俺より可愛い奴なんていません。7-17
「それではお待たせしました!
続きましては、いよいよ第一位の発表ですッ!!」
それぞれの予想が外れた葵達は、興味深そうにステージを見つめ、他の観覧者達も二位までの発表で、盛り上がった熱気をそのままに、期待感を持ちながら、一位の発表を今か今かと待ち望んでいた。
一位の発表が今にもされそうな中、葵は不意にステージ端に固められた、参加者が集まる方へと視線を向けた。
そこで観覧者同じように、ドキドキとした様子で、発表を待つ参加者達の中、妹の椿の姿もそこにあった。
葵が視線を向けると、椿もまるでそれに気づくいたかのように、大勢いる人混みの中の葵へと、ピンポイントで視線を向け、お互いの目線があった。
椿の発表の最中、目線が合うような感覚を感じていた葵は、再び驚く事は無かったが、椿は葵と目が合うと、優しく微笑みかけた。
その笑みは、まるで勝利を確信しているかのような、司会が次に名前を呼ぶのが、誰か分かっているかのような余裕ぶりで、分かり切った結果に、興味が無いようにすら見えていた。
(いやいや、我が妹ながら怖いな……、椿…………)
誰が優勝になるのか葵は、その時点までは本当に分からなかったが、椿のその表情を見て確信し、スカウトとはいえ、当時はプロの世界でしのぎを削ってきた、彼女の逞しさをまじまじと感じていた。
「栄えある第一位に輝いたのはッ!!
立花 椿さんですッ!!」
司会が高らかに宣言すると、会場は沸き上がり、隣にいた奈々(なな)と黛は「やっぱりかぁ~……」と呟きながら、落ち込んだ様子を見せ、椿を担当した香也は、「オッッシャァッ!」と女性らしくない喜びの声と、力ずよくガッツポーズをし喜んだ。
「やっぱり、椿ちゃんが一位かぁ~~……。
まぁ、可能性は高かったけど……。
私の担当した子で、優勝取りたかったなぁ~~」
「ふっふっふッ……。
奈々? 今回の優勝は私が貰ったよ??
約束通り、今度都内で高級中華を奢ってくれるという話……、忘れてないよね??」
「げッ…………。
アシスタントの手が足りないというアクシデントで、忘れてた……」
奈々と香也は、葵の知らない間で、そのような勝負をしており、香也は勝負に勝ったことで、奈々を脅すようにそう告げた。
香也と奈々がそんな会話を繰り広げる中、葵はステージへと視線を向けていた。
ステージでは、椿がこれまでの表彰者と同じように、司会から質問を受けており、椿は今までの誰よりも慣れた口調で、一つ一つ丁寧に受け答えしていた。
「いやぁ~、流石、葵の妹だね……。
当然と言えば、当然のかもしれないけど、すごく美人だし……」
葵がステージを見つめていると、隣に立つ黛が何気なく葵に語り掛けてきた。
「そうですね……。
海外でモデルもやってたそうですし……」
葵は話しかけてきた黛を一瞥した後、再びステージに視線を戻し、黛の話に答えた。
葵の答えを聞いて、黛は「そっか……」と小さく呟き、その後な何かを葵に尋ねることなく、会話の無い時間が流れた。
葵は内心、黛から話を振っておいて、答えもどこか素っ気なく、途端に黙り込んだ事を不思議に感じていたが、特にそれについて指摘することなかった。
そして、そのまま、ステージで輝く椿を見ていると、再び黛が口を開いた。
「ねぇ~……、全く関係ない話で、尚且つ、急な話になるんだけどさぁ……。
ずっと葵に聞きたかった事があるんだけど、聞いてもいい?」
「……? なんです??」
葵は「また突然だな」と思いながらも、黛の質問に答えようと、言葉を促させるように尋ねた。
「静と葵って、昔の知り合いなんだよね……?」
「小竹さんから聞いたんですか?
そうですね……、昔は近所に住んでたんで交流はありました……」
「ふ~~ん…………」
葵は本当に急な話題だったため、少しドキッとしていたが、特に変な動揺もすることなく、淡々と質問に答え、葵の答えを聞くと再び、興味無さそうな声色で、呟き沈黙が流れた。
「な、なんすか……?」
二度目の沈黙は、流石に我慢できなかったのか、葵は恐る恐る黛に尋ねた。
「え? あぁ、まぁ……、大した事じゃないんだけどね……。
静から聞いた話と照らし合わせて、いろいろ考えつくところがあってね……」
「はぁ……」
葵は依然として舞台を見つめたまま話す、黛の横顔を、眉を顰め、不思議そうに見つめながら、声を漏らすように呟いた。
「静から聞いた話だと、葵って昔はお姉さんがスタイリストを目指し始めた時期でも、女装とかに興味なかったんだよね??
それこそ、中学生の時とかにも……」
「はぁ……、まぁ、そうですね……」
「葵が女装をし始めたのって、静がきっかけ……?」
葵は黛がたどり着いたその答えに、驚くことは無く、むしろ静がここへ越さざる得なかった理由と今の話を聞けば、原因がそこにあるという事は明白だった。
葵は別に黛バレる事に関して言えばそこまで、葵の中で重要ではなかった。
静にバレる事が重要なのであって、静のコーディネートをしている際も、結局、自分の嫌いな女子への嫌がらせの手段として、女装をし始めたとしか伝えてはいなかった。
「きっかけはそうです……」
葵は黛の質問を否定することなく、素直に認め、また、黛がそれを静に言ってしまうような、そんな人間では無いこともわかっていため、妙な釘を刺すようなことも言わなかった。
「やっぱりね……。
もちろん静は??」
「知らないです……。
テキトーにはぐらかしてます」
「そうね……、それが正解かもね……」
ここへ越してきて、今では静の親代わりといっても、過言ではない程の黛に、葵は素直に答えていき、黛もいつもの茶化すような口調ではなく、素直に答える葵に誠意をもって話した。
「葵達は今年の夏の終わりに、もう一度ここへ来るんだよね?」
「そうなりますね……」
「――――そう……」
黛は最後に何故か確認するように葵に尋ねた後、納得するように小さく呟き、そのことについて、それ以上何かを話すことはなかった。
「静にとっては、ここが正念場だね…………」
会話が終わったことを確認し、葵は再びステージを見上げ、黛は誰にも聞こえないくらいの、ほんの小さな声で、そう呟いた。




