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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
一章 出会い……そして、拉致…………
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俺より可愛い奴なんていません。1-14

放課後、いつもの様に部活をする生徒や家にまだ帰らず、話しても話しても尽きない積もる話をする生徒で賑わう桜木高校。


その中で、亜紀あきは走って階段を駆け下りていた。


自分の教室に1度戻り、忘れ物を取ってきた亜紀は再び急いで自分を待つ橋本はしもと 美雪みゆき達のため、急いで戻っている所だった。


「あ……」


一気階段を駆け下り、再び下駄箱が立ち並ぶ校舎の入口へと戻ってくると亜紀は1人の男子生徒の存在に気付き、彼が誰だか分かると足を止めて見た。


亜紀の小さな思わず漏れた声に気付きたのか、それよりも遠くからだんだんと近づいてくる足音につられたのか分からなかったが、下駄箱の前で自分の靴を出そうとしていた男子生徒も亜紀に視線を向け、お互いの視線がぶつかった。


「あ……」


亜紀と視線がぶつかった生徒は立花たちばな あおいだった。


彼も委員会が終わった事からちょうど帰る所だったのか、亜紀を見つけるなり声を漏らし、複雑な表情していた。


亜紀も特に話しかける気は無かったが、同じ2年という事もあり、お互いの下駄箱は近く、亜紀は急いでいたこともあり、あや足で葵に近づいて行った。


亜紀が自分の下駄箱まで着き、素早く自分の今はいている上履きを脱ぎ、外履きの靴と取り掛けえていると、ふと亜紀の頭の中で考えが過ぎった。


「ねぇ、もしかして、美雪と帰る時間狙って合わせた?」


亜紀は急に独り言にしては大きな声で、今は2人しかいない空間で話しかけた。


葵も亜紀がこちらを向いてはいなかったが、声の大きさ的に自分に話しかけてきたのだろうと理解した。


「はぁ〜……、まだ言ってんのか……。偶然だ」


葵はため息をついた後、ダルそうに答えた。


「そ。ならいいけど……」


亜紀は自分から聞いておきながら、簡単に返事を返した。


葵の反応からそれが本当なのだろうと分かったが、やはり何故だか100%信じる事は出来なかった。


そして、奇しくも急いでいた亜紀とそれほど急いでいない葵は同じタイミングで外履きに履き替え、校舎を出る準備が出来た。


「ちょっと、着いてこないでよ」


「おい。先にいたの俺だぞ?」


亜紀は何故か一緒にこのまま葵と校舎を出るのは気に食わなく、思わず葵に嫌味のように言い、葵はそんな理不尽を言われた事に我慢できず反論した。


当然、校舎の玄関は2人くらい余裕に通れるほど大きかったそれを一緒に出るのが二人とも嫌だった。


「女子優先に決まってんでしょ、だから嫌われるのよ」


「めちゃくちゃ言ってんな。分かったよ……早く出ろ。仲良いと思われんのも俺も心外だしな」


葵は面倒くさくなり、亜紀と同じタイミングで校舎を出るのも嫌だったため、亜紀を先に行かせることにした。


「最初からそうしなさいよ」


譲ってくれた葵に礼ではなく、辛辣な言葉を浴びせ亜紀は再び駆け足で校舎から出ていった。


「どうも変な奴に目をつけられたな……」


葵は独り言を言った後、今日一日で溜まったストレスを吐き出すように大きく息を吐いた。


そして、葵も亜紀の後から校舎を出ていった。


葵はポケットからスマホを出し、いじりながら歩き、来ていたメッセージに返信を返し始めた。


そして、返信を一通り返し終わると満足し、ポケットにスマホをしまい、前を向き歩き始めた。


葵が前を向くとおかしな光景が目に入った。


先程、急いでいたはずの亜紀が目の前で立ち止まっており、何か慌てた様子で電話を掛けていた。葵も気になり、亜紀が何を見て立ち止まっているのか確認をした。


葵は亜紀見ている方向、桜木さくらぎ高校の校門へと視線を向けるとそこで起きている事が分かった。


葵はそれが分かると一気に走り出し、スグに亜紀を横から追い抜き、校門まで駆け抜けた。


(クソッ!なんでアイツがここにいんだよッ!!)


葵はどんどんムシャクシャした気持ちになっていった。


「とうどぉぉおお!!」


葵が叫びながら、校門へと近づくと、それを事を起こしている男性は葵に気づいた。


「え……?立花君?」


東堂と同じように美雪も葵の存在に気付き、葵があの時の助けた『たちばなさん』だと分かっていない美雪は色んな疑問が頭に浮んでいた。


スグに葵が校門に辿り着き、バッと顔を上げるとそこには女性の腕を掴む東堂とうどうの姿と東堂に腕を掴まれる美雪の姿があり、その2人を見てどうしていいのか分からず、オドオドとしている晴美はるみの姿もあった。


「よ、よかったぁぁ〜……」


晴美は東堂が恐ろしかったのといきなり美雪が絡まれたのでテンパのだろう、葵の到着を見た途端、張っていた緊張が少し取れたような様子で安心した声を出した。


それとは裏腹に、葵は最初は気づかなかったが、東堂の他にも2人、男を後ろに連れている事から、ますます緊張が出てきていた。


「誰だお前……」


東堂は急に割って入ってきた男が葵だと分かっておらず、冷たく言い放った。


女装をした時の東堂としかあまり接していない葵は、男で接した時の東堂はここまで威圧的なのかとそこで初めて感じた。


しかし、葵も引く気はまるで無く、ビビりもしなかった。それよりも何とかしなければという使命感ばかりがどんどんと大きくなっていた。


「そいつは関係ねぇだろ、東堂」


葵がそういうと東堂は、一瞬何かに気づいた顔をした後、ニヤリと不敵な笑みを浮べ、葵を見た。


「なんで俺の名前を知ってんのか不思議だったがお前……、葵だな……?」


東堂は見事に葵の声だけで、女装をしていなくても葵だと気付く事が出来た。


葵はバレた事と東堂の明らかにおかしな事を考えていそうな薄ら笑いに緊張し始め、手に汗をかき始めていた。


「とりあえず、そいつ離せ」


葵は東堂に怯む事無く、ハッキリとした口調で東堂を威嚇するように睨みつけ言い放った。


「なんでお前にそんな事言われなきゃなんねぇんだ?」


葵の忠告を聞くことなく東堂はますますヘラヘラとした様子で葵の神経を逆なでするように答えた。


2人がそうやり取りをしていると、校舎の方から駆け足で1人の女性が走ってきた。


走ってきたのは亜紀だった。亜紀は葵達の所まで到着すると、急いできた事もあり息を切らし、上半身を倒し、膝に手を付き、俯いたまま話し始めた。


「はぁ……はぁ……。た、たちばな、警察にはもう通報した。引き止めてくれてありがと」


亜紀はそう言い終えた後、ようやく息を整えられたのか、体を起こし、葵と同様にクッと東堂を睨みつけた。


「東堂、諦めろ。目撃者も多いぞ」


葵は亜紀の報告を聞き、普通ならば勝ち誇ったようになったり、ある程度余裕が出てくる所を一切気を抜かず、まだ緊張しており、それでも相手に悟られないよう真剣表情で東堂にそう言った。


「だからなんだ?」


葵の脅しのような忠告にまるで怯む事無く、東堂は依然としてヘラヘラしたまま答えた。


東堂の言葉に亜紀は目を丸くし驚き、何を言っているのか分からないと言った様子で東堂を見つめ、晴美も美雪もまた似たような様子で明らかに怯えた眼差しを向けていた。


(ほらきた)


美雪達が東堂を怯えた表情で見つめる中、葵は東堂の事をよく知っていた事もあり驚くことはなかった。


東堂は1度タガのようなものが外れると自分のしようとした事を実行するまで止まらないといったようなそんな人間だった。


葵が女装して彼をたぶらかしている時は東堂が葵に惚れていた事もあり、上手くコントロールが出来たが今はまるで条件が違った。


「え? と、東堂さん?」


「ちょ、ちょっと、東堂さん! 不味いですって! 警察ですよ!?」


「うるせぇよ! おめぇら!! だぁあってろ!!」


東堂が警察が来ても関係ねぇといった態度を取ったことで東堂の後ろについていた男2人は焦った様子で東堂に訪ねたが、今の東堂には常識が通じなく、逆に2人を叱りつけた。


「お前。刑務所行くつもりか?」


葵が東堂に再びたずねると東堂はニヤリと笑い、答え始めた。


「あぁ、どうせここまでやっちまったらタダじゃすまねぇ。とゆうか、俺はもうヤレりゃ何でもいいんだよ」


東堂のあまりの理屈に葵は言葉を飲み、「東堂は変な薬をやっているのではないのか?」などの色んな考えが過り、今の東堂が自分と同じ正常な人間には見えなかった。


「ふざけんなよお前……」


葵がやっと思いで出した言葉はそんな言葉だった。


葵は自分でも気付いていたが、少し語尾が震えていた。


「それじゃ、邪魔すんなよ葵……。ほら行くぞ!」


「いッ! いたッ!!」


東堂はそう言って葵に別れを告げると、今までずっと握っていた美雪の腕を強引に引っ張った。


「み、みゆっちッ!!」

美雪の痛がる声に晴美は反応したが、美雪が連れ去られそうなのに恐怖で動けず、必死に呼びかけた声も葵以上に震えており、目には涙が溜まっていた。


美雪はそんな晴美を見て、自分の方が明らかに危ない状況だというのに、晴美を安心させるようにニッコリと微笑みかけた。


「大丈夫だから、ね?」


美雪は気丈にもそう答えたが、葵は美雪のある事に気づいた。


それは、自分があの助けてくれた時と同じ、美雪の掴まれていない方の手が微かに震えている事だった。


「ま、待てッ! 東堂ッ!!」


美雪の微かな震えに気づいた葵は普段の大人しい彼からは想像出来ないような大声で東堂に呼びかけた

東堂ももちろんその声に気付き、足を止め葵に視線を向けた。


「5分寄越せ。お前が1番会いたがってるのはあの女の「あおい」だろ?準備してやる」


葵は険しい表情で東堂に提案すると東堂は再びニヤリと笑った。


「車を用意してる。移動の最中で準備しやがれ」


東堂はそう言って、親指をたて自分の後ろをさし、葵を誘導した。

「分かった……。そしたらそいつを離せ」


「出来るわけねぇだろ?お前が本当の葵だともまだ分からねぇのに……」


「てめぇ……」


葵の美雪を解放しろという提案はあっさりと拒否され、葵の反応を見て楽しんでいるとすら思える東堂の行動に葵は苛立ちを感じていた。


「行くぞ……」


東堂の声はその声と共に振り返り、美雪の腕は依然として掴んだまま車が用意してあるという方向へと歩き出した。


葵もそれを見ると、東堂の後に続くように歩き出そうとした。すると、グッと裾を後ろに引っ張られた。


葵が引っ張られた事で後ろに振り向くと、昼間あった時よりも明らかな敵意を持った亜紀が裾を持ったまま、葵を睨みつけるように見ていた。


葵はそんな亜紀を見て、大切な友達を自分のせいで連れ去られたのだから、その敵意は当然だと、自分の非を全面的に認め、真剣表情で亜紀に話し始めた。


「絶対連れ戻す。傷1つ付けさせない」


葵の今まで見せたことのない真剣な表情と葵の様子から伝わる本気を感じ、亜紀は何も言うことなく俯き、ゆっくりと葵の裾を離した。


葵は亜紀から解放された事で振り返り、東堂の方へと視線を向けた。


葵には亜紀が最後に自分に見せた泣きそうになっていた表情が見えていた。


亜紀のそんな表情から葵はより一層気合を入れ、歩き出した。

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