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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
154/204

俺より可愛い奴なんていません。8-5


◇ ◇ ◇ ◇


亜紀あきあおいの思惑通り、美雪みゆき真鍋まなべは二人きりで買い物に行くこととなり、まゆずみに買ってきてほしい物を確認し、美雪達はお店が多く立ち並ぶ、商店街へと訪れていた。


そして、そんな二人を尾行するようにして、怪しい二人組が美雪達の後を付けていた。


「ねぇ……、これで本当に分かるの??

てゆうか、距離空け過ぎでしょ? この距離じゃ全然二人の会話が聞こえないじゃない……」


「しょうがねぇだろ。

これ以上は近づけねぇぞ? 別に俺たちは変装してるわけでもないんだから……、一発で見つかる」


真鍋と美雪の後を付けるようにして、十分な距離を開けていたのは、今回の件を企てた亜紀と葵だった。


亜紀は不満げに葵に告げるが、葵の答えるように、接近は気づかれる可能性があり、とてもじゃないが、変装も何も施していない二人が、これ以上の距離を詰めることが出来なかった。


「てゆうか、アンタさぁ?

美雪達を追う時に、晴海はるみ達に言ったあの言葉、何なの??」


一度不満を漏らした亜紀は、思い出したかのように、数分前の出来事について話し始めた。


◆ ◆ ◆ ◆


巻き戻る事、数分前。


亜紀と葵は自分たちの思惑通りに、美雪と真鍋を別行動にさせることに成功した。


しかし、別行動にさせることは手段の一つであり、目標はあくまでも美雪の本音を知る事。


もちろんその為には、美雪達の尾行が必要であり、長谷川はせがわや晴海のいるこの場から、上手く抜けるための口実が必要だった。


美雪が抜けたことで、人数は奇数になり、Bloomブルームの仕事が今日は終わっているしずかを仲間に入れるかどうかの相談を、晴海達がする中、亜紀はどうにか抜ける為に、思考を巡らしていた。


どんどんとこれからの予定が決まっていく中で、晴美はすぐに静に声を掛け、静もそれを承諾し、益々抜けにくくなる状況の中、声を上げたのは焦る亜紀ではなく、葵だった。


「あぁ~~、悪いけど、俺と清水しみずは抜けてもいいか?」


葵は言いずらそうにしながらも、堂々とこの場にいる全員に聞こえる音量で発言した。


葵の単刀直入な物言いに、亜紀は驚きの表情を向け彼に、視線を向けていると、当然の質問が晴海から投げかけられた。


「え? どうして? 

なんかあるの?? あっちゃんも一緒に……」


心の準備も、何を口実に抜けるかもまだはっきりと決めていない亜紀は、その質問を聞き、心臓が大きく跳ねるような感覚を感じ、ゆっくりと恐る恐る晴海に視線を向けると、晴美は亜紀にも視線を送っていた。


「あ、あはは……、ちょ、ちょっとね…………」


亜紀は乾いた微笑みと、中途半端な答えしか晴海に返すことが出来ず、亜紀のそんな反応を見て、晴美は益々不思議そうに、亜紀の目から見ても疑問がどんどん深まっている事は明確だった。


晴海の質問には、長谷川や前野まえの、これからビーチバレーに参加する静も注目しており、葵と亜紀はその視線を一身に受けていた。


その中で、再び葵は口を開いた。


「いや、まぁ、自由時間て今日も含めて、明日の最終日しかねぇだろ??

そうするとさぁ、あんま時間取れないかなって……」


「んん??」


葵の抽象的な話し方は、晴海を益々困惑させ、依然として注目を集め、葵が何を言うか全く想像付かない亜紀も、葵に注目していた。


「いや、まぁ、なんだ……。

その、デートとかする時間がな?」


「へ……?」

「は?」


葵が頭を軽くかくような素振りで、少しけだるげに、淡々と発言した言葉に、晴美はもちろん、何も聞かされていない亜紀もまた、思わず声を漏らし、驚いた表情で葵に視線を向けた。


少しの間、葵達の間に静かな時間が流れたが、その時間は長くは続かず、すぐに多くの人の驚きの声で、沈黙は破られた。


「えぇぇぇッ!? ど、どうゆう事ッ!?

デートって言ったよねッ!?」


「おぃ……、嘘だろ? 立花たちばな…………。

俺たちは、修学旅行の事前旅行として、この沖縄に来てるんだよな??

お前だけ、彼女のとのデートも兼ねて来てるなんて事……、ないよなぁあッ!?」


晴海は自分の耳を疑いながら、葵にもう一度先程の言葉を尋ね、前野は既に気落ちしており、テンション低く、悲観するように再度葵に尋ねた。


「ちょっ……!」


事態がどんどん悪い方向へと進んでいく中で、ようやく亜紀が声を上げたが、そんな声を遮るようにして、葵は答え始めた。


「まぁ、なんにせよ悪いな?

バレーは俺と清水抜きでやってくれ……」


葵は簡単にそう言い切り、会話を切り上げると、亜紀に一言「行くぞ……」と声を掛け、困惑する晴海達に背を向け、そそくさと歩き始めた。


葵のその行動に晴海達は、更に困惑し、亜紀はその狭間で両方にしきりに視線を、キョロキョロと向けながら、自分が今するべき最善の行動を短い間で、必死に考えた。


「あ、いや、晴海? 

あのバカはデートって言ってたけど、ただの買い物だからッ!?」


「買い物って、明日もするじゃん…………」


「あぁ~~、いやぁ~~、まぁ……ね…………?

あ、後でちゃ、ちゃんと説明するからッ!?」


葵がどんどんと晴海達から離れていく中で、弁明をしてから彼を追いかけるつもりだったが、とてもじゃないが、短い間で誤解を解くことが出来ず、あの冗談をあまり言いそうにない葵が、そういう事を言ったという事が、余計に信憑性を高めていた。


晴海達は依然として困惑し、長谷川はせがわ達と共に様々な論争を繰り広げた。


「葵…………」


ワイワイと声が飛び交う中、葵とその後ろ追う様にして駆け寄る亜紀の姿を見て、静はただ一人、葵の名を小さく呼ぶように呟いた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「普通さぁ、あんな理由付けないよね??

後の弁解とかめんどくさく、ならないわけ??」


亜紀は思い返しても腹の立つ先程の出来事を、依然として不満な態度で、葵に言葉をぶつけた。


「別に? お前と勘違いされるのは心外だけど、言わせたい奴には言わせれば?

噂されるのには慣れてるし、今に始まった事じゃ……」


葵は話の途中で言葉を切り、何かを見つけた様に近くのお店へと向かって行き、そんな葵に気付かなかった亜紀は、葵の文句を呟き続けた。


「無神経なアンタはそれでいいかもしれないけど、私は死ぬほど嫌なんだけど??

弁解するの手伝ってよ?

大体、さぁ…………」


亜紀の話へ耳も傾けずに葵は手早く、お店で見つけたものを2人分購入し、依然として美雪や真鍋の動向に目を光らせる亜紀の元へと戻った。


「おい、これ付けろ……」


お店も近いところにあり、一連の動作に数分しか要さなかったが、亜紀は依然として不満を零しており、そんな亜紀に葵は言葉を遮るようにして、自分が買った物を亜紀に一つ手渡した。


「――これって……、帽子と、サングラス……?」


葵が亜紀に渡したのは、柄の入ったキャップと、ピンク色の淵をした、いかにも南国といったド派手なサングラスだった。


レンズの周りハートマークになっており、女性が好みそうな見た目をしていた。


亜紀がサングラスと帽子を手にし、呟きながら葵へと視線と移すと、そこには既にド派手な黄色い淵に、レンズの周りが星のマークになっているサングラスとキャップを着用した、葵の姿がそこにあった。


葵は亜紀にこれで、外見で二人だとバレないように変装するつもりでいた。


幸いにも、旅行中はお互いに私服であった事もあり、至近距離まで近づかなければ、バレる可能性は無いように思えた。


「これで変装して、もっと近づくってわけね……」


「あぁ、そうだ。

分かればとっとと付けろ……。

近づくぞ……」


葵の意図が亜紀へと伝わったのを葵は確認すると、亜紀にせかす様にそう告げた。


「ちょっと待って…………」


「なんだ?」


先程まで一定の距離を保っていた間隔が、離れ始め、少し焦っていた葵は、その様子を声からも感じさせながらも、呼び止める亜紀へと振り返った。


「交換」


亜紀はそう一言、ハッキリと言いながら、葵のサングラスを指さし訴えた。


葵はすぐに亜紀のその言葉の意味することが分かったが、急いでいる中で指摘されたことで、葵は若干イラつきを感じていた。


(なんで俺がピンクでハート型のサングラスを……ッ!!

クソッ……、それでも今は争ってる場合じゃない!)


葵は胸の内からふつふつと湧き上がる怒りを抑えながら、亜紀の指摘に渋々従った。


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