの場に何故、静が訪れたのか、そして目当ての人物が自分だとすぐに察した。


「小竹、静さん? ごめんなさい……、ちょっといいですか?」


静が沖縄に移住し、葵の次に会う事が気まずくなってしまった、親友だった椿のその言葉を聞き、静は大きな不安と、先程スポーツをしていた時にかいた汗とは違う、冷ややかに伝う汗を感じながら、ゆっくりと頷き、椿の申し出に答えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


Bloomから離れた海辺。


沈んでいく太陽が良く見える、浜から上がった道沿いのベンチが並ぶスポットに、椿と静はたどり着いていた。


「えっと……、ここでいいかな?」


ここまで来る間にも二人の間には、ほんの少しの会話しかなく、ようやく口を開いた椿は、少し昔の仲の良かった雰囲気を出しながら、砕けた口調で静に尋ね、断る理由のない静は、「うん」と小さく答えながら首を縦に振った。


そして、二人はベンチへと腰を降ろし、特に何かを話すことは無く、沈黙が流れ、椿は沈む太陽を見つめ、静はそんな雰囲気を依然と気まずく感じながら、時折わき目で椿の様子をうかがっていた。


「えっとさぁ……、久しぶりで少し気まずいんだけど、元気してた……?」


再び沈黙を破ったのは、椿だった。


そしてかねてから、椿が一人で尋ねて来た時から、薄々気づいていた事だったが、静はこの時、椿が自分の事を、安藤あんどう静だと認識していると事を確信した。


「う、うん……、久しぶりだね、椿ちゃん…………。

椿ちゃんも元気にしてた?」


静は椿との接触を避けて来ていたが、わざわざ自分の為に時間を作り、会いに来てくれていた椿を相手に、再び取繕うような事をすることは出来ず、素直に観念するように、静は椿に言葉を返した。


「やっばり、静お姉ちゃんなんだね……。

元気にしてたよ……」


静の口から真実を聞け、十中八九、同一人物だと思っていた椿は、懐かしく感じながら、呟くように静にそう呟いた。


そして、静が久しぶりに、まじまじと見る椿の表情は少し悲しげに見えていた。

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