俺より可愛い奴なんていません。1-13
昼休みとなって数十分が経過し、長い昼休みももう半ばに差し掛かっていた。
生徒達とって楽しく交流が出来る貴重な昼休みに、立花 葵は気まずいような、気を張る時間を過ごしていた。
葵はあの後、橋本 美雪の親友、亜紀に半ば強制的に話に付き合わされる事になった。
葵は内心嫌々だったが、亜紀の後ろをついて歩いていると、またしても、昨日と同じように3階の、授業がない限り誰も使わない教室が立ち並ぶ、人気のない階までやって来ていた。
もはや、この階は密会を開くにはポピュラーな所なんだと葵は常々感じた。
「それで? なに?」
葵は早く帰りたいとゆう思いが念頭にあったため、単刀直入にハッキリと亜紀に訪ねた。
葵のハッキリとした物言いは威圧しているようにも感じたが、亜紀はまるで気にする事無く、彼女もまた堂々とした振る舞いで答えた。
「アンタ、どうゆうつもりなの?実行委員になったりして……。キャラじゃないよね?」
亜紀の質問に葵は「なんでそんなことほとんど面識も無いコイツに聞かれなきゃなんないだ」と率直に思ったが、亜紀の苛立ちを含んだ声色が葵は妙に引っかかった。
確かに、葵は女子からは嫌われてはいたが、それは主に葵が何かをしたから嫌われたのであって、まだ、おそらく何もしていないであろう亜紀に自分にここまで敵意を見せてくるのが不思議だった。
「別に、沖縄事前に行けるらしいしな…、それが目当だ。他の奴らもそうだろ?」
葵は彼女の顔を正面から見つめ、目を離すことなく堂々とした様子で答え返した。
葵が答えを言い終えた後、葵はある事に気がついた。
(あぁ、コイツそういや昨日実行委員いたな……。橋本と仲良く話してた……なるほどな)
何よりも大嫌いな女性に引くことが最もしたくない行動だった葵が、亜紀の顔をから視線を外さずしっかりと見たことから、葵は亜紀が美雪の友達だということに気づき、敵意を表している理由も何となくだが、想像出来た。
「そ。それならいいんだけど……」
「それだけか? 早く帰りたいんだが……」
亜紀の素っ気ない返事に、葵は彼女が先程の理由で納得していないという事がすぐに分かった。
そして、これ以上話すのも面倒だと、葵がとっとと話を終わらせようとすると、亜紀はそこで初めて笑顔見せ、話し始めた。
そこで、葵は今まで感じてした嫌な予感が更に大きくなった。
「別にいいわよ帰って。女装してる事、バラされたくなければね……」
(ほらな……そうだと思った)
亜紀の不敵な笑みを浮べ葵を見下すかのように話す姿を見て、葵は嫌な予感が的中したとばかりに内心、ついてこなきゃ良かったととても後悔した。
「何が目的だ」
葵はグッと彼女を睨みつけ、威圧するように亜紀を問い詰めた。
「意外と簡単に認めるのね。もっとはぐらかすと思った」
「意味ないだろ……そんな事しても。俺は早く帰りたいんだ」
葵はそう答えたが、亜紀としてはこないだ美雪が助けたという女装をした男の名前と性別が葵と一致し、その次の日に同じ実行委員になっ
たという情報しか無かったため、まだ確証は無かった。
葵の時間を無駄にしたくないという考えから、それは確信に変り、亜紀は大きくため息をつき、決意を決めた。
「はぁ……分かった。なら単刀直入に言うわ」
「美雪から離れて」
冷たくも鋭く放たれたその言葉は葵の耳にもよく聞え、亜紀の真剣な表情から彼女にとっての、この事の重要さが伝わってきた。
「は……? 言ってる意味がわからない」
「とぼけないで。何を企んでるか知らないけど、あの子にアンタは近づかせない」
葵は亜紀の言っていることがよく分からず、素直に答えたが、亜紀は葵が何か企んでいると仮定し話を進めた。
「アンタが女子にしか嫌われてない理由も知ってる。それに……」
亜紀は息を整え、少し間をあけたと思ったら今度はグッと葵を見つめ続きを話した。
「アンタが女装してるっ知ってる人少なくないでしょ? 特に女子は」
亜紀の問いに葵は特に反論することもなく黙って亜紀の話を真面目に聞き続けた。
「アンタが気に食わない女子や嫌いな女子に彼氏や好きな人がいることを知ると片っ端からその男を誘惑して、破局させたり失恋させたりしてるって事知ってる」
葵はその事をここまでハッキリと真っ向から指摘された事が初めての事だったため、一瞬驚いたが、相手に悟られる事無く、スグに今まで通り平穏な何も感じていないような、毅然とした態度をとった。
「最近はそんな事していないみたいだけど、かなり昔からそんな事やってるでしょ? そんな奴を美雪の近くに置いとく訳にはいない」
亜紀は最後までキッパリと答え、葵を拒絶した。
亜紀の話した事はほとんど正解で、葵は少し昔、中学の時から既にそんな事をやっていた。
葵は、自分がそんなことをやっていると知る人は、中学から葵と同じ学校で、当時葵にそれをやられたか、やられた人間から話を聞かされたかで知っている人意外あまりいないと思っていた。
だが、それを言いふらされたとしても葵はまるで気にしていなかった。
「そんな事をしてもそこまで認知されてないって言うのは、おそらく信じる人間がそこまでいないからなんでしょうね。
女装とアンタが結びつく事なんでまず考えられない……、ましてやアンタとの交流がある男子はまず信じないし、交流がない男子だとしても信じる可能性は薄い」
「それを知っていながらそのネタで俺を脅すのか?」
葵はどうしてそこまで考えていながら、亜紀がそれで葵に揺すりをかけたのか分からなかった。
「昔お前と同じようなことを言って、バラすように言いふらしたが逆にアッチが頭おかしいと思われてたぞ?」
葵がバラすと言われてもここまで全く動じなかったのはこれが理由だった。
過去に似たような事があり、同じように脅されたが葵は思いっきりシカトした。
その結果その女子はバラす行動を取ったが、葵と女装が結びつくワケもなく、証拠もない彼女は逆にクラスからおかしな事を言っていると馬鹿にされ、まるでに相手にされてなかった。
「えぇ、これで脅す」
「話が通じないな。もう帰る」
亜紀の言葉に葵は呆れたように言い放ち、その場を離れようとした。
葵が亜紀から視線を逸らし、振り返ったその時、亜紀が後ろから再び何かを言い始めた。
「美雪にコレをバラす」
「……はぁ?」
亜紀の言葉に葵はスグに亜紀の方へと振り返り、訳が分からんと言った様子で声を漏らした。
「美雪はまだアンタとあの女装男がまだ一致してない事は知ってんでしょ?」
亜紀は昨日の美雪との会話で決定的な何か、例えば目の前でこないだ助けた『たちばなさん』が、今、目の前の葵に変わる姿を見るなどのような事が起きない限り、美雪の中でそれが一致することは無いと分かっていたが、葵はそんな事知るよしもなかった。
「橋本にバラしてなんかあんのかよ。俺は別にバレてもどっちでも」
「ホントに? 何も感じないの?」
「なんでなんか感じねぇといけねぇんだよ……」
葵の答えに亜紀は何故かキョトンとした様子で、今日葵の前で初めて見せる表情だった。
「あ、あー……そ、そっかそっか私の早とちりだったか……。えぇ〜と…それなら何も問題ないわ」
亜紀はひとりでブツブツと独り言を呟きながら、1人で勝手に納得している様子だった。
「お前……まさか……」
亜紀のそんな反応を見て、葵はなんとなく亜紀の考えていた事が理解出来たような様子で、その答えだと今までの亜紀の行動にも説明がつくと思った。
「でもまだ油断するつもり無いから。とゆうか、何もする気が無くても美雪に寄るな」
「誤解が解けてよかった……んじゃ」
葵は馬鹿らしいと思い、今までの時間がほんと無駄だっと感じながら、冷たく別れを言い捨て再び帰ろうとした。
「ホントに寄るなよ」
「ハイハイ」
歩いてその場から離れていく葵の後ろから釘を刺すように亜紀は忠告したが、葵はてきとうに返事を返し、振り返ることなく歩いていった。
「うわ最悪だ……もう10分しか無いよ……」
葵はケータイを取り出し、時間を確認するとガッカリした様子で呟き、教室へ戻るスピードを気持ち少し速くした。
◇ ◇ ◇
亜紀と葵の昼休みの出来事から時間が進み、放課後の今日の実行委員の集まりも特に大事なことを決める事無く、例の沖縄に事前に行くと言う話も出なかった。
放課後の集まりが終わると亜紀と晴美と美雪は仲良く、一緒に帰ろうとしていた。
「いやぁ〜! 違った違った!!」
下駄箱で靴を履き、再び集まり校舎から3人は出ると、亜紀は大きく伸びをして、晴れやかな笑顔で話し始めた。
「ん? 何かあったの?」
美雪と晴美は機嫌がいいように見えた亜紀を不思議に思い、美雪は質問した。
「変な虫がね? つきそうだったんだよ、まぁ今度話すよ」
亜紀はニコニコとしながら、この件に関わっている美雪の顔を見ながら答えた。
葵が助けられた『たちばなさん』だということが確定した事で、美雪に何か嫌がらせをするという考えはいくら葵といえど、それは考えられなかった。
だとしたら何故、美雪に合わせるように葵が実行委員になったのかが分からず、もしかしてと思い、彼に揺さぶりをかけたが、葵のあの反応から不安は全て無くなった。
疑問はまだ少し残っていたが、最悪の状況では無いと分かっただけでも亜紀は嬉しかった。
「あっちゃん楽しそうだね。とゆうか、今日こそはアノ事前に行く話するかと思ったけど、またしなかったね〜。いつ決めるんだろ〜」
晴美は亜紀のご機嫌も気になったが、それよりも沖縄の話の方が彼女にとって気になっていた。
「だね。まぁ行かないけど……」
美雪がそう呟くと晴美は昨日アレでまだ諦めていなかったのか「なんで〜」と突っかかっていた。
「まだ揉めてるんじゃない? 教員の方で……アッ!」
亜紀も行く気がなかったため、カバンの中を漁り、てきとうに答えた。
そして、急に大声をあげた。
「なに? どうしたの?」
美雪は急に大声をあげられた事で体をビクつかせた後、亜紀の方へと向き、心配そうに訪ね、晴美も亜紀の方へと視線を向けていた。
「ごめん。ちょっと忘れ物しちゃった……。スグに戻ってくるから先に行ってて」
亜紀は申し訳なさそうにそう告げると2人が何かを言う前に急いで校舎の方へとかけて行った。
「あっちゃんが忘れ物なんて珍しいね。あぁ言ってたけどどうする?」
「う〜ん。ここで待つのはアレだから校門出て、校門の前で待ってようか?」
「そ〜だね」
美雪も晴美も亜紀に先に行ってと言われたが、校門で彼女を待つことに決め、校門まで歩いていった。
2人はニコニコと笑い合いながら、たわいない会話をし、スグに校門まで到着し、校門の前で立ち止まった。
「はぁ〜。これはあっちゃん貸し1だよね〜。何か奢ってもらおうか?」
「少し待つだけでしょ〜? それでたかったら亜紀可哀想だよ」
晴美はニヤニヤとイタズラな笑みを浮べ、美雪に提案すると、美雪も笑顔で少し注意するように晴海に答えた。
2人が話していると、そんな2人の前に大柄な男性が近づいてきた。
美雪も晴美も話に夢中で彼の存在にも気付かず、気付いたとしても気にもしないはずだった。
「よォ〜……こないだの助っ人さん……」
大柄な男は不気味な薄ら笑いを浮べ、校門の前で話していた美雪達に話しかけてきた。
美雪と晴美は声に反応し、大柄な男に目を向けた。
その瞬間、美雪は一瞬でそれが誰なのか察し、彼が何故ここにいるのか分からず、頭が真っ白になり、あの時の恐怖が蘇ったように恐怖に襲われ、足が震えた。




