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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
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俺より可愛い奴なんていません。7-2

◇ ◇ ◇ ◇


真鍋まなべまゆずみへと、生徒を預けると、船の予定に間に合うように、船着き場へと向かって行った。


黛に預けられたあおい達は、黛の話を聞き、それぞれ任された仕事を行った。


Bloomブルームの開店時間まで、かなり空き時間があったため、一人であればそれなりのいい時間になったのであろうが、黛任された仕事を分担し、五人で済ませると、暇な時間ができてしまっていた。


開店時間まで、店内でくつろぎながら談笑することになった葵達は、テキトーに席に座り、Bloom店内から見える海を見ながら会話をしていた。


「ほれ、お茶だよ!

ごめんね、私一人でいつもやる仕事の内容だったから、すぐに暇になっちゃって……。

開店時間近くまで、ゆっくりくつろいでていいからッ。

なんなら海でも入ってきてもいいよ!」


黛はそう言いながら、すでに店内でくつろいでいた葵達にお茶を出した。


そのまま葵達は、黛も含めいろいろな会話を交わした。


基本的には、黛が生徒に学校の事なんかを聞くことが多く、普段であれば、年上のしかも今は雇い主に近い形の大人と話すと自然と緊張を伴うものだった。


しかし、黛の本来持つオーラや話し方から特に気も使うことはなく、ほとんど初めて絡む晴海も長谷川もすぐに打ち解けていた。


そして時間は進み、そろそろBloomブルームの授業員が続々とやってくるであろう時間になった。


「おはよ~ございま~す」


葵達が会話をしている最中、声を掛けられる形で、お店の玄関から女性の声が園内に響いた。


「おぉ~、おはよぉ~ッ」


丁度会話のする関係上玄関側の方へと視線を向けていた黛は、挨拶する女性の声にいち早く答え、黛と同じように玄関側が視界に入っていた生徒も、それに続くように丁寧にあいさつを返した。


葵を含めたいくつかの生徒は丁度、玄関側を背に会話をしていたため、誰が来たのかすぐにはわからず、声のした方へと振り勝った。


すると、そこには私服でBloomに訪れた小竹こたけ しずかの姿がそこにあり、振り返った葵と静は、偶然にも目が合った。


「あ……」


静は今日、葵がお店に来ているという事を知らず、また昨日、様々な人から今日は来ないだろう事を聞いていたため、葵の姿を確認するなり驚いた表情を浮かべ、思わず声を漏らした。


葵と同じように遅れて静の存在に気付いた生徒が次々に返事を返す中、葵は一番遅れて、静に返事を返した。


「お、おはよう……」


「うん……、おはよ……」


ぎこちなく返事を返す葵に、静も再び挨拶を返した。


「そ、それじゃあ、黛さんッ! 私先に着替えてくるねッ」


一瞬妙な雰囲気が二人の間に流れたが、静香はそれらの雰囲気を吹き飛ばすように元気な声で、黛そう伝えそそくさと店のバックヤードへと向かって行った。


一番初めに到着した静を皮切りに続々と従業員が、Bloomへと訪れ、それぞれ挨拶を交わすと準備のために、お店の裏へと向かって行った。


そんな中、葵は黛に一つ気になることがあり、黛にそれを尋ねた。


「黛さんと小竹こたけさんって同じところに住んでるんですよね?

朝とか一緒にお店に来ないんですか? 学校があるならわかりますけど、今って学校お休みですよね??」


「あぁ~、そうだね……。

朝は私一人でできる仕事だし、無理して朝早く起きることも無いから、朝の手伝いはいいよって言ったんだ~。

あの子しっかりしてるし家事とかもやってくれるけど、意外とお寝坊さんだからね!」


葵の問いかけに黛は、静の事を思いながら、楽し気に話し更に続けて話した。


「家庭的な女の子って魅力的じゃない?? どうよ、男性陣ッ。

しかも、しっかりしてるはしてるけど、時々おっちょこちょいさんだよ??」


黛は何故か自分のお気に入りの娘を紹介するかのように口調を変え、葵や長谷川の反応を楽しむかのように、尋ねてきていた。


黛の話に、長谷川は「いいですねッ、家庭的な女の子最高です!」といい返事で返し、周りにいた亜紀や晴海には若干引かれていた。


そんな中、葵は昔の事を少し懐かしむように思い出していた。


(昔もよくおばさんと一緒に、キッチンに立って料理とかしてたっけな……。

最初はよくまずい飯を食わされたっけか……、そういうところは変わってないんだな……)


中学にあがるよりも前、お互い年頃になって疎遠になっていく前は、近所に住んでいたという事もあり、歳も同じだったためよく遊んでいた。


静の家へと遊びに行った際に、当時の彼女の母親と静は同じ台所に立ち、一緒に楽しげに料理を楽しんでいた、もちろん料理が成功する時もあれば、失敗もし、その後始末としてよく葵と静の父親が試食の被害にあう事もしばしばだった。


その失敗のほとんどが、彼女の本来持つ性格のおっちょこちょいな部分が、原因であることが多く、黛にその話を聞かされ懐かしさを感じていた。


黛がそんな静の事を話していると、丁度準備を終えた静が店へ出てきて、黛の話声が来る途中で聞こえていたのか、少し焦った様子で黛に声を掛けた。


「ちょっと、店長ッ!!

また、私の余計な話してッ!」


静の発したその声は少し怒りも含んでおり、静の表情は少し険しくも、頬は少し赤く染まっており、恥ずかしさを感じているようだった。


「ごめんごめんッ、どうしてもウチの看板娘を自慢したくなっちゃうじゃん?」


「それ、自慢になってると思わないよッ!

もう、その話禁止だからね」


黛に恥ずかしい話を暴露された静は怒っている様子だったが、その姿は可愛らしく、異性なくともあれば愛らしくそれは映った。


「大丈夫だよ~、静ちゃんッ!

私も朝弱いし! 料理なんてできないしねッ!」


嫌がる静にフォローを入れるようにして、晴海はそう声を上げた。


どこか自信満々に言っているようにも、葵の目に映ったが、こんなことを自信満々に言うはずがないと、その考えを捨てたが、そんなところへ亜紀が、半ば呆れたような様子で声を上げた。


「晴海……、それは自信有りげに宣言する事じゃないよ……」


亜紀の声に葵は、自分以外にも同じことを思っている者がいたのかと思い、思い違いなんかではないことがわかった。


葵は晴海の事をよくは知らなかったが、晴海の噂は校内で普通に生活していても、耳にすることがよくあった。


それのほとんどが、彼女の美貌から来る噂で、学内でも1、2位を争うかと思うくらい男子には人気を経ており、葵と同じクラスにいる二宮にのみや 紗枝さえと人気がよく二分割されていた。


そんな晴海にはもう一つ密かに噂れている事があった。


それが、彼女がそれなりの天然だという事だった。


心に思っている事を素直に口に出してしまう事もあり、一年の時にはそれが原因で少しトラブルになってしまったという話もあった。


「よしッそれじゃ、人も集まってきたし、開店の最後の準備に移ろうか!」


静がフロアに出てきたことで、黛は腰を持ち上げ席から立ちあがり、葵達にそう呼びかけるように声を上げた。


一度経験している亜紀と葵にはそこまでの不安や緊張といったものはなかったが、晴美と長谷川は少し緊張の面持ちで返事を返した。


「今日は下手したら昨日よりも忙しくなりそうですしね……」


「そうだねぇ……、あッ!

昨日、言い忘れたけど、今日はもちろん水着持ってきたよね?」


これから忙しくなることを見越してか、少し暗い表情で呟く静に、黛は何か大事な事を思い出したかのように静に尋ねた。


葵達は黛のその言葉が気になったが、先に静が黛の質問に答えた。


「はい、一応持ってきてますよ……。

私はあんまり気乗りしてないですけどね…………」


静はお店が忙しくなることを見越した時以上に暗い表情になり、何か静にとって嫌なことが、この後に待ち構えているんだという事が理解できた。


「別に静だけが出るってわけじゃないから大丈夫よッ!

ウチのお店から他にも何人もでるんだから……。

よしッ! オッケーだね!! これで今年も安泰よぉッ!!」


「あのぉ~……、その今日ってなにかあるんですか?」


満足げに話す黛に、ずっと気になっていた亜紀が黛に尋ねた。


「あ……、ごめん、そういえばみんなには言ってなかったねッ!

今日ねぇ~~、実は、この浜で水着コンテストがあるんだッ!!

ようは、浜のミスコンッ!!!」


恐る恐る尋ねる亜紀に対して、黛は楽し気に今日のイベントの事を葵達に宣言するように話した。


黛の話した言葉の中には、亜紀達にとってはなじみ深い単語が含まれており、特に葵にとってはとてもなじみ深い言葉だった。


自信満々に話す黛に対し、葵達は頭にはてなマークを浮かべ黙り込み、黛の隣では、一人どんよりとした雰囲気を纏う静が、先が思いやられるといった様子で、光の感じられない目をし俯いていた。

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