表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
140/204

俺より可愛い奴なんていません。7-17

「それではお待たせしました!

続きましては、いよいよ第一位の発表ですッ!!」


それぞれの予想が外れたあおい達は、興味深そうにステージを見つめ、他の観覧者達も二位までの発表で、盛り上がった熱気をそのままに、期待感を持ちながら、一位の発表を今か今かと待ち望んでいた。


一位の発表が今にもされそうな中、葵は不意にステージ端に固められた、参加者が集まる方へと視線を向けた。


そこで観覧者同じように、ドキドキとした様子で、発表を待つ参加者達の中、妹の椿つばきの姿もそこにあった。


葵が視線を向けると、椿もまるでそれに気づくいたかのように、大勢いる人混みの中の葵へと、ピンポイントで視線を向け、お互いの目線があった。


椿の発表の最中、目線が合うような感覚を感じていた葵は、再び驚く事は無かったが、椿は葵と目が合うと、優しく微笑みかけた。


その笑みは、まるで勝利を確信しているかのような、司会が次に名前を呼ぶのが、誰か分かっているかのような余裕ぶりで、分かり切った結果に、興味が無いようにすら見えていた。


(いやいや、我が妹ながら怖いな……、椿…………)


誰が優勝になるのか葵は、その時点までは本当に分からなかったが、椿のその表情を見て確信し、スカウトとはいえ、当時はプロの世界でしのぎを削ってきた、彼女の逞しさをまじまじと感じていた。


「栄えある第一位に輝いたのはッ!!

立花たちばな 椿つばきさんですッ!!」


司会が高らかに宣言すると、会場は沸き上がり、隣にいた奈々(なな)とまゆずみは「やっぱりかぁ~……」と呟きながら、落ち込んだ様子を見せ、椿を担当した香也かやは、「オッッシャァッ!」と女性らしくない喜びの声と、力ずよくガッツポーズをし喜んだ。


「やっぱり、椿ちゃんが一位かぁ~~……。

まぁ、可能性は高かったけど……。

私の担当した子で、優勝取りたかったなぁ~~」


「ふっふっふッ……。

奈々? 今回の優勝は私が貰ったよ??

約束通り、今度都内で高級中華を奢ってくれるという話……、忘れてないよね??」


「げッ…………。

アシスタントの手が足りないというアクシデントで、忘れてた……」


奈々と香也は、葵の知らない間で、そのような勝負をしており、香也は勝負に勝ったことで、奈々を脅すようにそう告げた。


香也と奈々がそんな会話を繰り広げる中、葵はステージへと視線を向けていた。


ステージでは、椿がこれまでの表彰者と同じように、司会から質問を受けており、椿は今までの誰よりも慣れた口調で、一つ一つ丁寧に受け答えしていた。


「いやぁ~、流石、葵の妹だね……。

当然と言えば、当然のかもしれないけど、すごく美人だし……」


葵がステージを見つめていると、隣に立つ黛が何気なく葵に語り掛けてきた。


「そうですね……。

海外でモデルもやってたそうですし……」


葵は話しかけてきた黛を一瞥した後、再びステージに視線を戻し、黛の話に答えた。


葵の答えを聞いて、黛は「そっか……」と小さく呟き、その後な何かを葵に尋ねることなく、会話の無い時間が流れた。


葵は内心、黛から話を振っておいて、答えもどこか素っ気なく、途端に黙り込んだ事を不思議に感じていたが、特にそれについて指摘することなかった。


そして、そのまま、ステージで輝く椿を見ていると、再び黛が口を開いた。


「ねぇ~……、全く関係ない話で、尚且つ、急な話になるんだけどさぁ……。

ずっと葵に聞きたかった事があるんだけど、聞いてもいい?」


「……? なんです??」


葵は「また突然だな」と思いながらも、黛の質問に答えようと、言葉を促させるように尋ねた。


しずかと葵って、昔の知り合いなんだよね……?」


小竹こたけさんから聞いたんですか?

そうですね……、昔は近所に住んでたんで交流はありました……」


「ふ~~ん…………」


葵は本当に急な話題だったため、少しドキッとしていたが、特に変な動揺もすることなく、淡々と質問に答え、葵の答えを聞くと再び、興味無さそうな声色で、呟き沈黙が流れた。


「な、なんすか……?」


二度目の沈黙は、流石に我慢できなかったのか、葵は恐る恐る黛に尋ねた。


「え? あぁ、まぁ……、大した事じゃないんだけどね……。

静から聞いた話と照らし合わせて、いろいろ考えつくところがあってね……」


「はぁ……」


葵は依然として舞台を見つめたまま話す、黛の横顔を、眉を顰め、不思議そうに見つめながら、声を漏らすように呟いた。


「静から聞いた話だと、葵って昔はお姉さんがスタイリストを目指し始めた時期でも、女装とかに興味なかったんだよね??

それこそ、中学生の時とかにも……」


「はぁ……、まぁ、そうですね……」


「葵が女装をし始めたのって、静がきっかけ……?」


葵は黛がたどり着いたその答えに、驚くことは無く、むしろ静がここへ越さざる得なかった理由と今の話を聞けば、原因がそこにあるという事は明白だった。


葵は別に黛バレる事に関して言えばそこまで、葵の中で重要ではなかった。


静にバレる事が重要なのであって、静のコーディネートをしている際も、結局、自分の嫌いな女子への嫌がらせの手段として、女装をし始めたとしか伝えてはいなかった。


「きっかけはそうです……」


葵は黛の質問を否定することなく、素直に認め、また、黛がそれを静に言ってしまうような、そんな人間では無いこともわかっていため、妙な釘を刺すようなことも言わなかった。


「やっぱりね……。

もちろん静は??」


「知らないです……。

テキトーにはぐらかしてます」


「そうね……、それが正解かもね……」


ここへ越してきて、今では静の親代わりといっても、過言ではない程の黛に、葵は素直に答えていき、黛もいつもの茶化すような口調ではなく、素直に答える葵に誠意をもって話した。


「葵達は今年の夏の終わりに、もう一度ここへ来るんだよね?」


「そうなりますね……」


「――――そう……」


黛は最後に何故か確認するように葵に尋ねた後、納得するように小さく呟き、そのことについて、それ以上何かを話すことはなかった。


「静にとっては、ここが正念場だね…………」


会話が終わったことを確認し、葵は再びステージを見上げ、黛は誰にも聞こえないくらいの、ほんの小さな声で、そう呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ