俺より可愛い奴なんていません。8-2
亜紀より、思わぬ質問が飛んできた事で、葵の思考は一瞬止まりかけたが、すぐに我に返り、亜紀との会話に集中し始めた。
「橋本から聞いたのか?」
「は? あの子がそんな事言うわけないでしょ??
見かけによらず、我慢強い子だから……。
長く付き合っていればわかるのよ」
亜紀の言葉を聞き、葵は彼女が時折見せる芯の強さを知っていたため、何か悩んでいたとしても相手を気遣い、自分の事を後回しにする彼女の姿が、容易に想像ができた。
「で? 何言ったのよ。 アンタ……」
亜紀は冷たく鋭い視線をそのままに、まるで尋問するかのように葵に問い詰めた。
「別に話す程の事じゃッ……」
葵が誤魔化す様に声を上げたが、その言葉を全て答える前に、それを許さないと言わんばかりに、葵の言葉を遮り、亜紀は声を上げた。
「言いなさい……」
声は荒げず、今までと同じ声のトーンだったが、その言葉は亜紀の今までのどの言葉よりも力のこもった言葉だった。
いつもの葵であれば、意地でも亜紀にこのことについて話すことはあり得なかったが、今の葵にはどうすればいいのかはっきりと分からず、何よりも美雪の事を一番に考えている友人である亜紀の話を、葵は聞きたかった。
「昨日、少しな色々な……?
今はアレがいるから、後で隙を見て二人の時に話させてくれ…………」
葵は先頭で未だに仕事の愚痴を呑気に零す真鍋の事を指さし、亜紀は葵の言葉を聞きながら、葵の差した指の先を見るなり、一瞬驚いた表情を浮かべた後、一息ため息を付くと「わかった」と呟きながら小さく頷いた。
亜紀の反応から葵は、亜紀がなんとなく、昨夜での美雪と葵の会話の内容に、予想がついたようなそんな様に見えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
桜木高校 別グループ。
葵や亜紀とは異なるグループであり、異なる箇所を美雪達は回っていた。
美雪、晴海、前野、長谷川は、一日目と二日目を真鍋と挨拶周りに回った経験があり、その手順を知っていることから、生徒達だけで回ることを真鍋から許可され、指定された場所へと向かっていた。
前日と当日の朝に念入りにルートを確認した上での、挨拶周りであったため、道中で少し道に迷いかけ、戸惑う事もあったが、余裕のある形で程よく島を散策しながら、予定通りに挨拶周りは進んでいた。
そしてこの班には保険の保険として、静の姿もそこにあった。
二日間の間、Bloomを手伝ってくれたお礼として、黛がお店に来ていた静を、真鍋達の手伝いとしてこちらに寄こしてくれていた。
本当の本当に迷った時の、美雪達の最後の手段だった。
「これ、私必要だったかなぁ~~?」
真鍋のグループとは対照的に、和気あいあいとした雰囲気を保ちながら会話をしていた美雪達だったが、ここまで迷ったとしても、ほぼほぼ自分たちで切り抜けられている美雪達を見て、苦笑いを浮かべながら静は呟いた。
そして、そんな静の呟きにいち早く反応したのは、前野や長谷川の男子たちだった。
「何言ってんの! 小竹さん!?」
「そうだよ! 小竹さんがいると楽しいし! 小竹さんがいなくなった瞬間に迷うよ!!」
前野と長谷川は、静の言葉に割と食い気味に、少し興奮したような様子で勢いよく答えた。
「そ、そうかなぁ~~?」
二人の希薄に押され、静は余計に困った状況になり、他の残った二人に助けを求めるように視線を向け、再び尋ねた。
静の視線を受け取り、美雪も苦笑いを浮かべながらも正直に答えた。
「はい、居てくれて心強いですよ?
もし、迷ったとしても小竹さんがいるからと思えますし。
いないのと居るのとでは雲泥の差ですよ!」
「うんうん! 静っちいると楽しいしね!!」
美雪の言葉に賛同するように、晴海もにこやかに静を歓迎しているように答え、彼女との距離も近くなったのか、晴美は既に静の事を愛称で呼んでいた。
「そっか……、ありがと」
静は全員に歓迎されているという事を再認識し、自分から振った話題にも関わらず、少し恥ずかしく思いながら、照れるようにお礼を告げた。
そして、美雪達はグループ内でも、新しくグループを作ったり、再び全員を会話に含めて話したりと、自由に会話を楽しみ、そうしていく中で不意に、綺麗に男女でグループに分かれた。
前野と長谷川は男にしか分からない、彼らの趣味でもあるプロレスの話に花を咲かせ、世界一性格の悪い男の今後について話をしている傍で、美雪達は新しい話題を繰り広げていた。
「あッ! そういえば!!
沖縄って占い店が結構あるんでしょ!?」
晴海は唐突に思い出したように、声を上げ話題を二人へと振った。
晴海のテンションは声色からも分かるように高く、この話題を現地の人としたかったのが、ただの一声で二人によく伝わる程だった。
「あぁ~~、ユタだね……。
確かに有名だよ? 私はまだないけど、友達で行ったことある事かいるしね……」
「そうそう! ユタッ!!
沖縄の人は占い師の事そう呼ぶらしいね」
静は晴海のテンションに若干押されつつも、楽しそうに話す晴海に釣られるように笑顔で答え、晴海や静と違い「ユタ」の事を知らなかった美雪は関心した様子で、「へぇ~」っと声を漏らしていた。
「でも、占いって何を占って貰いたいの?」
静は何となく、占って欲しい内容に幾つか心当たりがありながらも、晴海それを尋ねた。
「それは占って貰うとしたら、恋愛一択でしょッ!!」
静の質問に晴海は元気よく答え、そして、その大きな声は前を歩いていた男子2人にも聞こえ、先程までプロレスの話題で盛り上がっていたはずの2人は、ピタリと会話を止め、耳を澄ますように美雪達の話を聞き始めた。
「あ〜〜、まぁ、確かにそれはそうだよね〜〜。
いつ頃結婚出来そうとか、いつ頃素敵な人と出会うとかね」
「そうそうッ!
もう会ってたりねッ!?
会ってたとしたら、どの人とかは分からないんだろうけど、何を注意すれば良いとか、そういうのとかねッ!?」
「あぁ〜、あるある!
今回の旅行ではもうあと1日しか無いから無理かも知れないけど、また、本番で来る時に行けたらいいねッ!?」
晴海の話に静は、同じ女性である事が大きく影響し、彼女の意見に賛同する事が出来た。
しかし、その占いの話の中で、美雪だけはあまり盛り上がりを見せておらず、静はそんな美雪に気になった。




