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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
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俺より可愛い奴なんていません。8-7


真鍋まなべの疑問に、その場は一瞬にして静まり返り、がやがやと活気のある商店街にいる者達の声だけが響き渡っていた。


美雪みゆきは唐突の質問に固まり、あおい亜紀あきも真鍋の核心を突くような質問に、心の準備ができておらず、頭が真っ白になっていた。


真鍋は少しの間だが、美雪が自分から話すのをじっと静かに待っていたが、中々美雪は答えることなく、凍ってしまったように固まる美雪に、言葉を促す様にして、声を掛けた。


「えっと……、橋本?

大丈夫か??」


「え……? あ、あぁ、だ、大丈夫です……。

ちょっと急だったので、びっくりしました……」


真鍋が心配するように美雪に尋ねると、美雪は我に返り、状況を理解すると笑顔を作り、取り繕う様にして答えた。


「悪い……、ちょっと、プライベートな事聞き過ぎたか??

最近はここら辺、シビアだからなぁ~~。

ホント、他意は無いぞ?? なんというか興味本位だ!!」


「大丈夫ですよ! 別に、セクハラだなんて言ったりしませんから……」


真鍋は教員として、最近シビアになりつつある生徒との距離感を気にしつつ、弁明を美雪にしたが、美雪はそんな風に焦る真鍋を見て、クスクスと笑みをこぼしながら答えた。


美雪と真鍋の間には、穏やかで優しい雰囲気が流れ、とてもいい雰囲気が二人を包んでいた。


「先生が思ってる関係じゃないですよ?

立花さんと私は……。 でも……、立花さんは大切な友達です。

立花さんのおかげで、あやさんや紗枝さえさんとも友達になれましたし。

まぁ、立花さんはあんまりこう言われるの嫌がりそうですけど…………」


美雪はそれを言われた際の葵を思い浮かべたのか、微笑みながら呟くように答え、美雪の「大切な友達」という言葉に引っかかったのか、葵と共に話を聞いていた亜紀は、葵の方へと視線を向け、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。


もちろん、葵はその亜紀の笑みに気が付き、嫌そうな表情を浮かべたが、葵のその反応は亜紀を余計に喜ばせるだけだった。


「大切なお友達だって……」


「うるせぇな、別に何も言ってねぇだろ……」


亜紀の挑発的な態度に、葵はイラつきを感じながらも、美雪と真鍋の会話に視線を戻した。


「まぁ、立花はシャイだからなぁ~~。

そういう事面と言われると凄い嫌がりそうだよなぁ」


「ですねッ」


亜紀の嫌がらせを無視した葵だったが、真鍋と美雪も会話の流れから、葵をからかうような内容の会話をしており、亜紀は益々、笑みを浮かべかすかに笑い声を漏らた。


当然、葵は嫌に感じても何も言い返せず、言われたい放題な原状にただ耐えるしかなかった。


そして、そんな何気ない美雪と真鍋のそのやり取りも、葵には眩しく映り、自分と美雪ではあんな雰囲気は出せないと痛感した。


「でも、俺の予想も外れたかぁ~~。

結構いい線いってると思ったんだけどなぁ~……」


「なんか、あったんですか?」


美雪と葵を恋仲であろうと予想し、見事外れた真鍋を見て、以前の真鍋を知る美雪は、そんな話題を振る真鍋を奇妙に感じ、不思議そうにしながら、真鍋に尋ねた。


「いやな?

前も桜木さくらぎに来た時もそうだったんだけど、どうも俺のそういう恋愛観みたいなのが、ズレてるって女子に言われてさ……。

自分ではそうは思わないし、ズレてるつもりも無いんだけどなぁ~~。

からかわれっぱなしなのもなんか癪だしな」


真鍋は難しそうな表情を浮かべたまま、生徒である美雪に悩みを打ち明けるかのように、素直に話していき、そこまで重要でないことに真剣に悩んでいる事を知り、真鍋の姿を見て、美雪はクスクスと微笑んだ。


「いや! 笑いごとでなくて!!

こないだも、生徒会のメンバーで付き合っている二人がいるのを、初めて聞かされて、誰と誰が付き合ってると思うか、クイズ形式で質問されたんだけど、見事に外したし……。

挙句の果て、生徒をきちんと見てないから答えれないんですよとか、嫌味言われる始末だし……」


「災難ですね……」


愚痴を零す真鍋に、美雪は苦笑いを浮かべながら答え、二人はそのまま少しの間、会話なく、買ってきたソフトクリームを食べ、静かな時間が流れた。


葵は特に何か大きなことが起きることが無く、依然として決定的に美雪が真鍋の事を好きだと判断できる材料が見当たらず、この尾行での成果は無いかもしれないと、半ば諦めかけてもいた。


隣へと視線をやると、一緒に同行した亜紀もソフトクリームを食べながら、視線は一向に美雪達の方へと向けていたが、特に何かに気が付いた様子も無いように見えた。


葵はそんな亜紀の様子を見て、再び、美雪達の方へと視線を戻した。


「真鍋先生……。

真鍋先生には、好きな人っているんでしょうか……?」


静かに流れていた時間に、美雪は細々とした弱々しい声で、真鍋に尋ねた。


弱々しい声だったが、美雪の隣にいる真鍋はもちろん、近くに座っていた葵や亜紀にも美雪の声は聞こえ、美雪がそんな事を聞くとは思えなかった葵は、驚いた表情のまま美雪達を凝視し、亜紀も急な美雪の質問に、口に含んだソフトクリームが変なところに入りかけたのか、噎せ返っていた。


「え? あ、あぁ~~俺か……。

確かに人に聞いといて答えないのも、あれだよなぁ~~」


真鍋は一瞬、驚いていたがすぐにいつもの調子に戻ると、頭を軽くかきながら、少し困った様子で悩みながらそう声を上げた。


そんな真鍋に美雪は、真鍋が声を上げる度にどんどんと小さくなったいるように葵には見え、美雪の後姿しか、葵から確認できず、真鍋に質問してから、美雪はずっと俯いているように見えていた。


そして、真鍋はゆっくりと美雪の質問に答えていった。


「――――いるよ……。好きな人」


短い言葉だったが、真鍋の優しい声と表情から発せられた言葉は、隣の美雪、また近くで盗み聞きをしていた葵達に衝撃を与えた。


言葉を聞いた瞬間、美雪は少し体を跳ねらせ、美雪と真鍋の後姿や時折見せる横顔しか、判断できる材料がない葵は、美雪のその反応を見逃さなかった。


「ずっと、大学生の頃から好きだった人が一人いるよ。

まぁ、結局付き合えては無いし、その人、今年、結婚しちゃうんだけどね」


真鍋は優しく微笑むようにしながら答えていたが、彼の纏う雰囲気は何処か悲し気で、真鍋がまだ、その好きな人を想っている様子がひしひしと伝わってきていた。


「学生時代からずっと友達でさ、他の仲間とも一緒に集まって遊ぶ仲で、社会人になってもそれは変わらなくてさ……。

その関係が心地よくて、ずっと続きていくものだと甘えてたんだろうなぁ。

いつかは、いつかはと、気持ちを伝えるのを後回し、後回しにしていたら、もう手遅れになってた……」


真鍋は少し寂しそうな様子で話していたが、彼の中でこの事には決着が付いているのか、すらすらと彼の口から言葉は出てきており、淡々と話す真鍋の話を美雪は、いつの間にか真剣に、静かに聞いていた。


「まぁ、ほとんどは自業自得だからな~。

だから、自分の教え子たちには、あんまりそういった思いは、してほしくないかな。

告白して恥をかくかもしれないけど、告白しないで将来、後悔するよりかはずっと良いからね」


「そうかもですね……」


真鍋の話は終わり、すべてを聞いた美雪は、少し暗いトーンで呟くようにして俯き答えた。


そんな美雪の様子に気付かず、真鍋は自然の流れのまま、美雪に聞かれた質問をそのまま美雪へと返した。


「橋本は好きな人とかいないのか?」


美雪の心情を知る由もない真鍋は、美雪にそのまま尋ね、また自分の後悔から教訓を教えようとも考えていた。


「あんのッ、バカッ!!」


今まで幾度となく、美雪の反応を見てきた葵は、確信までは無かったが、美雪が真鍋を好きだと思える判断材料は多くあり、彼女の口から聞いたわけでもなかったが、確信に近いものを感じていた。


そして、そんな美雪が真鍋に好きな人をいるのかと勇気を出し、真鍋に尋ね、その結果彼女のそぐわない形で、真鍋に思う人がいるという事を知り、落ち込む様子で俯く彼女に、いくら心情を分からない真鍋と言えども、その無神経な質問を投げかける事を葵は許せなかった。


葵は声を上げ、立ち上がろうとするも、隣にいた亜紀に手を強く引かれ、真鍋達の元へと行くことは叶わなかった。


「ちょっとッ! 今行けば、付けてたのがバレるでしょッ!?

我慢しなさい!!」


亜紀は葵の気持ちも分かっている様子で、彼にだた耐えることを伝えた。


見てはいられず、まったくのノープランで飛び出そうとしていた葵は、亜紀のその言葉で、少し冷静を取り戻したが、状況は変わる事は無く、葵は酷な筆問を投げかけられているであろう美雪に、何か手を差し伸べる事すらできなかった。


「好きな人ですか……。

まだ、私には分からないですかね!」


美雪は少し悩むようにして呟いた後、真鍋の方へと向く直り、いつもの彼女らしい笑顔でハッキリと答えた。


「美雪…………」


葵を止めた亜紀は、そんな美雪の姿を見て、悲し気に小さく呟き、葵はただ黙って美雪のその笑顔を見つめる事しかできなかった。

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